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辣腕のマネージャー
東松吉人③
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猫矢ノアの霊能力がハッタリだって……?
「いやいや東松さん、それは流石にないでしょう。だって、猫矢さんは先日出演された番組の収録で、大御所俳優のスキャンダルを言い当てられた、という話がありましたよ?」
流石に黙っておられず、志摩が慌てて尋ねる。
「あれ? 刑事さん、さっきの話もう忘れちゃったの? 俺、芸能事務所に居たって言ったでしょ。その時の顔馴染みと飲むと、芸能界の色んな情報が手に入るんですよ。それで、もしかしたらスタジオで披露してくれって流れになるかも知れないから、今回はあの玉響とかいうオヤジのネタを叔母さんに仕込んでおいたってわけ」
「そんな……では、これまでどうやってお客さんのカウンセリングをされていたんですか? 下手なこと言ったらすぐにバレてしまいそうな事ですが」
「その辺は叔母さんの話術ですよ、口だけは達者だったからね、あの人。話を上手に転がして、気分を良くして帰らせるんです。最近は、事前に探偵を使ってその客のプライベートな情報を集めておいたりもしたけどね」
志摩の口からそれ以上、追求の言葉が出ることはなかった。
霊能力者などと言うのは真っ赤な嘘。その巧みな話術と、入念な下調べで名声を得ていたのだ。
「あ……いけね、喋りすぎちゃった。もしかして、これって詐欺罪とかになるんですかね」
「えっ、うーん、どうなんでしょう?」
急に質問を振られて、志摩は腕を組んで考え込んでしまった。
「誰かがその事によって不利益を被り、猫矢ノアを訴えた場合は、何らかの罪に問われる可能性が有りますが、顧客が満足していたという事なら特に問題はないでしょう。あまり褒められたやり方では無いですがね」
二人のやり取りを黙って聞いていた富澤だったが、志摩が返答に窮するのを見かねて説明する。
これくらい答えられなくてどうする、という視線が志摩に向けられていた。
「ああ、よかった。ホッとしましたよ。まあ、そのうちボロが出るだろうから長続きはしないと思ってましたけどね」
そう言って安堵の表情を浮かべる東松に、富澤は声のトーンを落として問いかけた。
「……という事は、東松さんはいずれ猫矢ノアのハッタリはばれる、とお考えだった。そうなれば、顧客も地位も彼女は全てを失うことになる。それどころか、先ほど話したように誰かが訴えを起こす恐れすらありますよね」
そんなことになれば、東松にも少なからず責任が生じるだろう。
猫矢に稼げるだけ稼がせて、綻びが出る前に始末する、という事考えに至っても不思議ではない。
「え、なに? もしかして刑事さん、俺のこと疑ってるの? そんなまさか、俺が叔母さんを殺すわけないじゃないですか。まだまだ稼いで貰おうと思ってたのに」
「では聞きますが、事件のあった六月八日の午後七時以降、東松さんはどちらに?」
「えーと……五日前か……ちょっと待ってくださいね」
そう言って東松はスマホを操作し始めた。
過去のメールを開いて、自分の行動を振り返っているようだ。
「あっ、あった! その日はクラブで飲んでいましたね。嬢に送ったメールが残ってるから、ほら。何ならお店の名前も教えるから、聞きにいってみる?」
志摩は念のため、東松から聞いたクラブの店名を調書へ打ち込んだ。
だが、おそらく彼の言っている事は本当だろう。
東松を帰らせた後も、富澤と志摩は取調室に残っていた。
先程の話をどのようにまとめようかと、志摩のキーボードを打つ手は止まっている。
「猫矢ノアの霊能力は、全部ハッタリだったのですね」
「まったく、上手くやったものだ。テレビにも雑誌にも、全て作り話で答えていたという事か……」
その時、二人の元へ衝撃的な情報が舞い込んでくる。
捜査本部が、玉城ゆきなの実家への家宅捜索を決め、裁判所へ許可状を請求したというのだ。
「何故なんですか! 玉城さんは、事件の起きた時間は家に居たという証言も取れているのに。我々の調書は信用して貰えなかったんですか!?」
「まあ落ち着け。玉城ゆきなが家に居たというのはあくまで本人の証言であって、誰かがそれを見ていたわけではない以上、偽証の可能性はゼロでは無い。……まあ、片道で何時間もかかる距離だ。彼女の犯行では無いと俺も思っているがな」
「そうですよ! それに、玉城さんが人を殺すなんて、そんな事できる訳がない……」
「しかし、彼女は唯一猫矢ノアから連絡を取った顧客だ。聴取で話した事が全て真実とも限らん。とりあえず冷静になれ、請求してすぐに許可が下りる訳じゃないんだ。それまでに犯人を挙げればいい」
「そ、そうですよね!」
玉城は家に警察が来ることをひどく嫌がっていた。
家宅捜索など行われたら、仮に身の潔白は証明できたとしても、彼女の居場所は無くなってしまうだろう。
それだけは、何としても阻止しなければならない……
とはいえ、彼女以外の参考人には客観的なアリバイが存在する。
元婚約者の男性も、事件当日は父親の経営する土木会社で勤務していたという証言が得られた。
何か見落としがあるのか……それとも、捜査の網に引っかからない関係者が他に居るのだろうか。
猫矢ノアの顔見知りの犯行である事は、ほぼ確定しているのだ。
玉城ゆきなのためにも、一刻も早く犯人を逮捕せねば。
