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「お父様、違うのです! それは私がアリエルお姉様からもらったものなのです!」
もちろんアリエルがアラベルに自分のものをプレゼントしたことはない。思わずアリエルは言い返す。
「お父様からプレゼントされた物をアラベルにプレゼントするわけがありませんわ」
するとフィリップが振り向いてアリエルに言った。
「アリエル、大丈夫だ。それは私もわかっている」
それだけ言うとフィリップはベルトラードに向き直った。
「以上のことから、姉のアリエルが物を盗るなんてことをする娘ではないことを私は証言いたします」
そう断言すると下がっていった。
その時、広間の扉が大きな音をたてて開いたかと思うと、そこからオパールが部屋へ入ってきた。
「お姉様ー!!」
そう叫びアリエルに駆け寄り抱きつく。
「お姉様を侮辱するなんて許せませんわ! 心優しいお姉様が窃盗なんてするはずがありません!!」
興奮気味にそう叫ぶオパールに向かって兵士に取り押さえられながらアラベルが訴える。
「ハイライン公爵令嬢、よかったですわ! ハイライン公爵令嬢も騙されているのです。ハイライン公爵令嬢には以前お話ししましたけれど、舞踏会の時に……」
話を遮り、オパールはアラベルを扇子で追い払うような仕草をすると言った。
「貴女が言いたいのはあのことですわよね。お姉様が私に舞踏会でぶつかった件」
「そうですわ! アリエルお姉様はわざとぶつかり、知り合いになることでハイライン公爵令嬢を利用していただけなのです!」
オパールは大きくため息をつくと呆れたように言った。
「それ、逆なんですの」
「は?」
「だから逆だと言ってますの。私がお姉様とお近づきになるために飲み物をお姉様のドレスにかけましたの。当日お姉様の替えのドレスも準備してましたし、それを証言できるものはいくらでもいましてよ?」
アラベルは悲しそうな顔をすると、涙を溜めて訴える。
「そんな、なぜアリエルお姉様をそこまでして庇いますの?」
するとオパールは不機嫌そうに答える。
「貴女、もしかして私が嘘を言っているとでも?」
「そんなことは言っていません。ただ私はハイライン公爵令嬢のためを思って……」
そこで今まで黙っていたエルヴェが口を開いた。
「嘘を言うな、アラベル。君は自分のことしか考えていない。だから次から次にそうやって人を傷つけるような嘘を何も考えずに言えるのだろう?」
アラベルはエルヴェに泣きながら訴える。
「殿下まで酷いですわ! 私が嘘をついていると言うなら、夜中にアリエルお姉様が『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』をチェストに隠したと証言したことも嘘だと仰るのですか?」
「そうだ」
するとアラベルは驚きエルヴェを睨みつけると言った。
「ならば、ならばなぜ私に『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』を預けたのですか? 信用してくださったからではないのですか?! それに現に私はアリエルお姉様が『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』をチェストに隠すのを見たのですよ?」
エルヴェはそれを聞いて声を出して笑った。
「君にそれを渡したのは、それが『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』の偽物だからだ」
アラベルは驚いて抱えていた『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』を不思議そうに見つめる。
「わからないのか? 君たちの計画を私はすべて知っていたということだ。だから『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』は偽物とすり替えておくことができた。それに、アリエルがやっていないことを証明するのは容易だ。なんたってアリエルは昨晩王宮で過ごしたのだからね」
アラベルは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をすると、振り向いてフィリップとベルタを見つめて言った。
「だってお父様、アリエルお姉様は部屋にこもっているって……」
「すまないアラベル。王太子殿下より、お前にアリエルの居場所を教えないように命令されていた」
