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想い数7
仄暗く愛おしい
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結果だけを言えば、この時の出来事は瑞樰の記憶には微塵も残っていない。
余りにも受け入れ難い出来事に、彼女の精神が耐えられなかったのだろう。数日間熱を出し、寝込んだのちにこの時の事を何一つ覚えていなかった。
だから、瑞樰は鏡乃信と死に別れるまでいや死に別れてすら「自分は彼に触れる事が出来なかった。」と後悔を引きずることになった。
鏡乃信にとって、瑞樰が覚えていないことは不幸中の幸いでもあったがそれと同時に絶望感も覚えた。
自分との営みですら、彼女にとっては恐怖の対象でしかないのかと。どれほど、愛しんでも瑞樰にとって肉欲を交えたモノは全て恐ろしい存在なのだと。
「クソっ、」
その事実に、口汚く罵りながらも心の憶測では安どしている自分もいた。瑞樰を抱いたことに後悔はない。だが、そのことで瑞樰に恐れられ離れて行かれては元も子もない。
体を繋げることは出来なくとも、傍に居て瑞樰と共に生きてゆけるのならそれでいいと。ゆっくりと時間をかけ、瑞樰をあの男の呪縛から解放していけばいいのだと思っていた。自分達には、これから先の長い時間があると。
未来を信じて、疑わずに。
誰も、未来など約束したわけでもないのに・・・・・
瑞樰の傷を癒すこともできず、無様にもさらなる傷を彼女に刻み付けて命を落とした。
それでも、瑞樰の傍を離れずに彼女の中で彼女を見守り共に生きていこうと思い始めていた。瑞樰の中に居れば、彼女が息を引き取るその瞬間まで一緒に居ることが出来る。瑞樰の一番柔らかな部分を包み込むようにして、彼女がこれ以上傷つかない様に余計なものに心を煩わされない様に二重三重の膜で覆った。
「俺だけの、瑞樰でいてくれればいい。」
彼女を守ると言う体のいい言葉で繕っても、本音は醜い独占欲。誰にも、瑞樰を渡したくはない。
たった一度だけの情夜、彼女の記憶に残る事の無かった営み。それでも、確かに自分達はあの時一つに繋がった。体の一番深い所で、自分の思いを彼女の中に植え付けることが出来た。誰が覚えていなくとも、自分にその記憶がある。それだけで、満ち足りた気持ちでいられる。
瑞樰にだけは知られたくない、本当の自分の気持ち。彼女が誰よりも憎んでいるあの男と同じ、薄汚いこの心。
大事な妹だと言いながら、誰よりも大切な恋人だと言いながら、彼女を守ると言ったその唇で彼女の口を塞ぐ。
震える体を支えるその腕で、優しく頭をなでるその手で、彼女の体を暴き犯す。
きっと、誰よりも卑怯で汚い。
誰よりも、優しい哀しい存在の彼女に相応しくないって分かっていても手放すことが出来ない。
「愛している、あいしている・・・」
誰よりも、深く深く。
「俺だけの、瑞樰・・・・・・・」
『どうして、瑞樰を抱いた。』
鏡乃信は、殺意に似た思念を鏡へ向けて放った。その彼の様子から誰が瑞樰の相手なのかをしっかりと把握していることを悟った。
「瑞樰さんの中で、しっかり見てたってことだ・・・・・」
絶望的な声で、尊が呟いた。
「こんなにも、荒ぶる霊を大人しく説得するのは無理じゃないか?」
クリスもそうそうに、諦めの言葉を口にする。
「瑞樰が、欲しいから抱いた。こいつが、俺の傍で笑っていられるならそれだけで良い。だから、邪魔をするな。」
二人が何とか穏便に宥められないかと思案していたにもかかわらず、鏡は直球で答えた。自分の欲望まっしぐらなその返答に尊達が顔色を変えたのは言うまでもない。
「常々、阿呆だと思ってはいるが此処迄頭抜けているといっそ見事だな。」
雹樹もまた、鏡の台詞に溜息を零した。
『瑞樰、ずっとお前の傍にいようと思った。お前と一つになって、お前の命が終わる時に一緒に眠りにつこうと。
でも、このままじゃ俺は・・・・』
自分を探し視線を彷徨わせる瑞樰に、鏡乃信は静かに語りかけた。
『お前のことを喰らってしまう・・・・・・』
絶望的なほどの独占欲、零体となっても捕え離すことのできない思い。鏡乃信のその言葉に瑞樰以外の者全員が、覚えず彼に同情した。常軌を逸するほどの独占欲に誰よりも苦しんだだろう鏡乃信、死んだ後も思いは消えることなく彼を縛り付けている。彼が望んだ訳では無い人生を思うと、哀れを覚えずにいられなかった。
