『狂人には恋の味が解らない』 -A madman doesn't understand love-

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4.Weapons don't know the taste of love.

第四十九話

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 ガリュアス領は忙しさを増していた。すっかり忘れられていた王都の豊穣祭が待っていたからだ。
 ユリウスとアレクセイが帰って来てから、早一か月。
 今年もまたワインを出すという考えで進んでいた工場。そこにユリウスが向かい、「ワインともう一本別のものを持っていく」と伝えられた工場長の顔が忘れられなかった。
 これで仕事も終わるといった時に、突然現れた領主に伝えられれば、はいそうですかと返事するしかない。
 騎士たちがえげつないとぼそぼそ言う背中にユリウスの蹴りが入った。

「お前らも手伝え。ジュースにする。子供も飲めるのを作る。特に今度は酒をあまり飲まない女性をターゲットにする」
「え!?」
「職人、前こっそり作ってたレシピ出せ」

 誰もが悲鳴に近い声をあげた。
 そんなこんなで領地は豊穣祭間近プラスして、領主の発言に突然沸いた。けれども、職人は職人。流石に「去年と同じ物を王や他領主らに振舞うのか。そんな程度のものでお前は満足してしまうのか」と言われてしまえば、彼らにも火がつく。
 確かに質の高いワインだった。アレクセイは貧乏舌のため食べられれば良い方だが、とても良いものかと問われれば、美味しいと頷いてしまう。
 去年も質が高いと歌われた領地ワイン。それを今年も三回連続で称号取得となるのかと言われれば難しいだろう。
 なにせ、皆してこぞって美味しいものを作ろうとしているのだから。

「ここの領主は鬼だ」
「さっさと手を動かせ。武器しか持てんやつは瓶にラベルを綺麗にはれ。少しでもぶれたら、工場一周走ってこい」
「うわあああん。鬼っスよぉおお」

 そう言いつつも、領主自らがラベル張りを手伝っていれば、流石にユリウスに連れてこられた騎士や職人たちも油に火。
 豊穣祭に出すワイン造りにかなり燃えていた。
 そんなこんなで作成されたワイン。徹夜で仕込まれ、砂糖不必要でとても甘いぶどうジュースが誕生した。

「ワインを出しても飲めないやつがいれば、作ったぶどうがもったいないだろ。何を飲んでるかと思えば、水を貰っていた。せっかくのパーティなのに」
「良く周りを見てましたね」
「別に」
「ダイエットしてたのかもしれない」

 ふと、アリアがそんな事を言えばまた領主であるユリウスが難しい顔をする。
 流石にもう次の手は打たないだろと思っていれば、やはり鬼だった。

「なら、甘みの少ないスパークリングを作る。炭酸はとても体にいいからな。特に砂糖がなければ……健康に良いぶどうはどれだ?」
「ええっ!?」

 工場に悲鳴があがった。結局、ワイン、ジュース、スパークリングが誕生した。
 よくこんな短期間にできたなというのが、アレクセイの率直な感想だった。どうやら、職人の中にもジュースの構図を考えていた人もいたらしく、それが救いとなった。流石にスパークリングという点は皆頭にはなかったが。






 
 また、メアリはロンが治安部隊に戻った後も滞在してくれていた。
 アレクセイやユリウスが止めたわけではなく、アリアやマリアがあの手この手で足止めをしているようだった。
 ユリウスの状態を確認してくれており、現在では報奨金を手渡している。アリアとマリアが二人で彼女の息子に手紙を送ったらしく、息子がガリュアス領に来ることになったらしい。

「まったく、あの双子は元気だねぇ」
「いつもありがとうございます。多分、年上の女性がいなかったから、甘えたい盛りなんでしょう」
「多分、別の目的があると思うけどねぇ」
「別の目的?」
「あんたは多分気が付かないだろうさ」

 ユリウスは徹夜明けの顔でメアリと対面していた。彼女は魔力測定から魔素の検査、そして、彼の隈に気が付き、顔にクリームを塗ったり。その度にユリウスが女性じゃないと苦言するが、メアリに一括されて終わるのが常だった。
 そのクリームのおかげか、彼の頬はつるつるとした見た目をしており、アレクセイがさりげなく触れれば、もちもちとしている。

「あんたねぇ、人よりも病弱なのに徹夜とはどういうことなんだい」
「それは」
「それに魔素の薬飲み忘れてないかい? これ二日分あげたはずだろう。なんでこんなに残っているんだい!?」
「うっ」

 流石のユリウスもメアリには勝てないようだ。たじたじとなる彼を見て、アリアとマリアがほくそ笑んでいる。

「メアリさん、これも試してみてくれるかの」
「これは豊穣祭で使うのかい?」
「うん。私たちが言っても絶対着てくれない」
「へぇ。アルター国の民族衣装かい。豊穣祭にはいいんじゃないかい」

