1 / 1
竜帝の花嫁
しおりを挟む
シーディーは五人兄妹の末っ子だった。両親は貧しかったため、五人目を望んでいなかった。そんなときに母親はシーディーを身籠った。シーディーは両親にとっていらない子供だった。
シーディーが十二になったころ、口減らしでシーディーは大きな屋敷へ奉公へだされた。
それでもシーディーは自分の運命を呪うことなく、奉公先でも必死に働いた。
その屋敷で働くようになり数年過ぎ、その屋敷に気まぐれで竜帝が訪れた。
竜帝はドラゴンの一族で、長命でこの世界のトップに君臨していた。シーディーのような奉公人は、一生目にする機会もない人物だった。
竜帝は黒髪で金の瞳、端正な顔立ちでシーディーは一目見ただけで魅了された。
するとなんの気まぐれか、竜帝の目にシーディーが止まった。竜帝はシーディーを指差すと微笑み言った。
「あの者を私の褥へ」
信じられないことにシーディーは竜帝の寵姫となった。
「シーディー、お前は何も考えずに私に抱かれていれば良い」
シーディーは竜帝のその言葉に従い、毎日竜帝が来ることだけを待つ日々を送った。シーディーは竜帝を心から愛した。
今まで生きてきて、自分を求めてくれた人などただの一人もいなかったからだ。
竜帝には何人もの寵姫がいたが、シーディーはそんなことはどうでも良かった。
時折、自分を思い出し通ってくれればいい。私の存在意義はそれだけしかない、そう思った。
ある日、自分の体調に変化があることに気づいた。シーディーはそれを無視し、隠して過ごしていたが侍医に見抜かれてしまった。
「シーディー様、このまま治療を怠れば命に関わります」
そう言われたが、ちょうどそのころ竜帝の婚約が決まりそうな時期だったため、シーディーはそれを神の采配だととらえた。
「治療は必要ありません。これは竜帝のご意志でもあります」
そう言って治療を断った。竜帝もシーディーに飽きたのか、シーディーの元に来る回数が減っていた。
弱っている姿を見せてはいけなかったので、シーディーは安堵した。
そうしていよいよとなったとき、シーディーは竜帝に追い出される前に竜帝のもとを去った。
行く場所もなかったが、昔一度だけ竜帝に連れていってもらった、思い出の丘へ向かった。
そこに着くと、静かに体を横たえた。見上げると降りそうなほどの星空が見えた。
シーディーは星をつかもうと手を伸ばした。伸ばされた手はむなしく空をつかんだ。
私はずっと届かない星をつかもうとして手を伸ばしていたんだわ、つかめるはずもないのに。そう思いながら静かに眼を閉じた。
「シーディー、もう手伝いはいいから、お昼ご飯にしましょう」
母親に声をかけられ、シーディーは笑顔で応じた。
シーディーはあの思い出の丘の上で人生を閉じた。だが、その後記憶を持ったまま生まれ変わっていた。
今は片田舎で貧しくともシーディーを愛してくれる両親の元、穏やかに過ごしていた。
ある日、竜帝がこの村に来ることがわかった。シーディーの心は激しく揺さぶられる。
大丈夫、私はもう関係ない。私は大丈夫。そう自分に言い聞かせた。
それでも、竜帝に関わることのないように細心の注意をはらった。
村長の屋敷で竜帝をおもてなしするとのことだったので、近づかないようにした。
「シーディー、もう水瓶に水がないみたい」
母親にそう言われたシーディーは、水を汲みに外に出た。
わき水のある場所は、村長の屋敷とは反対方向なので問題なかった。
沢に降り、水を汲むため屈むと横からその手を捕まれる。シーディーは慌てて見上げる。
そこには竜帝がいた。
シーディーは慌ててそこに土下座する。
「いらっしゃるとは知りませんでした。申し訳ございません」
竜帝はそんなシーディーを無理やり立たせる。
「シーディーか?」
「はい、シーディーと申します」
すると竜帝はシーディーの両肩を掴む。
「そうではない、お前は私のシーディーか?」
シーディーは、竜帝がシーディーが生まれ変わっているのを知っているのだと気づき咄嗟に答える。
「申し訳ございません、なんのことかわかりません、お許しください」
竜帝はきっと、寵姫であったあのシーディーだと気づいたら、同情し何かしらの温情をかけるに違いないと思った。
死んでなお、竜帝に迷惑をかけるわけにはいかなかった。
竜帝は、しばらくシーディーを見つめて言った。
「本当に私のシーディーではないのだな?」
「申し訳ありません、仰る意味がわかりません」
そう答えると竜帝は諦めたのか、シーディーを放した。
そうして無言で竜帝はシーディーに背を向けると歩きだした。
シーディーはその背中に一礼して言った。
「ユン様、お気をつけてお戻りください」
そう言って、シーディーも踵を返す。家で水を必要としているだろう両親が待っている。
