クソ食らえ!

スカーレット

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第七話 可愛い子とは下着を買いに行こう

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暗くなりかけた道を、ひたすら走る。
真帆の家に戻っているだろうか。
それとも全然違うところなのだろうか。
とにかく真帆に会って、誤解を解かなければならない。

まず、真帆の家に向かうことにした。
途中で制服姿の女の子の後姿が見えて、走り寄る。

「真帆!!」

その女の子の肩をがっしりと掴んで、こっちを振り向かせる。

「あ、あれ……?」
「な、何ですか……って、れん先輩じゃないですか」

人違いだった。
しかし全く知らない人間でもない。
実行委員の副委員長、野崎珠代だった。

何でこんなのと見間違えたのか。
あせりすぎだろ、俺。

「どうしたんです?彼女さんを探してるんですか?」
「あ、ああちょっと野暮用で……」
「息荒いですね、走ってきたんですか?」

野崎が鞄からハンカチを出して俺に手渡した。

「とりあえず汗、拭いたらどうですか。傍から見たら、変質者がJKを襲ってる様にしか見えないですから」

誰がお前なんか襲うかよ、と思いながらも、女の子らしい気遣いができるのだな、と感心する。
お言葉に甘えてハンカチを借りて、汗を拭う。

「痴話喧嘩ですか?はぁ、青春してますねぇ」
「いや、そんないいもんじゃ……というか、あいつ見なかった?」
「えっと……れん先輩、後ろ」
「え?」

言われたまま振り返ってみると、そこには俯いて黒いオーラを出した真帆がいた。
ちょ、超怒ってる……。

「ま、真帆……」
「空くん……野崎さんにも手出してたの……?」
「ち、違うって、誤解だから!……野崎、このハンカチ今度洗って返すから」
「あ、いいですって。うちで洗濯しますから。それより怖いので、失礼しますね」

野崎はそのまますたすたと歩いて行ってしまう。
いや、名残惜しいとかそういうのはないが……。

「ま、真帆、聞いてくれ」
「聞きたくない」
「頼む!一生のお願いだから」
「一生のお願い、こんなことで使わないで」
「こ、こんなことって……」

浮気をしたとかではないはずなのだが……どうもこればかりは俺が悪い。

「空くんが何考えてるのか、私わからないよ……」

とうとう真帆は泣き出してしまった。
今まで真帆が泣いたところなど見たことが無かった。
あれだけ明るく、こんな俺に愛情を振りまいてくれた真帆。
それだけに、目の前のこの小さな女の子が泣いているのを見るのは精神的にくるものがあった。

「わかった、全部話す。真帆に隠し事なんて、俺もうしたくない」
「え?隠し事なんてしてたの……?」

もうここまできたら、全部話すしかないだろう。
真帆にこんな顔をさせるくらいなら、俺はこいつの為に人生全て捨ててもいい。

「ごめん、一個だけ……でも、さっきの女は……関係なくないな。とにかく聞いてほしい。それで納得できなかったら、俺を好きにしていいから」
「…………」
「ちょ、ちょっと場所、変えよう」

ここは人がまだ割と通っている。
近くに公園があったはずだ。
あそこならあまり人もこないだろうし、落ち着いて話せる。

「今から話すことは、嘘でも冗談でもないから。俺がたった一つ、苦しんでることでもある」
「…………」

真帆がどんな反応をするかはわからない。
恐怖しかない。
けど、もうここまできてしまったら話さないという選択肢はないだろう。
でっちあげるということもできなくはないが、真帆に果たしてそれが通用するだろうか。

「まず……俺、何ヶ月か前にそこの……球場見えるか?あそこで野球してた連中の打球が頭に直撃してさ。覚えてる?三日くらい包帯頭に巻いてたの」
「……覚えてる。空くん、様子おかしかった」
「あ、ああ……その節はご心配を……」
「それが、どうかしたの?」

