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候補から婚約者が選ばれる時は、選ばれたものだけがこっそり呼び出され、その他のものは帰りの馬車へ案内される。
そして、その日の夜盛大に婚約発表が王宮で開かれることになっていた。
選ばれない者にとってはかなりきついが、婚約者候補に選ばれただけでも社交界でかなり評価されることなので、そこまで落ち込む必要はないかもしれなかった。
ケイトも帰りの馬車へ案内されるのを部屋で待っていると、突然侍女が慌ただしくやってきてこう言った。
「お嬢様、申し訳ございません。今年の婚約者の選定は婚約発表の場で明かされることになりました。お嬢様にはこれから大急ぎで支度をしていただきます」
ケイトは慌てた。
「そう言われましても、なんの準備もしておりませんわ。まさか婚約発表に出ることになるとも思っておりませんでしたし」
侍女は満面の笑みで答える。
「お嬢様が心配なさることはなにもございません。全てこちらにお任せください」
そうして、戸惑うケイトを連れ出した侍女は王宮の控え室に連れていき、素早くドレスに着替えさせると化粧を施したりと準備を整える。
これからショックなことを伝えられるだけなのに、と思いながら、諦めてその流れに身を任せた。
ケイトはカリールを信頼していた。あの心優しいカリールなら、ケイトに対してそこまで恥をかかせるようなことはしないだろう。これは、なにかしら考えがあるのに違いなかった。
あれよあれよという間に準備が整い、気がつけばケイトはサーモンピンクの生地に、色鮮やかな薔薇の花が大量にあしらわれた美しいドレスに身を包んで、ホールの控え室へつれていかれた。
ケイトはなにがなんだかわからないといった心情で、室内に用意された椅子に座り呼ばれるのを待っていた。
今回はなぜこんなことをするのだろうと思い、なにが起きるのかと緊張した。そこに一番会いたくない人間の来訪があった。
「貴女、なぜここにいますの?」
その声に振り向くと、部屋の入り口にシャンディが立っていたのだ。シャンディは宝石がちりばめられ、ふんだんにレースを使った紫色のとてもゴージャスなドレスを身に纏っていた。
なぜここにいるのかと言われても、ケイト本人も答えられなかった。
ケイトが無言でいると、シャンディはさらに追い討ちをかけるように言った。
「しかもそのドレス。いくらお金がないとはいえ、宝飾品をお花で代用なさるなんて……。それに比べて、見て私のこのドレス。今日のために準備してましたのよ? 貴女がいるって聞いたときには、せめて私の引き立て役ぐらいにはなるかと思いましたのに、そんなドレスを来ていて、本当に期待はずれですわ」
そう吐き捨てるように言うと、シャンディはその場を去っていった。
ドレスのことを言われても、ケイトが準備したものではないし、ケイト自身はとても気に入っていたので、文句を言われる筋合いはないと少し腹を立てた。
「こんなに美しいお花ですのに、失礼しちゃいますわ!」
そう呟いた。
「お嬢様、時間です」
侍女に呼ばれ、ケイトはゆっくり立ち上がる。いよいよ自分に対する断罪のような発表が始まるのだ。だが、この二週間のあいだケイトは精一杯頑張ったのだから、誰にも恥じることはないと自分に言い聞かせる。
ホールの入口に父親のヴィッツが立っていた。額にはうっすら汗がにじんでおり、ケイトに笑顔を向けてきたが顔が強張っていてとても緊張していることがその表情から見て取れた。
「お父様、今日はよろしくお願いいたします」
「任せなさい。お母様も招待されているから、あとで挨拶なさい」
そう言って腕をつきだしたので、その腕に手を絡めると頷いた。そうしてホールへ足を踏み入れた。
ホールへ入ると、サンシントウ男爵にエスコートされたシャンディが大勢の貴族に囲まれている。ちやほやされ、まるで妃殿下のような扱いを受けていた。
ケイトはなぜヒロイエン公爵がシャンディをエスコートせず、ヒロイエン公爵の遠い親戚のサンシントウ男爵がエスコートしているのだろうと、少し不思議に思った。
シャンディを取り囲む取り巻きのような貴族たちは、ホールに入ってきたケイトをちらりと見ると、シャンディにこそこそと耳打ちした。
