仄暗く愛おしい

零瑠~ぜる~

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優しい思い

仄暗く愛おしい

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 夜ごと、リビングで寛ぐ瑞樰の元に漂い出る下級妖達に雹樹は苛立ちを覚えていた。彼女の安全を考え、危害を加える様ならすぐさま排除するつもりだった。だが、それらはただその場にいる事しかできないほど脆弱な存在だった。そんなものを、いちいち追い払っていてはきりが無い。それに、瑞樰が気にかけているモノを勝手に排除して彼女の不興を買いたくはない。
「いつまでも、瑞樰の傍をうろうろと。」
放って置いても勝手に消えていなくなると思っていたのに、瑞樰から溢れ出る力を吸収し力をつけ始めた。夜ごと、彼女の周りを漂い急速に成長していく。
「忌々しい。」
このまま、彼女の傍に居続けるのならば瑞樰の目を盗んで始末してやろうと決めた矢先にそれらは部屋に張られていた結界に弾かれた。あの三人が施した結界は、雹樹には全くと言っていいほど効果が無いがある程度の力を持つ妖を問答無用ではじき出すようだ。ある程度の力の基準がどうなっているのかは不明だが数日間、瑞樰の傍で力を蓄えた個体は結界が反応しはじき出した。
「手を下すまでも無かったか。」
はじき出されたモノを監視しながら、リビングに居る瑞樰の様子を伺う。彼女は何時もの様に自分の周りをふわふわと漂うモノ達に話しかけている。彼女にとって、妖は悪いモノでは無いのだろう。事実、今まで瑞樰の周りには彼女に害成す妖は居なかった。無条件に瑞樰のために尽くそうとする、それが瑞樰の中にある妖の姿。瑞樰にとっては人間の方が余程醜悪でおぞましい存在なのだろう。
「他の子たちは、どこにいったのかな?」
無邪気に指先に妖を纏わせ、微笑む。ふわふわと、霞の様なそれらと戯れるようにひと時を過ごす。
ヒトでなくなってしまった瑞樰にとって、それが慰めになるのならば少しくらいは目をつむろう。大事なモノを奪われ続けている彼女の小さな楽しみまで、奪うのは余りにも狭量というものだ。そう自分に言い聞かせ、雹樹はいらいらと組んだ手を忙しなく動かす。微かに流れ込んでくる瑞樰の思念、脆弱なものと戯れて喜んでいると同時に隠し切れない寂しさを滲ませている。
「隠しているつもりなのだろうな・・・・・・。」
契約の元、言葉にしなくとも些細な感情は伝わってしまう。まして、雹樹にしてみれば瑞樰など生まれたての赤ん坊ほどに無力な存在だ。瑞樰が気付かない思いすらも、思念の中から拾い上げてしまう。そして、その事を瑞樰本人には一切気取らせない。彼女が言葉にしないことを、こちらが知っているなどあってはならない。それは、人としても感情で今も生きている瑞樰にとって許容できないことだろうから。
「人の枠とは、本当に狭く面倒なものだ・・・・・。」
夜ごと、流れる思念を感じ取りながら知らぬふりを続けるしかないことに溜息が零れた。



 
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