そんなことはどうでもいいと言わんばかりに、真帆の対応は冷たい。
こんな真帆を見るのも、初めてのことだ。

「実は、あれで気絶して病院運ばれて、検査とか受けてさ。んで、何もなくて家に帰って……」

それからのことを全部、真帆に話した。
食べ物がうんこに見えるという、誰が聞いても多分馬鹿馬鹿しい様なことも、飲み物が全部ションベンに見えることとか、プールであの女と初めて遭遇したことも。
真帆は聞いているうちにきょとんとした顔をしていた。

「ねぇ、私のこと、馬鹿にしてるとかじゃ、ないんだよね?」
「そう見えるなら、そう思ってくれて構わない。けど俺が真帆のこと、そんな風に思ったりする様に見えるか?」
「見えない。だから聞いてるの」
「なら良かった。けど、これは本当のことだし、家族も全員知ってる。今度姉に会ったら聞いてみるといい。まぁ、あいつは俺を馬鹿にしてる方だけど」
「そんなことないと思うけど……でも何で、黙ってたの?」
「聞かされて、いい気分になる様な話じゃないと思ったからだ。実際、聞いてどう思った?俺の頭がおかしくなったか、からかってるんじゃないかとか思わなかったか?」
「それは……少し、思った……けど……」
「それが普通だから、気にしなくていいよ。理解できる類の話じゃないって俺も思う。仮に俺が全くの正常な状態で他の誰かからそんな話聞かされたら、こいつ何言ってんだ?って多分思うから」

真帆はまだ少し信じられないと言った面持ちだ。

「さっきの女の人は?何で押し倒す必要があったの?」

痛いところをグサリと突いて来る。
確かに押し倒す必要はなかったかもしれない。
あれは完全に俺の落ち度だ。

「あれはな、いつの間にかあいつが俺の部屋にいたんだ」
「もう、そういうのいいよ……」
「いや、そう思いたいのはわかるけど事実なんだ。しかも言うに事欠いてあの女、真帆にも同じ状態にする、とか言い出して……それでついカッとなって……」
「同じ状態って、どうやって?そんなことできるの?」
「わからない。けど、同じ状態にした人間が何人かいたって言ってた。すぐにギブアップしてたのに、俺は乗り越えててすごい、とか何とか」
「それが本当なんだとしたら……私なら気が狂ってるかもしれない」
「だろうな。あの女の身内を同じ様な状態にしたみたいだけど、一瞬でダメだったらしいから」
「空くんは何で、平気で私と付き合ってるの?私、食べるの好きだから苦痛だったんじゃないの?」
「……正直なことを言ったら、苦痛だったこともあったよ、最初だけな。でも、ずっと前から真帆のこと好きだったから……何とか耐えて、乗り越えたというか慣れたというか……」
「……何で!?私のことなんか、ほっとけば良かったのに!今だって、そんなに汗だくになってまで追いかけてきて!!」
「バカか!ほっとけるわけねーだろ!?あんなに献身的に色々助けてくれて、親身になってくれて、それが俺の好きだった女の子で……どうしてほっとけるんだよ!!」

真帆の言葉にまたもカッとなってしまって、つい語調がきつくなってしまう。
寝不足もあるのだろうが、真帆は俺に初めて怒鳴られてビクッとしていた。

「俺は……真帆とこれからも一緒にいたい。真帆が俺のこと嫌いになって、もう一緒にいたくないって言うんだったら仕方ない。きついけど諦める。でも、そうじゃないんだったら、俺はこんな病気みたいな呪いみたいなもん気にしないで真帆と付き合って行きたい!!」

座っていたベンチから立ち上がって、真帆の肩を掴む。

「俺の話を聞いて、俺のことスカトロキモ野郎とか思ったんだったら、遠慮なく言ってくれ。けど、俺はその……うんこに欲情したりする性癖とかないから」

女の子にうんことか言うのって、案外度胸がいる。
しかもこんな真剣な場面で。

「空くん、何でそんなに……辛いはずなのに、必死で私なんかに尽くしてくれるの?」
「何で?さっき言った通りだよ。お前が好きだから……辛いのよりも、きついのよりも、真帆と居て楽しいって思いが勝ってるからだよ」
「私わがままだし、空くんの苦しみとか、多分理解できない……でも、私、ずっと空くんのこと好きだったから……」
「お前だけが、俺のこと好きだったなんて思いあがりだぞ。俺だって、どんだけお前のこと好きだったか……」
「はぁ!?私の方が絶対空くんのこと、好きだもん!!」
「ふっざけんな、こればっかりは譲れねぇ!!俺の方が……」

