裏切り者として死んで転生したら、私を憎んでいるはずの王太子殿下がなぜか優しくしてくるので、勘違いしないよう気を付けます

みゅー

文字の大きさ
18 / 48

18

しおりを挟む
 その宿は必要最低限の物しか置いていない小さく簡素な宿だったが、それでもべっどがあり手足を伸ばして寝られることはありがたいことだった。

 翡翠はすぐに割り当てられた部屋へ行きしばらくぼんやりした。

 こうしている間にも、きっとミリナはカーレルの部屋に行って会っているのだろう。そんなことを考え、二人が仲睦まじく過ごしているのを想像したりした。

「こんな不毛なこと考えるの、やめよう……」

 そう呟くと、エントランスに本があったのを思い出し、気晴らしに読むのも悪くないかもしれないと考え取りに行くことにした。

 リビングにいた宿の主人に、本を借りてもよいか尋ね許可をもらうとエントランスに向かった。と、そこでミリナに鉢合わせる。

「あれ? 翡翠? どこかへ行くの?」

「いいえ、エントランスに本が置いてあったのを思い出してそれで。ミリナ様は?」

「私? 私はほら、ちょっとカーレル殿下のところに」

 やっぱり、そうだよね……。

 翡翠はそう思いながら、なんとか微笑んだ。

「そうなんですか。本当に仲がよろしいですね」

 そう答え、ミリナの胸元に視線を止めた。なぜならミリナの着けているペンダントに見覚えがあったからだ。

「あの、ミリナ様? そのペンダント……」

 するとミリナは少し照れくさそうに微笑む。

「あれ? 気がついちゃった? そうなの、これカーレル殿下とお揃いなの!」

 それはどう見ても、ジェイドのペンダントだった。

「そのペンダントは一体どこで?」

「それがね、拾ったものなの。もちろん、持ち主を探したわよ? だけどみつからなくて、それで逆に着けておけば持ち主が気づくんじゃないかな? って思って」

「そうなんですか……」

 翡翠がそう答えると、ミリナはとても嬉しそうに言った。

「それでね、そうしたらカーレル殿下がお揃いのペンダントを着けてたの! それを見たとき、やっぱり私たち運命なんだ! って思っちゃった」

 それを聞いて翡翠はとてもショックを受けた。ジェイドだったころ、カーレルがこのペンダントを着けているところを一度も見たことがなかった。

 だが、あえてカーレルがそのペンダントを着けたということは、きっとミリナがこのペンダントを着けていることに気づいたからだろう。

 だとすると、きっとカーレルはミリナがイーコウ村で出会った女の子だと思っているに違いない。

 翡翠はその事実に打ちのめされた。

 嬉しそうにまだしゃべっているミリナに、落ち込んでいるのを悟られないよう、笑顔で適当に相槌を返しながら考える。

 楽しそうにペンダントのことやカーレルとのことを話し、カーレル自身も誤解している中で『そのペンダントは、ジェイドのものです。返してください』とは言えないと。

 ミリナが去っていったあと、翡翠はエントランスに行ったが本など読む気にならず、結局手ぶらで部屋に戻ると悲しみから無気力になり、寝ることもできずただひたすらぼんやりして過ごした。