それに一刻も早くこの場を去らなければ。
そう思った瞬間、後ろから思い切り抱きしめられる。
「やはり君は私のシーディーだったのだな」
シーディーはどうしてばれてしまったのかわからず、混乱する。
「君は知らなかったようだが、ユンと呼ぶのはシーディー、君だけだ。やっと会えた。丘の上で君の亡骸をみつけ、私は失意のどん底いた。その後、君が生まれ変わったと星見のお告げがあってから今日まで、どれだけ君を探し求めてきたことか」
シーディーは驚いた。まさか竜帝が自分の亡骸を見つけているとは思いもしなかった。
竜帝は自分の方へシーディーを向かせる。
「君はなぜ、自分が必要のない人間だと思ったんだ。なぜ、病気だと言わなかった。なぜ、一人であんなところで……」
そう言うと、シーディーの前に両膝をつき涙をこぼしながらシーディーに抱きついた。
「愛してた。今でも愛してる。お願いだから私のそばにいてくれ」
シーディーは竜帝の頭を優しく撫でると言った。
「私はあのとき、それが最善だと思っていました。ユン様は私のことを愛してはいないのだと……」
竜帝は立ち上がり、シーディーを強く抱きしめる。そして、シーディーの顔を両手で挟み顔を近づける。
「君に出会ってから、君を愛さなかったことはない。ちゃんと伝えずに申し訳なかった。だが、私たちはまたこうして会うことができた。今度こそ君を一生大切にする。幸せにする、共に歩んでくれるね?」
「はい」
竜帝はシーディーに深く口づけると、思い切り抱きしめた。
その後、シーディーは両親と共に帝都に連れていかれ、盛大な式を挙げると文字通り死が二人を別つまで幸せにくらしたのだった。
シーディーが十二になったころ、口減らしでシーディーは大きな屋敷へ奉公へだされた。
それでもシーディーは自分の運命を呪うことなく、奉公先でも必死に働いた。
その屋敷で働くようになり数年過ぎ、その屋敷に気まぐれで竜帝が訪れた。
竜帝はドラゴンの一族で、長命でこの世界のトップに君臨していた。シーディーのような奉公人は、一生目にする機会もない人物だった。
竜帝は黒髪で金の瞳、端正な顔立ちでシーディーは一目見ただけで魅了された。
するとなんの気まぐれか、竜帝の目にシーディーが止まった。竜帝はシーディーを指差すと微笑み言った。
「あの者を私の褥へ」
信じられないことにシーディーは竜帝の寵姫となった。
「シーディー、お前は何も考えずに私に抱かれていれば良い」
シーディーは竜帝のその言葉に従い、毎日竜帝が来ることだけを待つ日々を送った。シーディーは竜帝を心から愛した。
今まで生きてきて、自分を求めてくれた人などただの一人もいなかったからだ。
竜帝には何人もの寵姫がいたが、シーディーはそんなことはどうでも良かった。
時折、自分を思い出し通ってくれればいい。私の存在意義はそれだけしかない、そう思った。
ある日、自分の体調に変化があることに気づいた。シーディーはそれを無視し、隠して過ごしていたが侍医に見抜かれてしまった。
「シーディー様、このまま治療を怠れば命に関わります」
そう言われたが、ちょうどそのころ竜帝の婚約が決まりそうな時期だったため、シーディーはそれを神の采配だととらえた。
「治療は必要ありません。これは竜帝のご意志でもあります」
そう言って治療を断った。竜帝もシーディーに飽きたのか、シーディーの元に来る回数が減っていた。
弱っている姿を見せてはいけなかったので、シーディーは安堵した。
そうしていよいよとなったとき、シーディーは竜帝に追い出される前に竜帝のもとを去った。
行く場所もなかったが、昔一度だけ竜帝に連れていってもらった、思い出の丘へ向かった。
そこに着くと、静かに体を横たえた。見上げると降りそうなほどの星空が見えた。
シーディーは星をつかもうと手を伸ばした。伸ばされた手はむなしく空をつかんだ。
私はずっと届かない星をつかもうとして手を伸ばしていたんだわ、つかめるはずもないのに。そう思いながら静かに眼を閉じた。
「シーディー、もう手伝いはいいから、お昼ご飯にしましょう」
母親に声をかけられ、シーディーは笑顔で応じた。
シーディーはあの思い出の丘の上で人生を閉じた。だが、その後記憶を持ったまま生まれ変わっていた。
今は片田舎で貧しくともシーディーを愛してくれる両親の元、穏やかに過ごしていた。
ある日、竜帝がこの村に来ることがわかった。シーディーの心は激しく揺さぶられる。
大丈夫、私はもう関係ない。私は大丈夫。そう自分に言い聞かせた。
それでも、竜帝に関わることのないように細心の注意をはらった。
村長の屋敷で竜帝をおもてなしするとのことだったので、近づかないようにした。
「シーディー、もう水瓶に水がないみたい」
母親にそう言われたシーディーは、水を汲みに外に出た。
