仄暗く愛おしい

零瑠~ぜる~

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仄暗く愛おしい

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 雹樹が、言い放った言葉にその場にいた全員が目を見開いた。そもそも、それまで存在にすら気が付かなかったのにどうして今このタイミングで現れたのか。
「一族の人って?」
瑞樰の一族ならば、能力者だった可能性が高い。生きている者が、心だけを彼女の傍に飛ばしているのだろうかと思い尊は雹樹へ問いかけた。
「男だ・・・・この者の正体を伝えても良いのか僕には判断が付かない。」
尊の問いかけに、雹樹は困惑気味に答えた。つい先ほど、自分の考えと人の考えが異なるものだと分かったばかりの彼にとって事実をそのまま伝えるのが良いことなのかどうか分からなかった。
「この者は、瑞樰をとても大事に思っている。自分の力を削りながらずっと瑞樰の心を守ろうとしていた。」
正体を口にするのはためらいながらも、傍に居るのが害の在る者で無いと瑞樰に伝えた。
「瑞樰さんを、守るために?
一族の人で、力を削りながらも傍に居ることを望んでいる人。」
雹樹の言葉から、クリスは相手が誰かを考えた。情報が圧倒的に少ないが、それでも自分の益にもならないようなことを望んで行うような存在などそれほど居るものでもない。
初めは、瑞樰の父親かと思った。だが、それならば瑞樰の母の可能性の方が納得がいく。父親も同じ一族だが、力という点では瑞樰の母親の方が力が強い。だが、雹樹は男だと言った。ならば、正体は・・・・・・
「鏡・・乃・信?」
クリスですら気が付いたことに、当事者である瑞樰が気が付かないはずが無かった。震える声で愛しい者の名前を呼んだ。
 クリスと尊の会話を聞きながら、瑞樰は次第に呼吸が苦しくなるのを感じていた。
(な・・に?)
自分の傍に、中に自分以外の存在がいる?
それは、自分の一族の男性だと雹樹は言っている。クリスも、尊も何かを見ながら瑞樰を見ている。
(私の中に、誰が居るの?)
悪いモノではないと、雹樹が断言した。それは、キラキラと光りながら自分を守ってくれていると。
(まさか・・・・・・)
苦しくなる呼吸と同時に、一つの答えが頭の中に浮かんできた。
(う・・・そ・・・・)
本当ならば、嬉しい。でも、それは同時に彼を死んでまで自分に縛り付けていると言うことではないのか?
安らかに眠りに着くことすら、自分は邪魔をしてしまったのか。
傍に居てくれた彼に、気付きもしないで今日までいたのか。
グルグルと、思考が渦を巻き息を吸う方法も分からなくなってきた頃にクリスと尊が同時に瑞樰を見つめた。
二人も、きっと同じ考えに辿り着いたのだろうと思った。
吐息と共に、呟いた名前は愛おしい兄の名前。失ってしまった最愛の人、どれほど望んでももう現実の世界では会うことのできない存在。
「ああ、それがこの者の名前で間違いないようだ。瑞樰に名前を呼ばれて、とても嬉しそうだ。」
 瑞樰が苦しそうな表情をしているのを気にしながらも、雹樹は状況を説明した。尊やクリスには見えているのだから、変に隠すよりはちゃんと伝えたほうが良いだろうと思った。
 雹樹が、瑞樰の中に居る人物の正体を肯定したとき部屋の空気が重力を増したように感じた。
実際に、部屋の重力が変わる訳はなくその場にいる人間の感覚の問題なのだが。少なくとも、クリスはずっしりとした重さまで感じていた。
(この世の中に、神様何ていないけど・・・・・・)
迷えるものを無条件で救ってくれるような神様はいない、人間が勝手に神様と呼んでいる存在は差し伸べた救いの手以上の見返りを求める。だから、今のこの状況が不条理だとしても仕方が無いと思うしかない。それでも、瑞樰個人に対して運命は余りにも無慈悲ではないだろうかと思った。
(この人のために、瑞樰さんのやったことが何の意味も成さないじゃないか。)
目の前で青ざめ、震えている瑞樰を見ながらクリスは思わず瑞樰の中に居る鏡乃信に毒づいた。
「どうして?」
 掠れた声で言葉に出来たのは、たった一言。愛しい人が傍に居ることを喜べない、かと言って純粋に悲しむこともできない。後ろめたさと恐怖と、それでも誰よりも大事で大事で愛おしい人。
「最後の瞬間に、この者が傍に居ることを願ったのだろう。純粋で、強い願いだったから。」
瑞樰の問いかけに答えた雹樹は、キラキラと光る存在をじっと見つめた。彼にとって何よりも大事なのは瑞樰だ、これ以上この存在が彼女を苦しめるのなら消してしまおうかと思い始めた。瑞樰を案じるように明滅を繰り返す存在を、哀れに思う気持ちもある。だが、このまま留まり続けてもやがては消えていくだけの存在だ。ただ消えていくだけならば良いが、瑞樰に何かしらの影響を与える可能性も否めない。不安の芽は早めに摘んでしまった方が良いのではないかと。
「私が・・・・・・鏡乃信の・・邪魔を・・してるの?」
雹樹の視線を辿り、そこにいるであろう存在に瑞樰は問い掛けた。自分では見ることも、感じることもできない最愛の人。
「鏡乃信・・・鏡・っ・・・」
何度も名前を呼びながら、堪えていた涙が嗚咽と共に溢れ出した。
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