嘘から始まる英雄譚 〜風俗大好きハッタリ野郎の俺が、竜佐の英雄と呼ばれるようになるなんて冗談だろ?!〜

平田園

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第一章 魔界の森

第四話  「嘘から」

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 それからあっという間に数日が過ぎた。
 俺は今日も変わらずに営業準備のため酒場の掃除をしていた。ここ数日はぶっちゃけ色々あり過ぎて、記憶が曖昧だったりする。

 俺はあれから、ドラゴンを倒した竜殺しの英雄として祭り上げられることになった。いくら俺じゃなくてシグルズが本物の英雄だと語っても、死んだ友を立てる謙虚な人間だとさらに崇められる。実際に住民や騎士たちが見た光景は、俺がドラゴンを剣で刺し殺した場面だから、それが事の真相だと噂が広まるのはあっという間のことだった。俺が一人で真実を語るのと、たくさんの人が噂を広めるのでは、どちらが早いか火を見るよりも明らかだろう。

 シグルズの遺体は俺が手厚く埋葬し、あっちに送ってやった。

 シグルズに託された意志。あの場では、感情のままに任しとけなんてかっこつけちまったが、才能のなさは自分が一番理解している。
 ……悪いとは思う。でも、俺じゃいくら頑張った所でシグルズの足元にも及ばない。後ろめたさはあるけど、やっぱり自分には無理だ。

 そう思っていた矢先のことだった。俺宛に書簡が届いたのだ。
 内容は簡単。城に来い。ただその一言と、差出人の名前。名前をノア=アノール・ロンド宰相さいしょう。この方はこの国で二番目に偉い、国王一番の側近である。
 
 先日、説明した通りこの国の大臣共は卑しい豚だ。
 贅を食らい尽くし、私利私欲に溺れる国の癌たち。アホな王だけでも厄介なのに、卑しい豚共までやりたい放題していた。しかし、今この国は不思議と豊かだ。

 それはなぜか?

 答えは宰相にある。
 この御方はつい数年前に宰相の席に座ったのだが、この方の振るう辣腕でこの国を正したのだ。
 特にひどい行いをしていた大臣を、見せしめとして処刑した。そのことは今でも国民の間で語り草になっている。それからというもの、他の大臣共も大人しくなっているそうだ。

 そんな雲の上の存在のような御方が俺になぜ手紙を? と思ったが、すぐに合点がいった。シグルズを王都に呼び寄せたのは恐らくノア様だ。

 呼ばれた理由はなんだろうか。シグルズの最後はどうだったのか聞こうとでも思ってるんだろうか……。

 複雑な心境のまま、俺は王城に向かった。
 王城に着くと、なんとノア様が御自らお出迎えしてくださっていた。それにしてもこの御方、間近で見るととてつもない美貌だ。その美貌も然ることながらこの若さで宰相の席に座っているあたり、やはり相当の傑物であるのは間違いない。
 彼女が俺に気付き、歩み寄り話しかけてくる。

「やあ、はじめまして。私はシルフヘイム王国宰相を務めるノア=アノール・ロンドだ。君がマサヒロだね」

「は、ははぁ! 私がマサヒロであります。今回はわたくしのような凡夫になにかご用がありましたでしょうか」

 低姿勢全開で下手に出る。

「まあまあ。そんなに硬くならずに。とりあえず立ち話もなんだし、中でゆっくりと話そう。今回なぜ城に呼んだかも、その時教えてあげるからね」

 ノア様は意外に気さくだった。偉い偉い大臣様だから威厳があっておっかない人だと勝手に思っていたが、普通に酒場で酒飲んでそうな姉ちゃんぽい。

 王城内に入ると、あまりの絢爛ぷりに目を見張る。
 俺の暮らしとは月とスッポンだ。一度はこんな城に住んで、メイド雇って、エロいことしたい人生だった。とまぁ、変な妄想をしてしまうくらい、城の作りは豪華だ。

 ノア様の後に続きしばらく歩くと、他の扉よりいくらか豪華な作りの扉の前で立ち止まる。

「ちょっと待っててね」

 ノア様は部屋の中に入っていってしまった。
 宰相様とはいえ、一応は女性だ。部屋に招き入れる前にちょこっと掃除でもしてくるのかな? とソワソワ待っていると、本当にちょっとの時間で出てきた。

