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第百六十七話 誕生会

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 ファニーはムスカリとアウルスの前まで行くと、アルメリアをその二人に託し、恭しくお辞儀をして端の方へ下がっていった。
 アルメリアはアウルスとムスカリの間に立つと、みんなの方へ向きなおる。その間もずっと拍手と祝福の言葉が続いており、最初は困惑していたアルメリアも状況がわかるにつれ感謝の気持ちで一杯になった。

 しばらくするとやっと拍手が鳴り止み、みんながアルメリアに注目した。

「今日はわたくしのために遠方からわざわざお集まりいただき、ありがとうございます。みなさんから祝福されて……」

 ここまで言って、アルメリアは泣きそうになる。アウルスとムスカリがアルメリアの背中を優しく撫でた。

 すると、エドガーが叫んだ。

「当然のことをしているまでです! お嬢様のお陰で今の生活ができているんですから、お嬢様には感謝しかありません!」

 次いでトニーが言った。

「感謝の気持ちをいつかちゃんと伝えたいと思ってました!」

 それを聞いてヘンリーもアルメリアに声をかける。

「お嬢ちゃんは大したもんだ、俺だってお嬢ちゃんに会って人生がかわった、ありがとう!」

 それを皮切りに一斉にその場にいるものたちが、感謝の言葉を口々にする。

 アルメリアはその言葉になんとか答える。

「みんな、本当にありがとう」

 すると、ムスカリがアルメリアの肩に手を乗せて言った。

「これが君が大切に守ってきたものたちだ。今日こられずここにいないものたちもいる。彼らは誕生会に出られないことを悔しがっていたよ。見てごらんこれだけ大勢の人間を君は救ってきたんだ。胸を張るといい」

 ムスカリはそう言うとみんなに向き直った。

「今日は無礼講だ、アルメリアの誕生日を祝おう!」

 その言葉に、集まったものたちは一斉に歓声を上げアルメリアを取り囲むと、次々に感謝を述べた。アルメリアは丁寧に一人一人の手をとりそれに答えた。

 その中にはエミリーもいた。

「クンシラン公爵令嬢、わたくし父から聞きました、フィルブライト公爵家を、わたくしを救ってくださったと。お茶会であんなことをしてしまいましたのに、本当にありがとうございます」

「当然のことですわ。教皇のやろうとしたことは許されることではありませんもの」

 そう言うとエミリーは悲しそうに微笑んだ。

「いいえ、簡単にできることではありませんわ」

 そして、膝をついて頭を下げた。

「かつてお茶会でわたくしは他の令嬢を利用して貴女を貶めようとしました、そんなわたくしが、貴女の素晴らしき良き日に出席することは許されないこととわかっていますわ。でもとにかくお礼と謝罪をしたくて無理に参加させてもらいました。許してもらうつもりはありません。それほど酷いことをしたのですもの」

「エミリー、そんな……。とにかく立ってちょうだい」

 エミリーはアルメリアにそう言われても頭を下げたままでいった。

わたくしは謝ることができる場があっただけでも感謝しなければなりませんわ。それぐらいのことをしてしまったのですから」

 そう言ってエミリーは更に頭を下げると言った。

「これ以上わたくしの存在がクンシラン公爵令嬢の気分を害してはいけません。これでわたくしは失礼いたします。クンシラン公爵令嬢、本当にありがとうございました」

 エミリーはさっと立ち上がり微笑むと、もう一度頭を下げ会場から去っていった。

 その背中を見つめていると、そばに立っていたムスカリがアルメリアの肩に手を置いて言った。

「アルメリア、君は優しいから同情してしまいそうになるかもしれないが、情けをかけるべきではない。彼女のやったことは、簡単に許されることではないからな。それに許してしまったら、彼女は罪を償う場を失うことにもなる。わかっているね?」

 アルメリアは無言で頷いた。直後背後から声がした。

「アンジー!」

 振り向くとキャサリンが立っていた。

「キャサリン! きてくれましたのね!」

 すると、キャサリンはさっと目を反らす。

「だって、誕生日ぐらい祝いたいっていうか……。あっ! そうだった。クインシー家でお世話になってるメイド長がアンジーに会いたいって言うから連れてきたよ!」

 そう言うと、キャサリンはアルメリアに耳打ちする。

「超恐いから、アンジーからも私がいつも頑張ってるって言っといて」

 改めてキャサリンを可愛く思いながら、アルメリアはキャサリンの背後に立っているメイド長に微笑む。

「はじめまして、よくいらしてくださいました」

「はじめまして、クインシー家のメイド長をしておりますミンチンと申します。クンシラン公爵令嬢のことはキャサリンからも良く話を聞いております」

「そうなんですの、あの子のことを宜しくお願いしますわ。とってもいい子なんですの」

 ミンチンは後ろで所在なくキョロキョロしているキャサリンをチラリと見ると優しく微笑む。

「十分わかっております。ところで、キャサリンに頼んで、失礼を承知でこちらに押し掛けたのには理由があります。一度クインシー男爵とお会いになっていただけないでしょうか」

 突然言われた内容に、アルメリアは驚きを隠せずその真意をさぐるようにミンチンの顔を見つめた。
 ミンチンは申し訳なさそうに言った。

「戸惑うお気持ちはわかります。ですが、旦那様も方法を選んでいられない状況なのです」

 アルメリアはミンチンの切羽詰まった様子に、ただ事ではないと思い話を詳しく聞くためにテラスへ誘った。

 テラスに出ると、ミンチンはすぐに話し始めた。

「ダチュラお嬢様について旦那様もお考えがあるものの、今では平然とお屋敷に教会のものたちが出入りし、周囲を教会のものが取り囲んでいて誰にも相談できない状況です。これではクインシー家は教会に乗っ取られてしまうでしょう」

「それでキャサリンの話を聞いてこちらへ?」

「そうです。あの子は本当にわたくしどもの救世主ですわ。純粋で無邪気で暗くなっていた屋敷内の使用人たちが、あの子のお陰で明るくなりました」

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