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案内が終わると、カリールは部屋を去っていった。これから今度はシャンディを案内して歩くのだろう。
王太子殿下も大変だと思いながら荷解きをした。
そのあとで、部屋に侍女がやってくると今後の予定を説明された。
一日の過ごし方や、今後の行事などここに滞在する二週間しっかりスケジュールが組まれていた。
ケイトには個人的に教師がつくことになっていて、それはおそらく婚約者候補が少ないため、一人一人につけるのかもしれなかった。
とにかく、ケイトはシャンディと顔を会わせなくてすむだけでも有り難いと思った。
教育内容はもちろん礼節から始まり、ダンスレッスンに外交時の礼儀や、他国の歴史、文化、そして、この大陸における自国の立ち位置など、たかが候補にそこまで教えてもよいのか? と思うような内容まで教わった。
夜は、外交時の対応を学ぶために実際に夕食をとりながらマナーを一から学んだ。
そしてどんなに忙しくとも、必ずカリールと共に過ごす時間が用意されていた。それは中庭であったり、客間であったりと色々な場所で調度品などの説明を受けながらお茶を楽しんだ。
「大変ではないか? 疲れてはいないか?」
そう言ってカリールは、いつもケイトを気づかってくれていた。
ケイトは初めて学ぶ内容が楽しくて仕方がなかったので、正直にそう伝えるとカリールは満足そうに頷いた。
最初の頃、ケイトはカリールと話すときにとても緊張した。だが、カリールはそんなケイトに優しく朗らかにいつも面白い話をしてくれたので、緊張せずに話せるようになってきていた。
そして、そんなカリールにケイトはだんだんと心惹かれていった。
そんなある日のこと、別棟の近くを通ったときにばったりシャンディに出くわしてしまった。
「あら、貴女まだ王宮にいましたのね。別棟にいないから私てっきり、貴女はもう帰ったのだと思っていましたわ。別棟にもいれてもらえないだけでしたのね。そうそう、私毎日殿下にお会いしてますのよ? わざわざ私の顔を見にお立ち寄りになられて下さるんですの。お忙しくなさっておいでなので、すぐに戻られてしまいますけれど。貴女は殿下にお会いになったことがありまして?」
ケイトはカリールとは毎日お茶を楽しんでいるとは口が裂けても言えないと思い、しどろもどろになった。
「いいですわ、無理しなくても。わかってますわ、お会いになったことがないのですわよね? 仕方のないことですわ。それに、貴女マナーが悪くて毎日徹底的にマナーを学ばされているんですって? もちろん私にはそんな必要ありませんもの、教育は免除になりましてよ? ふふふ、なにをやっても無駄でしょうけれど、貴女もせいぜい頑張ったらいいですわ」
シャンディはそうやって好き放題言うと、満足したのか去っていった。
ケイトはどういうことなのだろうと混乱した。優しいカリールは、選ばれるはずもないケイトに同情して、毎日相手をしてくれているのだろうか。
ヒロインではないケイトが選ばれるはずもなく、考えても答えはでなかった。
とりあえず、教師がケイトにしかついていないことには納得した。
「私ってば物知らずで、マナーも悪かったんですのね」
思わずそう呟いた。
教師から色々学び、普段では滅多に会うことのできないカリールとお茶の時間を過ごしたりと、ケイトはここで過ごした二週間を、あっという間だったと思った。
最初は乗り気ではなかったが、今ではここの生活を楽しいとさえ思い、帰るのを少し残念に思った。
なによりも、これでカリールとお別れなのだと思うと、それがなによりもつらかった。
だが、カリールが自分の婚約者を決めるのは泣いても笑っても明日と決まっている。
ケイトは潔く自分の荷物をまとめるように、王宮のメイドたちにお願いした。
メイドたちは鍵を取り出すと、壁にあるカリールが必要になったら使うと言っていたドアを開けた。そして、そこから笑顔でどんどん荷物を運び出していった。
その様子をみて、ケイトはあのドアは外か裏口にでも繋がっていて、ここを出るときに使うものだったのかとぼんやり思った。
有能なメイドたちにより、あっという間に室内は元の客室に戻った。