するとアラベルは気を取り直したようにベルトラードへ向き直る。
「では夜中に抜け出したのですわ!」
ベルトラードは鼻で笑った。
「アラベル、それは無理ねぇ。私何度か夜中にアリエルの顔を見に寝室へ行っているのよ。アリエルは疲れてよく寝ていたわ。それに王宮の警備をすり抜けて誰にも気づかれずに外へ行って戻るなんて現実的に不可能な話ねぇ」
アラベルが黙り込むと、そこへエルヴェは追い打ちをかけた。
「だから言ったろう、この計画は事前にすべて知っていたと。窃盗の犯人も何もかもね」
そう言うと、ゆっくりと歩き出しある人物の前で立ち止まった。そして、その人物へ微笑みかける。
「大胆なことをしたねシャティヨン。君に買収されたメイドが事前に計画をすべて喋ってくれたよ。君がアラベルと組んでいたことも『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』を盗んだこともね」
すると、シャティヨン伯爵は顔面蒼白で今にも倒れそうにブルブルと震えだし、ついに膝から崩れ落ちた。そして、床に頭をこすりつけんばかりに頭を下げる。
「申し訳ありませんでした。私はどうかしていたのです。どのような処罰も受け入れるつもりです」
それを見ていたアラベルが泣きながら言った。
「殿下、実は私シャティヨン伯爵に脅されて嘘をついたのです。アリエルお姉様のことを証言しなければ両親の命はないと……」
エルヴェはゆっくりアラベルの方へ振り返る。
「まだ君は嘘をつくのか? すべてわかっていると言ったはずだ。今度の主犯は君なのだろう? シャティヨンを言いくるめて操り今回の計画を企てた」
「そんな、そんなことを私がしたとして何になると言いますの?」
「もちろん、姉であるアリエルを気に入らず陥れたかったからだろう? 君は物心ついた時からアリエルを疎ましく思い、同じ顔をしたアリエルを憎んですらいた。だから、まるで遊びの延長線のようにアリエルを陥れ苦しむのを見て楽しんだ」
するとアラベルは床に突っ伏して泣きはじめた。だが、それでもエルヴェは容赦なく言い放つ。
「今さらそのように泣いたとしても、その罪から逃れられると思うな」
アラベルはエルヴェに対してなんの反応もせずに、ずっと泣き続けている。そこでフィリップがアラベルに言った。
「アラベル、いつまでそうしている気だ、お前は自分のしたことをわかっているのか? 恥を知りなさい! 自分のやったことに対して責任をとらなければならないんだぞ?」
そう言われてもしばらく突っ伏していたアラベルは、突然顔を上げた。
その顔を見てその場にいた全員が驚いてアラベルを見つめた。なぜなら泣いていたと思っていたアラベルが満面の笑みを浮かべ笑っていたからだ。
アラベルはそんな周囲からの視線をものともせず、大声を出して笑いだしたかと思うと今度は突然無表情になって言った。
「そう、なんだもう全部バレていますのね? ならばもういろいろと隠す必要はありませんわね。そのとおりです。ほとんど殿下の仰るとおりですわ。でも殿下は少しだけ間違っています」
そう言うとアラベルはアリエルをじっと見据えて言った。
「私は姉を憎んでなどおりません。その逆で、この場にいる誰よりも姉を愛しているでしょう。姉を深く愛しているからこそ、いつでも私だけを見て私だけのものでいてほしかった。誰にも渡したくなかった。だから自分のものだけにするために、この手で苦しめその命を奪いたかった」
エルヴェは嫌悪を隠さず、軽蔑した眼差しでアラベルを見つめて言った。
「ひとつだけ疑問がある。君はアリエルのそばに息のかかったメイドをつけていた。そのメイドに、オパールを排除するよう命じたね。山小屋で馬にわざと針を刺してオパールに馬をけしかけたことも私は知っているんだ。たが、なぜアリエルを狙うのではなくオパールを狙った?」
その質問にアラベルはオパールを冷たい眼差しで見つめると答えた。
「殿下、わからないのですか? 姉につきまとうオパールが邪魔だったからです。本当にこの女、現れた時からずっと目障りでしたわ」
吐き捨てるようにそう言ったあと、アラベルはアリエルに向き直り目を見開いて笑いかける。
「優しいアリエルお姉様。どこまでも人を信じて疑わないアリエルお姉様。自分を犠牲にしてでもいつも私を庇う、そんな品行方正なアリエルお姉様。それがいつからか、私に憎悪の目を向けるようになって、とてもゾクゾクしましたわ。なにがアリエルお姉様を変えたんですの?」
嬉々としてそう語るアラベルの瞳は、吸い込まれそうな漆黒でアリエルはゾッとして身震いした。
