仄暗く愛おしい

零瑠~ぜる~

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優しい思い

仄暗く愛おしい

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 黙々と、術具を作りながら自分の中で燻っている思いに気を取られた。今ではない遠い昔の自分ではない自分。
守りたい者を守ることも出来ず、自分の望みすらも分からずに一族の言いなりに生きていた存在。大切なモノを失って自分の命すら奪われて初めて自覚した思い。
「鏡さん。」
自分の名前を呼ぶ存在に、胸の奥でゆらゆらと黒い炎が蠢く。愛おしいモノに、名前を呼ばれただけで呼吸すら奪われるような錯覚に陥る。
「お前、本当に変な依頼受けてないよな?
これ、全部一気に必要な案件だったら今すぐにお前だけここから出ていけよ。」
小言の煩わしさから逃れるために作っていた術具の多さに、クリスと尊が逆に不安を覚えたらしく険しい表情を浮かべてきた。いま、鏡が手にしている御幣などそれ一枚で防御力低下・攻撃力低下・毒麻痺付与・精神汚染の効果が施されている。作っている本人に確認するなどまどろっこしいことはせず、クリスが勝手に鑑定眼を使って視たのだがその効果に寒気を覚えた。一体どれ程の強敵と対峙するつもりなのかと、単体で国家転覆でも企んでいるのではないかと怪しむほど凶悪な術具を幾つも作られていては平静ではいられない。
「鏡、正直に答えてね。本当に、変な依頼受けてないよね?」
クリスに続き、尊も疑いの眼差しを向けてくる。鏡としては説明をするのも面倒だが、こうやって疑われ続けるのも面倒だ。大きな溜息を吐き出しながら、二人に術具はストック用だと説明した。絡まれたくないがために手作業に逃げたのが、逆に仇になった。
「ストックでこれ作るって、お前の思考が理解できない。普通の仕事なら、これ一枚で瞬殺だろう?」
「これだけの御幣を使用するような案件、間違っても受けたくないし受けないでほしい。」
引き気味に二人が言いながら、鏡の手にある御幣を見つめた。
「欲しいなら、くれてやる。」
使う予定もない術具だ、それほど騒ぐなら今作った分くらいくれてやってもいい。
「簡単に、いうなよ!!
こんな危ないモノ、貰っても俺も尊も絶対に使えないし使いたくない。」
「常識が無い人って、こういう時本当に怖いよね。」
「無駄に能力だけはあるから、始末に負えん。」
クリス・尊に加え雹樹までも呆れたように溜息を吐き出した。人間である二人に文句を言われるのはまだ仕方が無いと思えるが、神霊である雹樹にまで言われる筋合いは無いのではと若干ふてくされてしまう。この中で一番、常識が通用しない存在の癖に妙に人間臭い神霊。瑞樰の守護でなければ、間違っても関わり合いになりたくない存在。そんな者達から一斉に文句を言われては最早、鏡に出来る事など何もない。真一文字に唇を引き結び、彼等の気が済むまで小言に耐えるのが一番リスクが少ない。鬱陶しい小言の嵐も、傍らで此方を見つめる瑞樰の笑みがあれば気にもならない。
『初めから、こうすれば良かった。』
瑞樰を眺めながら小言をスルーする。

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