『魔王は養父を守りたい』

odo

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第一章

第十五話

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「ビルシュ様、ご用意ができております」

 後ろからテリーが腕にすっぽり入るぐらいの紙袋を持って現れた。
 アデルライトの家紋のシールで袋を留められている。ビルシュはそれを受け取ると、そっと屈んでアランに手渡した。そして、アランの服の乱れを直すと、ゆっくりと立ちあがった。

「すまないが、二人ともよろしく頼む」
「はい」

 後ろでレオンハルトがにやにやとしているが、アランは無視をした。首に巻いたマフラーは酷く暖かい。火のマナで編んでいるおかげだろう。

「いってきます」
「気を付けていってらっしゃい」

 初めて手を振って外出を見届けるビルシュとテリーを眺め、二人を後にする。
 アランとレオンハルトは外へ出かけた。レオンハルトを守るための影たちもついてきているのが解る。影たちは景色に紛れてはいるが、違和感のない程度にこちらを時折みているようだった。流石第一皇子、とアランが思ったところで、少し離れたところにテリーがいるのも確認した。
 気が付かないふりをし、アランはレオンハルトに視線を移す。どうやら、レオンハルトも気が付いたようだ。彼も気が付かないふりをし、にっと笑う。

「にしても、ビルシュさんと思ったよりも仲良くやってるみたいで良かった」
「別に……」
「アランの事だから、あんな事があった後でもツンツンしてるんじゃないかって思ったぞ」
「なんだって? どういう意味だ?」
「ほら、そういうと……いだいいだい!」

 アランがレオンハルトの頬を抓りながらため息をつく。

「そこまで愚かじゃないさ……あんな無垢すぎる人に対して、そこまで外道じゃない」

 ぱっと放せば、レオンハルトは赤くなった頬をさすっていた。彼は目の前に見えてきたカフェの看板を見て立ち止まった。小さな喫茶店だった。こじんまりとしているが、おしゃれなインテリアが並んでいる。

「にしても、結構箱入りだったんじゃないか? まるで、城から出たことがないみたいだ」
「箱入り? ビルシュさんのこと?」
「ああ。ビルシュさんだっけか。王族にしては、ちょっと警戒心がないし。ほわんってしてるというか、無垢っぽい。初対面の俺があんなに接近しても警戒はしてなかった。あれで演技してるなら、なかなかだけど」

 確かにという言葉は飲み込んだ。レオンハルトは言葉を続けた。

「まあ、そういう意味では、警戒心の塊のアランと吊りあいが取れてるんじゃないか」

 彼はそういってカフェの扉に手をかけた。カランと音と共に二人が店内に入れば、店員が二人を中の席へ進めてくれた。アランは店員にアデルライト家紋の入った紙袋を渡せば、店員の表情が一気に輝いた。
 アランは店員から封筒を貰い、レオンハルトと一緒に個室へ案内される。レオンハルトはコーヒー、アランは紅茶を注文し、暫くしてから飲み物が届いた。それを確認したレオンハルトは光魔法で防音効果の障壁を貼った。そして、彼はふぅとため息をついた。

「アラン、本当にこの時代に来てしまった理由わからないか?」
「解っていたら、もう行動してる」
「だよなあ」

 レオンハルトはテーブルに崩れる様に上半身を乗せた。

「闇のマナは恐らくアランのだとは思った。階段から闇のマナが膨れ上がってたんだ。二階は闇のマナで埋め尽くされていたし、視界を覆い隠すぐらいだ。だから、俺はお前のマナを調整しようとして、階段を上がったんだ」
「俺のマナが暴走してた?」

 確かにマナを制御できなくなったところまでは記憶にある。
 そして、何かの光がそれを浄化したのも薄っすらとアランの記憶にある。ずっと、レオンハルトのマナだとアランはずっと思っていた。
 考え始めたアランの様子を眺めながら、レオンハルトはこくりと頷いた。

「そうだ。だけど、闇のマナがあまりにも強くて、俺でもこれやばいかもしれないって思った。魔族が放出するマナを超えていたと思うぞ。どうしようかって悩んでいたら、何処からともなく光が闇を弾いて、辺り一面が真っ白になった。気が付いたら、俺は幼い姿をしてベッドで朝を迎えてた」

 レオンハルトは小さく息をつく。

「父さんにその話をしたら、頭でも打ったかと思われて、一日両親が離してもらえなかったのはきつかったな。魔王再来の予兆か! なぁんて、泣きつかれるし。治癒した者には大量の褒美をって父さんが言いだして、国中の治癒術士がこぞって城前に並ぶなんて誰が思ったと思う?」
「流石勇者の子孫レオンハルトだな」

 アランは両親から溺愛されている彼がフォーバー国からこっちに来れたなとぼんやりと思った。

「まあ、それは置いといて。本当にあの時代で過ごした記憶が夢だと思ったらと思うと恐ろしかった。アランに会えてよかったよ」
「そりゃどうも。俺もレオンハルトが来てくれて、状況の整理ができてよかった」
「お互い様だな! そういや、時渡りについてだけど、光のマナで闇のマナを浄化しても、時渡りなんて事例は聞いたことがない。そして、この場合なら俺は自分でマナを使ったと解る。俺は自分の光のマナではないと確信してる。そして、俺やアランは時間転移なんて人間離れの魔法を持っていない」
「つまりは?」
「恐らくは、光のマナを持つ何者かが、アランのマナを浄化したと考えてる。けれど、この考えは恐らく不可能だ」
「そもそも、光のマナを持つ者が非常に少ないってことだろ?」
「そうだ。国別で数えても一人か二人だ。ブロステリアの光のマナ保持者はビルシュさんだけだった。そして、傍には俺がいたぐらい」

 レオンハルトはビルシュの部屋にあったであろう魔方陣を描いた書類をテーブルへ並べる。アランが良く知る養父の部屋にあった防衛術だ。

「これはビルシュさんの部屋にあったもの。知らない人がきた時に人間を弾く防衛魔法だな。しかも、高度なものだ。流石は複合魔術を考えるだけある」
「けど、時を渡るような魔術をする変わった魔方陣はないな……」
「ああ。そして、サブの魔方陣は侵入者の魔術を無効にするものが多い。そして、もう一つ時渡りについて考えられるのは、アランの養父が残した魔方陣が影響を与えた場合だ」
「これ以外の魔方陣が隠されてたって事か」
「そうだ。確かビルシュさんは光のマナを持ってたろ? でも、この場合でも考えられるのはほぼ不可だ。いっちゃ悪いが、アランがビルシュさんを殺してしまっていたから」

 アランが深くしっかり頷く。アランはきちんと絶命をした事も確認している。
 発動した魔法を壊すため、弱っていた養父を剣で突き刺して殺した。
 目を閉じてぐったりとして、自分の腕の中で息を引き取ったのを良く覚えていた。アランがぼんやりと考え事をしているのがレオンハルトには分かったのか、彼はわざとらしくアランの視界にぐいっと身を乗り出し入り込んでいた。

「今ならまだきっと大丈夫だ。原因は分からないが、これは機転となる」

 レオンハルトは笑っていた。彼は話を続けた。

「そうすると、考えられるのは壊されていない魔方陣が屋敷のどこかにあり、それを誰かが意図的に起動したって事。もしくはビルシュさんが死んだあとにでも魔法を起動できるようにしてたか。まあ、後者の方が可能性が高いが、何のためにってところだな。自分が使用するにしても、理由がわからない」
「前者の場合、犯人もこの時代に来ている場合があるって事か。まあ、屋敷の魔方陣チェックはしてみる」
「魔方陣の件は頼んだ。そして、ビルシュさんの魔法でなく、もし犯人が実行していた場合、俺たちのように記憶を保持している場合もある。けど、かなり可能性が低いだろう」

 一番厄介だ、とレオンハルトがため息をついた。

「あの屋敷には影たちがいたし、俺やそして闇のマナを持つアランが気が付かないはずがない。何より、術者に動きがない。もし、記憶を持っていたなら、俺が合流する前にブロステリアを破壊しているはず」
「どっちにしろ、水面下で動いている可能性はあるけどな」
「その可能性もあるな。俺は身分を偽ってこっちに来たんだ。何かできると思ってさ」

 まあ、今のところだとお手上げだなとレオンハルトは苦笑した。彼は出されたコーヒーを飲みながら、「俺からしたら、やり直しできるっていう所ではすごくラッキーだ」と肩を竦めて見せた。

「そして、なるべくは早くお前と合流したいと思って、俺はこのブロステリアに留学する事にしたんだよ」
「こっちに来るのか?」
「ああ。前はお前がフォーバー国に来てくれたんだから、少しは還元しないとな」

 レオンハルトはウインク一つし、「それに、前回解決できなかった犯人捜しをしてる」とため息をついた。アランも紅茶をゆっくりと頂く。飲んだことのある味に、アランがはっとした表情を作る。

「犯人捜しって……何かあったのか?」
「もちろんだ。聖女様の神殿が氷漬けされたんだ。宝物も消えてる」
「ぶ!?」

 思わず紅茶を噴き出しかけたアランの脳裏に自信満々で胸を貼るどこぞの自称雪の女神の姿が浮かんだ。
 やっぱり、大丈夫じゃないとアランは内心ツッコミを入れた。
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