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第八話
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リアトリスから返事があった。準備は整えたのでアザレが鉱山に来たいならいつでも来なさい。とのことだった。
鉱山は、リアトリスにとっては職場である。発見したばかりの鉱山で、陣頭指揮を取らなければならず、相当忙しいはずだった。なのに急遽アザレアのために準備をしてくれて、アザレアは感謝の気持ちしかなかった。
鉱山には馬車で三日もあれば到着するだろう。
アザレアはせっかくお父様に会えるのだし、瞬間移動を活用するためにも、この機会にお父様に時空魔法を使えるようになったことを伝えたい。そう思った。そうすれば今後は馬車移動もしなくて済むようになる。
それに、鉱脈が発見されたことで、アザレアの言うことに信憑性もでてきているはずだ。伝えるには良いタイミングだろう。
窓辺でリアトリスの手紙に目を通したアザレアは、そんなことを考えながら、一週間後にこちらを発ち鉱山に向かうと返事を書いた。そしてすぐ横で返事を待っている使者に渡すと、窓の外をぼんやり見た。
昨日はカルと話し合って、隔日で週に四日ほど王宮図書室に行く約束をした。そのうちの一日が、私の読書日となった。
毎回深夜だと、お互いに睡眠不足になってしまうということで、夕食後の待ち合わせとなった。
アザレアの当初の目的は読書であったので、これでは何のために王宮図書室へ行くのかわからなくなってきてしまったが、カルの話相手、相談役として役にたてるのなら、それはそれで有意義な時間になるかもしれない。
王都から聖女を召喚したという話はまだ届いていない。このまま聖女の召喚もなく、アザレアの婚約候補辞退もすすみ、前世で読んだ物語と全く違う展開になってくれれば死を回避できて、安心して暮らせる。
だが、ダイヤモンドの鉱脈が発見されたということは、あの物語と同じ展開がこれから起こることも十分あり得る。そんな不安もあり、日中は魔力強化と時空魔法の訓練も欠かさず行っていた。
瞬間移動の魔法の魔道具を作ることができれば、大変便利になるはずだろう。なので鉱石に時空魔法の注入を試みてみたが、ダイヤモンド以外では鉱石が簡単に砕けてしまうことがわかった。
ダイヤモンドはこの世界でもとても希少な鉱物だった。アザレアは鉱山に行った折に、鉱山で手ごろなタイヤモンドを譲ってもらえないか、交渉するつもりでいた。
夕食をとると、今日は王宮図書室で待ち合わせの予定だったので、すぐに自室に戻り王宮図書室へ移動した。今日もテーブルでカルが待っていた。
「カル、いつも私を出迎えてくださらなくても大丈夫ですよ?」
王太子殿下を待たせるなど、とんでもないことだ。ところがカルは少し悲しそうな顔になった。
「アズ、願わくば私との間にそんなに距離をおかないで欲しい、私は君を待ちたくて待っているんだ」
あまりにも素直に気持ちを吐露する殿下に、思わず気持ちを揺さぶられる。動揺を表情に出さないよう気をつけながら、アザレアは頷いた。
「わかりました。ではなるべく気を使わないように配慮します」
それでもカルは一瞬不服そうな、納得のいかないといった顔になった。
「その答え方も他人行儀だね」
そう言ったあと、首を振った。
「だが、君をそうさせた私に非がある。今は私が大切な婚約者候補の君を、放っておいたことに対する贖罪の日々なんだ。私は不満を言える立場ではないな。すまない」
そして、微笑むと
「ところで、今日は君のためにお茶を準備して待っていたんだ」
とアザレアをテーブル席に案内し、椅子を引いて座るよう促した。アザレアは促されるままに椅子に座る。
