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「とんでもないことでございます。私はただ、自分では殿下に相応しくないと申し上げただけですわ」
「それは遠回しに断っているのとなにが違うんだ? まぁいい。別に君を責めるつもりはないと言っただろう?」
アレクサンドラはシルヴァンがなにを考えているのかわからず、困惑してうつむいた。
シルヴァンはそんなアレクサンドラに構わず、話を続ける。
「今日は君たちがここモイズでやっていることについて、話を聞きに来た」
なにか企んでいると思われている?!
そう思ったアレクサンドラは素早く顔を上げ、シルヴァンに言った。
「殿下、なにか誤解があるようですわ。私たち、なにも怪しいことはしておりません。調査が終わり次第、お父様にもすべて報告するつもりでしたの」
「疑ってなんていない。ただ、面白そうなことをやっていると思ってね。とりあえず、立ち話するような内容ではないな。どこか部屋へ案内してくれないか?」
そう言ってシルヴァンが手を差し出したが、アレクサンドラはその手を取らなかった。彼には触れたくもないと思ったからだ。
「私は今日、山へ行っておりました。今帰ったところで、手がとても汚れています。ですから触れない方がよろしいでしょう。では、客間へご案内しますわ」
そう言って背を向け、歩き出した。
シルヴァンを客間へ通すと、ロザリーが持ってきたおしぼりで手を拭ってから、彼の向かいに座った。
「こんな格好で失礼しますわ。それで、私たちの計画について、なにを話せばよろしいのでしょうか」
「そうだね、君たちが作ろうとしている“ダム”というものについて説明してもらおう」
シルヴァンがそこまで知っていることに驚きながらも、特に隠すこともないのでアレクサンドラは最初からことの経緯を説明した。
後ろ暗いところなどないのに、なにか隠せばそれを口実に何をされるかわかったものではないと思っていた。
「なるほど。モイズとトゥルーシュタットに注ぐ川にそのダムを建設すれば、灌漑や洪水の問題が解決するというわけか」
「はい、その通りですわ」
するとシルヴァンは部屋の中を見回した。
「殿下、なにかお探しものですか? お茶のおかわりなら新しいものをお淹れしますわ」
そう言ってドアの前に立っているセバスチャンに声をかけようとしたアレクサンドラを、シルヴァンが止めて言った。
「違うんだ。最初に来たときも思ったんだが、この屋敷内の調度品がずいぶん少ないなと。この客間にせよ、花瓶一つ置かれていなければ、絵も飾られていない」
「気づきませんでした。こんな粗末な場所へお招きして、大変申し訳ありません」
「責めているわけではない。それらを売って資金にしているのだろう?」
アレクサンドラは、シルヴァンがなにを言わんとしているのかわからず戸惑った。
「確かにそうですわ。それがなにか?」
「それに、これだけのものを建設するのだから、もっと資金が必要なはずだ。違うか?」
「えぇ、ですから、これからお父様に相談するつもりですの」
するとシルヴァンは頷いて言った。
「その資金、僕が出しても構わない」
「え? なぜ殿下が?」
「これは一大事業だ。うまくいけば国益になるだろう。ならば投資するのは当然のことだ。先ほど君から受けた説明を聞いて、僕はこれは必要なことだと確信した」
「そうですか。そのお申し出はとてもありがたいですわ。でもまだ調査の段階ですし、そう上手く行くか……」
「大丈夫。僕もこの計画に参加するつもりでいる」
はぁ? なに言ってんの?! 嫌に決まってるじゃない!!