もちろんアリエルがアラベルに自分のものをプレゼントしたことはない。思わずアリエルは言い返す。
「お父様からプレゼントされた物をアラベルにプレゼントするわけがありませんわ」
するとフィリップが振り向いてアリエルに言った。
「アリエル、大丈夫だ。それは私もわかっている」
それだけ言うとフィリップはベルトラードに向き直った。
「以上のことから、姉のアリエルが物を盗るなんてことをする娘ではないことを私は証言いたします」
そう断言すると下がっていった。
その時、広間の扉が大きな音をたてて開いたかと思うと、そこからオパールが部屋へ入ってきた。
「お姉様ー!!」
そう叫びアリエルに駆け寄り抱きつく。
「お姉様を侮辱するなんて許せませんわ! 心優しいお姉様が窃盗なんてするはずがありません!!」
興奮気味にそう叫ぶオパールに向かって兵士に取り押さえられながらアラベルが訴える。
「ハイライン公爵令嬢、よかったですわ! ハイライン公爵令嬢も騙されているのです。ハイライン公爵令嬢には以前お話ししましたけれど、舞踏会の時に……」
話を遮り、オパールはアラベルを扇子で追い払うような仕草をすると言った。
「貴女が言いたいのはあのことですわよね。お姉様が私に舞踏会でぶつかった件」
「そうですわ! アリエルお姉様はわざとぶつかり、知り合いになることでハイライン公爵令嬢を利用していただけなのです!」
オパールは大きくため息をつくと呆れたように言った。
「それ、逆なんですの」
「は?」
「だから逆だと言ってますの。私がお姉様とお近づきになるために飲み物をお姉様のドレスにかけましたの。当日お姉様の替えのドレスも準備してましたし、それを証言できるものはいくらでもいましてよ?」
アラベルは悲しそうな顔をすると、涙を溜めて訴える。
「そんな、なぜアリエルお姉様をそこまでして庇いますの?」
するとオパールは不機嫌そうに答える。
「貴女、もしかして私が嘘を言っているとでも?」
「そんなことは言っていません。ただ私はハイライン公爵令嬢のためを思って……」
そこで今まで黙っていたエルヴェが口を開いた。
「嘘を言うな、アラベル。君は自分のことしか考えていない。だから次から次にそうやって人を傷つけるような嘘を何も考えずに言えるのだろう?」
アラベルはエルヴェに泣きながら訴える。
「殿下まで酷いですわ! 私が嘘をついていると言うなら、夜中にアリエルお姉様が『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』をチェストに隠したと証言したことも嘘だと仰るのですか?」
「そうだ」
するとアラベルは驚きエルヴェを睨みつけると言った。
「ならば、ならばなぜ私に『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』を預けたのですか? 信用してくださったからではないのですか?! それに現に私はアリエルお姉様が『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』をチェストに隠すのを見たのですよ?」
エルヴェはそれを聞いて声を出して笑った。
「君にそれを渡したのは、それが『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』の偽物だからだ」
アラベルは驚いて抱えていた『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』を不思議そうに見つめる。
「わからないのか? 君たちの計画を私はすべて知っていたということだ。だから『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』は偽物とすり替えておくことができた。それに、アリエルがやっていないことを証明するのは容易だ。なんたってアリエルは昨晩王宮で過ごしたのだからね」
アラベルは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をすると、振り向いてフィリップとベルタを見つめて言った。
「だってお父様、アリエルお姉様は部屋にこもっているって……」
「すまないアラベル。王太子殿下より、お前にアリエルの居場所を教えないように命令されていた」
するとアラベルは気を取り直したようにベルトラードへ向き直る。
「では夜中に抜け出したのですわ!」
ベルトラードは鼻で笑った。