「ごめんね~。じゃ、行こっか」

 ノア様の手には酒瓶。
 あれ……? さっきのがノア様の部屋じゃないの?
 訳もわからず右に左にと廊下を進むと行き止まりにぶち当たった。
 道間違えた? 辣腕を振るう宰相様もお茶目な所あるんだな~と思っていると、ノア様はおもむろに壁に掛けてあった絵画を外す。なんとその裏には鍵穴があった。ノア様は胸の谷間に埋まった鍵をするすると持ち上げ鍵穴に差し込み解錠する。カチリと音が鳴り微かに壁に隙間ができた。

「さあ、入って」

 招かれるまま中に入る。中は豪華というかファンシー? あまりノア様のイメージと合わない雰囲気の部屋だった。

「適当に座りなさい」

 ノアは部屋の奥に消えていったので、遠慮なくソファーに腰掛ける。
 
 うわ。なにこれ。俺のベッドよりふかふかなんですけど。こんなところで格差を味合わされるとは……。
 部屋の奥からノア様が戻ってきた。手にはお盆を持ち、その上には二つのグラス、ショートケーキが乗っていた。俺の正面、テーブルを挟んだソファーに腰掛ける。

「まずは、改めてお礼を。ドラゴン討伐の件ご苦労だったね」

 気まずい……。ノア様も勘違いしている。だったらまず誤解を解かなくては。

「ノア様。実は……」

 俺はかくかくしかじか事の真相を話した。

 ノア様は、うんうんと目をつむり聞いていた。
 俺が全てを話し終えると、ノア様が天井を仰ぎため息をつく。

「うん。まあ、事情は知ってたよ。悪いけど、君を試させてもらった。ここで嘘ついて手柄を独り占めしようとしてたら、首、飛んでたかもね」

 さらりと恐ろしいことを言い放つ。
 最初は冗談かと思ったが、ノア様の目には暗い火が灯っていた。
 ……どうやら、俺は言葉を一つでも間違えていたら死んでいたらしい。ゾクリと背筋が凍る。

「脅かすような真似をしてすまないね。でも、嘘偽りなく告白したことは評価したい。君は短い時間だったろうけど、シグルズの友だったんだね」

「……いまでも、あいつは俺の友です」

 失礼なのは承知だが、語気を強め強調して訂正する。

「へぇ。そっか、ごめんね。よし、まずは乾杯しよう。君は交渉のテーブルに着く資格を得た」

 トクトクとグラスに酒を注ぎ俺に手渡す。

「ふむ。まずなにから話そうか。そうだね、じゃあシグルズの話からしよう」

 それは俺も気になっていたことだ。ドラゴンを倒す程の強者。それが野に埋もれていたこともそうだが、なぜ王都に呼び寄せられていたのか。

「シグルズはね、私が見つけた英雄候補なんだ。王都に呼びよせ、とある任務に当たらせようと思っててね。残念ながらそうはならなかったけど。彼は私が探し出した最高の逸材だったんだ。『竜佐の英雄』。君もこの大陸に生きる者なら知っているでしょう? シグルズは、竜佐の英雄へと至る可能性を十二分に秘めていたんだ」

 この大陸にある国では、本来大佐が最高の階級なのだが、過去に一人だけ竜佐と呼ばれた伝説の人物がいる。
 それは古い伝承の中で謳われる最古の王、人類始まりの王、その名も『夜明けの王』。その偉大な王の傍らで、竜を駆りて王の進む道を切り開き、指し示した者。それが竜佐だ。
 
 宰相ノア様をもってして、そこまで言わしめるとは……。改めてシグルズの怪物っぷりに驚かされる。

「宰相様が自ら見つけられたのですか。すごいですね。シグルズは辺境に住んでいると言っていたのに」

「まあ、そのからくりも追々話すよ。でだ。それほど期待していた人物が不運にもファフニールとの戦いで死んでしまった。あ、ファフニールはドラゴンのことね。伝説にもなってるんだけど、知らない? 確か意味があって……、『黄金を抱擁するもの』って意味だったかな? まあ、そんなうんちくはどうでも良いか。シグルズが死んだ今、私は新たな人材を探してるわけ。どこかに良い人いないかなぁーって探してはみるんだけど、シグルズの後だからどれも同じに見えちゃってね。だったらいっそ、シグルズの最後を看取り、意志を託された人にしてみよかな~って」

「はぁ。そりゃ新しく選ばれた人は荷が重そうですな。……ん?」

 ちょっと待て。シグルズの最後を看取り、意志を託された人物?