「だが、瑞樰を喰らわせる訳にはいかないな。」
冷たく言い放つと、雹樹は鏡乃信の光を押しのけるように自分の力を解放し始めた。
余りにも受け入れ難い出来事に、彼女の精神が耐えられなかったのだろう。数日間熱を出し、寝込んだのちにこの時の事を何一つ覚えていなかった。
だから、瑞樰は鏡乃信と死に別れるまでいや死に別れてすら「自分は彼に触れる事が出来なかった。」と後悔を引きずることになった。
鏡乃信にとって、瑞樰が覚えていないことは不幸中の幸いでもあったがそれと同時に絶望感も覚えた。
自分との営みですら、彼女にとっては恐怖の対象でしかないのかと。どれほど、愛しんでも瑞樰にとって肉欲を交えたモノは全て恐ろしい存在なのだと。
「クソっ、」
その事実に、口汚く罵りながらも心の憶測では安どしている自分もいた。瑞樰を抱いたことに後悔はない。だが、そのことで瑞樰に恐れられ離れて行かれては元も子もない。
体を繋げることは出来なくとも、傍に居て瑞樰と共に生きてゆけるのならそれでいいと。ゆっくりと時間をかけ、瑞樰をあの男の呪縛から解放していけばいいのだと思っていた。自分達には、これから先の長い時間があると。
未来を信じて、疑わずに。
誰も、未来など約束したわけでもないのに・・・・・
瑞樰の傷を癒すこともできず、無様にもさらなる傷を彼女に刻み付けて命を落とした。
それでも、瑞樰の傍を離れずに彼女の中で彼女を見守り共に生きていこうと思い始めていた。瑞樰の中に居れば、彼女が息を引き取るその瞬間まで一緒に居ることが出来る。瑞樰の一番柔らかな部分を包み込むようにして、彼女がこれ以上傷つかない様に余計なものに心を煩わされない様に二重三重の膜で覆った。
「俺だけの、瑞樰でいてくれればいい。」
彼女を守ると言う体のいい言葉で繕っても、本音は醜い独占欲。誰にも、瑞樰を渡したくはない。
たった一度だけの情夜、彼女の記憶に残る事の無かった営み。それでも、確かに自分達はあの時一つに繋がった。体の一番深い所で、自分の思いを彼女の中に植え付けることが出来た。誰が覚えていなくとも、自分にその記憶がある。それだけで、満ち足りた気持ちでいられる。
瑞樰にだけは知られたくない、本当の自分の気持ち。彼女が誰よりも憎んでいるあの男と同じ、薄汚いこの心。
大事な妹だと言いながら、誰よりも大切な恋人だと言いながら、彼女を守ると言ったその唇で彼女の口を塞ぐ。
震える体を支えるその腕で、優しく頭をなでるその手で、彼女の体を暴き犯す。
きっと、誰よりも卑怯で汚い。
誰よりも、優しい哀しい存在の彼女に相応しくないって分かっていても手放すことが出来ない。
「愛している、あいしている・・・」
誰よりも、深く深く。
「俺だけの、瑞樰・・・・・・・」
『どうして、瑞樰を抱いた。』
鏡乃信は、殺意に似た思念を鏡へ向けて放った。その彼の様子から誰が瑞樰の相手なのかをしっかりと把握していることを悟った。
「瑞樰さんの中で、しっかり見てたってことだ・・・・・」
絶望的な声で、尊が呟いた。
「こんなにも、荒ぶる霊を大人しく説得するのは無理じゃないか?」
クリスもそうそうに、諦めの言葉を口にする。
「瑞樰が、欲しいから抱いた。こいつが、俺の傍で笑っていられるならそれだけで良い。だから、邪魔をするな。」
二人が何とか穏便に宥められないかと思案していたにもかかわらず、鏡は直球で答えた。自分の欲望まっしぐらなその返答に尊達が顔色を変えたのは言うまでもない。
「常々、阿呆だと思ってはいるが此処迄頭抜けているといっそ見事だな。」
雹樹もまた、鏡の台詞に溜息を零した。
『瑞樰、ずっとお前の傍にいようと思った。お前と一つになって、お前の命が終わる時に一緒に眠りにつこうと。
でも、このままじゃ俺は・・・・』
自分を探し視線を彷徨わせる瑞樰に、鏡乃信は静かに語りかけた。
『お前のことを喰らってしまう・・・・・・』
絶望的なほどの独占欲、零体となっても捕え離すことのできない思い。鏡乃信のその言葉に瑞樰以外の者全員が、覚えず彼に同情した。常軌を逸するほどの独占欲に誰よりも苦しんだだろう鏡乃信、死んだ後も思いは消えることなく彼を縛り付けている。彼が望んだ訳では無い人生を思うと、哀れを覚えずにいられなかった。
「だが、瑞樰を喰らわせる訳にはいかないな。」
冷たく言い放つと、雹樹は鏡乃信の光を押しのけるように自分の力を解放し始めた。
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