わき水のある場所は、村長の屋敷とは反対方向なので問題なかった。
沢に降り、水を汲むため屈むと横からその手を捕まれる。シーディーは慌てて見上げる。
そこには竜帝がいた。
シーディーは慌ててそこに土下座する。
「いらっしゃるとは知りませんでした。申し訳ございません」
竜帝はそんなシーディーを無理やり立たせる。
「シーディーか?」
「はい、シーディーと申します」
すると竜帝はシーディーの両肩を掴む。
「そうではない、お前は私のシーディーか?」
シーディーは、竜帝がシーディーが生まれ変わっているのを知っているのだと気づき咄嗟に答える。
「申し訳ございません、なんのことかわかりません、お許しください」
竜帝はきっと、寵姫であったあのシーディーだと気づいたら、同情し何かしらの温情をかけるに違いないと思った。
死んでなお、竜帝に迷惑をかけるわけにはいかなかった。
竜帝は、しばらくシーディーを見つめて言った。
「本当に私のシーディーではないのだな?」
「申し訳ありません、仰る意味がわかりません」
そう答えると竜帝は諦めたのか、シーディーを放した。
そうして無言で竜帝はシーディーに背を向けると歩きだした。
シーディーはその背中に一礼して言った。
「ユン様、お気をつけてお戻りください」
そう言って、シーディーも踵を返す。家で水を必要としているだろう両親が待っている。
それに一刻も早くこの場を去らなければ。
そう思った瞬間、後ろから思い切り抱きしめられる。
「やはり君は私のシーディーだったのだな」
シーディーはどうしてばれてしまったのかわからず、混乱する。
「君は知らなかったようだが、ユンと呼ぶのはシーディー、君だけだ。やっと会えた。丘の上で君の亡骸をみつけ、私は失意のどん底いた。その後、君が生まれ変わったと星見のお告げがあってから今日まで、どれだけ君を探し求めてきたことか」
シーディーは驚いた。まさか竜帝が自分の亡骸を見つけているとは思いもしなかった。
竜帝は自分の方へシーディーを向かせる。
「君はなぜ、自分が必要のない人間だと思ったんだ。なぜ、病気だと言わなかった。なぜ、一人であんなところで……」
そう言うと、シーディーの前に両膝をつき涙をこぼしながらシーディーに抱きついた。
「愛してた。今でも愛してる。お願いだから私のそばにいてくれ」
シーディーは竜帝の頭を優しく撫でると言った。
「私はあのとき、それが最善だと思っていました。ユン様は私のことを愛してはいないのだと……」
竜帝は立ち上がり、シーディーを強く抱きしめる。そして、シーディーの顔を両手で挟み顔を近づける。
「君に出会ってから、君を愛さなかったことはない。ちゃんと伝えずに申し訳なかった。だが、私たちはまたこうして会うことができた。今度こそ君を一生大切にする。幸せにする、共に歩んでくれるね?」
「はい」
竜帝はシーディーに深く口づけると、思い切り抱きしめた。
その後、シーディーは両親と共に帝都に連れていかれ、盛大な式を挙げると文字通り死が二人を別つまで幸せにくらしたのだった。
271
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います
こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。
※「小説家になろう」にも投稿しています
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
reva
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました
雨宮羽那
恋愛
結婚して5年。リディアは悩んでいた。
夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。
ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。
どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。
そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。
すると、あら不思議。
いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。
「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」
(誰ですかあなた)
◇◇◇◇
※全3話。
※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる