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3.It’s not the love you make. It’s the love you give.
第四十三話
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朝になれば、ユリウスはすっきりとした気持ちで目覚めることができた。
傍らではアレクセイがのんきな顔で眠っており、ユリウスは小さく笑ってしまう。
昨日居たメアリやロンの姿はなく、夜に外された器具はそのまま部屋の片隅に置かれていた。
アレクセイの腕から逃れ窓のカーテンを眺めれば、見慣れた王都とその奥に見える自らの領地が見えた。その領地をなぞるように窓がらすに手を置く。
そして、遠目でアレクセイを眺める。起きる気配はなかった。
「爆睡だな」
ユリウスはベッドに転がり、すやすやと眠る横顔を見つめる。道中はずっと夜勤をしてくれており、昨日の昼間は寝ずに夜まで共に過ごしていたことを思い出す。
「ぐっすり寝とけよ」
彼から離れて、ユリウスは着替えた。メアリや彼が買い揃えてくれた変装セット。ユリウスは昨日から考えていたことをやろうとしていた。
こうして、ユリウスは一人で街中を歩いている。
ロンは疲れのせいか爆睡して肩を揺すっても起きず、メアリの部屋は窓をノックをしても起きて貰えず。勝手に入ることを諦めた。そのため、アレクセイの傍に手紙を置き、ユリウスは首に簡易的な包帯を巻いて外に出ていた。
変装して歩く街中は、やはり新鮮だ。誰もが驚いた顔を見せない。怯えた顔も嘲る顔もない。なるべく人混みは避けながら、屋台を通り過ぎようとした時だ。
「兄ちゃん、ラム肉のハンバーガーはどうたい!?」
「ハンバーガー?」
屋台前で突然呼び止められ、ユリウスは足を止めた。袋に入ったパンとミンチ肉を若い男性店員に見せられ、ユリウスは少し迷う。
普段なら素通りしているが、ラム肉と聞いてアレクセイの顔を浮かんだからだ。屋台の隅っこには値段が貼られており、ユリウスは小さく息を着く。
「二つ……いや、五つ欲しい」
懐から領収書を出そうとし、ユリウスは思いとどまる。こっそり手に入れていた現金をそのまま渡し、商品を受け取った。
「にしても、兄ちゃんは旅行に来たのかい?」
「ああ」
「表通りに行かなかったのは?」
「人ごみが苦手なだけだ」
ユリウスはハンバーガーの袋を受け取った。全部で五個揃っている。
すると、目の前の店員は酷く落胆していた。
「いや、大通りの商店街は見たかい?」
「ああ。人が多かったな」
だからこっちを選んだのだとユリウスは思う。
「何かあったのか?」
「ああ。向こうに馬車エリアができたせいで、こっちにお客さんが来なくなったんだ」
「それは……」
ユリウスは押し黙る。彼らに店を畳んで、そちらに行けとも言えなかった。だからと言って、今日の商品を買い占めたり、お金で支援するという訳にはいかない。そういう簡単な問題ではないからだ。
「ちょっと愚痴りたくなってな」
「まったく、お客さんを困らせるんじゃないよ。すまないね」
そう言ったのは隣で果物を売っていたおばさんだった。
「いえ。昔はこちらが王都の大通りだったと記憶していたのですが」
「昔はこっちが大通りだったのにねぇ。今じゃ、昔の名残もないよ」
時代とは、とユリウスは思う。おばさんからぽんっと果物を手渡された。
「こっちの通りに来てくれたお礼だよ。また来ておくれよ」
オレンジだった。それを受け取って、「ありがとうございます」と袋の中にしまう。
困った顔をするおばさん、少し申し訳なさそうにしている若い男性店員。二人の顔や奥にいる魚屋の顔を見つめた。小さく頭を下げ、ユリウスは離れた。
その後は魔石を領収書を使って買い込み、簡易的なチョーカーも買った。首につければ、少しは包帯が隠れ、ほっとする。やりたい事を全て終え、城へ戻ろうと思ったユリウスだったがふと立ち止まる。
帰る前にもう一度だけ商店を覗くことにした。