あれ、何でこんなことでケンカしてんだ?
真帆も同じ様なことを思ったのだろうか、変な顔をしている。

「ねぇ、私、空くんの側にいてもいいの?」
「お前じゃなきゃダメだっての。真帆こそ、俺なんかでいいのかよ。それこそ、他の女子が笑顔でうんこ食ってるとことか見てるんだけど」
「それは控えて。じゃなかったらその目潰して私が一生介護するから」
「こ、怖いこと言うなよ。てか一生って……」
「一生だよ。いてくれないの?」
「い、いるよ。当然だろ」
「空くん、改めて言うけど……私、わがままだよ?」
「もう知ってる。真帆がわがままやめたら、俺寂しくなっちまうよ」
「私、エッチな子だよ?」
「な、何でそれ掘り返したの……今朝忘れようって言っただろ……」
「だって空くん、さっきの人みたいに私のこと押し倒したりしてくれないもん」
「いや、だからあれは……」
「空くん、私のことちゃんと愛してくれてる?」

普段の真帆らしからぬ、必死な目。
先ほどの俺の軽率な行動のせいで、真帆にこんな目をさせている。
俺は、何処か真帆に遠慮をしていたのかもしれない。
そんなの気にしたらキリがないのに。
そういうのを排除して尚、一緒にいられるはずの関係なのに。

「真帆、俺は……遠慮してたのかもしれない」
「そんなの、見てたらわかるよ。だから、愛してくれてるの?って聞いたんだもん」
「悪かった。俺が、間違ってた」
「じゃあ、私が……だ、抱いてって言ったら抱いてくれるの?」
「お前……噛むくらいならそんなこと……」
「どうなの!?」
「あ、ああ、遠慮なんかしない……と思う……」
「何でそんな弱気なの!?」
「し、しょうがねぇだろ!?昨日みたいなことがあったって、俺は童貞くんなの!そんな、はいわかりました!とか二つ返事でできねぇっつの!」
「あー!開き直った!何でそんな方向に開き直るの!?まっかせろ!とか言って少しくらい無理しようとか思わないの!?」
「思えるかよ!お前のこと大事だもん!後悔する様なことしたくねぇし!!」
「何!?私のこと抱くのが後悔する様なことだって言うの!?」
「ちっげぇよ!!その後のことだよ!!か、仮に子どもとか出来ちゃったら……責任取れる様な年齢でもないし……そういう、無責任なことしたくないって言うか……」
「全部かなぐり捨ててでも私を幸せにしよう、とか思わないってこと?」
「そうじゃなくて……どうせ幸せに、って言うなら……やっぱり苦労とかかけたくないって思うもんなんだって。真帆にはずっと、笑っててほしいから……」

思えば真帆とケンカなんか、初めてした気がする。
多少の意見の食い違いは何度かあったと思うけど、どちらかが折れて……いや大体俺だったか。
平和に、波風立てない様に、って思ってたんだと思う。
けど、こうしてケンカして、意見をぶつけあって戦わせることでわかることも沢山あった。

「空くん、私にぞっこんなんだね」
「ぞっこんとか今時聞かねぇなぁ……リアルで言ってるの初めて聞いた」
「私も、空くんにぞっこんなんだけど」
「知ってるよ」
「反応薄い!!もっと喜んでよ!!」
「おいおい、祭りの日、俺がどんだけ喜んだか知ってるのか?」
「知らない。空くんそういうの全然言ってくれないもん」
「そ、そうだな」

そう、俺は圧倒的に言葉が足りない。
それによって、いらない心配を真帆にかけているのだと、改めて思い知った。

「真帆……俺も改めて言うわ。俺、お前がどうしても好きだ。これからも、一緒にいてくれないか?」
「それは、いつまで?」
「いつまでって……」
「いつまで?十分後とかでいい?」
「お前……意地悪いなほんと……」
「あと十秒くらいでいいの?」
「わーかったよ!!ずっと!どっちかが死ぬまで!!一生!!お願いしますから一緒にいてください!!」
「最初からそう言えばいいのに……」

