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第五話
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ロングピークの邸宅は特に庭が広い。亡くなった母親は花が好きだったので、四季折々の花がみられるようにと、母親の生前にリアトリスが作った庭園だ。
今ではアザレアがこの庭を管理していて、色々な花々の品種の改良もなども行っている。
品種の改良は地道な作業で、例えば色を濃くしたければ毎年咲く花の濃い物の種だけとり、それを蒔いて育てまたその中から特に濃い物の種を集め……といった具合だ。
それがこれからは時間魔法を使えるのだから、もっと効率良く行うことができると思うと、口元がほころぶ。
綺麗に剪定された常緑針葉樹で作られた生け垣が、はじめて訪れたら確実に迷ってしまうであろう入り組んだ庭を形成している。その中を花を愛でながらアザレアはゆっくり歩く。
今日は本当に気持ちの良い気候なので、ガゼボで花の香りに包まれながらお茶を飲みつつ、本でも読もう。そんなことを考えていたら、遠くの方から聞き慣れた声がした。
「お嬢様ぁぁぁぁ!」
シラーだ。良い天気に浮かれてすっかり存在を忘れてしまっていた。そしてこの瞬間まで瞬間移動のことをどう説明をするか、まるで考えていなかった。そうこうしているうちに美しい花々の間からシラーが顔を覗かせた。
「お嬢様! もうどれだけ心配させれば気が済むのですか!」
昨日のことは不可抗力とはいえ、本当にシラー達には迷惑をかけてしまった。
「心配かけてしまったわね」
シラーは大きく二度三度と頷いた。
「本当に急にお姿が見えなくなったので、どうかしたのではないかと、余計なことまで考えてしまいました。とにかくご無事で良かったですわ。ところでお嬢様は、どのようにしてこちらまで来られたんですか?」
そうですよね不思議ですよね聞きたいですよね? と思いつつ、うまい言い訳が何も思い浮かばず適当に答えた。
「昨日は馬車の中で退屈してしまって、以前から考えていた風の力の応用で、遠くへ移動できないかついつい試したくなったのよ」
我ながら苦しい言い訳。シラーはビックリというよりやや呆れ顔になった。
「乗り物にも乗らずにそのような危険な移動をしたのですか? 先月の王宮の時といい、今後そのような危ない移動はなされないでくださいませ!」
シラーにとっては移動手段の危険性のほうが気になったようだ。とりあえず一安心。
「心配してくれてありがとう。もう二度としないわ。それより疲れたでしょう? 私のことは大丈夫だから、貴方は今日はゆっくりしてちょうだい」
そう言うとシラーに、今日一日は暇をだした。渋るシラーを自室へ向かわせる。あの長旅で疲れていないはずがない。
シラーは根を詰めて働いてしまう性格なので、強制的にでも時々休暇を取らせる必要があった。本来なら明日も休暇を取らせたいが、それは断固拒否するに違いなかった。
アザレアはそれからゆっくりガゼボで読書して過ごし、夜に王宮図書室へ忍び込むために昼寝をしたりして過ごした。久々ゆっくりできて有意義な一日となった。
深夜になり、王宮図書室にどのような本が置いてあるのかという期待と、忍び込むことへの緊張感を感じながら王宮図書室へ瞬間移動した。
王宮図書室は円形状の部屋で、中心に本を読むためのテーブルがあり、横の長さが三メートルほどの本棚が一定間隔でテーブルを中心に三重に円形状に並んでおり、一番奥、円状の本棚の一番外側にの本棚に二階へ続くはしごがある。その梯子を登ると、更に本棚がに円形状に並んでいる。
要するに全ての本棚がテーブルを中心に円形状に並んでいるため、全体が見渡せ、あまり歩かなくとも本を取リに行くことができるようになっていた。なるほど、よく出来てる。