屋台の通りは閑散としていた。時折、ここらに住んでいると思われる主婦が買い物をしているぐらいで、活気は見当たらない。このままでは経営はきついだろうなとユリウスは思う。
「あれ、さっきの?」
声をかけられ、ユリウスは肩を大きく揺らした。背後を振り返れば、魚屋のおじさんがいる。
「少し気になってな」
「すまねぇな。めっきり人が来なくなってしまってな。地代も高くなったし、ほら……奥の八百屋も店を畳んでしまってな。地方都市にいったって話だ」
「地代はいくら取られているんだ?」
「七ペリーだったか」
「高いな」
ユリウスの良い領地ですら、一ペリーだ。王都は倍になっても、四ペリーがいいところだろう。ユリウスは少し考え、「ここら最近で高くなったか?」と尋ねていた。
「いや、半年前ぐらいだっただろうかね」
「ちょっと帳簿を見せてくれるか?」
「あ、ああ。あんた、もしかして、金融系に詳しいのか?」
「ああ。一応事業主としての免許も持ってるぞ」
「若いのにすげぇなぁ」
魚屋のおじさんと共に彼の店の中に入った。椅子を勧められ、おじさんが店の奥に入っていく。ユリウスは魚の質を眺めた。鮮度は良いが、冷凍されたものが目立つ。なるべく、鮮度を落とさないようにと順繰り回してお店に並べているのだろう。
努力も見えるが、そろそろ限界も見え始めていた。ごみとして捨てられた生ごみ。冷凍焼けした食品。ユリウスは何も言わず、おじさんが持ってきた帳簿を開いた。
「これが、半年前の地代。こっちが今の」
「高いな……」
ユリウスは地代、そして、販売料金も眺めた。何かがおかしいと首を傾げ、「ここらはエリック王が管理しているのか?」と尋ねた。
「王都の領主は別にいるし、ここらはギルス子爵様が管理しているよ」
記憶の糸を引っ張り出し、ユリウスとはあまり関わりなかった男の顔を思い出す。ユリウスは少し考え、「エリック王には生活がきついと伝えたのか?」と小首を傾げた。
「いや、地代が高いなんて知らなくて。値上がったのも理由があるのかと」
「そうか」
だいぶ話が見えてきたとユリウスは思う。すくっと立ち上がり、「すまんが、これをエリック王に見せてもいいか?」と伝える。
「え……大丈夫だが、そんな事可能なのか?」
「ああ。数日借りることになるかもしれない。もし、大丈夫であれば他の商店の帳簿も貸してくれ」
ユリウスの言葉におじさんは目を丸くしている。
そんなこんなで魚屋、ハンバーガー屋、果物屋などの帳簿を借りたユリウスは王城へ向けて足を運ぶ。
大通りの視察も屋根の上から行い、色々とデータがそろってきた。小さく息をつき、屋根から飛び降りた時だった。
ぐっと腕を引っ張られ、ユリウスは思わず腕の相手に蹴りを食らわせた。
「ユリウスさん」
「アレクセイか?」
足蹴りが顔面にヒットしたらしいアレクセイがむすっとした顔でユリウスを見ていた。
「すまねぇ」
「突然腕を掴んだ俺も悪いとは思いますが、貴方の足癖の悪さはどうにかなりませんか?」
「前はきちんとガードしてたのにな」
足を下ろせば、彼はため息をついて、そのままユリウスを抱き上げた。
「おいっ」
人目がつくと暴れるユリウスだったが、アレクセイは下ろしてくれなかった。
「貴方って人は……王城が大騒ぎになっているんですよ」
「知るか」
「起きたら傍に貴方がいなくて、心臓が止まるかと思いました。扉前に護衛もいたのに、どうして、貴方は窓から出入りするんでしょうか。ドアがきちんとあるのに!」
怒っている。それもかなり。
ユリウスはアレクセイの鋭い言葉にたじたじとなり、「悪かった」と素直に謝った。
「元気になった貴方が見れて嬉しいですが、反面とても心配です」
「悪かったって……」
「悪かったと言って、またやるんでしょう? このやりとりは何回目だと思っているんですか。鎖にでも繋いでおかないと、貴方は本当にすぐいなくなりますからね」
それは領地から脱走したことなどを言っているのだろうかと。
ユリウスは質問したくても我慢した。今、一言いえば、十になって返ってくる気がした。意外とアレクセイは根に持つタイプだ。話を逸らそうとユリウスは咳払いをした。
「なあ、アレクセイ」