真帆がベンチから立ち上がって、俺に抱き付いてくる。
普段ならそっと手を添えるだけなのだが、今日の俺は違う。
ぐっと力を込めて、真帆を抱きしめる。

「その手、離しちゃいやだからね」
「わかってるよ」
「本当に?」
「当たり前だろ……ぐふぉ……」

肋骨と肋骨の隙間を縫って……手刀突き……だと……。
的確に急所を突かれてその場で悶絶する。

「あー、手放した」
「は、放すだろ、常識的に考えて……」

痛みよりも苦しみが強い。
手加減されてるんだとは思うが、本気でやられてたら死んでないか、これ……。

「今日はこれで許してあげる。でも、これから先浮気とかしたら……私、空くんのこと一生縛り付けて、おはようからおやすみまでお世話しちゃうから」
「し、しねぇよ……てか何でそう猟奇的なの……」
「じゃあ、仲直りのチュー」
「こ、この状況でか?てかまだ動けねぇんだけど、俺……」
「できないんだ?したくないんだ!?」
「お前本当わがままな……」

少しだけ、痛みが引いてきて立ち上がって、真帆を再び抱き寄せる。

「鼻息荒い」
「文句言うな……」

そのまま真帆の小さな顔を引き寄せて、キスをした。
優しく、壊さない様に……なんて思った俺がバカだった。

「!?」

にゅるっと口の中に侵入してくる、真帆の舌。
ちょっと待て、仲直りのキスじゃないのか、これ!

「んっ……」
「ん、んん!!」

しかも長い。
ゆうに二分近くはこの状態だったと思う。

「お、お前の仲直りって濃厚すぎないか……」
「嫌だったの?」
「そ、そういうんじゃないけど……」
「空くん、今日私、帰りたくないな」
「そんなムードも何もなくそういうこと言うのかよお前……」
「か、え、り、た、く、な、い、な!」
「わ、わかった……親に連絡してみるから……」

目が、うちに泊めろと言っている。
真帆の全力わがままの恐ろしさを、今日ここで思い知った。
明日は土曜だし、別にいいか。
学校はないし。

「うちは、大丈夫だって。真帆も連絡しとけよ」
「うん」

そう言って真帆がスマホを……ダジャレったみたいでやだなこれ。
親に連絡をしている様だ。

「空くん、お母さんが代わってって」
「え、俺?」

真帆から電話を受け取る。

「あ、お電話代わりました」
『空太郎くん、うちの娘がわがまま言って、ごめんね?』
「あー……」

本当にな、と思ったがさすがに口を噤む。

「いえ、全然問題ありませんよ。俺も昨日泊めてもらいましたから」
『本当、いい子ねぇ。またうちに遊びにきてね?お父さんも待ってるから』
「ええ、是非。俺もまたご両親にはお会いしたいと思ってますから」
『そんなこと言うと、本気にしちゃうわよ?』
「ははは、構いませんって、本心ですから」

他愛もない挨拶を済ませて、電話を切る。
何故か真帆がジト目で俺を見ている。

「お母さんと、随分仲良くなったんだね」
「ち、違うっての。確かに綺麗な人だとは思うけど」
「お母さんと浮気とか、やめてよね」
「しねぇから……それより、換えの下着とかどうするんだ?」
「うーん……買ってく。まだ駅前の駅ビルやってると思うし」

時計を見ると、十九時前。
あの辺の店は大体二十時までやっていたか。


場所は変わって、駅ビルの中のランジェリーショップ。
俺は少し離れたところで待ってる、と言ったのだが、真帆が強引に店の中まで連行した。
どんな拷問だよ……。
少し人は少なくなってるとは言っても、やはり客はいる。
客や店員の視線がやや痛い。

