『魔王は養父を守りたい』

odo

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第一章

第二十九話

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「はい。私がビルシュ・アデルライトです。こちらは私の息子と友人の子レオンハルト」

 アランはビルシュと会話をする神父をじっと眺めた。
 様子のおかしかったビルシュを気にかけながら、神父に怪しいところがないか観察をする。
 ぼろぼろな教会の割に身なりの良さは気にはなるが、不思議とおかしな点はない。
 しかし、対するビルシュの顔色が悪い事に気が付き、アランはゆっくりとビルシュに近寄り、そっと手を握り締めた。
 驚いた彼はアランを見たが、きっとアランの意図に気が付いたのだろう。

「すみません。息子が少し肌寒いようでして……」
「これは失礼致しました。まだ中の方が暖かいです。案内しましょう」

 案内を始めた神父の後を追い、三人がゆっくりと進む。
 ちらっとアランがレオンハルトを振り返れば、行こうと言わんばかりに彼は頷いていた。
 歩けば床がきしむ。床はワックスこそ塗られてはいるが、とても古く、傷跡も多く目だった。
 中は本当に必要な物だけが揃う教会だった。中に入ればすぐに礼拝堂があり、その奥には崩れかけた十字架。そして、祈るための椅子がずらりと並んでいる。

「狭く古いところで申し訳ありませんが」
「いえ、少しでも環境が良くなればと思います。こちらで保護されている子供たちは……」
「ええ。裏に小さな三つの部屋があります。やんちゃな子が多いですよ」
「そうなのですね。そして、寄付金のお話になりますが」

 ここからは金額の話になるらしい。
 ビルシュと神父が話す内容をぼんやりと聞きながら、アランはビルシュの顔色の悪さが気になっていた。
 ここに来てから、どうも彼の様子がおかしい。
 手を握りながら、そっと彼にマナを送っているが、マナが満ちる事はなく、常時抜けていくようだとアランは思う。

「では、こちらの金額でお願い致します。少しお待ちください」

 神父が奥の部屋へ消え、ふらりとビルシュがよろめいた。
 アランが掴んでいた手を引き寄せれば、彼は何とかバランスを保つが、どうも様子がおかしい。

「大丈夫だ」

 彼は困ったように笑う。
 レオンハルトを振り返れば、彼も少し気難しい顔をしていた。

「大丈夫か?」と小声でアランが尋ねれば、彼は眉をひそめている。
「外は平気だった。けど、中が変だぞ、ここは……」

 レオンハルトがぽつりと呟く。

「変?」
「マナが取られているような……アランは平気なのか?」
「ああ。俺は何ともない」

 レオンハルトもビルシュを気にしているのか、そわそわとしているように感じる。
 神父がすぐにやってくると、大人のやり取りがはじまり、ついには寄付をするための書類に印鑑が押された。
 レオンハルトの顔色も悪く、アランは辺りを警戒し、はっとする。教会の奥に一人の別の神父がいた。
 顔こそは黒い帽子と布ですっぽりと隠しているが、透けた布からはとある写真で見かけた顔があった。
 ただ、それは一瞬の出来事だ。彼はアランに一礼すると、すぐに奥へ戻っていってしまった。しかし、写真と顔は酷似はしていたが、雰囲気はビルシュとは似ても似つかない。
 アランは思わず追いかけようとしたが、傍の手のぬくもりに気が付き思いとどまる。

「では、今後ともよろしくお願い致します」

 挨拶を終えて神父がにっこりと笑顔を見せる。ビルシュは「こちらこそ」と頭を下げた。
 アランと手を握っているためなのか、握手はしなかったらしい。
 具合の悪そうなビルシュを眺め、そして、次に顔色の悪いレオンハルトも見る。
 先ほどの男性の事や室内を点検したかったアランだが、様子のおかしい二人を見れば、考えががらりと変わる。今日は早く帰った方がいいだろうと思い、「ありがとうございます。参拝して帰ります」と伝えた。

「はい。神のご加護がありますように」

 三人が挨拶を終えて、教会の祭壇へ進む。神父は書類を抱えて部屋の奥へ消えていった。
 ビルシュが礼拝堂の椅子に腰を下ろす。アランはそれに倣い、彼の隣へ腰を下ろした。
 ビルシュが額を抑え、目を瞑っている様子を眺めた。彼の肩を揺すったが、くぐもった声が響くだけ。もしかして、光のマナが原因かとアランが思った瞬間だった。
 アランの隣に座ろうとしたレオンハルトがぐらりと体を揺らし床に転倒した。
 彼は何とか腕で受け身をとったが、立ち上がれないようだ。

「レオンハルト!?」

 アランは思わず彼の傍に駆け寄り、彼を助けようと膝をついて顔を覗き込んだ。
 彼はぐったりとしたまま、唸っていた。

「くっそ……力がぬけて立ち上がれない。なんだこれ……」
「まさかとは思うが、情報が洩れてないよな」

 アランはレオンハルトにだけ聞こえる様に小さく呟く。

「わからんが、可能性は……」

 アランは簡易的な治癒魔法をかけ、レオンハルトを起こそうとするが、彼はまるで重力支配を受けたようにくぐもった声をあげ、立ち上がれないでいた。
 しかし、彼ははっとしたように目を見開いた。その目は驚愕に満ちている。

「レオンハルト?」
「アラン、逃げろ……!」

 アランがレオンハルトの視線先を振り返ろうとした瞬間、アランの視界は一瞬にして真っ暗になった。
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