明日にはあのシャンディとカリールが結ばれるのだ。そう考えると、胸の奥がギュッとしめつけられるような感覚に襲われた。
たった二週間という短い間だったが、カリールに優しくされ毎日数時間共に過ごすうちに、ケイトはカリールに恋していた。
結ばれなくても良い。そもそも最初から結ばれることはないとわかっていた。だから、潔くあきらめてここを去ろう。ケイトはそう思いながらベッドに潜った。
翌朝、いつものように準備された朝食を取ると、午前中にカリールとのお茶の時間がもうけられていたので、部屋でカリールが来るのを待った。
いつものように部屋に現れたカリール。
「今日は候補として会うのは最後だ。私は君に特別なことをしたいと思う。一緒に宮廷内を散歩しないか?」
ケイトはあまり優しくされると、別れるのがつらくなると思いながらも頷き差し出されるカリールの手を掴んだ。
カリールにエスコートされ、どこへ向かうのだろうと思いながら黙ってついて行くと、裏庭に出た。
「君の部屋からも見えると思うが、改めて案内させてもらおう。最後の特別な日に、ここを案内したかった」
そう言われて裏庭を見渡すと、手入れされた庭は色とりどりの花々が咲き乱れ、庭師により丁寧に借り上げられた垣根は、芸術的と言う言葉がしっくりくるぐらいモダンで、見ていて飽きることのないものだった。
ケイトはぼんやりと、昔この庭を散策したくて親と一緒に訪れたお茶会で忍び込んだことを思い出す。
あの時、兵士に捕まっていたらただ事ではすまなかっただろう。
鉢合わせしてしまったカリール本人もお忍びであったことは、ケイトにとってついていたかもしれないなどと思い返す。
「本当に素敵なお庭ですわね、私こうして殿下とここを歩いたこと、こんな私にもお心を砕いて下さったこと決して忘れませんわ」
ケイトがそう言ってカリールを見つめると、カリールも熱のこもった眼差しで見つめ返す。
「私も君との出会いをずっと忘れないだろう」
しばらくそうして庭園で見つめ会ったのち、お互いに微笑み合った。
ケイトは、これは二人の特別なお別れの挨拶なのだと思った。
そして、自分の手を掴むこの手の温もりを自分は一生忘れないだろう。そう思った。
王太子殿下も大変だと思いながら荷解きをした。
そのあとで、部屋に侍女がやってくると今後の予定を説明された。
一日の過ごし方や、今後の行事などここに滞在する二週間しっかりスケジュールが組まれていた。
ケイトには個人的に教師がつくことになっていて、それはおそらく婚約者候補が少ないため、一人一人につけるのかもしれなかった。
とにかく、ケイトはシャンディと顔を会わせなくてすむだけでも有り難いと思った。
教育内容はもちろん礼節から始まり、ダンスレッスンに外交時の礼儀や、他国の歴史、文化、そして、この大陸における自国の立ち位置など、たかが候補にそこまで教えてもよいのか? と思うような内容まで教わった。
夜は、外交時の対応を学ぶために実際に夕食をとりながらマナーを一から学んだ。
そしてどんなに忙しくとも、必ずカリールと共に過ごす時間が用意されていた。それは中庭であったり、客間であったりと色々な場所で調度品などの説明を受けながらお茶を楽しんだ。
「大変ではないか? 疲れてはいないか?」
そう言ってカリールは、いつもケイトを気づかってくれていた。
ケイトは初めて学ぶ内容が楽しくて仕方がなかったので、正直にそう伝えるとカリールは満足そうに頷いた。
最初の頃、ケイトはカリールと話すときにとても緊張した。だが、カリールはそんなケイトに優しく朗らかにいつも面白い話をしてくれたので、緊張せずに話せるようになってきていた。
そして、そんなカリールにケイトはだんだんと心惹かれていった。
そんなある日のこと、別棟の近くを通ったときにばったりシャンディに出くわしてしまった。
「あら、貴女まだ王宮にいましたのね。別棟にいないから私てっきり、貴女はもう帰ったのだと思っていましたわ。別棟にもいれてもらえないだけでしたのね。そうそう、私毎日殿下にお会いしてますのよ? わざわざ私の顔を見にお立ち寄りになられて下さるんですの。お忙しくなさっておいでなので、すぐに戻られてしまいますけれど。貴女は殿下にお会いになったことがありまして?」