 アリアとマリアが出してきた衣装にユリウスが逃げ腰になった。逃さないと言わんばかりに二人がユリウスの肩を掴んでいる。アレクセイは思わず笑ってしまう。実はアレクセイも二人から数パターンから提案され、彼女たちが選んでいるのはそのうちの一つ。
 領地にある仕立て屋がユリウスの衣装だと知り、張り切って作っていると聞いたのはつい数週間のことだ。

「着てみてください」
「アレクセイ」
「大丈夫です。俺も確認しましたから」
「お前が見てるから不安なんだ」

 彼が困惑したようにじっと見つめている。やがて、彼はアリアやマリアを見て、最後にメアリを見た。

「いつもの変な衣装じゃないよ。ほら、こっちに来てご覧」

 メアリに奥の部屋へ連行され、彼はすんなりと言うことを聞いて部屋の奥へ消えていった。

「ユリウス様、本当に素直」
「メアリさんが絡むと別人のようじゃ」
「アレクセイ、絶対びっくりする」
「ああ。下手したら、手を出してしまうかもしれんのぅ」
「そういうセクハラっぽいのはやめてください」

 恥ずかしいからと伝えれば、アリアとマリアは二人そろって「意外」とだけ言った。変なところだけ、二人は似ているのだとアレクセイは思った。
 どれぐらい部屋で待機をしていただろうか。メアリの背中に隠れて、こっそりと現れたのは民族調の衣装を着たユリウスだった。白い髪を耳にかけ、耳元には赤い花。
 上からすとんと羽織る青ベースの赤と白などの刺繍が施された美しい衣装だ。長さは足首ほどあり、ぱっと見ればスカートのようだが、下部に施された金色の装飾が男性だと告げている。また両肩にはワイン色の布をかけており、膝下ぐらいまですっぽりと隠れていた。そちらには領主を告げる白い糸の刺繍が使われており、何よりも彼の白い髪を引き立てている。

「じろじろ見るなよ」

 恥ずかしそうにメアリの背後に隠れてしまう彼。アリアとマリアすらも見とれて何も言えなかった。

「とても綺麗です」

 アレクセイがそう伝えれば、彼の頬が染まる。視線が下に向き、「当たり前だろ」と返事が返ってきた。

「やっぱり、綺麗だろ? ほら、それをパーティに着ていくんだ。歩きづらいとか、そういうのはないのかい?」
「あ、ああ。むしろぴったりでびっくりしている」
「あ、ユリウス様。ちょっと違う」
「は?」

 アリアがすたすたと歩いていくと、彼の肩にかけていた布の位置を頭から被せた。白い髪が少し隠れ、顔が布から出ている状態だ。きょとんとしたユリウスの顔を眺めた彼女は嬉しそうに笑う。

「こうしたら、先約がいますって意味。私には先約がいますから、顔は見ないでくださいって」
「なっ」

 彼の顔がトマトのように真っ赤になった。ぶはと笑ったのはマリアだ。ユリウスは何か言いたそうにいたが、口をぱくぱくとさせ、終いには何も言えずにメアリの影に隠れてしまった。

「ほら、アリアもマリアも揶揄わらない。あんたも初心過ぎるよ」
「俺は別に!」
「まあ、そっちの方が日光を浴びないからいいかもね」

 ユリウスの衣装を再度チェックするメアリ。

「首のチョーカーもこうしたら目立たないし……うん、これでいいんじゃないかい」
「はい」

 ちらっとユリウスがアレクセイを見てくる。少し照れたような、そんな視線を送られ、アレクセイはくすりと笑う。

「とても似合ってますよ」
「あり、がとう」

 彼は顔を俯かせて言う。そっと布を開けて顔を眺める。すると、きゅっと唇は結ばれて、恥ずかしそうにしている顔がそこにはあった。
 赤い瞳が上目でアレクセイを不安そうに見つめている。なぜ、そんな顔をするのだろうかとアレクセイは小首を傾げた。
 そんな様子を見たメアリがくすりと笑う。

「私たちは行こうか」
「うん」
「え?」

 メアリとアリア、マリアが退出した。残ったのはユリウスとアレクセイだけだ。

「アレクセイ」

 彼はそう言うと、手をアレクセイへ伸ばしてきた。彼の手がそっと頬に添えられる。
 彼の綺麗な瞳が閉じられ、触れるだけのキスが頬に送られた。その事に思わず驚けば、彼は照れ臭そうに俯いてしまった。
 名残惜し気に離れていく顔を思わず掴んで、彼の唇を己の口で捕まえる。彼の顔が真っ赤に染まり、必死に応えようとする姿。しかし、息ができていなかったらしい。

「んっんんっ」

 ユリウスの腰がガクンと砕け、思わずアレクセイは彼を支えた。唇を離す。
 小さく息を整え、彼はぎゅうっとアレクセイに抱き着いてくる。それが酷く愛おしかった。
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