すると、シャンディがこちらをちらりと見たので、ケイトは軽く会釈する。だがシャンディはすぐに前方に視線を戻し、ケイトの挨拶を無視した。
ケイトはどうでもいいと思い、母親を探すことにする。
「お父様、お母様はどこかしら?」
ケイトが父親にそう訪ねながらホールの中にパルールの姿をさがしていると、向こうの方で大勢いる貴族たちが左右に割れ大きく空間ができるのが見えた。なにがあったのかと思っていると、その空間の中心にカリールがいて、こちらに真っ直ぐ向かってきているのが見えた。
ケイトはカリールがシャンディのところへ向かっているのだと思い、思わず端へ避けようとするが、父親に殿下の前までエスコートされる。
「お父様、殿下の歩かれる進路を妨害してはいけませんわ」
そう言って止めようとするが、ついに殿下の前に出てしまう。ケイトはカーテシーをすると、どんなに優しいカリールでもこれはお許しにならないだろう。そう思った。
「ケイト、顔を上げてかまわない。ヴィッツ、私の将来の伴侶のエスコート、ご苦労だった。もう下がってよい」
ケイトは顔を上げると、なにがなんだか分からず唖然としてカリールを見つめる。
カリールはケイトを見て微笑むと、軽く片手をあげて後ろに控えている使用人に合図した。
すると、大粒のピンクダイヤの首飾りと、大粒のダイヤモンドがあしらわれているティアラを持った使用人がカリールの目の前で膝をついた。
カリールは声高らかに宣言した。
「今日この場を持って、正式にケイト・ヨ・サンクーネ男爵令嬢を私の婚約者とする」
そして、ケイトに微笑むとカリールはケイトに首飾りを装着させ、ティアラをそっと頭に乗せる。
予想外の発表に、その場にいた貴族たちも一瞬困惑気味になったが、すぐに一斉に歓喜を上げた。
ケイトはわけがわからず、混乱しながらもカリールに差し出された腕を掴む。
そんな祝福された雰囲気を一気に壊す者がいた。
「殿下、お待ちになって下さい」
その声の方へ振り向くと、そこにはシャンディが不適な笑みを浮かべ立っていた。
「そこまでサンクーネ男爵令嬢をもてあそんでは可哀想ですわ」
そう言って、ケイトを憐憫の眼差しで見つめた。
そして、その日の夜盛大に婚約発表が王宮で開かれることになっていた。
選ばれない者にとってはかなりきついが、婚約者候補に選ばれただけでも社交界でかなり評価されることなので、そこまで落ち込む必要はないかもしれなかった。
ケイトも帰りの馬車へ案内されるのを部屋で待っていると、突然侍女が慌ただしくやってきてこう言った。
「お嬢様、申し訳ございません。今年の婚約者の選定は婚約発表の場で明かされることになりました。お嬢様にはこれから大急ぎで支度をしていただきます」
ケイトは慌てた。
「そう言われましても、なんの準備もしておりませんわ。まさか婚約発表に出ることになるとも思っておりませんでしたし」
侍女は満面の笑みで答える。
「お嬢様が心配なさることはなにもございません。全てこちらにお任せください」
そうして、戸惑うケイトを連れ出した侍女は王宮の控え室に連れていき、素早くドレスに着替えさせると化粧を施したりと準備を整える。
これからショックなことを伝えられるだけなのに、と思いながら、諦めてその流れに身を任せた。
ケイトはカリールを信頼していた。あの心優しいカリールなら、ケイトに対してそこまで恥をかかせるようなことはしないだろう。これは、なにかしら考えがあるのに違いなかった。
あれよあれよという間に準備が整い、気がつけばケイトはサーモンピンクの生地に、色鮮やかな薔薇の花が大量にあしらわれた美しいドレスに身を包んで、ホールの控え室へつれていかれた。
ケイトはなにがなんだかわからないといった心情で、室内に用意された椅子に座り呼ばれるのを待っていた。
今回はなぜこんなことをするのだろうと思い、なにが起きるのかと緊張した。そこに一番会いたくない人間の来訪があった。
「貴女、なぜここにいますの?」
その声に振り向くと、部屋の入り口にシャンディが立っていたのだ。シャンディは宝石がちりばめられ、ふんだんにレースを使った紫色のとてもゴージャスなドレスを身に纏っていた。
なぜここにいるのかと言われても、ケイト本人も答えられなかった。