 翌朝、朝食を食べない翡翠を心配して使用人が声をかけてきたので、少し風邪気味で食べられそうにないと伝えた。

 すぐに心配したカーレルが部屋へ訪ねてきたので、その優しさがつらいと思いながら言った。

「カーレル殿下、お気遣いありがとうございます。ですが、殿下に風邪を移すといけませんからあまり近づかない方がよろしいかと思います」

 翡翠はそう言って、ドア越しに馬車にも同乗しないことを伝えた。

 移動中の馬車の中でもミリナとの仲のよさを見るのはつらかったので、反対されてもなんとか説得しなければと思っていたが、カーレルはあっさりそれに同意した。

 きっとカーレル自身もミリナと二人きりになりたかったのだろう。

 こうしてミデノフィールドまでの移動中、翡翠はラファエロと同乗することになった。

 馬車に乗るとラファエロは翡翠の頭を優しくなでて言った。

「ミリナが同乗するかもしれないんだ、一緒に馬車に乗りたくないだろうな」

 そんなことを言われ、ラファエロは翡翠の気持ちには気づいているのかもしれないと思った。

 馬車に乗って間もなく、寝不足からか翡翠はすぐに眠りに落ちた。




 肩を揺さぶられて目が覚めると、自分がラファエロの肩にもたれかかって寝ていたことに気づき、慌てて体を起こした。

「ラファエロ様、すみません」

「いや、無防備で可愛い姿を見られたんだから役得だった」

 ラファエロはそう返すと歯を見せて笑った。

 窓の外を見ると、どこかの村に着いたようだった。

「もう、水晶谷の村に着いたのですか?」

「そうだ。それにしてもお前よく寝てたな。昨日しっかり眠れなかったのか?」

 そう聞かれた翡翠はとりあえず苦笑してごまかした。

 水晶谷の村は、近くに水晶谷という水晶の鉱脈がある谷がある。

 その谷には文字通りいたるところに水晶のクラスターがあり、とても美しい谷で観光地としても有名だった。

 翡翠は馬車を降りるときに思いきってラファエロにお願いする。

「あの、水晶の谷に行ってみたいのですが、連れて行ってもらえますか?」

 ラファエロは一瞬驚いた顔をしたあと、嬉しそうに微笑むと翡翠の手を取っていった。

「嬉しいお誘い喜んでお受け致しますお嬢様」

 そして恭しく翡翠の手の甲にキスをした。

 貴族たちの間では通常の挨拶かもしれないが、こんなことに慣れていない翡翠は恥ずかしくなり顔を赤くすると、フードの縁を引っ張り顔を隠す。

 ラファエロはそんな翡翠を愛おしそうに見つめると、翡翠の降車を手伝い手をつないで歩きだした。

「暗くなる前に行っておこう。明日は出発が早いからな」

 そう言うと、カークに声をかけてから水晶谷に向かった。

 水晶谷へは、村の裏手から数百メートル進んだところにある。ラファエロはゆっくり歩き翡翠の体調を気づかってくれた。

 その時背後から翡翠のなを叫ぶ声が聞こえ、二人とも振り返ると背後からファニーが走って追いかけてきているのが見えた。

 ラファエロはあからさまにがっかりした顔をした。

「なんだよ、せっかくのデートが台無しじゃないか」

「なにさぁ! 水晶谷に行くなら、僕に声をかけてくれたっていいじゃないか~!」

 ファニーは翡翠たちに追い付くと息を切らせながらそう言った。

「お前は空気を読め!」

 ラファエロかそう言うとファニーは嬉しそうに答える。

「うん、そう! 僕は空気を読んだから来たの! ほら、ほら、こんなところで話してる場合じゃないんじゃな~い? 早く行こうよぉ~」

 ファニーはそう言うと先陣を切って歩き始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

白い結婚のはずでしたが、理屈で抗った結果すべて自分で詰ませました

鷹 綾
恋愛
「完璧すぎて可愛げがない」 そう言われて王太子から婚約破棄された公爵令嬢ノエリア・ヴァンローゼ。 ――ですが本人は、わざとらしい嘘泣きで 「よ、よ、よ、よ……遊びでしたのね!」 と大騒ぎしつつ、内心は完全に平常運転。 むしろ彼女の目的はただ一つ。 面倒な恋愛も政治的干渉も避け、平穏に生きること。 そのために選んだのは、冷徹で有能な公爵ヴァルデリオとの 「白い結婚」という、完璧に合理的な契約でした。 ――のはずが。 純潔アピール(本人は無自覚)、 排他的な“管理”(本人は合理的判断)、 堂々とした立ち振る舞い(本人は通常運転)。 すべてが「戦略」に見えてしまい、 気づけば周囲は完全包囲。 逃げ道は一つずつ消滅していきます。 本人だけが最後まで言い張ります。 「これは恋ではありませんわ。事故ですの!」 理屈で抗い、理屈で自滅し、 最終的に理屈ごと恋に敗北する―― 無自覚戦略無双ヒロインの、 白い結婚(予定)ラブコメディ。 婚約破棄ざまぁ × コメディ強め × 溺愛必至。 最後に負けるのは、世界ではなく――ヒロイン自身です。 -