「空くん気にしすぎ。カップルで来る人なんか、別に珍しくないんだから堂々としててよ」
「そうは言ってもだな……」

色とりどりの下着を見ていると、どうしても昨夜のことが思い出される。

「こういうの、デートっぽくてよくない?」
「し、下着売り場じゃなかったらな」
「じゃあ、空くん私の下着選んでよ」
「はぁ!?な、何で俺が……」
「声おっきいよ、空くん……」

周りがクスクスと笑いながら俺たちを見ている。

「だって、空くんが選んで、空くんが脱がすんだよ?なら、空くんに選んでほしいなって」

ぼそっと耳打ちをしてくる。
その一言で俺はすっかりと顔が熱くなってしまう。

「買って、とまで言わないから……選んで?」

ドキドキしながら、俺は店内を見回す。
下着と一口に言っても、色々な種類がある。

「あ、ちなみに私、Dカップだから」
「そ、そうか」

D……そうだよな、結構大きかったと思う。
大きめの胸のサイズになればなるほど、可愛らしいデザインのものは減っていくと聞いたことがある。
実際に見てみると、確かに小さいサイズの方が可愛いデザインのものは多い気がした。

「ひ、紐……?空くん、そういうのがいいの?」
「へ?あ、ち、違う」

いつの間にか紐パンを手に取っていたらしく、慌てて手を放す。

「空くんがやれって言うなら、私ノーパンで学校くらいなら……」
「だ、ダメ絶対!他のやつに見られたらどうするんだ!」
「ふふ、空くん独占欲強いなぁ」

そんなことを言いながら、真帆はちょっと嬉しそうだった。

「こ、これ……かな」

そう言って指差したのは、ピンクを基調とした、フリルのついた花柄のもの。
ほほー、とか言いながら真帆はその下着を手に取った。

「こういうの、好き?」
「好きっていうか……似合いそうかなと……」
「そっかぁ、じゃあこれにしよっと」

ちらっと見えた値札を見て、仰天する。
女の下着ってこんな高いの!?
俺のなんか五枚で千円とかのボクサーパンツなのに。


「お待たせっ」

可愛らしい袋に入れられた下着を持って、真帆が来る。
そのあと、一階にあったドラッグストアで、歯ブラシを買っていた。
そんなに俺の家に来るのが嬉しいのだろうか、軽く鼻歌が聞こえてくる。
正直俺はそれどころではないというのに。
さっきの真帆の発言が頭の中で反芻されて、再び息が荒くなりそうなのを必死で抑えているのだ。

そんなことを考えているうちに、俺の家に着いてしまう。
夕飯の匂いがする。

「わぁ、美味しそう!」

食卓に用意された食事を見て、真帆がため息を漏らした。
俺には大量のうんこにしか見えないのだが。

「まさか空太郎がらこんなに可愛い彼女を連れてくるなんて……」

母はいたく感動した様で、大いに真帆をもてなした。
姉はもちろんだが、父も真帆のことが気に入った様で、俺なんかの何処を、などとしきりに聞いていた。

「沢山食べてね?まだまだいっぱいあるから」

そんなこと言うと、こいつ本当に沢山食べるぞ。
心の中でそんなことを言いながら、俺も見た目がうんこの、母作の晩飯を食べる。

「ねぇ空くん……今もやっぱり、見えるの?」

ぼそっと真帆が呟く。
ああ、そうか。
もうバレてるんだっけ。

「まぁな。けどもう、気にもならないよ。俺が変わってるって言われりゃそれまでなんだけど」
「そっかぁ……」

そう言いながら、もぐもぐと母の料理を次々平らげていく。


「あ?そりゃお前、大食いで痩せてる女子って言ったらうんこがでかいからに決まってんだろ。じゃなかったらあんなスリムでいられないって」

真帆が風呂に入ってる間に、姉に真帆の体系について聞いてみた。
そして、姉は予想通り俺の幻想をぶち壊してくれた。

「食ったら出す、そんなのは基本だからな。それが出来ない、つまり便秘とかのやつは、太ったりしやすかったりってわけだ。勉強になったか、弟よ」
「そ、そうね……」
「だからってお前、真帆ちゃんにうんこがでかいの?とか聞いたらダメだからな?」
「聞くわけねーだろ!大体予想はしてたから……」
「あれで真帆ちゃん、お前にベタ惚れだからな。そんなこと聞いたら、自殺とかするかもしんねーし」
「じ、自殺……」
「真帆ちゃんを悲しませたりなんて、論外だからな?うちでもあの子もう、相当気に入られてるんだから」
「わ、わかってるっての……」