どういうことだろう? アザレアは首をかしげた。私は幻覚であり、この空間は二人だけのものではなかったのか? お茶を用意したということはメイドか執事を従えてきたということだ。そう思った。
ここにいるのが他の者に知れてしまうのは大変困る事態だった。混乱が表情に出ていたのかカルがすぐに言葉をつないだ。
「心配しないでくれ、お茶を入れるのは私だから」
信じられなかった、まさか王太子殿下が自らお茶をいれるなんて。驚いているアザレアを見て、カルは照れ笑いをした。
「君とゆっくりお茶を飲みたいと思って、お茶の入れ方を学んだんだ。味の保証はないけれど」
とんでもない、王太子殿下の入れたお茶である。味がどうとか、そういう次元の問題ではない。思わず表情が硬くなってしまう。
「アズ、何度も言っている通り、私には気を使わないで欲しいんだ。ここではただのアズとカルなんだし。難しいかもしれないが、私からのお願いだよ。それに私が練習して一番最初に入れたお茶は君に飲んでもらいたいと思ったんだが、悪いことか?」
とんでもありません! そう思いながらアザレアは顔を真っ赤にして左右に首を振る。その様子をみてカルは微笑むとつぶやく。
「参ったね、君は本当に可愛いな」
こうして最も格式の高いお茶会が始まった。カルは美しい所作でお茶を入れる。その動き一つ一つに、初めて誰かに出すとは思えないほど迷いがない。最後、茶葉を蒸らす間、紅茶の良い香りが辺りを包んだ。
アザレアの前に置かれたアンモビウムの花の柄のティーカップに、美しい肉桂色の澄んだ紅茶が注がれる。この香りはダージリンティだろう。
ふと、本に匂いが移ってしまわないか気になり周囲を見ると、魔法で風の流れを変えて本の方へ湿気や香りがいかないようにしてあった。対策も万全なのですねと、変なところで感心してしまった。
「ありがとうございます。いただきます」
よい茶葉を使用しているので、本当に香りが良い。思う存分香りを楽しんだのち、一口お茶を飲んだ。
「美味しい。軟水を使っていますのね、雑味がなくて口当たりもよいですわ」
そう言って後ろに立っているカルを振り返る。と、カルはアザレアの椅子の背もたれに手をかけ、ティーカップを覗き込むようにしていたため、顔が目の前にあった。油断ならない、ここでのカルは隙あらばとにかく近い。後ろに身体を引こうとするが、隙間がなく逃げ場がない。
「喜んでくれてうれしいよ。私も今一緒に香りを楽しませてもらってる」
その楽しみ方は心臓に悪うございます。そう思い、とにかく座ってもらうことにした。
「どうせならカルも座って、楽しみませんか?」
カルは微笑むと、隣に座って頬杖をついてこちらを向いた。
「そのティーカップのアンモビウムは気に入ってくれたかな? 君の好きな花だよね」
アザレアは驚いた。カルは勘違いしているようだった。前世の物語の中でも勘違いしているという設定だったのだろうか?
「アンモビウムの花がお好きなのは、カルなのではないのですか? 私はそのようにお父様から聞きました」
するとカルは少し戸惑った顔をした。
「いやそこまでは。君はアンモビウムは好きじゃないのか?」
そんなことを言ったことはないのだが、と思いながら答える。
「カルには申し訳ありませんが、そんなに好きではありません」
カルは正面を向き、しばらく考えるとこちらに向き直し言った。
「では、いつも王宮にアンモビウムを持ってきてくれていたのは、私がアンモビウムを好きだと思ったからなのか?」
もちろんそうである。そうじゃなければ、わざわざ王宮に持っていくはずがない。
「そうです。カルが好きだから持っていきました」
そう答えると、カルは顔をそむけた。なぜ顔をそむけるのだろう。そんなに嫌だったのだろうか?