「俺じゃねーか! 無理です! 無理ですよ俺なんかじゃ!」

「まあ、落ち着きなよ。君のことは一通り調べさせてもらった。城下町での君の通り名聞いた時は思わず吹き出しちゃったよ。風俗マスターマサヒロ。ぷぷっ。ダサすぎっ!」

「ちょちょ、やめて! やめてあげて! なんつー辱め! 宰相様ドS過ぎません?!」

「ごめんごめん。ぷぷっ。いやぁ、ホントに笑わせてもらったよ。んんっ、脱線してしまったね。よし、本題に入ろうか。単刀直入に言おう。君にシグルズの代わりに任務に当たらせようと思う」

「……いや、さっきも言った通り俺には無理ですって」

 俺の言葉に、ノアは妖しい笑みを見せながら話を続けた。

「ふ~ん。また逃げ出すんだ?」

 心臓がドクンと跳ねた。逃げ出す? また?
 
 遠い記憶が蘇る。
 
 敵国の聖騎士に蹂躙され壊滅した、俺がかつて所属していた小隊。いたずらに俺の大事な部分に土足で踏み入ってくるノア。
 俺は立場も忘れ、思い切りノアを睨みつけた。
 ノアはそんな俺の視線を意にも返さず涼し気にかわしながらさらに言葉を続けていく。

「君には夢があるそうだね。聞いて驚き、まさかまさかの聖騎士だ。はっきり言って君には無理だね」

 そんな自分でもわかりきっていることを言われると余計に腹が立ってくる。
 さっきからなんなんだ、この腐れアマ。煽るようなことばっかり言いやがって。

「あの、宰相様。もう帰ってよろしいですか? 無駄な時間だ。俺はシグルズのようにはなれない。誰か他を当たってください。少なくとも俺より優秀な人材ならすぐ見つかりますよ」

「例えば二つの道があるとしよう」

 帰ろうと腰を上げかけた俺の機先を制し、ピシャリと俺をソファーに縫い付ける。

「片方は暖かく愛に満ち溢れた道だ。もう片方は屍山を積み上げた道を血河を浴びながら行くような修羅の道。ふむ。どう考えても前者の道が良さそうに見える。でも、後者は支払う対価以上の莫大な地位と名誉を授かることができる」

「俺は前者で結構ですよ。確かに聖騎士になりたいと思ってました。でも、この歳まで生きれば気付きますよ。いや俺なんか気付くのが遅いくらいだ。夢はしょせん夢に過ぎない。早く醒めるべきだったんですよ」

「じゃあ、シミュレーションしてみようか! まず君は本腰を入れて酒場での修行を始めます。しばらくすると、自分の店を持ちたくなる。なんやかんやを経て念願の自分の店をゲット! じゃあ、次は? そうだね、家族とか。マリーちゃんとかどうなのさ? 可愛いらしくて君にはもったいないくらいだけど」

 マリーのことまで……。
 とことんウザくて、恐ろしい女だ。宰相ノア。

「マリーちゃんと結婚なんかしちゃったりして。仲良くデートしたり、たまには喧嘩しちゃったり。それでしばらくすると子供が産まれます。まぁー素敵。幸せいっぱい! 店の経営は大変だけど、家族のために必死に働く日々。ぷぷっ、労働は美徳だね! 必死に働いて、気付いたら孫ができてたりもするかもよ! 息子が店を継いでくれて、自分は隠居生活。孫がいるから退屈しないだろうね。しばらく幸せな余生を過ごした後、とうとうお迎えが来る。君はベットに横たわり、家族に見守られながら最後を迎える。その時、なにを思ってるかな? 幸せだった日々? 残していく家族の今後? 全部ハズレさ。答えは、『やり残したことはないか』。はじめてその瞬間に君は理解する。自分は聖騎士への焦がれを捨てきれていなかったと……」

