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12.悪役令嬢、NTRはNGのようです
しおりを挟むさぁ、悪役令嬢の本領発揮しますわよ!
「ソフィア様?婚約者でもない男性に抱きつくなんて、はしたないですわ」
そして、
「フェル様?婚約を前提にお付き合いされている令嬢がいらっしゃるなら教えて頂きたかったですわ。
……私は王命で仕方なく据えられた名ばかりの婚約者でしたのね。(涙を目に溜めて)…っ。私は、私は、それでもフェル様のことっ。……失礼いたしますっ」
そう言って、ローゼリアは会場を後にした。
……悪役令嬢として振る舞うんじゃなかったのかって?
あら、わかってませんのね?
会場の貴族の反応を見てみなさい。
今頃、あの二人は針の筵よ?
王命で決められた婚約者を、その婚約を祝う夜会の席で蔑ろにして、会場から追い出したのよ?
しかも、ソフィア嬢は肉食系美女。見た目が悪役令嬢にピッタリ。私は黙っていれば天使のようだと言われるか弱い美少女。
ソフィア嬢は子爵令嬢、私は公爵令嬢。
世論がどちらの味方になるか、火を見るよりも明らかでしてよ?
ソフィア嬢にも腹が立つけれど、私的にはフェンリル様に怒りを感じておりますの。
だって、フェンリル様は騎士団長。敵の攻撃を避けるのは御手の物なのに、たかが子爵令嬢の突進を避けられないわけないでしょ?
なのに、胸を押し付けられて、抱きつかれて、それを言葉で拒絶するだけで、無理矢理引き剥がしはしなかった。
つまり、許容したのよね?
これが許しておけようか……否!!
……私だって、慎ましいけど形は美しい立派なモノを持っておりますわ!敢えて、そう敢えて主張していないだけで!
激おこぷんぷん丸案件である。
というわけで、少しお仕置きするつもりでフェンリルを置き去りにしてきたが、彼のことだからすぐにローゼリアを追いかけてきて釈明するだろうと会場の出口付近で待っていた。
だが、しばらく待ってもフェンリルは出てこなかった…
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「奥様、今日は良い天気です。当家の薔薇園に東屋がございます。そこでお茶など召されませんか?」
侍女に勧められるも、気分が乗らないローゼリアは「結構よ」と断った。
あの夜会から二日が経った。
あれからフェンリルには会っていない。
というか、屋敷にも帰ってきていないようだ。
執事のセバスティアンに尋ねても、旦那様は仕事で王宮にお泊まりになられています、としか言わないし。
ソフィア嬢と乳繰り合っています、の間違いじゃないの?
……これが、罰なのかしらね……
あの夜会会場で二人に言った言葉は、あながち間違いではなかったのかもしれない。
フェンリルとソフィアは本来婚約する予定だった。それを隣国の我儘令嬢ローゼリアが婚約破棄され、急遽アルジャンへ嫁いでくることになった為、王命により二人は引き裂かれた。
真面目なフェンリルはローゼリアを愛そうと努力したが、本心ではソフィア嬢を想っていた。
愛する二人を引き裂いた悪役令嬢ローゼリアが真に愛されることはなく、二人に憎まれて寂しく余生を過ごすこととなる……
なにこれ、切な過ぎる……
ソフィア様、可哀想……
なぜかしら?『浮気、ダメ、絶対!』や『寝取られNG』といった、よく分からない言葉が脳内に浮かぶ。
浮気なら分かるわ。
貴族なら皆していることよね?
でも、どうやら、私は浮気を許せない性質みたいね。
だって、強烈な拒否反応が出ているもの。
あんなに素敵に見えたフェンリル様が、人の男と思っただけで、色々と萎えてくる……
はぁ、と溜め息がでる。
私は結局、どこにいても悪役令嬢なのね……
窓の外を見上げる。侍女が言うように、確かに良い天気だわ。さっきは断ったけれど、薔薇、見てみようかしら。
レオン様と婚約したばかりの頃、王宮の薔薇園で王妃様主催のお茶会が開かれた。お父様と身重のお母様も一緒に出席したわ。お母様はこのお茶会の後、弟を生んでお亡くなりになってしまうから、お母様と出席出来た最後のお茶会ね。
「ローゼ、この薔薇はプリンセスローゼという品種なんだ。君の名前と同じだね?……はい、どうぞ。僕のお姫様」
そう言って、レオン様はトゲを処理した薔薇を一輪、私に差し出して笑った。
幸せだった頃の記憶に、胸を締め付けられる。
私はなぜ、あんなにも幸せな時間を壊してまで、我が儘に振る舞ったのかしら。
お母様が亡くなって、お父様は家にあまり帰って来なくなった。その代わりなのか、私の願い事はなんでも叶えてくれた。
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レオン様は、そんな私をいつも注意してくれた。何度も、何度も……
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私を真に思ってくれていたのは、彼だけだったのに……そのことに彼に婚約破棄されてから、気がつくなんて。
今更、後悔しても仕方ないのは分かってる。
でも、今は許して欲しい。
罰を受けることを忘れ、素敵な男性と今度こそ幸せになれるかもって期待した愚かな私に、過去の幸せな記憶に浸ることを、どうか、許して……
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