アザレアはあの当時、カルに好かれたくて必死だった。それはカルにとっては煩わしいことであったかもしれないが、それでもあの頃のアザレアの努力を少しは認めてほしかった。
そう思って顔をそむけているカルをじっと見つめていると、カルの耳が赤くなっているのに気づいた。もしかして、照れている? でもなぜ? と、少し考えて自分が今言った言葉を思いだす。
アザレアは、自分がカルを好きだと言ったことに気づき顔を赤くして俯いた。
その後はお互いになんとなくぎこちなくなってしまい、お茶会は早々に終了した。
鉱山は、リアトリスにとっては職場である。発見したばかりの鉱山で、陣頭指揮を取らなければならず、相当忙しいはずだった。なのに急遽アザレアのために準備をしてくれて、アザレアは感謝の気持ちしかなかった。
鉱山には馬車で三日もあれば到着するだろう。
アザレアはせっかくお父様に会えるのだし、瞬間移動を活用するためにも、この機会にお父様に時空魔法を使えるようになったことを伝えたい。そう思った。そうすれば今後は馬車移動もしなくて済むようになる。
それに、鉱脈が発見されたことで、アザレアの言うことに信憑性もでてきているはずだ。伝えるには良いタイミングだろう。
窓辺でリアトリスの手紙に目を通したアザレアは、そんなことを考えながら、一週間後にこちらを発ち鉱山に向かうと返事を書いた。そしてすぐ横で返事を待っている使者に渡すと、窓の外をぼんやり見た。
昨日はカルと話し合って、隔日で週に四日ほど王宮図書室に行く約束をした。そのうちの一日が、私の読書日となった。
毎回深夜だと、お互いに睡眠不足になってしまうということで、夕食後の待ち合わせとなった。
アザレアの当初の目的は読書であったので、これでは何のために王宮図書室へ行くのかわからなくなってきてしまったが、カルの話相手、相談役として役にたてるのなら、それはそれで有意義な時間になるかもしれない。
王都から聖女を召喚したという話はまだ届いていない。このまま聖女の召喚もなく、アザレアの婚約候補辞退もすすみ、前世で読んだ物語と全く違う展開になってくれれば死を回避できて、安心して暮らせる。
だが、ダイヤモンドの鉱脈が発見されたということは、あの物語と同じ展開がこれから起こることも十分あり得る。そんな不安もあり、日中は魔力強化と時空魔法の訓練も欠かさず行っていた。
瞬間移動の魔法の魔道具を作ることができれば、大変便利になるはずだろう。なので鉱石に時空魔法の注入を試みてみたが、ダイヤモンド以外では鉱石が簡単に砕けてしまうことがわかった。
ダイヤモンドはこの世界でもとても希少な鉱物だった。アザレアは鉱山に行った折に、鉱山で手ごろなタイヤモンドを譲ってもらえないか、交渉するつもりでいた。
夕食をとると、今日は王宮図書室で待ち合わせの予定だったので、すぐに自室に戻り王宮図書室へ移動した。今日もテーブルでカルが待っていた。
「カル、いつも私を出迎えてくださらなくても大丈夫ですよ?」
王太子殿下を待たせるなど、とんでもないことだ。ところがカルは少し悲しそうな顔になった。
「アズ、願わくば私との間にそんなに距離をおかないで欲しい、私は君を待ちたくて待っているんだ」
あまりにも素直に気持ちを吐露する殿下に、思わず気持ちを揺さぶられる。動揺を表情に出さないよう気をつけながら、アザレアは頷いた。
「わかりました。ではなるべく気を使わないように配慮します」
それでもカルは一瞬不服そうな、納得のいかないといった顔になった。
「その答え方も他人行儀だね」
そう言ったあと、首を振った。
「だが、君をそうさせた私に非がある。今は私が大切な婚約者候補の君を、放っておいたことに対する贖罪の日々なんだ。私は不満を言える立場ではないな。すまない」
そして、微笑むと
「ところで、今日は君のためにお茶を準備して待っていたんだ」
とアザレアをテーブル席に案内し、椅子を引いて座るよう促した。アザレアは促されるままに椅子に座る。
どういうことだろう? アザレアは首をかしげた。私は幻覚であり、この空間は二人だけのものではなかったのか? お茶を用意したということはメイドか執事を従えてきたということだ。そう思った。