という言葉を飲み込み、なんとか作り笑顔を向けた。
「わざわざ参加なさらなくとも、随時ご報告申し上げますわ。殿下もお忙しいでしょうし、こちらのことはお任せください」
そう答えると立ち上がり、話を終えようとした。だが、シルヴァンに腕をつかまれ引き止められる。
「僕が参加するとなにか困ることが?」
アレクサンドラは引きつった笑顔で答えた。
「そんなことありませんわ。私は殿下を煩わせたくなくて……」
「では決まりだな」
そう言ってつかんでいたアレクサンドラの手を放すと、腕を組んで満足そうに言った。
「今日からここで世話になる。もちろん自分のものは自分で用意するから心配はいらない。部屋だけ貸してもらう」
アレクサンドラは慌ててシルヴァンに向き直る。
「なにを仰ってますの? えっと……そうではなくて、この屋敷はご覧の通りなにもない屋敷ですし」
「だから、部屋だけ貸してくれればそれでいいと言っている」
「ですが」
「それとも、やはりなにか隠したいことでも?」
シルヴァンはそう言ってにっこりと笑った。
「あ、ありませんわそんなもの」
「だったら決まりだな。まだ他に問題が?」
「い、いいえ。わかりましたわ」
がっかりしながらそう答えるアレクサンドラに、シルヴァンは尋ねた。
「ところで、ダムを作ろうと考えたのは君なのだろう?」
「それは、はい」
「素晴らしいな。よくこんなことを考えつくものだ」
「いえ、どこかで読んだ本に書いてあったんですの。それよりも、ダヴィドが建築家としてすばらしい才能を持っているのでこの計画が成り立つようなもので、私はなにも」
「そんなことはない。それに、毎日山へ行って一緒に調査をするなんて、なかなかできることではない」
それを聞いて、アレクサンドラは急にシルヴァンの態度が変わった理由を悟った。アレクサンドラが“利益をもたらす存在”だと気づいたからだろう。
内心うんざりする。そんな理由でここにいるのなら、山へ連れて行って引っ張り回し、ダヴィドたちと一緒に食事を取らせれば、すぐに音を上げて帰って行くだろうと考えた。
「殿下、これからみんなとダムの候補地について食事を取りながら話し合うことになっておりますの。それにも参加されますか?」
「もちろんだ」
「よかったですわ」
これで山へ連れて行く口実ができた。
アレクサンドラはそんなことを考えながら、早速シルヴァンとともに食堂へ向かった。
食堂へ着くと、ダヴィドたちがアレクサンドラを待っていた。
「お待たせ。これからは殿下もご一緒なさるそうよ。殿下、なにかみんなにこの場で言っておくことはありますか?」
そう言ってシルヴァンを見つめると、彼はアレクサンドラを見つめ返し微笑む。
「その前に、ちょっといいかな」
そう言ってアレクサンドラに手を伸ばし、親指で頬についた汚れを指で拭き取った。
「これでよし」
そして、みんなの方へ向き直ると口を開いた。
「みんな、ここではあまり僕に気を使わず、いつも通りにしてほしい。ときには僕も余計なことを言うかもしれないが、このプロジェクトの中心にいるのは君たちだ。だから忌憚ない意見がほしい。僕からは以上だ」
「それは遠回しに断っているのとなにが違うんだ? まぁいい。別に君を責めるつもりはないと言っただろう?」
アレクサンドラはシルヴァンがなにを考えているのかわからず、困惑してうつむいた。
シルヴァンはそんなアレクサンドラに構わず、話を続ける。
「今日は君たちがここモイズでやっていることについて、話を聞きに来た」
なにか企んでいると思われている?!
そう思ったアレクサンドラは素早く顔を上げ、シルヴァンに言った。
「殿下、なにか誤解があるようですわ。私たち、なにも怪しいことはしておりません。調査が終わり次第、お父様にもすべて報告するつもりでしたの」
「疑ってなんていない。ただ、面白そうなことをやっていると思ってね。とりあえず、立ち話するような内容ではないな。どこか部屋へ案内してくれないか?」
そう言ってシルヴァンが手を差し出したが、アレクサンドラはその手を取らなかった。彼には触れたくもないと思ったからだ。
「私は今日、山へ行っておりました。今帰ったところで、手がとても汚れています。ですから触れない方がよろしいでしょう。では、客間へご案内しますわ」
そう言って背を向け、歩き出した。
シルヴァンを客間へ通すと、ロザリーが持ってきたおしぼりで手を拭ってから、彼の向かいに座った。
「こんな格好で失礼しますわ。それで、私たちの計画について、なにを話せばよろしいのでしょうか」
「そうだね、君たちが作ろうとしている“ダム”というものについて説明してもらおう」
シルヴァンがそこまで知っていることに驚きながらも、特に隠すこともないのでアレクサンドラは最初からことの経緯を説明した。
