モブの私がなぜかヒロインを押し退けて王太子殿下に選ばれました

みゅー

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 カリールはケイトを連れてシャンディに近づくと、ケイトの腰に手を回して体を寄せて耳打ちした。

「君のことは絶対に守る」

 そう言って改めてシャンディを見ると言った。

「もてあそぶとは?」

「だって、選ばれるのはわたくしのはずですもの」

 カリールはため息をついた。

「今朝も言い渡してあるはずだ、君はもう帰って良いと。そもそも今回の婚約者の選定はするはずではなかった」

 ケイトはその言葉に思わずカリールの顔を見上げた。カリールはそんなケイトを見て微笑むと、優しく囁いた。

「驚かせてしまったね。だが、本当に最初から君が婚約者だと発表する手筈だったんだよ」

 そう言うと、シャンディに視線を戻す。

「婚約者を選ぶことはこの国の伝統でもあったし、ヒロイエン公爵と話し合い、目的があって君を婚約者候補に入れた。君には何度も、今回の選定は形式上のものであり、君が選ばれることはないと言ったではないか」

 シャンディは余裕の笑みで微笑む。

「はい、聞いておりましたわ。ですがあれは殿下がわたくしにサプライズをするために言ったんですわよね? これもその一部ですの?」

「君がずっとそうやって誤解し、何度も何度も伝えているのに全く信じずに、周囲にも嘘を言って回るので仕方なくこんな方法を取らせてもらっている。もう一度言おう、君は婚約者にはなれない」

 そこまでハッキリ言われても、シャンディは理解できていない様子で、不思議そうな顔をした。

「殿下、お芝居はもうよろしいんですのよ?」

 あまりにもシャンディが堂々としているので、ケイトは不安になってきた。もしかして、本当にサプライズなのだろうか? そう思い始めたとき、カリールがもう一度きっぱりと言った。

「君は私の婚約者にはなれない。私は君を選ばない。それに、私の婚約者をさんざん影で侮辱し、その上社交界に影響の及ぶような嘘の噂を流してくれたね。これは看過できることではない。君は帰って沙汰を待つがいい」

 そう言うと、ケイトを優しく見つめた。

「さぁ、私とダンスをしよう。それが婚約者発表の決まりごとになっているし、私はそれをずっと楽しみにしていたんだよ」

 そう言って、ホールの中央へ歩きだした。すると、後ろでシャンディが叫ぶ。

「どういうことですの?! これは裏切り行為ですわ! そんな女のどこがよろしいんですの?!」

 すると、カリールは振り向き言った。

「すべてだ。私はケイトのすべてを愛している!」

 ケイトは、自分の顔が驚くほど赤くなってゆくのを感じた。
 そして、カリールは少し照れたように言った。

「こんなかたちで、君に愛を伝えるつもりではなかったのだが……」

 すると、シャンディが突然

「いやー!!」

 と叫びながらケイトに飛びかかろうとした。

 しかし、シャンディはケイトに一歩も近づくことなく、カリールの警護の者によって地面に押し付けられると取り押さえられた。地面におしつけられながらも、シャンディはケイトを指差し叫ぶ。

「お前が! お前さえいなければ!!」

 そう悪態をつくシャンディの姿にケイトは狂気さえ感じた。手を後ろ手にしばられ、連行されて行くシャンディの姿を見てカリールが呟く。

「哀れなものだ」

 そして、ケイトに視線を戻す。

「大丈夫かい?」

「はい、お気遣いありがとうございます。でも、少し彼女が可哀想でした」

 カリールは苦笑いをする。

「可哀想なものか。とにかくこの話はあとですることにしよう」

 そう言うと、改めてケイトの前に跪き手を差しだした。

「私と踊っていただけますか?」

「はい」

 そう言って、ケイトがカリールの手をとると、ホールの中心へ行き二人で見事なダンスを披露した。

 その後、国王陛下に挨拶をしたりケイトの両親に挨拶をしたり、招待されていた貴族のお祝いの挨拶を受けたりと、忙しい時間が続いた。

 この日は疲れてしまい、久しぶりに自身の屋敷へ戻ってきたのだが、それを懐かしむ暇もなく泥のように眠りについた。

 次の日も朝からお祝いの手紙や、プレゼントが山のように他の貴族たちから届き、その対応に追われた。結局カリールとゆっくり話ができたのは一週間も過ぎた頃だった。

 宮廷に呼ばれたケイトは、裏庭に用意されたテーブルに案内され、そこにはカリールが待っていた。

「久しぶりだね」

「はい。お久しぶりでございます」

 カリールは手を差し出す。

「裏庭を散歩しながら、少し話そう」

 ケイトがその手をとると、カリールは歩き始めた。

「君は優しいから、ヒロイエンの娘のことを可哀想と言っていたね。だが、彼女に同情する必要はない」

「なぜですの?」

 カリールは苦笑しながら答える。

「彼女は初めて会ったときからなぜか私にとても執着していてね、私につきまとっていた。そして、なぜか自分が婚約者になれると信じて疑わなかったようだ」

 ケイトはシャンディが前世の記憶を持ち、自分がヒロインだと知っていたからそう思ってしまったのだろうと考えた。ケイト自身も前世の記憶のせいで、自分は絶対に選ばれるはずはないと思っていたのだから。
 それでもシャンディはヒロインである。カリールは、あんなに愛らしい女性に言い寄られて、なんとも思わなかったのだろうか、とケイトは不思議に思った。

「でも、シャンディはとても可愛らしいご令嬢ですわ。殿下は心動かされることはありませんでしたの?」

「いや、彼女に初めて会ったときの出会いが最悪でね。彼女が、私の初恋相手を罵っているところを目撃してしまったんだ」

 確かに、ケイトもシャンディに初めて会ったときから散々な言われようだったので、それはあり得ることだと思った。

「そうなんですのね」

「その初恋相手と言うのは、君のことなんだが」

 ケイトは思わず立ち止まり、カリールの顔をまじまじと見た。

「初恋?!」

「君は忘れてしまっているかもしれないが、この裏庭で昔君と会ったことがあるんだ」

 もちろんケイトは覚えていた。

「覚えております。ですがあのときは……」

 そう言って、ケイトはハッとした。

「あの、あの時ヒロイエン公爵令嬢とわたくしが話しているところをご覧になられたのですか?」

「その通りだ。あの日私は宮廷を抜け出した。冒険の真似事をしようとしていたんだ。それで裏庭に来ると、とても可愛らしい女の子がいた。私は最初、それが花の妖精なのかと思ったほどだ」

 ケイトはそう言われて、恥ずかしくてうつむいた。

「なに、本当のことだ。そして、私はどうやって君を引き留めようか考えながら話しかけた。だが、怖がられてしまったのか、君には逃げられてしまったね。それで慌てて君を追いかけたんだ。そうしたらヒロイエンの娘と君が話しているところに遭遇した。心優しい君は、あのとき私のことも気にかけてくれていたね、本当に感動した」

「いいえ、そんな……」

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