仄暗く愛おしい

零瑠~ぜる~

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仄暗く愛おしい

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 雨の中、自分がこのまま死ぬのだなということだけは嫌というほど理解できた。遠慮なく、体から流れ出す血液という名の生命。急速に冷えていく四肢、霞んでくる視界と遠くなる声。
(瑞樰、泣くな。瑞樰、怪我はないか?瑞樰、瑞樰、瑞樰、瑞樰、瑞樰、瑞樰。)
薄れていく意識の中で、思うのは大切な大切なたった一人の妹(恋人)の事だけ。
(お前が、無事ならそれでいい。瑞樰、泣くな。)
綺麗な瞳から、大粒の涙が止め処なく零れるのを見ながらそれでも自分の為に彼女が泣いてくれるのが嬉しいと心のどこかで思ってしまう。
(瑞樰、どんなお前でも好きだよ。でも、できれば笑っていて欲しい。)
柔らかな春の日差しの様な、見る者を暖かな気持ちにさせてくれる彼女の頬笑み。
(好きだよ、瑞樰。大好きだよ。)
出会った日から、ずっと大好きで大切な妹で恋人。
こんな感情は間違っていると何度も、何度も自分を戒めたがどれほど気持ちに蓋をしようと溢れ出る想いはとめることが出来なかった。
 動かなくなる体を、瑞樰が必死に抱きしめている。傷口を圧迫し少しでも止血しようと抑え込むが、流れ出る血液の量にそれほどの変化はない。
(瑞樰、お前が泣いてちゃ俺は心配で何処にも行けないな。)
薄れゆく意識の中、最後に思ったのは妹の幸せ。
 その最後の一瞬の願いが執着となって、消えてゆくはずの魂の欠片をこの世に留めてしまった。
キラキラと光る小さな思いの欠片となって、瑞樰の中へ。
 瑞樰の中に入り込んだ小さな欠片は、そのまま彼女の中で静かに眠るように彼女を見守っていた。
瑞樰が悲しんでいるのは分かっても、慰めることもできない。死を選ぼうと自傷行為に走る彼女を、止めることもできない。彼女の中で、ただ祈るだけの存在。
(瑞樰、瑞樰、瑞樰、瑞樰、瑞樰、なおゆき、なおゆき。)
繰り返し叫ぶのは、愛しい者の名前だけ。これ程までに傍に居ながら、声を届けることも抱きしめる事も出来ない。 キラキラと己が光るたびに、ほんの少しだけ瑞樰の涙が少なくなっていった。
初めは、偶然だと思った。悲しみで暗く沈んでしまった瑞樰の心を少しでも温めようと、願ったら自身がキラキラと光りだした。その光が続いている間、瑞樰の心が少しだけ涙の色を薄れさせた。そんなことを何度か繰り返し、自分の光が続く間は瑞樰の悲しみが和らぐことを知った。
キラキラ、キラキラと小さな光だが途切れることなく光り続けた。
(瑞樰が、笑ってくれるならそれだけでいい。)
(泣かないでくれ、お前が泣いているとどうしようもなく苦しくなる。)
(抱きしめる腕も、涙を拭う指もない。慰めるための声も無くした。)
(お前を思うこと以外、何もできないけど。どうか、泣かないでくれ。)
(笑って、瑞樰。好きだよ、大好きだよ、お前の事が世界で一番大好きだよ。)
キラキラ淡く光りながら、瑞樰の中で誰にも気づかれることなく揺蕩い続けた欠片はこの日初めてその存在を周囲に晒された。
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