「やめろッッ!!!!」

 声を荒げずにはいられなかった。
 俺の心を暴き、踏みにじるような言葉にとうとう感情が爆発した。

「俺は確かに聖騎士に憧れてるさ! なりたいとも思う! シグルズにだって託された! だけど、どう考えたって俺には無理な事だ! あんたのことだから調べがついてんだろうが、俺は過去に一度敵国の聖騎士を直に感じた……。ありゃ人間じゃねえ。あんな怪物やシグルズのようにはなれねえ。ドラゴン、ファフニールを殺したのだって棚ぼたに過ぎねえ。シグルズが追い詰めてくれていたからこそできたことなんだ」

「ふ~む。どうも君は自分を過小評価する癖があるようだね。確かに棚ぼたかもね。でもファフニールと対峙して正確に急所の逆鱗を突くなんて、そうできることじゃない。九割はシグルズの功績だけど、君だって一割は絶対に功績を上げてるんだよ?」

「一割なんて四捨五入したらゼロだ。なんの価値もない。俺は風俗狂いのハッタリ野郎かもしれねえけど、友をダシに名を上げようなんて外道は絶対にしない!」

「頑固だね、君も。……良いことを教えよう。実の所、シグルズはまだ生きてる」

 このクソ外道が。死者まで辱める気かッ!

「君の中にまだ生きてるんだよ、シグルズは。いいかい? 人は死んでも人の記憶の中で生き続ける。それは意志も同じさ。シグルズは道半ば、いや、始まる寸前に終わってしまったけど、本当の意味で終わったわけじゃない。君が! 君が彼の意志を引き継げば、その道は終わらない! シグルズの夢を叶えられるのは、最後に夢を託された君以外いないのさ」

「おい、てめえ。宰相だか、なんだか知らねえがその口を閉じろ。これ以上わめくなら、力ずくで黙らすぞ」

 ノアはやれやれといった様子でため息をつきながら――

「はぁー。君はなにが納得がいかない? この話は君にとっても良い話だと思うけど」

「……俺は一度夢から逃げた。聖騎士になることの難しさを知ったよ。だから、だからこそ余計に焦がれた。誰もが憧れるカッコイイ聖騎士になりたい。でも、それは俺のような風俗好きのハッタリ野郎じゃない。シグルズのような男がなるべきだったんだ。俺があの時、女の子をしっかりと掴まえていたら……」

「別にいいじゃない。風俗好きのハッタリ野郎が聖騎士になっちゃいけないなんて道理はないよ。確かにね、君は未熟で弱い。聖騎士とは真逆の位置にいるのかもしれないよ。でもさ、いいと思うの私。数ある英雄達の伝説の中に、一つくらい嘘から始まる英雄譚があっても。結果がすべてだ。誰も始まりのことなんか気にしやしないさ。これはチャンスなんだよ。君がシグルズの功績も夢も意志もすべてを背負って、さらに功績を残す。そうすれば彼の残したモノは君の名とともに永遠に歴史書に刻まれる。シグルズの死は無駄にならない。今一度考えてくれないかい? この通りだ」

 そう言ってノアは頭を下げた。
 宰相のノアが、俺のような平民に頭を下げるなんてことは異常なことだ。頭に上っていた血がいくらか冷めてだんだんと冷静になってくる。
 それほどまでに宰相が真剣だということが理解できた。

 俺の中に様々な思いが駆け巡る。
 ガキの頃からの夢、戦場を死に物狂いでひた走っていた日々、敵国の聖騎士が見せた本物の強さ、怒るとおっかねぇけど面倒見がいいおやっさん、胸がデカくて気立てのいいマリー、いつも世話になりっぱなしのヌル婆、そんな皆が生きる笑顔が絶えない太陽の国シルフヘイム。
 そして、最近出会ったシグルズ。あいつは聖騎士に、英雄になろうとしていた。俺と同じ、夢見る馬鹿野郎の一人。

 そんな奴が、最後に残した思い。
 
 俺はあの日から逃げ続けてきた。言い訳を並べ、やらないことの正当性を主張し、前を向いていなかった。俺の心はあの日の戦場に置き忘れちまってた。だからいつも渇いて、空っぽだったんだ。

 シグルズ……。俺、もう一度夢を追い掛けてみてもいいんだろうか?