ケイトが無言でいると、シャンディはさらに追い討ちをかけるように言った。
「しかもそのドレス。いくらお金がないとはいえ、宝飾品をお花で代用なさるなんて……。それに比べて、見て私のこのドレス。今日のために準備してましたのよ? 貴女がいるって聞いたときには、せめて私の引き立て役ぐらいにはなるかと思いましたのに、そんなドレスを来ていて、本当に期待はずれですわ」
そう吐き捨てるように言うと、シャンディはその場を去っていった。
ドレスのことを言われても、ケイトが準備したものではないし、ケイト自身はとても気に入っていたので、文句を言われる筋合いはないと少し腹を立てた。
「こんなに美しいお花ですのに、失礼しちゃいますわ!」
そう呟いた。
「お嬢様、時間です」
侍女に呼ばれ、ケイトはゆっくり立ち上がる。いよいよ自分に対する断罪のような発表が始まるのだ。だが、この二週間のあいだケイトは精一杯頑張ったのだから、誰にも恥じることはないと自分に言い聞かせる。
ホールの入口に父親のヴィッツが立っていた。額にはうっすら汗がにじんでおり、ケイトに笑顔を向けてきたが顔が強張っていてとても緊張していることがその表情から見て取れた。
「お父様、今日はよろしくお願いいたします」
「任せなさい。お母様も招待されているから、あとで挨拶なさい」
そう言って腕をつきだしたので、その腕に手を絡めると頷いた。そうしてホールへ足を踏み入れた。
ホールへ入ると、サンシントウ男爵にエスコートされたシャンディが大勢の貴族に囲まれている。ちやほやされ、まるで妃殿下のような扱いを受けていた。
ケイトはなぜヒロイエン公爵がシャンディをエスコートせず、ヒロイエン公爵の遠い親戚のサンシントウ男爵がエスコートしているのだろうと、少し不思議に思った。
シャンディを取り囲む取り巻きのような貴族たちは、ホールに入ってきたケイトをちらりと見ると、シャンディにこそこそと耳打ちした。
すると、シャンディがこちらをちらりと見たので、ケイトは軽く会釈する。だがシャンディはすぐに前方に視線を戻し、ケイトの挨拶を無視した。
ケイトはどうでもいいと思い、母親を探すことにする。
「お父様、お母様はどこかしら?」
ケイトが父親にそう訪ねながらホールの中にパルールの姿をさがしていると、向こうの方で大勢いる貴族たちが左右に割れ大きく空間ができるのが見えた。なにがあったのかと思っていると、その空間の中心にカリールがいて、こちらに真っ直ぐ向かってきているのが見えた。
ケイトはカリールがシャンディのところへ向かっているのだと思い、思わず端へ避けようとするが、父親に殿下の前までエスコートされる。
「お父様、殿下の歩かれる進路を妨害してはいけませんわ」
そう言って止めようとするが、ついに殿下の前に出てしまう。ケイトはカーテシーをすると、どんなに優しいカリールでもこれはお許しにならないだろう。そう思った。
「ケイト、顔を上げてかまわない。ヴィッツ、私の将来の伴侶のエスコート、ご苦労だった。もう下がってよい」
ケイトは顔を上げると、なにがなんだか分からず唖然としてカリールを見つめる。
カリールはケイトを見て微笑むと、軽く片手をあげて後ろに控えている使用人に合図した。
すると、大粒のピンクダイヤの首飾りと、大粒のダイヤモンドがあしらわれているティアラを持った使用人がカリールの目の前で膝をついた。
カリールは声高らかに宣言した。
「今日この場を持って、正式にケイト・ヨ・サンクーネ男爵令嬢を私の婚約者とする」
そして、ケイトに微笑むとカリールはケイトに首飾りを装着させ、ティアラをそっと頭に乗せる。
予想外の発表に、その場にいた貴族たちも一瞬困惑気味になったが、すぐに一斉に歓喜を上げた。
ケイトはわけがわからず、混乱しながらもカリールに差し出された腕を掴む。
そんな祝福された雰囲気を一気に壊す者がいた。
「殿下、お待ちになって下さい」
その声の方へ振り向くと、そこにはシャンディが不適な笑みを浮かべ立っていた。
「そこまでサンクーネ男爵令嬢をもてあそんでは可哀想ですわ」
そう言って、ケイトを憐憫の眼差しで見つめた。
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