当て馬令嬢は自由を謳歌したい〜冷酷王子への愛をゴミ箱に捨てて隣国へ脱走したら、なぜか奈落の底まで追いかけられそうです〜

平山和人
恋愛
公爵令嬢エルナは、熱烈に追いかけていた第一王子シオンに冷たくあしらわれ、挙句の果てに「婚約者候補の中で、お前が一番あり得ない」と吐き捨てられた衝撃で前世の記憶を取り戻す。 そこは乙女ゲームの世界で、エルナは婚約者選別会でヒロインに嫌がらせをした末に処刑される悪役令嬢だった。 「死ぬのも王子も、もう真っ平ご免です!」 エルナは即座に婚約者候補を辞退。目立たぬよう、地味な領地でひっそり暮らす準備を始める。しかし、今までエルナを蔑んでいたはずのシオンが、なぜか彼女を執拗に追い回し始め……? 「逃げられると思うなよ。お前を俺の隣以外に置くつもりはない」 「いや、記憶にあるキャラ変が激しすぎませんか!?」

子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。 そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。 そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。 ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。 突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。 リクハルド様に似ても似つかない子供。 そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。

嫌われていると思って彼を避けていたら、おもいっきり愛されていました

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のアメリナは、幼馴染の侯爵令息、ルドルフが大好き。ルドルフと少しでも一緒にいたくて、日々奮闘中だ。ただ、以前から自分に冷たいルドルフの態度を気にしていた。 そんなある日、友人たちと話しているルドルフを見つけ、近づこうとしたアメリナだったが “俺はあんなうるさい女、大嫌いだ。あの女と婚約させられるくらいなら、一生独身の方がいい!” いつもクールなルドルフが、珍しく声を荒げていた。 うるさい女って、私の事よね。以前から私に冷たかったのは、ずっと嫌われていたからなの? いつもルドルフに付きまとっていたアメリナは、完全に自分が嫌われていると勘違いし、彼を諦める事を決意する。 一方ルドルフは、今までいつも自分の傍にいたアメリナが急に冷たくなったことで、完全に動揺していた。実はルドルフは、誰よりもアメリナを愛していたのだ。アメリナに冷たく当たっていたのも、アメリナのある言葉を信じたため。 お互い思い合っているのにすれ違う2人。 さらなる勘違いから、焦りと不安を募らせていくルドルフは、次第に心が病んでいき… ※すれ違いからのハッピーエンドを目指していたのですが、なぜかヒーローが病んでしまいました汗 こんな感じの作品ですが、どうぞよろしくお願いしますm(__)m

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

【完結】大魔術師は庶民の味方です2

枇杷水月
ファンタジー
元侯爵令嬢は薬師となり、疫病から民を守った。 『救国の乙女』と持て囃されるが、本人はただ薬師としての職務を全うしただけだと、称賛を受け入れようとはしなかった。 結婚祝いにと、国王陛下から贈られた旅行を利用して、薬師ミュリエルと恋人のフィンは、双方の家族をバカンスに招待し、婚約式を計画。 顔合わせも無事に遂行し、結婚を許された2人は幸せの絶頂にいた。 しかし、幸せな2人を妬むかのように暗雲が漂う。襲いかかる魔の手から家族を守るため、2人は戦いに挑む。

【完結】初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが

藍生蕗
恋愛
 子供の頃、一目惚れした相手から素気無い態度で振られてしまったリエラは、異性に好意を寄せる自信を無くしてしまっていた。  しかし貴族令嬢として十八歳は適齢期。  いつまでも家でくすぶっている妹へと、兄が持ち込んだお見合いに応じる事にした。しかしその相手には既に非公式ながらも恋人がいたようで、リエラは衆目の場で醜聞に巻き込まれてしまう。 ※ 本編は4万字くらいのお話です ※ 他のサイトでも公開してます ※ 女性の立場が弱い世界観です。苦手な方はご注意下さい。 ※ ご都合主義 ※ 性格の悪い腹黒王子が出ます(不快注意!) ※ 6/19 HOTランキング7位! 10位以内初めてなので嬉しいです、ありがとうございます。゚(゚´ω`゚)゚。  →同日2位! 書いてて良かった! ありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

処理中です...