「アラベル、それは無理ねぇ。私何度か夜中にアリエルの顔を見に寝室へ行っているのよ。アリエルは疲れてよく寝ていたわ。それに王宮の警備をすり抜けて誰にも気づかれずに外へ行って戻るなんて現実的に不可能な話ねぇ」
アラベルが黙り込むと、そこへエルヴェは追い打ちをかけた。
「だから言ったろう、この計画は事前にすべて知っていたと。窃盗の犯人も何もかもね」
そう言うと、ゆっくりと歩き出しある人物の前で立ち止まった。そして、その人物へ微笑みかける。
「大胆なことをしたねシャティヨン。君に買収されたメイドが事前に計画をすべて喋ってくれたよ。君がアラベルと組んでいたことも『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』を盗んだこともね」
すると、シャティヨン伯爵は顔面蒼白で今にも倒れそうにブルブルと震えだし、ついに膝から崩れ落ちた。そして、床に頭をこすりつけんばかりに頭を下げる。
「申し訳ありませんでした。私はどうかしていたのです。どのような処罰も受け入れるつもりです」
それを見ていたアラベルが泣きながら言った。
「殿下、実は私シャティヨン伯爵に脅されて嘘をついたのです。アリエルお姉様のことを証言しなければ両親の命はないと……」
エルヴェはゆっくりアラベルの方へ振り返る。
「まだ君は嘘をつくのか? すべてわかっていると言ったはずだ。今度の主犯は君なのだろう? シャティヨンを言いくるめて操り今回の計画を企てた」
「そんな、そんなことを私がしたとして何になると言いますの?」
「もちろん、姉であるアリエルを気に入らず陥れたかったからだろう? 君は物心ついた時からアリエルを疎ましく思い、同じ顔をしたアリエルを憎んですらいた。だから、まるで遊びの延長線のようにアリエルを陥れ苦しむのを見て楽しんだ」
するとアラベルは床に突っ伏して泣きはじめた。だが、それでもエルヴェは容赦なく言い放つ。
「今さらそのように泣いたとしても、その罪から逃れられると思うな」
アラベルはエルヴェに対してなんの反応もせずに、ずっと泣き続けている。そこでフィリップがアラベルに言った。
「アラベル、いつまでそうしている気だ、お前は自分のしたことをわかっているのか? 恥を知りなさい! 自分のやったことに対して責任をとらなければならないんだぞ?」
そう言われてもしばらく突っ伏していたアラベルは、突然顔を上げた。
その顔を見てその場にいた全員が驚いてアラベルを見つめた。なぜなら泣いていたと思っていたアラベルが満面の笑みを浮かべ笑っていたからだ。
アラベルはそんな周囲からの視線をものともせず、大声を出して笑いだしたかと思うと今度は突然無表情になって言った。
「そう、なんだもう全部バレていますのね? ならばもういろいろと隠す必要はありませんわね。そのとおりです。ほとんど殿下の仰るとおりですわ。でも殿下は少しだけ間違っています」
そう言うとアラベルはアリエルをじっと見据えて言った。
「私は姉を憎んでなどおりません。その逆で、この場にいる誰よりも姉を愛しているでしょう。姉を深く愛しているからこそ、いつでも私だけを見て私だけのものでいてほしかった。誰にも渡したくなかった。だから自分のものだけにするために、この手で苦しめその命を奪いたかった」
エルヴェは嫌悪を隠さず、軽蔑した眼差しでアラベルを見つめて言った。
「ひとつだけ疑問がある。君はアリエルのそばに息のかかったメイドをつけていた。そのメイドに、オパールを排除するよう命じたね。山小屋で馬にわざと針を刺してオパールに馬をけしかけたことも私は知っているんだ。たが、なぜアリエルを狙うのではなくオパールを狙った?」
その質問にアラベルはオパールを冷たい眼差しで見つめると答えた。
「殿下、わからないのですか? 姉につきまとうオパールが邪魔だったからです。本当にこの女、現れた時からずっと目障りでしたわ」
吐き捨てるようにそう言ったあと、アラベルはアリエルに向き直り目を見開いて笑いかける。
「優しいアリエルお姉様。どこまでも人を信じて疑わないアリエルお姉様。自分を犠牲にしてでもいつも私を庇う、そんな品行方正なアリエルお姉様。それがいつからか、私に憎悪の目を向けるようになって、とてもゾクゾクしましたわ。なにがアリエルお姉様を変えたんですの?」
嬉々としてそう語るアラベルの瞳は、吸い込まれそうな漆黒でアリエルはゾッとして身震いした。
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