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泡沫の4
仄暗く愛おしい
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転移術を行使した鏡を追って、尊とクリスも彼が飛んだと思われる霊山を目指した。
本来、転移術に必要な陣を組むための時間や道具が手元に無かった。それでも痕跡が残っている分、力技で飛ぶことは出来る。
「鏡が、瑞樰さんを諦める訳ない。それでも、一人でやるなんて無茶だ。」
「巻き込むくらいの覚悟が無いなら、素直に土下座しろ!!」
二人で文句を言いながらも、陣を復元し鏡の元へと飛んだ。その際に、二人を傍観していた雹樹も後を追ってついてきた。
霊山の麓、鏡が飛んだのと同じ場所に三人が到着すると同時に目の前に聳える山から異常なほどの力の高ぶりを感じた。もともと、強い力場である霊山がその持てる力を全て集めているかのような。
「なに?こんな、強大な力制御できるわけないよ。」
「山主が、自ら力を与えているのか?」
怯えを滲ませた尊の声にかぶせるように、雹樹が呟いた。
「山主?霊山自体が、この力を放出しているということ?」
「この力が集まっている所に、瑞樰がいる。」
言うが早いか、雹樹はその場から姿を消した。
「雹樹っ!!」
瑞樰の元へと向かったのだろうとは分かったが、人外である彼と自分達とでは移動手段が異なる。彼が自由に空間を飛び越えることが出来ても、自分達は足で移動するしかない。
「くっそ、俺達は自力で山登りしろってことか。」
「目的は同じなんだから、一緒に連れて行ってくれればいいのに。」
文句を言いながらも、二人は山道を駆け抜けていった。
鏡は、自分の力以上に山の力が繭に流れ込んでいる事実に驚きながらもこの好機を逃すことは出来ないと思った。目の前に形成されている繭の大半は、山の力でできている。鏡の力も流れ込んではいるが、比例するのも馬鹿らしいほど微量だ。ヒトの持つ力の数百倍、それほどの力を用いなければ作る事の出来ない繭、その繭の中で瑞樰の壊れた体を治すために鏡は流れ込む力を細やかにコントロールしている。
『内臓は復元できたはずだ・・・・人として生きるのに必要な機能を果たすのか・・・・・』
体内の欠損部位は力を使い、元の形を復元した。だが、あくまでも形を元のように作り直しただけだ。生き物として必要な機能が復元しているかは、瑞樰が実際に目を覚まさなければ分からない。
『それでも・・・・・・・』
少しずつ少しずつ、瑞樰の体を治しながら縋るように繭を見つめた。
「この中に、瑞樰がいるのか?」
不意に背後に現れた気配に、目を見開きながらも鏡はその場を動くことは出来なかった。
「山主が、随分と力を貸してくれているようだな。」
麓から飛んできた雹樹が、鏡の作り上げた繭を見ながら辺りに満ちる力を検分していた。
「瑞樰は、目を覚ますか?」
繭に力を流しながら、鏡が雹樹に問いかけてきた。普段の彼ならばあり得ないことだが、それだけ必死だということだ。体は復元できたと思うが、果たしてそれで今まで通りの彼女が帰ってくる保証が何もない。
個人的にどれほど気に食わなかろうが、雹樹は神にも等しい存在だ。今この場で、瑞樰が助かるかどうかを答えられるのは彼だけだろう。藁にも縋る想いで、鏡は背後の神霊に問いかけた。
「・・・・・目覚めるだろうが、もはや人間ではない。」
鏡が術を施している様を、雹樹は黙って見つめていた。辺りに満ちる山主の力、それを巧みに操りながら瑞樰を包み込む繭を作り続けている。鏡の霊力も瑞樰の元へと流れてはいるが、大半は山主の物だ。これほど大量の力を、ただの人間が受け入れる事など出来るはずがない。瑞樰の中に流れる招く者の血が、可能にしているのだろう。
恐らく、山主が力を貸しているのも瑞樰が人間では無いから。庇護すべき、か弱き同類だと思ったのだろう。
「人ベースの式神ということか?」