「なんですか?」
「王城に帰るぞ。急ぎの用事がある」
「え?」
固まるアレクセイにユリウスは得意げになってほくそ笑む。
「ちょっとだけ、懲らしめたいやつがいるんだ」
傍らではアレクセイがのんきな顔で眠っており、ユリウスは小さく笑ってしまう。
昨日居たメアリやロンの姿はなく、夜に外された器具はそのまま部屋の片隅に置かれていた。
アレクセイの腕から逃れ窓のカーテンを眺めれば、見慣れた王都とその奥に見える自らの領地が見えた。その領地をなぞるように窓がらすに手を置く。
そして、遠目でアレクセイを眺める。起きる気配はなかった。
「爆睡だな」
ユリウスはベッドに転がり、すやすやと眠る横顔を見つめる。道中はずっと夜勤をしてくれており、昨日の昼間は寝ずに夜まで共に過ごしていたことを思い出す。
「ぐっすり寝とけよ」
彼から離れて、ユリウスは着替えた。メアリや彼が買い揃えてくれた変装セット。ユリウスは昨日から考えていたことをやろうとしていた。
こうして、ユリウスは一人で街中を歩いている。
ロンは疲れのせいか爆睡して肩を揺すっても起きず、メアリの部屋は窓をノックをしても起きて貰えず。勝手に入ることを諦めた。そのため、アレクセイの傍に手紙を置き、ユリウスは首に簡易的な包帯を巻いて外に出ていた。
変装して歩く街中は、やはり新鮮だ。誰もが驚いた顔を見せない。怯えた顔も嘲る顔もない。なるべく人混みは避けながら、屋台を通り過ぎようとした時だ。
「兄ちゃん、ラム肉のハンバーガーはどうたい!?」
「ハンバーガー?」
屋台前で突然呼び止められ、ユリウスは足を止めた。袋に入ったパンとミンチ肉を若い男性店員に見せられ、ユリウスは少し迷う。
普段なら素通りしているが、ラム肉と聞いてアレクセイの顔を浮かんだからだ。屋台の隅っこには値段が貼られており、ユリウスは小さく息を着く。
「二つ……いや、五つ欲しい」
懐から領収書を出そうとし、ユリウスは思いとどまる。こっそり手に入れていた現金をそのまま渡し、商品を受け取った。
「にしても、兄ちゃんは旅行に来たのかい?」
「ああ」
「表通りに行かなかったのは?」
「人ごみが苦手なだけだ」
ユリウスはハンバーガーの袋を受け取った。全部で五個揃っている。
すると、目の前の店員は酷く落胆していた。
「いや、大通りの商店街は見たかい?」
「ああ。人が多かったな」
だからこっちを選んだのだとユリウスは思う。
「何かあったのか?」
「ああ。向こうに馬車エリアができたせいで、こっちにお客さんが来なくなったんだ」
「それは……」
ユリウスは押し黙る。彼らに店を畳んで、そちらに行けとも言えなかった。だからと言って、今日の商品を買い占めたり、お金で支援するという訳にはいかない。そういう簡単な問題ではないからだ。
「ちょっと愚痴りたくなってな」
「まったく、お客さんを困らせるんじゃないよ。すまないね」
そう言ったのは隣で果物を売っていたおばさんだった。
「いえ。昔はこちらが王都の大通りだったと記憶していたのですが」
「昔はこっちが大通りだったのにねぇ。今じゃ、昔の名残もないよ」
時代とは、とユリウスは思う。おばさんからぽんっと果物を手渡された。
「こっちの通りに来てくれたお礼だよ。また来ておくれよ」
オレンジだった。それを受け取って、「ありがとうございます」と袋の中にしまう。
困った顔をするおばさん、少し申し訳なさそうにしている若い男性店員。二人の顔や奥にいる魚屋の顔を見つめた。小さく頭を下げ、ユリウスは離れた。
その後は魔石を領収書を使って買い込み、簡易的なチョーカーも買った。首につければ、少しは包帯が隠れ、ほっとする。やりたい事を全て終え、城へ戻ろうと思ったユリウスだったがふと立ち止まる。
帰る前にもう一度だけ商店を覗くことにした。
屋台の通りは閑散としていた。時折、ここらに住んでいると思われる主婦が買い物をしているぐらいで、活気は見当たらない。このままでは経営はきついだろうなとユリウスは思う。
「あれ、さっきの?」
声をかけられ、ユリウスは肩を大きく揺らした。背後を振り返れば、魚屋のおじさんがいる。
