仄暗く愛おしい

零瑠~ぜる~

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優しい思い

仄暗く愛おしい

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 弱くて小さなそれらは偶然、漂い出た場所で至宝と出会った。傍に居るだけで、その体から零れ出ている甘く香しい力が自分達にも流れ込んでくる。長い年月を掛けなければ蓄えることが出来な程の豊潤な力、それをほんの数日で与えてくれる稀有な存在。夢中で、傍に近づき少しでも長く力を浴びようとした。この至宝の傍に居れば、たちどころに強大なモノになれるだろうと。それまでは、ただふわふわと漂うことしかできなかったモノが思考する力を得た。思考することが出来るようになっただけでも、大きな変化だった。
『あと、すこし、そばに・・・。ちから、あと、すこし、』
傍に居るだけで、これ程急激に変化することが出来た。漂い、霞のように消えていくだけの存在だったはずなのに。夜になると現れる至宝、優しく笑って傍に居る事を許してくれる。
『もっと、そばに、いたい・・・・』
そう強く望んだとたんに、何故か至宝の傍へ行くことが出来なくなった。それまで、自由に近づくことが出来た場所に見えない壁が出来た。それは、至宝を閉じ込めるように厳重に張り巡らされていた。
『なぜ?』
至宝がこの壁を作ったのでは無いと、すぐに理解できた。その証拠に、至宝の傍にはまだ力の弱いモノ達が漂っていて彼女はそれらに微笑みかけている。キラキラと零れ出ている力を受けて、傍に居るモノ達が少しづつ力を蓄えているのが分かった。
『あぁ、どうして、』
今日も傍に居れば、あの力を受けていれば至宝に声を届けることが出来たかもしれない。至宝が、夜ごと話しかけてくれる言葉の返事を今夜こそ伝えられたかもしれない。
哀しさと悔しさが入り混じる。悲しいも、悔しいもこのとき初めて感じた思い。至宝に出会わなければ、知る事の無かった感情。この思いを知ることが出来た、感情を得る喜びを知れたそのことを伝えたい。
『し・ほ・う・・・・・』
壁に弾かれ、傍に行けなくなっただけで蓄えた力がゆるゆると流れ出ていく。ただ、与えられただけの過ぎたる力。与えてくれる者が居なければ、留めて置く力が無い体から力は抜けていく。
ゆっくりと存在が消えていくのを感じながら、壁の向こう側に居る自分と同じモノ達のことを思った。自分と同じように力を得たアイツらが自分と同じように壁に弾かれ消えていかないように、少しでも長く彼女の傍に居られるように。消えていく自分の代わりに、至宝の傍に居てほしい。
『一緒に・・・し・ほ・う・・・・、寂しくない・・・・・・・。」
優しくて暖かな至宝が、寂しくないように小さく弱い存在でしかない自分達が少しでも慰めになるように。 
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