仄暗く愛おしい

零瑠~ぜる~

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優しい思い

仄暗く愛おしい

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 深夜、何時もの様に瑞樰はリビングへと向かった。眠ることを必要としなくなった体は、長い夜の時間を持て余していた。こんな風に、眠ることが出来ないで夜を過ごしていることをクリスや尊には言えずにいる。心配を掛けたくないという思いと、これ以上自分の事で彼等が負い目を感じてほしくないという思いがせめぎ合う。
眠れないのも夜目が利くようになったのも、瑞樰自身はそれほど気にしていない。ただ、眠らなくて良いというのは変な感じがするだけで。多分、ベッドに入って眠ろうと思えば眠れるのだろうけど。その必要性を、感じない。
一人、リビングで寛いでいると昼間は気付かなかったモノがふわふわと視界の隅に躍り出てくる。それらは、小さく弱く昼の光の中では動くことも出来ないモノ達。クリス達やまして雹樹のように強い力を有するモノと同じ場では、姿すら保てない弱い存在。余りにも弱く小さな存在故に、この部屋に敷かれている結界に弾かれることなくふわふわと漂い出てくることが出来る。ただ、漂うだけの無力な存在。
「今夜は、いつもよりも少ないね?
他の子たちは、何処かに行ってしまったのかな?」
ふわふわと、自分の周りを漂うモノに瑞樰が話しかける。それらは、自分では意思を伝えることは出来ない。他者に言葉を届けられるほどの力も無い。それでも、瑞樰に話しかけられたのが嬉しいのかくるくると彼女の周りを漂い廻る。数日前までは、もっとたくさんのモノ達が瑞樰の周りを漂っていた。初めは消えそうなくらい小さく薄い影だったモノが、何日か一緒に夜を過ごすと少しずつ大きくしっかりとした輪郭を取れるようになっていた。そして、ある程度の大きさになると急に居なくなってしまう。ただ単に、瑞樰に飽きて遊びに来なくなっているだけかもしれないが見慣れてきた途端に姿が見えなくなるのは寂しいものがある。
ふわふわと漂うモノに指を差し出し、指先に触れさせる。実態が無い煙の様なものだが、それでも指先で弾むように動いているのを見るのは楽しい。
「明日も、また遊んでくれる?」
返事が無いのは分かっているが、それでもつい話しかけてしまう。指先で弾むモノは、瑞樰の言葉を理解しているのかくるくると数回指先で回った。
 それは、力の弱い脆弱な存在。自分の力だけでは、存在を維持することも出来ない霞の様なモノ達。それらがある日偶然にも、瑞樰の部屋に漂い出た。彼女と同じ空間に居るだけで、蕩ける様な心地よい波動に包まれた。傍に居るだけで、カスミの様な存在である自分達に力が蓄えられるのを感じた。ふわふわと、彼女の周りを漂うだけで少しずつ存在が確かなものになりつつあった。意思など持たないあやふやなモノであったのに、瑞樰に触れた瞬間にもっと彼女の傍に居たいという欲が生まれた。そうして、少しずつ力を蓄え彼女を得ようと毎夜部屋に漂い出た。
だが、ある時を境に急に部屋に入ることが出来なくなるものが増えてきた。それらは、瑞樰の傍近くでより多く力を蓄えていたモノだった。あと少し、彼女の傍に居れば確固たる姿を取ることも出来ただろうに。一定の力を蓄えると部屋の結界に弾かれ、瑞樰の傍によることが出来なくなる。そのことを理解できるようになる頃には、部屋に入ることは出来ず外界では自力で存在を保てず他のモノに狩られ消えてゆく。いま、瑞樰の傍に居るモノもあと数日もすれば結界に弾かれてしまうだろう。そう自覚できる程度には、それらは力を蓄えてきていた。
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