後ろ暗いところなどないのに、なにか隠せばそれを口実に何をされるかわかったものではないと思っていた。
「なるほど。モイズとトゥルーシュタットに注ぐ川にそのダムを建設すれば、灌漑や洪水の問題が解決するというわけか」
「はい、その通りですわ」
するとシルヴァンは部屋の中を見回した。
「殿下、なにかお探しものですか? お茶のおかわりなら新しいものをお淹れしますわ」
そう言ってドアの前に立っているセバスチャンに声をかけようとしたアレクサンドラを、シルヴァンが止めて言った。
「違うんだ。最初に来たときも思ったんだが、この屋敷内の調度品がずいぶん少ないなと。この客間にせよ、花瓶一つ置かれていなければ、絵も飾られていない」
「気づきませんでした。こんな粗末な場所へお招きして、大変申し訳ありません」
「責めているわけではない。それらを売って資金にしているのだろう?」
アレクサンドラは、シルヴァンがなにを言わんとしているのかわからず戸惑った。
「確かにそうですわ。それがなにか?」
「それに、これだけのものを建設するのだから、もっと資金が必要なはずだ。違うか?」
「えぇ、ですから、これからお父様に相談するつもりですの」
するとシルヴァンは頷いて言った。
「その資金、僕が出しても構わない」
「え? なぜ殿下が?」
「これは一大事業だ。うまくいけば国益になるだろう。ならば投資するのは当然のことだ。先ほど君から受けた説明を聞いて、僕はこれは必要なことだと確信した」
「そうですか。そのお申し出はとてもありがたいですわ。でもまだ調査の段階ですし、そう上手く行くか……」
「大丈夫。僕もこの計画に参加するつもりでいる」
はぁ? なに言ってんの?! 嫌に決まってるじゃない!!
という言葉を飲み込み、なんとか作り笑顔を向けた。
「わざわざ参加なさらなくとも、随時ご報告申し上げますわ。殿下もお忙しいでしょうし、こちらのことはお任せください」
そう答えると立ち上がり、話を終えようとした。だが、シルヴァンに腕をつかまれ引き止められる。
「僕が参加するとなにか困ることが?」
アレクサンドラは引きつった笑顔で答えた。
「そんなことありませんわ。私は殿下を煩わせたくなくて……」
「では決まりだな」
そう言ってつかんでいたアレクサンドラの手を放すと、腕を組んで満足そうに言った。
「今日からここで世話になる。もちろん自分のものは自分で用意するから心配はいらない。部屋だけ貸してもらう」
アレクサンドラは慌ててシルヴァンに向き直る。
「なにを仰ってますの? えっと……そうではなくて、この屋敷はご覧の通りなにもない屋敷ですし」
「だから、部屋だけ貸してくれればそれでいいと言っている」
「ですが」
「それとも、やはりなにか隠したいことでも?」
シルヴァンはそう言ってにっこりと笑った。
「あ、ありませんわそんなもの」
「だったら決まりだな。まだ他に問題が?」
「い、いいえ。わかりましたわ」
がっかりしながらそう答えるアレクサンドラに、シルヴァンは尋ねた。
「ところで、ダムを作ろうと考えたのは君なのだろう?」
「それは、はい」
「素晴らしいな。よくこんなことを考えつくものだ」
「いえ、どこかで読んだ本に書いてあったんですの。それよりも、ダヴィドが建築家としてすばらしい才能を持っているのでこの計画が成り立つようなもので、私はなにも」
「そんなことはない。それに、毎日山へ行って一緒に調査をするなんて、なかなかできることではない」
それを聞いて、アレクサンドラは急にシルヴァンの態度が変わった理由を悟った。アレクサンドラが“利益をもたらす存在”だと気づいたからだろう。
内心うんざりする。そんな理由でここにいるのなら、山へ連れて行って引っ張り回し、ダヴィドたちと一緒に食事を取らせれば、すぐに音を上げて帰って行くだろうと考えた。
「殿下、これからみんなとダムの候補地について食事を取りながら話し合うことになっておりますの。それにも参加されますか?」
「もちろんだ」
「よかったですわ」
これで山へ連れて行く口実ができた。
アレクサンドラはそんなことを考えながら、早速シルヴァンとともに食堂へ向かった。
食堂へ着くと、ダヴィドたちがアレクサンドラを待っていた。
「お待たせ。これからは殿下もご一緒なさるそうよ。殿下、なにかみんなにこの場で言っておくことはありますか?」
そう言ってシルヴァンを見つめると、彼はアレクサンドラを見つめ返し微笑む。
「その前に、ちょっといいかな」
そう言ってアレクサンドラに手を伸ばし、親指で頬についた汚れを指で拭き取った。
「これでよし」
そして、みんなの方へ向き直ると口を開いた。
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