考えをまとめようとすればするほど、志摩の焦りは募るばかりだった。
「いやいや東松さん、それは流石にないでしょう。だって、猫矢さんは先日出演された番組の収録で、大御所俳優のスキャンダルを言い当てられた、という話がありましたよ?」
流石に黙っておられず、志摩が慌てて尋ねる。
「あれ? 刑事さん、さっきの話もう忘れちゃったの? 俺、芸能事務所に居たって言ったでしょ。その時の顔馴染みと飲むと、芸能界の色んな情報が手に入るんですよ。それで、もしかしたらスタジオで披露してくれって流れになるかも知れないから、今回はあの玉響とかいうオヤジのネタを叔母さんに仕込んでおいたってわけ」
「そんな……では、これまでどうやってお客さんのカウンセリングをされていたんですか? 下手なこと言ったらすぐにバレてしまいそうな事ですが」
「その辺は叔母さんの話術ですよ、口だけは達者だったからね、あの人。話を上手に転がして、気分を良くして帰らせるんです。最近は、事前に探偵を使ってその客のプライベートな情報を集めておいたりもしたけどね」
志摩の口からそれ以上、追求の言葉が出ることはなかった。
霊能力者などと言うのは真っ赤な嘘。その巧みな話術と、入念な下調べで名声を得ていたのだ。
「あ……いけね、喋りすぎちゃった。もしかして、これって詐欺罪とかになるんですかね」
「えっ、うーん、どうなんでしょう?」
急に質問を振られて、志摩は腕を組んで考え込んでしまった。
「誰かがその事によって不利益を被り、猫矢ノアを訴えた場合は、何らかの罪に問われる可能性が有りますが、顧客が満足していたという事なら特に問題はないでしょう。あまり褒められたやり方では無いですがね」
二人のやり取りを黙って聞いていた富澤だったが、志摩が返答に窮するのを見かねて説明する。
これくらい答えられなくてどうする、という視線が志摩に向けられていた。
「ああ、よかった。ホッとしましたよ。まあ、そのうちボロが出るだろうから長続きはしないと思ってましたけどね」
そう言って安堵の表情を浮かべる東松に、富澤は声のトーンを落として問いかけた。
「……という事は、東松さんはいずれ猫矢ノアのハッタリはばれる、とお考えだった。そうなれば、顧客も地位も彼女は全てを失うことになる。それどころか、先ほど話したように誰かが訴えを起こす恐れすらありますよね」
そんなことになれば、東松にも少なからず責任が生じるだろう。
猫矢に稼げるだけ稼がせて、綻びが出る前に始末する、という事考えに至っても不思議ではない。
「え、なに? もしかして刑事さん、俺のこと疑ってるの? そんなまさか、俺が叔母さんを殺すわけないじゃないですか。まだまだ稼いで貰おうと思ってたのに」
「では聞きますが、事件のあった六月八日の午後七時以降、東松さんはどちらに?」
「えーと……五日前か……ちょっと待ってくださいね」
そう言って東松はスマホを操作し始めた。
過去のメールを開いて、自分の行動を振り返っているようだ。
「あっ、あった! その日はクラブで飲んでいましたね。嬢に送ったメールが残ってるから、ほら。何ならお店の名前も教えるから、聞きにいってみる?」
志摩は念のため、東松から聞いたクラブの店名を調書へ打ち込んだ。
だが、おそらく彼の言っている事は本当だろう。
東松を帰らせた後も、富澤と志摩は取調室に残っていた。
先程の話をどのようにまとめようかと、志摩のキーボードを打つ手は止まっている。
「猫矢ノアの霊能力は、全部ハッタリだったのですね」
「まったく、上手くやったものだ。テレビにも雑誌にも、全て作り話で答えていたという事か……」
その時、二人の元へ衝撃的な情報が舞い込んでくる。
捜査本部が、玉城ゆきなの実家への家宅捜索を決め、裁判所へ許可状を請求したというのだ。
「何故なんですか! 玉城さんは、事件の起きた時間は家に居たという証言も取れているのに。我々の調書は信用して貰えなかったんですか!?」
「まあ落ち着け。玉城ゆきなが家に居たというのはあくまで本人の証言であって、誰かがそれを見ていたわけではない以上、偽証の可能性はゼロでは無い。……まあ、片道で何時間もかかる距離だ。彼女の犯行では無いと俺も思っているがな」
「そうですよ! それに、玉城さんが人を殺すなんて、そんな事できる訳がない……」
「しかし、彼女は唯一猫矢ノアから連絡を取った顧客だ。聴取で話した事が全て真実とも限らん。とりあえず冷静になれ、請求してすぐに許可が下りる訳じゃないんだ。それまでに犯人を挙げればいい」
「そ、そうですよね!」
玉城は家に警察が来ることをひどく嫌がっていた。
家宅捜索など行われたら、仮に身の潔白は証明できたとしても、彼女の居場所は無くなってしまうだろう。
それだけは、何としても阻止しなければならない……
とはいえ、彼女以外の参考人には客観的なアリバイが存在する。
元婚約者の男性も、事件当日は父親の経営する土木会社で勤務していたという証言が得られた。
何か見落としがあるのか……それとも、捜査の網に引っかからない関係者が他に居るのだろうか。
猫矢ノアの顔見知りの犯行である事は、ほぼ確定しているのだ。
玉城ゆきなのためにも、一刻も早く犯人を逮捕せねば。
考えをまとめようとすればするほど、志摩の焦りは募るばかりだった。
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