四季、折々、戀

くるっ🐤ぽ

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 後をつけてきたものに、心当たりがまるでないわけでは、実はない。
 辰次と出かけた紅葉の名所でも、美津江は後をつけられていた。気がついたのはつけられていた美津江ではなく、辰次だった。辰次は美津江の耳元に囁いた。
「君をつけているものがいるよ」
 咄嗟に振り向きかけた美津江に、辰次は鋭い声で言った。
「振り向かないで」
 辰次はそう言って、振り向きかけた美津江の頭を撫でるように押さえた。美津江は辰次の肩に、素直に頭を寄せた。辰次は、背の高い男だった。
「振り向くと、隙が生まれるよ」
 辰次は、美津江のつむじに唇を触れさせるようにして、囁いた。
 赤い楓の葉が、橋を渡した川の上を流れていた。女の胸に短剣を突き刺して、引き抜いた拍子にそこから溢れ出た血潮のようだった。美津江はちょうど、そのような内容の小説を読んでいたから、そう思ったのかもしれぬ。美津江が自身の胸に手を当てる仕草を、辰次は怯えと解釈したらしかった。美津江に触れる手に、力が籠った。
「どんな人なんですの?」
「よく分からない。着物の上から、コートを羽織っている。見るんじゃない」
 美津江は辰次に半ば抱えられるようにしながら、橋の上を渡った。夫婦というより、婚約者か恋人のように見えるかもしれない。橋の上から、女の血潮のようだと思った赤い楓の流れを見つめる。鮮やかな赤。暗く燃えるような赤。橙に近い赤。美しい。自分の胸も引き裂けば、このように赤い血が噴き出すのだろうかと、美津江は想像する。
 美津江は辰次の胸に手を当てた。すると、辰次の手が美津江から離れた。美津江は辰次の顔を見上げた。美津江とは吊り合わない美男の夫であったが、美津江のこと婚約していたときから大事にしてくれていた。
「幸せです」
 美津江が言うと、辰次は一瞬目を見開いて、頰を緩ませた。笑うと、切れ長の目元が和らいで、女のように優しい表情になった。
 辰次と、異母姉いぼしの花織が夫婦として並んで歩いているところを想像することが、美津江にはあった。美男と醜女しこめの組み合わせよりも、美男と美女の組み合わせの方が幸せな光景だろうと思って。
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