さっき悲しませました、なんて言えず俺は自室に戻る。
階下から、お風呂ありがとうございました、なんて声が聞こえた。
真帆が風呂から上がったのか。

「そういえば、真帆ちゃん寝るところ……どうするの?」

母が俺の部屋を訪ねてくる。

「あ……そうか、うち客間ないんだっけ」
「あんたがいいなら、あんたの部屋で一緒に寝てもらうけど……」
「あ、姉の部屋は?」
「あの状態の部屋であんな可愛い子寝かせるつもりなの、あんた」

思い出した。
姉の部屋、それは魔境だ。
魔窟とさえ言える。

男と別れてから散らかる一方で、酒の空き瓶やお菓子の包み紙等、ゴミが処狭しと散乱している。
今日真帆が来ると聞いても片付け一つしなかった様だ。

「あ、なら……仕方ないか。俺の部屋で寝てもらおう。布団一個空いてるよね?出してもらっていい?」

母にそう伝えると、すぐに母が布団を一式出してくる。
そして母と入れ替えで真帆が部屋にやってきた。
俺が小学生の頃に着ていた青いTシャツとジャージの下を履いている。
よく残ってたな、こんなの。

「お、お姉さんの部屋、すごいね」
「あー……あそこにいると体調おかしくなるぞ」
「さすがに色々気にしない私でも、ちょっと厳しいかなって」
「だろうと思ったから、ほれ。真帆ベッド使っていいから」
「え、ダメだよ。空くんベッドで寝て?」
「いや、今日は真帆お客さんなんだから。大丈夫だから気を遣わないでくれ。風呂入ってくるけど、部屋漁ったりしないでくれな」

そう言って、俺は空いた風呂に入ることにする。
ああは言ったが、絶対真帆はベッドの下とか見てるに決まっている。
もう、そこは諦めることにした。

今更慌てたって仕方ない。
あまり真帆を一人にしておくと、何をしでかすかわからない。
ということで俺は手早く髪と体を洗い、風呂を出た。

「あ、おかえり空くん」

おかえり……いい響きだ。
将来、こんな光景が当たり前になったりするんだろうか。

「空くん、ただいまは?」
「あ、ああた、ただいま」
「何赤くなってるの?」
「い、いやなんでもない……ちょっと幸せな妄想を……」
「あっ……気が早いなぁ、空くん……」

真帆にも言いたいことは伝わった様で、少し顔が赤くなる。

「空くん、もう寝る?電気消す?」
「ま、真帆こそ気が早くない?」
「何を想像してるのかは大体わかるけど……その通りだよ?」
「そこは、違うからね、とか言うところじゃないのか」
「だって、私空くんに抱かれるためにここに来たんだもん」

こうまではっきりと言えるのはすごいと思う。
俺にはまず真似できない。

「それに、これ」

真帆が俺の秘蔵の本を取り出す。

「やっぱりか……何で出すの」
「ちょっと見て……イメトレを……」
「あ、ありのままでいいのに」

ありのままの真帆のプレイって何だろうか。

「ところで、変なこと聞くけど……真帆は経験者なの?」
「は?」

真帆の目の色が変わる。
これは盛大に地雷を踏んだ予感がする。
処女信仰の趣味はないが、そうだったらいいな、程度で聞いたつもりだった。
別に経験者だからって態度を変えたりすることは俺に限ってない。

「昨日の、アレでそう思ったの?」
「は、はい」
「言ったじゃん……私、エッチな子なんだよって」
「あ、うん」
「その……動画とか、見たりするし……」
「わ、わかったから」
「だから……初めては空くんがもらってね?ちゃんと責任とってくれるよね?」

真帆が立ち上がって、部屋の明かりを消す。

その暗がりの中で光る真帆の目から、俺は目を離すことができなかった。
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