雹樹の短い答えから導き出した答え。鏡は、震える声で呟きながら目の前が暗くなるような錯覚に陥った。
本来、転移術に必要な陣を組むための時間や道具が手元に無かった。それでも痕跡が残っている分、力技で飛ぶことは出来る。
「鏡が、瑞樰さんを諦める訳ない。それでも、一人でやるなんて無茶だ。」
「巻き込むくらいの覚悟が無いなら、素直に土下座しろ!!」
二人で文句を言いながらも、陣を復元し鏡の元へと飛んだ。その際に、二人を傍観していた雹樹も後を追ってついてきた。
霊山の麓、鏡が飛んだのと同じ場所に三人が到着すると同時に目の前に聳える山から異常なほどの力の高ぶりを感じた。もともと、強い力場である霊山がその持てる力を全て集めているかのような。
「なに?こんな、強大な力制御できるわけないよ。」
「山主が、自ら力を与えているのか?」
怯えを滲ませた尊の声にかぶせるように、雹樹が呟いた。
「山主?霊山自体が、この力を放出しているということ?」
「この力が集まっている所に、瑞樰がいる。」
言うが早いか、雹樹はその場から姿を消した。
「雹樹っ!!」
瑞樰の元へと向かったのだろうとは分かったが、人外である彼と自分達とでは移動手段が異なる。彼が自由に空間を飛び越えることが出来ても、自分達は足で移動するしかない。
「くっそ、俺達は自力で山登りしろってことか。」
「目的は同じなんだから、一緒に連れて行ってくれればいいのに。」
文句を言いながらも、二人は山道を駆け抜けていった。
鏡は、自分の力以上に山の力が繭に流れ込んでいる事実に驚きながらもこの好機を逃すことは出来ないと思った。目の前に形成されている繭の大半は、山の力でできている。鏡の力も流れ込んではいるが、比例するのも馬鹿らしいほど微量だ。ヒトの持つ力の数百倍、それほどの力を用いなければ作る事の出来ない繭、その繭の中で瑞樰の壊れた体を治すために鏡は流れ込む力を細やかにコントロールしている。
『内臓は復元できたはずだ・・・・人として生きるのに必要な機能を果たすのか・・・・・』
体内の欠損部位は力を使い、元の形を復元した。だが、あくまでも形を元のように作り直しただけだ。生き物として必要な機能が復元しているかは、瑞樰が実際に目を覚まさなければ分からない。
『それでも・・・・・・・』
少しずつ少しずつ、瑞樰の体を治しながら縋るように繭を見つめた。
「この中に、瑞樰がいるのか?」
不意に背後に現れた気配に、目を見開きながらも鏡はその場を動くことは出来なかった。
「山主が、随分と力を貸してくれているようだな。」
麓から飛んできた雹樹が、鏡の作り上げた繭を見ながら辺りに満ちる力を検分していた。
「瑞樰は、目を覚ますか?」
繭に力を流しながら、鏡が雹樹に問いかけてきた。普段の彼ならばあり得ないことだが、それだけ必死だということだ。体は復元できたと思うが、果たしてそれで今まで通りの彼女が帰ってくる保証が何もない。
個人的にどれほど気に食わなかろうが、雹樹は神にも等しい存在だ。今この場で、瑞樰が助かるかどうかを答えられるのは彼だけだろう。藁にも縋る想いで、鏡は背後の神霊に問いかけた。
「・・・・・目覚めるだろうが、もはや人間ではない。」
鏡が術を施している様を、雹樹は黙って見つめていた。辺りに満ちる山主の力、それを巧みに操りながら瑞樰を包み込む繭を作り続けている。鏡の霊力も瑞樰の元へと流れてはいるが、大半は山主の物だ。これほど大量の力を、ただの人間が受け入れる事など出来るはずがない。瑞樰の中に流れる招く者の血が、可能にしているのだろう。
恐らく、山主が力を貸しているのも瑞樰が人間では無いから。庇護すべき、か弱き同類だと思ったのだろう。
「人ベースの式神ということか?」
雹樹の短い答えから導き出した答え。鏡は、震える声で呟きながら目の前が暗くなるような錯覚に陥った。
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