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グランツは王太子殿下であり、本来オルヘルスの意思など気にする立場にない。
それなのにこうしてオルヘルスの気持ちを大切にしてくれている。その事実に、オルヘルスはグランツを信じてみようと決意を固めうなずいた。
するとグランツはほっとしたような顔。
「そうか、よかった。ではこちらでいろいろ手配しておこう」
そう言って去っていこうとするグランツを見て、オルヘルスは突然ネックレスを借りていたことを思い出した。
「殿下! お待ちください」
「どうした?」
「ネックレスをお返ししておりませんでしたわ」
そう言って着けていたネックレスを外そうとした。だが、それをグランツが止める。
「なにを言っている。それは君のものだ。元々プレゼントしようと思っていたものだからね。急遽あの場で渡すことになってしまったが」
「えっ? ですが、あのとき、ちょうど来ていた商人から借りただけだとばかり……」
「いや、あのとき並べられたネックレスはすべて君へのプレゼントだが?」
オルヘルスは呆気にとられた。すでに十分過ぎるほどプレゼントされていたからだ。グランツは平然とした顔で話を続ける。
「なかなか希望したようなクラリティのものが見つからなくてね、新しい鉱山を買ったんだ。それでうまいこと鉱脈を見つけてね、だから、石を職人に急いで磨かせた。気に入ってくれるといいが。残りはあとで届けさせる。では、私の愛しい姫、また会おう」
オルヘルスは唖然としてグランツが去っていった扉を見つめると、胸元で輝くトルマリンに手を当てた。
グランツが手配すると言っていたとおり、次の日には追加の高価な宝飾品と合わせて、愛馬会の当日身に着けるドレスやらが一揃え屋敷に届けられた。
愛馬会のためにグランツから渡されたドレスや装飾品は、無駄な装飾がなく公式の場に出るにしては質素なものとなっていた。
それでも、最高級のものが使われているのは肌触りや使われてる見事なレースを見てすぐにわかった。
それらを確認していると、今度は使者がオルヘルスを迎えに来た。何事かと思っていると、愛馬会のリハーサルのために毎日王宮へ通うようにとのことだった。
これはお妃教育の一環でもあるのだろう。オルヘルスは婚約へ向けて着々と準備が進められているのを感じた。
愛馬会での王族の務めは、審査もさることながら表彰のときにメダルを渡すことがメインとなる。
一位には国王両陛下から、二位には王太子殿下から、三位には王太子妃殿下から渡すことになっている。
王太子妃殿下がいない場合は、兄弟か親族が渡すことになっていて、昨年まではグランツの従妹であるミルテ・メンゲルベルフ公爵令嬢がその役を担っていた。
その役目を今年からはオルヘルスが担うことになった。
それは大役であり、オルヘルスは身の引き締まる思いがした。
王宮へ通うと愛馬会での立ち振舞いなどの教育を受けることとなり、慣れないオルヘルスのことをグランツやエリ女王は全面的にサポートしてくれた。
こうして万全を期して当日を迎えた。
早朝から準備に追われ、支度を整えると早めに王宮の馬車に乗り込みグランツたちと落ち合う。
「迎えに行けなくてすまない」
「寂しかったですけれど、今日は殿下もお忙しいはずですもの仕方がありませんわ」
「そう言ってくれるとありがたい」
そう答えてグランツは微笑んだ。
まだ婚約はしていないものの、本当に婚約するのならこれがオルヘルスにとって初めての公務となる。
なので、オルヘルスを選んだグランツに恥をかかせないためにも、必ず成功させなければならない。
オルヘルスが緊張しながら差し出されたグランツの手を取ると、ふたりは歩き始めた。
この日のために開放された王宮の広場は、大変な熱気に包まれていた。
牧場主や世話係たちが、自分が大切に育ててきた馬を連れ広場へ入ってくる。
そうして次々に馬が連れてこられると、それを国が定めた鑑定人が選定し、一定の基準に達した馬たちの中から、さらに素晴らしい馬を十頭選定し、最終的には両陛下が順位をつけるのだ。
この十頭のことをゴールデン・テンと呼び、ここに残るだけでも大変名誉なことだった。
最終的に両陛下が順位を決めるといっても、その過程で王太子殿下であるグランツやそのパートナーであるオルヘルスにも意見を訊かれる。