ケイトはカリールとは毎日お茶を楽しんでいるとは口が裂けても言えないと思い、しどろもどろになった。
「いいですわ、無理しなくても。わかってますわ、お会いになったことがないのですわよね? 仕方のないことですわ。それに、貴女マナーが悪くて毎日徹底的にマナーを学ばされているんですって? もちろん私にはそんな必要ありませんもの、教育は免除になりましてよ? ふふふ、なにをやっても無駄でしょうけれど、貴女もせいぜい頑張ったらいいですわ」
シャンディはそうやって好き放題言うと、満足したのか去っていった。
ケイトはどういうことなのだろうと混乱した。優しいカリールは、選ばれるはずもないケイトに同情して、毎日相手をしてくれているのだろうか。
ヒロインではないケイトが選ばれるはずもなく、考えても答えはでなかった。
とりあえず、教師がケイトにしかついていないことには納得した。
「私ってば物知らずで、マナーも悪かったんですのね」
思わずそう呟いた。
教師から色々学び、普段では滅多に会うことのできないカリールとお茶の時間を過ごしたりと、ケイトはここで過ごした二週間を、あっという間だったと思った。
最初は乗り気ではなかったが、今ではここの生活を楽しいとさえ思い、帰るのを少し残念に思った。
なによりも、これでカリールとお別れなのだと思うと、それがなによりもつらかった。
だが、カリールが自分の婚約者を決めるのは泣いても笑っても明日と決まっている。
ケイトは潔く自分の荷物をまとめるように、王宮のメイドたちにお願いした。
メイドたちは鍵を取り出すと、壁にあるカリールが必要になったら使うと言っていたドアを開けた。そして、そこから笑顔でどんどん荷物を運び出していった。
その様子をみて、ケイトはあのドアは外か裏口にでも繋がっていて、ここを出るときに使うものだったのかとぼんやり思った。
有能なメイドたちにより、あっという間に室内は元の客室に戻った。
明日にはあのシャンディとカリールが結ばれるのだ。そう考えると、胸の奥がギュッとしめつけられるような感覚に襲われた。
たった二週間という短い間だったが、カリールに優しくされ毎日数時間共に過ごすうちに、ケイトはカリールに恋していた。
結ばれなくても良い。そもそも最初から結ばれることはないとわかっていた。だから、潔くあきらめてここを去ろう。ケイトはそう思いながらベッドに潜った。
翌朝、いつものように準備された朝食を取ると、午前中にカリールとのお茶の時間がもうけられていたので、部屋でカリールが来るのを待った。
いつものように部屋に現れたカリール。
「今日は候補として会うのは最後だ。私は君に特別なことをしたいと思う。一緒に宮廷内を散歩しないか?」
ケイトはあまり優しくされると、別れるのがつらくなると思いながらも頷き差し出されるカリールの手を掴んだ。
カリールにエスコートされ、どこへ向かうのだろうと思いながら黙ってついて行くと、裏庭に出た。
「君の部屋からも見えると思うが、改めて案内させてもらおう。最後の特別な日に、ここを案内したかった」
そう言われて裏庭を見渡すと、手入れされた庭は色とりどりの花々が咲き乱れ、庭師により丁寧に借り上げられた垣根は、芸術的と言う言葉がしっくりくるぐらいモダンで、見ていて飽きることのないものだった。
ケイトはぼんやりと、昔この庭を散策したくて親と一緒に訪れたお茶会で忍び込んだことを思い出す。
あの時、兵士に捕まっていたらただ事ではすまなかっただろう。
鉢合わせしてしまったカリール本人もお忍びであったことは、ケイトにとってついていたかもしれないなどと思い返す。
「本当に素敵なお庭ですわね、私こうして殿下とここを歩いたこと、こんな私にもお心を砕いて下さったこと決して忘れませんわ」
ケイトがそう言ってカリールを見つめると、カリールも熱のこもった眼差しで見つめ返す。
「私も君との出会いをずっと忘れないだろう」
しばらくそうして庭園で見つめ会ったのち、お互いに微笑み合った。
ケイトは、これは二人の特別なお別れの挨拶なのだと思った。
そして、自分の手を掴むこの手の温もりを自分は一生忘れないだろう。そう思った。
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