「少し気になってな」
「すまねぇな。めっきり人が来なくなってしまってな。地代も高くなったし、ほら……奥の八百屋も店を畳んでしまってな。地方都市にいったって話だ」
「地代はいくら取られているんだ?」
「七ペリーだったか」
「高いな」
ユリウスの良い領地ですら、一ペリーだ。王都は倍になっても、四ペリーがいいところだろう。ユリウスは少し考え、「ここら最近で高くなったか?」と尋ねていた。
「いや、半年前ぐらいだっただろうかね」
「ちょっと帳簿を見せてくれるか?」
「あ、ああ。あんた、もしかして、金融系に詳しいのか?」
「ああ。一応事業主としての免許も持ってるぞ」
「若いのにすげぇなぁ」
魚屋のおじさんと共に彼の店の中に入った。椅子を勧められ、おじさんが店の奥に入っていく。ユリウスは魚の質を眺めた。鮮度は良いが、冷凍されたものが目立つ。なるべく、鮮度を落とさないようにと順繰り回してお店に並べているのだろう。
努力も見えるが、そろそろ限界も見え始めていた。ごみとして捨てられた生ごみ。冷凍焼けした食品。ユリウスは何も言わず、おじさんが持ってきた帳簿を開いた。
「これが、半年前の地代。こっちが今の」
「高いな……」
ユリウスは地代、そして、販売料金も眺めた。何かがおかしいと首を傾げ、「ここらはエリック王が管理しているのか?」と尋ねた。
「王都の領主は別にいるし、ここらはギルス子爵様が管理しているよ」
記憶の糸を引っ張り出し、ユリウスとはあまり関わりなかった男の顔を思い出す。ユリウスは少し考え、「エリック王には生活がきついと伝えたのか?」と小首を傾げた。
「いや、地代が高いなんて知らなくて。値上がったのも理由があるのかと」
「そうか」
だいぶ話が見えてきたとユリウスは思う。すくっと立ち上がり、「すまんが、これをエリック王に見せてもいいか?」と伝える。
「え……大丈夫だが、そんな事可能なのか?」
「ああ。数日借りることになるかもしれない。もし、大丈夫であれば他の商店の帳簿も貸してくれ」
ユリウスの言葉におじさんは目を丸くしている。
そんなこんなで魚屋、ハンバーガー屋、果物屋などの帳簿を借りたユリウスは王城へ向けて足を運ぶ。
大通りの視察も屋根の上から行い、色々とデータがそろってきた。小さく息をつき、屋根から飛び降りた時だった。
ぐっと腕を引っ張られ、ユリウスは思わず腕の相手に蹴りを食らわせた。
「ユリウスさん」
「アレクセイか?」
足蹴りが顔面にヒットしたらしいアレクセイがむすっとした顔でユリウスを見ていた。
「すまねぇ」
「突然腕を掴んだ俺も悪いとは思いますが、貴方の足癖の悪さはどうにかなりませんか?」
「前はきちんとガードしてたのにな」
足を下ろせば、彼はため息をついて、そのままユリウスを抱き上げた。
「おいっ」
人目がつくと暴れるユリウスだったが、アレクセイは下ろしてくれなかった。
「貴方って人は……王城が大騒ぎになっているんですよ」
「知るか」
「起きたら傍に貴方がいなくて、心臓が止まるかと思いました。扉前に護衛もいたのに、どうして、貴方は窓から出入りするんでしょうか。ドアがきちんとあるのに!」
怒っている。それもかなり。
ユリウスはアレクセイの鋭い言葉にたじたじとなり、「悪かった」と素直に謝った。
「元気になった貴方が見れて嬉しいですが、反面とても心配です」
「悪かったって……」
「悪かったと言って、またやるんでしょう? このやりとりは何回目だと思っているんですか。鎖にでも繋いでおかないと、貴方は本当にすぐいなくなりますからね」
それは領地から脱走したことなどを言っているのだろうかと。
ユリウスは質問したくても我慢した。今、一言いえば、十になって返ってくる気がした。意外とアレクセイは根に持つタイプだ。話を逸らそうとユリウスは咳払いをした。
「なあ、アレクセイ」
「なんですか?」
「王城に帰るぞ。急ぎの用事がある」
「え?」
固まるアレクセイにユリウスは得意げになってほくそ笑む。
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