オルヘルスは自分の判断が少なからず影響するかもしれないのだから、慎重に言葉を選んで発言することを肝に銘じた。
鑑定人たちが、鑑定をしているあいだ両陛下は席を外しており、グランツとオルヘルスだけが特別席から軽食を取りながらそれを観覧していた。
「君はどの馬がいいと思う?」
突然グランツに話をふられ、オルヘルスは驚きながら答える。
「実はずっと気になる子がいますの」
「子?」
「あっ、いいえ、気になっている馬がおりますの」
するとグランツはクスクスと笑った。
「気になる子、か。で、どの子なんだ? その幸運な馬は」
オルヘルスは指を指そうとしたが、もしかすると今後の審査に影響するかもしれないと思いそれを止めた。
「今は言わないことにしておきますわ」
「そうか、わかった。君が気に入るぐらいだ必ずゴールデン・テンに残るだろう。そのときは教えてくれ」
「はい」
オルヘルスは今まで乗馬をしたことも、牧場へ行ったこともなく馬車馬以外の馬を間近で見たことはない。
それなのに、目利きができるとは思えず最後までは残らないだろうと思っていた。
そんな会話をしながら連れられてくる馬を眺め、グランツに色々説明を受けたりと、リラックスした時間を過ごすことができた。
エントリーした馬は二百頭以上おり、昼食の時間を挟んでゴールデン・テンの馬を選ぶのに七時間ほどかかった。
そうしてゴールデン・テンが選ばれ発表されると、いよいよ両陛下が会場入りし順位が付けられる段となった。
両陛下が会場に姿を現すと、会場内は最高潮に盛り上りを見せた。
オルヘルスとグランツも立って出迎え、フィリベルト・ファン・デ・ヴァル・ユウェル国王陛下はこちらへ来ると、オルヘルスを見て微笑んだ。
「オリ、本当に大きくなって……」
そう言って瞳を潤ませると、そのうしろでエリ女王が囁く。
「フィル! それはいいから早く座ってちょうだい! 感動の再会はあとでよ!!」
「そ、そうか、そうだったな」
フィリベルト国王が慌てて席に着くと、愛馬会の進行をしているハールマン伯爵が大きな声で言った。
「では、これから最終審査に入る!」
それなのにこうしてオルヘルスの気持ちを大切にしてくれている。その事実に、オルヘルスはグランツを信じてみようと決意を固めうなずいた。
するとグランツはほっとしたような顔。
「そうか、よかった。ではこちらでいろいろ手配しておこう」
そう言って去っていこうとするグランツを見て、オルヘルスは突然ネックレスを借りていたことを思い出した。
「殿下! お待ちください」
「どうした?」
「ネックレスをお返ししておりませんでしたわ」
そう言って着けていたネックレスを外そうとした。だが、それをグランツが止める。
「なにを言っている。それは君のものだ。元々プレゼントしようと思っていたものだからね。急遽あの場で渡すことになってしまったが」
「えっ? ですが、あのとき、ちょうど来ていた商人から借りただけだとばかり……」
「いや、あのとき並べられたネックレスはすべて君へのプレゼントだが?」
オルヘルスは呆気にとられた。すでに十分過ぎるほどプレゼントされていたからだ。グランツは平然とした顔で話を続ける。
「なかなか希望したようなクラリティのものが見つからなくてね、新しい鉱山を買ったんだ。それでうまいこと鉱脈を見つけてね、だから、石を職人に急いで磨かせた。気に入ってくれるといいが。残りはあとで届けさせる。では、私の愛しい姫、また会おう」
オルヘルスは唖然としてグランツが去っていった扉を見つめると、胸元で輝くトルマリンに手を当てた。
グランツが手配すると言っていたとおり、次の日には追加の高価な宝飾品と合わせて、愛馬会の当日身に着けるドレスやらが一揃え屋敷に届けられた。
愛馬会のためにグランツから渡されたドレスや装飾品は、無駄な装飾がなく公式の場に出るにしては質素なものとなっていた。
それでも、最高級のものが使われているのは肌触りや使われてる見事なレースを見てすぐにわかった。
それらを確認していると、今度は使者がオルヘルスを迎えに来た。何事かと思っていると、愛馬会のリハーサルのために毎日王宮へ通うようにとのことだった。