感心しながら本を物色し始めた。特にどんな内容のものを読むかは決めておらず、本の背表紙を見るのに夢中になりなが進んでいると、本棚の緩やかなカーブの先に突然、誰かの背中が見えた。
薄暗いなかでもわかる明るめのハニーブロンド、百八十は越えていそうな身長。薄手のガウンを羽織っている背中は逞しい逆三角形をしている。数年間追い続けたこの背中を見間違うはずはない。どこをどう見ても殿下である。
驚いて、グゥ! と、叫びそうな声を必死にこらえ、殿下に気づかれる前に、瞬間移動でロングピークへもどろうとしたが、その前に殿下が振り返った。血の気が引いた。終わった、と思った。殿下はアザレアを見て呆けた顔をして
「君がここに居るわけがない!」
と言った。なぜここに居る? ではなく居るわけがない、と言った。なので咄嗟に、幻覚を見ているとでも思っているのだろうと判断して一か八か言ってみた。
「殿下、今ここにいる私は幻覚です」
だが、これで誤魔化せるとは到底思えなかった。
「は? まさかそのようなこと……。いや、そうかもしれないな。私は婚約破棄をされてショックを受けた。だから酷く動揺しているのだろう。君に会いたくて、君の顔が見たくて、ぼんやり考えていたから、君の幻覚を見たのだな……」
殿下は虚ろな目で、独り言のようにつぶやいた。
「なら、もうおやすみください。働き過ぎですし、まともに睡眠も取らなかったら国民にとっても迷惑です」
殿下は一瞬不思議そうにこちらを見ると、微笑む。
「幻覚の君はずいぶんハッキリと物を言うな。だが、その通りだ。もう休むとするよ忠告ありがとう」
と言うと図書室のドアへの方へ一歩踏み出した。そして、そこで立ち止まりもう一度こちらを振り返るとアザレアを見て言った。
「幻覚でもいい、また君に会いたい」
アザレアは頷くと、戻って行く殿下の後ろ姿を見届けたあと、ロングピークへ瞬間移動した。
それからなぜか、殿下と不思議な逢瀬が続くことになるのだった。
今ではアザレアがこの庭を管理していて、色々な花々の品種の改良もなども行っている。
品種の改良は地道な作業で、例えば色を濃くしたければ毎年咲く花の濃い物の種だけとり、それを蒔いて育てまたその中から特に濃い物の種を集め……といった具合だ。
それがこれからは時間魔法を使えるのだから、もっと効率良く行うことができると思うと、口元がほころぶ。
綺麗に剪定された常緑針葉樹で作られた生け垣が、はじめて訪れたら確実に迷ってしまうであろう入り組んだ庭を形成している。その中を花を愛でながらアザレアはゆっくり歩く。
今日は本当に気持ちの良い気候なので、ガゼボで花の香りに包まれながらお茶を飲みつつ、本でも読もう。そんなことを考えていたら、遠くの方から聞き慣れた声がした。
「お嬢様ぁぁぁぁ!」
シラーだ。良い天気に浮かれてすっかり存在を忘れてしまっていた。そしてこの瞬間まで瞬間移動のことをどう説明をするか、まるで考えていなかった。そうこうしているうちに美しい花々の間からシラーが顔を覗かせた。
「お嬢様! もうどれだけ心配させれば気が済むのですか!」
昨日のことは不可抗力とはいえ、本当にシラー達には迷惑をかけてしまった。
「心配かけてしまったわね」
シラーは大きく二度三度と頷いた。
「本当に急にお姿が見えなくなったので、どうかしたのではないかと、余計なことまで考えてしまいました。とにかくご無事で良かったですわ。ところでお嬢様は、どのようにしてこちらまで来られたんですか?」
そうですよね不思議ですよね聞きたいですよね? と思いつつ、うまい言い訳が何も思い浮かばず適当に答えた。
「昨日は馬車の中で退屈してしまって、以前から考えていた風の力の応用で、遠くへ移動できないかついつい試したくなったのよ」