ここにいるのが他の者に知れてしまうのは大変困る事態だった。混乱が表情に出ていたのかカルがすぐに言葉をつないだ。
「心配しないでくれ、お茶を入れるのは私だから」
信じられなかった、まさか王太子殿下が自らお茶をいれるなんて。驚いているアザレアを見て、カルは照れ笑いをした。
「君とゆっくりお茶を飲みたいと思って、お茶の入れ方を学んだんだ。味の保証はないけれど」
とんでもない、王太子殿下の入れたお茶である。味がどうとか、そういう次元の問題ではない。思わず表情が硬くなってしまう。
「アズ、何度も言っている通り、私には気を使わないで欲しいんだ。ここではただのアズとカルなんだし。難しいかもしれないが、私からのお願いだよ。それに私が練習して一番最初に入れたお茶は君に飲んでもらいたいと思ったんだが、悪いことか?」
とんでもありません! そう思いながらアザレアは顔を真っ赤にして左右に首を振る。その様子をみてカルは微笑むとつぶやく。
「参ったね、君は本当に可愛いな」
こうして最も格式の高いお茶会が始まった。カルは美しい所作でお茶を入れる。その動き一つ一つに、初めて誰かに出すとは思えないほど迷いがない。最後、茶葉を蒸らす間、紅茶の良い香りが辺りを包んだ。
アザレアの前に置かれたアンモビウムの花の柄のティーカップに、美しい肉桂色の澄んだ紅茶が注がれる。この香りはダージリンティだろう。
ふと、本に匂いが移ってしまわないか気になり周囲を見ると、魔法で風の流れを変えて本の方へ湿気や香りがいかないようにしてあった。対策も万全なのですねと、変なところで感心してしまった。
「ありがとうございます。いただきます」
よい茶葉を使用しているので、本当に香りが良い。思う存分香りを楽しんだのち、一口お茶を飲んだ。
「美味しい。軟水を使っていますのね、雑味がなくて口当たりもよいですわ」
そう言って後ろに立っているカルを振り返る。と、カルはアザレアの椅子の背もたれに手をかけ、ティーカップを覗き込むようにしていたため、顔が目の前にあった。油断ならない、ここでのカルは隙あらばとにかく近い。後ろに身体を引こうとするが、隙間がなく逃げ場がない。
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「そのティーカップのアンモビウムは気に入ってくれたかな? 君の好きな花だよね」
アザレアは驚いた。カルは勘違いしているようだった。前世の物語の中でも勘違いしているという設定だったのだろうか?
「アンモビウムの花がお好きなのは、カルなのではないのですか? 私はそのようにお父様から聞きました」
するとカルは少し戸惑った顔をした。
「いやそこまでは。君はアンモビウムは好きじゃないのか?」
そんなことを言ったことはないのだが、と思いながら答える。
「カルには申し訳ありませんが、そんなに好きではありません」
カルは正面を向き、しばらく考えるとこちらに向き直し言った。
「では、いつも王宮にアンモビウムを持ってきてくれていたのは、私がアンモビウムを好きだと思ったからなのか?」
もちろんそうである。そうじゃなければ、わざわざ王宮に持っていくはずがない。
「そうです。カルが好きだから持っていきました」
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アザレアはあの当時、カルに好かれたくて必死だった。それはカルにとっては煩わしいことであったかもしれないが、それでもあの頃のアザレアの努力を少しは認めてほしかった。
そう思って顔をそむけているカルをじっと見つめていると、カルの耳が赤くなっているのに気づいた。もしかして、照れている? でもなぜ? と、少し考えて自分が今言った言葉を思いだす。
アザレアは、自分がカルを好きだと言ったことに気づき顔を赤くして俯いた。
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