これはお妃教育の一環でもあるのだろう。オルヘルスは婚約へ向けて着々と準備が進められているのを感じた。
愛馬会での王族の務めは、審査もさることながら表彰のときにメダルを渡すことがメインとなる。
一位には国王両陛下から、二位には王太子殿下から、三位には王太子妃殿下から渡すことになっている。
王太子妃殿下がいない場合は、兄弟か親族が渡すことになっていて、昨年まではグランツの従妹であるミルテ・メンゲルベルフ公爵令嬢がその役を担っていた。
その役目を今年からはオルヘルスが担うことになった。
それは大役であり、オルヘルスは身の引き締まる思いがした。
王宮へ通うと愛馬会での立ち振舞いなどの教育を受けることとなり、慣れないオルヘルスのことをグランツやエリ女王は全面的にサポートしてくれた。
こうして万全を期して当日を迎えた。
早朝から準備に追われ、支度を整えると早めに王宮の馬車に乗り込みグランツたちと落ち合う。
「迎えに行けなくてすまない」
「寂しかったですけれど、今日は殿下もお忙しいはずですもの仕方がありませんわ」
「そう言ってくれるとありがたい」
そう答えてグランツは微笑んだ。
まだ婚約はしていないものの、本当に婚約するのならこれがオルヘルスにとって初めての公務となる。
なので、オルヘルスを選んだグランツに恥をかかせないためにも、必ず成功させなければならない。
オルヘルスが緊張しながら差し出されたグランツの手を取ると、ふたりは歩き始めた。
この日のために開放された王宮の広場は、大変な熱気に包まれていた。
牧場主や世話係たちが、自分が大切に育ててきた馬を連れ広場へ入ってくる。
そうして次々に馬が連れてこられると、それを国が定めた鑑定人が選定し、一定の基準に達した馬たちの中から、さらに素晴らしい馬を十頭選定し、最終的には両陛下が順位をつけるのだ。
この十頭のことをゴールデン・テンと呼び、ここに残るだけでも大変名誉なことだった。
最終的に両陛下が順位を決めるといっても、その過程で王太子殿下であるグランツやそのパートナーであるオルヘルスにも意見を訊かれる。
オルヘルスは自分の判断が少なからず影響するかもしれないのだから、慎重に言葉を選んで発言することを肝に銘じた。
鑑定人たちが、鑑定をしているあいだ両陛下は席を外しており、グランツとオルヘルスだけが特別席から軽食を取りながらそれを観覧していた。
「君はどの馬がいいと思う?」
突然グランツに話をふられ、オルヘルスは驚きながら答える。
「実はずっと気になる子がいますの」
「子?」
「あっ、いいえ、気になっている馬がおりますの」
するとグランツはクスクスと笑った。
「気になる子、か。で、どの子なんだ? その幸運な馬は」
オルヘルスは指を指そうとしたが、もしかすると今後の審査に影響するかもしれないと思いそれを止めた。
「今は言わないことにしておきますわ」
「そうか、わかった。君が気に入るぐらいだ必ずゴールデン・テンに残るだろう。そのときは教えてくれ」
「はい」
オルヘルスは今まで乗馬をしたことも、牧場へ行ったこともなく馬車馬以外の馬を間近で見たことはない。
それなのに、目利きができるとは思えず最後までは残らないだろうと思っていた。
そんな会話をしながら連れられてくる馬を眺め、グランツに色々説明を受けたりと、リラックスした時間を過ごすことができた。
エントリーした馬は二百頭以上おり、昼食の時間を挟んでゴールデン・テンの馬を選ぶのに七時間ほどかかった。
そうしてゴールデン・テンが選ばれ発表されると、いよいよ両陛下が会場入りし順位が付けられる段となった。
両陛下が会場に姿を現すと、会場内は最高潮に盛り上りを見せた。
オルヘルスとグランツも立って出迎え、フィリベルト・ファン・デ・ヴァル・ユウェル国王陛下はこちらへ来ると、オルヘルスを見て微笑んだ。
「オリ、本当に大きくなって……」
そう言って瞳を潤ませると、そのうしろでエリ女王が囁く。
「フィル! それはいいから早く座ってちょうだい! 感動の再会はあとでよ!!」
「そ、そうか、そうだったな」
フィリベルト国王が慌てて席に着くと、愛馬会の進行をしているハールマン伯爵が大きな声で言った。
「では、これから最終審査に入る!」
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