我ながら苦しい言い訳。シラーはビックリというよりやや呆れ顔になった。
「乗り物にも乗らずにそのような危険な移動をしたのですか? 先月の王宮の時といい、今後そのような危ない移動はなされないでくださいませ!」
シラーにとっては移動手段の危険性のほうが気になったようだ。とりあえず一安心。
「心配してくれてありがとう。もう二度としないわ。それより疲れたでしょう? 私のことは大丈夫だから、貴方は今日はゆっくりしてちょうだい」
そう言うとシラーに、今日一日は暇をだした。渋るシラーを自室へ向かわせる。あの長旅で疲れていないはずがない。
シラーは根を詰めて働いてしまう性格なので、強制的にでも時々休暇を取らせる必要があった。本来なら明日も休暇を取らせたいが、それは断固拒否するに違いなかった。
アザレアはそれからゆっくりガゼボで読書して過ごし、夜に王宮図書室へ忍び込むために昼寝をしたりして過ごした。久々ゆっくりできて有意義な一日となった。
深夜になり、王宮図書室にどのような本が置いてあるのかという期待と、忍び込むことへの緊張感を感じながら王宮図書室へ瞬間移動した。
王宮図書室は円形状の部屋で、中心に本を読むためのテーブルがあり、横の長さが三メートルほどの本棚が一定間隔でテーブルを中心に三重に円形状に並んでおり、一番奥、円状の本棚の一番外側にの本棚に二階へ続くはしごがある。その梯子を登ると、更に本棚がに円形状に並んでいる。
要するに全ての本棚がテーブルを中心に円形状に並んでいるため、全体が見渡せ、あまり歩かなくとも本を取リに行くことができるようになっていた。なるほど、よく出来てる。
感心しながら本を物色し始めた。特にどんな内容のものを読むかは決めておらず、本の背表紙を見るのに夢中になりなが進んでいると、本棚の緩やかなカーブの先に突然、誰かの背中が見えた。
薄暗いなかでもわかる明るめのハニーブロンド、百八十は越えていそうな身長。薄手のガウンを羽織っている背中は逞しい逆三角形をしている。数年間追い続けたこの背中を見間違うはずはない。どこをどう見ても殿下である。
驚いて、グゥ! と、叫びそうな声を必死にこらえ、殿下に気づかれる前に、瞬間移動でロングピークへもどろうとしたが、その前に殿下が振り返った。血の気が引いた。終わった、と思った。殿下はアザレアを見て呆けた顔をして
「君がここに居るわけがない!」
と言った。なぜここに居る? ではなく居るわけがない、と言った。なので咄嗟に、幻覚を見ているとでも思っているのだろうと判断して一か八か言ってみた。
「殿下、今ここにいる私は幻覚です」
だが、これで誤魔化せるとは到底思えなかった。
「は? まさかそのようなこと……。いや、そうかもしれないな。私は婚約破棄をされてショックを受けた。だから酷く動揺しているのだろう。君に会いたくて、君の顔が見たくて、ぼんやり考えていたから、君の幻覚を見たのだな……」
殿下は虚ろな目で、独り言のようにつぶやいた。
「なら、もうおやすみください。働き過ぎですし、まともに睡眠も取らなかったら国民にとっても迷惑です」
殿下は一瞬不思議そうにこちらを見ると、微笑む。
「幻覚の君はずいぶんハッキリと物を言うな。だが、その通りだ。もう休むとするよ忠告ありがとう」
と言うと図書室のドアへの方へ一歩踏み出した。そして、そこで立ち止まりもう一度こちらを振り返るとアザレアを見て言った。
「幻覚でもいい、また君に会いたい」
アザレアは頷くと、戻って行く殿下の後ろ姿を見届けたあと、ロングピークへ瞬間移動した。
それからなぜか、殿下と不思議な逢瀬が続くことになるのだった。
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