 その時、ポンっと背中を押されたような気がした。

 ――わかったよ。俺は嘘を突き通す。シグルズ。お前の上げた武功を引っさげ、俺は駆け上がってみせる。
 嘘から始まるなんて、俺にはお誂え向きだ。その嘘を、真実にしてやる。

 お前も、あっちの世界から見ててくれ。

「マサヒロ。君の答えを聞かせて」
 
「宰相ノア様。俺は、いえ、わたくしマサヒロは宰相様の申し入れ、拝命致したいと思います」

「うん、よろしい。いい面構えになっちゃって。期待してるよ。未来の英雄くん」

 俺は初めてノアと笑い合い、誓いの杯を交わした。



「それにしても随分と舐めたこといってくれたよね~。口を閉じろ! とか、力ずくでー! とか。首チョンパしてやろうかと思ったよ」

「す、すんません! 調子乗りますた! でも、お言葉ですが宰相様も宰相様ですからね? 俺の痛い所突きすぎですって。ありゃ誰だってキレますよ」

「ぷぷっ。冗談だよ。かまわないさ。これでも多少は悪いと思ってるんだ。君が頑固だからこっちもムキになって焚き付けてしまった」

「……というと、さっきまでのは発破をかけるつもりで?」

「まあね。あ、もう発言を取り消すとか無効だから!」

「わかってますよ。もう腹括りました。やってみます。どこまでやれるかわからねえけど、やれるだけのことはしてみます」

「良い心掛けだ。ぷぷっ。やっぱり君にもシグルズに近しいものを感じるな~。なんでだろう。まったくの真逆なのにね。風俗マスターだし。ぷぷっ」

「勘弁してくださいよ」

「あー、そうだ。堅いのはやめよ。もちろん正式な場では立場をわきまえ振る舞ってもらうけど、いまみたいなプライベートな時間は対等に話そうじゃないか。みんな畏まって話しかけてくるからどうも気が休まらなくてね。これは二人の約束だよ」

「ノア様がそう言うなら遠慮なくそうしますわ。改めてよろしく頼むぜ、ノア」

「あぁ~。なんかムズムズしたかも。久しぶりに異性に名前で呼ばれた。ぷぷっ」

 それからノアと酒を飲みながら語り明かした。
 仕事は大丈夫なのかと聞いたら、良く働く側近がいるから全部任せて逃げてきたらしい。
 本当に宰相なのかね、この姉ちゃんは。

 ――――

 気がつくと俺はソファーの上で寝てしまっていた。自分のベッドで寝るより安眠できたような気がする。なんか癪だ。
 俺がボーッとしていると、部屋の奥からバスローブに身を包んだノアが戻ってきた。

「おはよ。もう朝だよ。久しぶりに楽しい酒の席だったからはしゃぎ過ぎて頭痛いよ。あ、この部屋お湯を引いてあるから良かったら君も入ってきたら?」

 お言葉に甘えることにした。
 湯を浴びながら今後のことを考える。まずはシグルズに任すはずだったという任務の内容確認だ。あいつに任せる程だからとんでもなくヤバイ任務に違いない。ファフニール級の怪物相手にするようなヤバイ件だ。俺に務まるのか不安だが、全力で取り組むほかない。
 
 考え事をしていたせいで、すっかり長湯になってしまった。

「お湯ありがとなー。さっぱりしたよ」

「あ、おかえり。適当に朝食を用意してみたよ。本職の人に出すのは恥ずかしいんだけど、一緒にたべようじゃないか」

 テーブルの上にはどこから持ってきたのか、パンやサラダ、湯気のたつスープ。さっきの発言からしてノアが作ったようだ。

「ありがたくいただくわ。むっ、何気に女から手料理振る舞われるの初めてかもしれねえ……」

「キャー! 君の初めて奪っちゃった」

「やかましいわ! 暖かいうちに食っちまおうぜ。いただきまーす」

 味は案外悪くなかった。
 いや、むしろ結構好み。特にスープなんか懐かしい味っつーのか。良くわからんが、割とうまかった。
 食後のコーヒーを飲んでいると、ノアが思い出したように話しだす。

「あ、そうそう忘れる所だった。君ね、私の使い魔になってもらうから」

「はいっ?」





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