私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ

みゅー

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 アレクサンドラ・デュカス公爵令嬢は今日の舞踏会を心待ちにしていた。

 シルヴァン・リュカ・フォートレル・アヴニール王太子殿下の婚約者として選ばれるだろうと予感していたからだ。

 そうして期待に胸を弾ませながら弟のエクトルにエスコートされ会場に着くと、他の貴族たちと軽く挨拶を交わし、舞踏会を楽しんだ。

 何人かからダンスを申し込まれ、それを軽く受け流していると、予想通りシルヴァンに声をかけられた。

「アレクサンドラ、少し話がある」

 アレクサンドラは舞い上がり、心を躍らせながらシルヴァンの後ろについてバルコニーへ出た。シルヴァンはそんなアレクサンドラの方を見向きもせず、そっけなく命令するように言った。

「僕と婚約してほしい。これは僕らの運命だ。違えるつもりはないから従ってくれ」

 理想とは程遠いプロポーズだったが、それでも、やっと王太子殿下の婚約者の座を手にできるとアレクサンドラは喜んだ。

 その気持ちをシルヴァンに伝えようと口を開いたとたん、シルヴァンがそれを遮り、鬱陶しそうな顔をする。

「君が断らないことはわかっている。これからのことは大臣たちに任せてあるから、君はそれに従っていればいい」

 シルヴァンはそれだけ言うと、アレクサンドラをその場に残して会場へ戻って行った。

 こうしてアレクサンドラの王太子殿下の婚約者としての生活が始まったが、それは夢に描いた理想とはほど遠かった。

 それは、婚約の契約書に調印したときに一度顔を合わせただけで、その後シルヴァンと半年以上会うことがなかったからだ。

 おまけに社交界では、シルヴァンが本当に愛しているのはアリス・ル・シャトリエ侯爵令嬢であり、アレクサンドラとは政治的に仕方なく婚約したという噂が流れた。

 その証拠に、アリスとシルヴァンが仲睦まじくしている姿が何度か目撃されたという噂も耳にした。

 アレクサンドラはそんな噂に不安な毎日を過ごしていたものの、シルヴァンと婚約しているのはわたくし。大丈夫だと自分に言い聞かせた。

 その頃、辺境の町トゥルーシュタットでオディロン協会という労働組織を率いるディという人物が、農民や商人たちを引き込み反乱を起こしたという一報が入る。

 貴族たちは自分たちに害をなすのではないかと恐怖し、その鎮圧に躍起になっていった。

 そんなとき、アレクサンドラの乗った馬車が賊に囲まれた。

 野盗かと思い、金品を差し出すアレクサンドラに対し、彼らはそれを断ると自分たちはオディロン協会の者だと名乗った。

 そして暴力的なことはせず、話し合いで問題を解決したいと言い、そのテーブルに国王を引っ張り出すためにも人質になってもらうとアレクサンドラに説明した。

 こうしてアレクサンドラは彼らの人質となった。

 暗く狭い地下牢に閉じ込められ、アレクサンドラはいつか必ずシルヴァンが迎えに来てくれることを祈りながら、その時を待った。

 日の差さない真っ暗な地下牢で、朝か夜かもわからなくなるぐらいそうして過ごしていたとき、遠くで話している反乱軍たちの会話が耳に入った。

「ディ、いつこっちに? どうやってここが?!」

「そんなことはどうでもいい! 貴族令嬢を誘拐したというのは本当か?」

「あぁ、しかもシルヴァンの婚約者だ」

「なんてことを……。だがやってしまったことは仕方ない。対策を考えなければ。それで、王宮はなんと?」

「それがなぁ、勝手にしろってよ。王宮はあの令嬢を見捨てたってことだな」

 その言葉にアレクサンドラはショックを受け、打ちひしがれた。シルヴァンはアレクサンドラを見捨てたのだ。

 それでも、シルヴァンにはなにか意図があるのかもしれないと期待し、二人の会話の続きに耳をそばだてた。

「なんだって?! 王宮は今、私と交渉中なのに、そんなことを言うなんて思えないが。だが、そういうことなら、その令嬢はもう用済みだ。逃がしてやれ」

「なに言ってんだよ、ディ! 生かしておいたら俺らの立場が危いぜ」

「いいか、よく聞けカジム。まだ今のところは貴族たちもビビってるだけで、本格的に我々を排除しようという動きはない。だが、貴族令嬢を殺したとなったら話は別だ。貴族に害をなすものとして、本格的に討伐に乗り出しかねないんだぞ?!」

「だけどよぉ、ここまで来たら生かしちゃおけないだろう?」

「バカな、今の我々では貴族たちに太刀打ちできない。いいか、とにかくその令嬢を屋敷の前にでも放り出しておけ」

 そう言い残すと、ディはその場を去って行ったようだった。

 アレクサンドラはとにかく自分が解放されることに喜び、安堵していた。

 生きてさえいれば、シルヴァンに捨てられたことなどなんということはないではないかと、そう思った。

 ところが直後に地下牢の前までやってきたカジムは、牢屋の中に入り込むと扉を閉め、アレクサンドラを見下ろしてこう言った。

「まさかディのやつがお前を逃がせって言うなんてな、計算違いだったぜ。ああ言えば、お前を消せって言うと思ったんだがなぁ」

「でも、あのディって人物はわたくしを逃がすことに決めたんですから、早くわたくしを解放しなさい!」

「残念だが、俺の本当の雇い主はディじゃねえ。俺の本当の雇い主はお前を邪魔に思ってるみたいでなぁ。悪いが死んでもらう」

 アレクサンドラは恐怖し、目を見開いてカジムを見つめた。そんなアレクサンドラに対し、やらしい笑みを向けると、カジムはゆっくりこちらに手を伸ばす。

「さて、殺す前に少しお楽しみのお時間だ。これも依頼主の希望でな、なんだか知らんが屈辱的な目に合わせてから殺せと」

 アレクサンドラはカジムの手を振り払うと、カジムを睨みながら言った。

わたくしを殺せばどうなるかわかっているの?!」

「あぁ、もちろんさ。だが、俺にはディや王宮がどうなろうが知ったこっちゃないんでね。この組織を潰すのも目的に含まれているからな」

 そう答えると、アレクサンドラのドレスをつかみ引き裂いた。アレクサンドラは悲鳴を上げ、牢屋の角に逃げ、恐怖で身体を震わせる。

 カジムはその様子を楽しそうに見つめ、舌なめずりすると思い出したように言った。

「そうそう、あと依頼者から一つお前さんに伝言だ。一言一句違えずに伝えるからよ~く聞けよ。『私は運命の女性に出会った、お前はもう用済みだ』だとさ」

 それを聞いてアレクサンドラは、自分の殺害を依頼した人物がシルヴァンだと確信した。

 その瞬間、アレクサンドラは鮮明に前世の記憶を思い出す。

 そして、この世界が前世で最後に読んだ小説の世界だと気づき、シルヴァンと婚約するのは自分ではなくアリスだったことを思い出す。

 そもそも、自分とシルヴァンが婚約したという運命が間違っていたのだ。

 だが、今さらそれに気づいても仕方がない。

 いやらしい笑みを浮かべながら、カジムは楽しむようにアレクサンドラにじり寄る。

 もう逃げられない。

 そう思った瞬間、着けていた腕輪が光り輝き、辺りを包むとアレクサンドラは意識を失った
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