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番外編
番外編~Maho's dark side~
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私がその男の子と出会ったのは、とある昼休みの学食だった。
私は身長が低い。
高校一年生になってもまだ一五〇センチしかない。
昼の学食というのはいわば戦場みたいなもので、私みたいな小さいのは人の波に飲まれてたちまち埋もれてしまう。
そしてまごまごしている間に食べたいものなんかすぐ売り切れてしまって、泣く泣く大して食べたくも無い、値段と味の釣り合わないものを食べなければならなくなる。
しかし、その日だけは違った。
「パン?何パン?甘いのとしょっぱいのでいい?」
こんな小さくて見失っててもおかしくない私に目を留めて、声をかけてくれた人がいた。
咄嗟のことに声が出ず、ただうんうんと頷くしかできなかったが、その人は人の波をかきわけて、メロンパンと焼きそばパンを買ってきてくれた。
袋を手渡されて、小さくありがとう、と言うが聞こえていただろうか。
お金を渡そうともたついている間に、彼は再び人の波の中へと消えて行ってしまった。
私はそんな彼に惹かれて、すぐに彼のことを調べて回った。
聞いたこともない、珍しい苗字だった。
名前も、あんまり馴染みが無い。
この世知辛い世の中で、あんなにも温かみを持った人に出会えるなんて思って居なかった私は、何とかして彼に近づきたかった。
私の家庭環境を知る人間は、この学校にも少なく無い。
現に私の所属するクラスの人間は既に全員知っている。
彼が違うクラスでよかったと思ったが、何かの拍子に知られてしまう懸念がある。
私はすぐに、クラスメイト一人一人に口止めをして回ることにした。
大半のクラスメイトは、怯えながらも快く承諾してくれた。
しかし、悪いことを考える人間というのはやはりいるのだった。
「黙っててやるから、俺に抱かれろ」
要約するとこんな趣旨のことを言い出す者がいた。
その男は必死で、私に訴えかける。
「あいつに、知られてもいいのか?」
せっかく見つけた出会いを、こんなところで終わらせたくない。
その一心で、私はその脅迫めいた提案を呑んでしまった。
思えばここから、私の人生は狂い始めたのだろうと思う。
小遣いだけは沢山もらっていたので、事に及ぶ為の場所はすぐに確保できた。
駅前のホテルで事足りる。
経験があったわけではなく、正直こんな男に、という気持ちはあった。
私は彼を言い訳に、この男に抱かれることにしたのだ。
愛情もなく、技術も皆無のその男はおそらく童貞だったんだろうと思う。
正直思っていたよりも気持ちよくはなかった。
「絶対、誰にも言ったらダメだから」
事が済んで私はその男に釘を刺す。
秘密を守る為にもう一つ、秘密が増えてしまった。
ここから私はどんどんと堕ちていく。
身も心も、既に汚れ始めていた。
翌日、その男から再度呼び出しを受ける。
その男は他の男子にも声をかけていた様で、私は旧校舎の今は使われていない男子トイレで代わる代わるその男たちに抱かれた。
五人くらいいたかな、確か。
全員がその欲望を私の中に吐き出しきって、私は約束を守らなければどうなるのか、ということを他の男子生徒に教えてやることにした。
私は前日、誰にも言ったらダメだと言った。
にも関わらず今日のこの有様は何だというのか。
手始めに最初の男の目を潰し、倒れたところで下半身を踏みつけた。
足にぐちゅっという感触が伝わってきて、非常に不快だったが悶絶して気絶した男を見て、何人かはそのまま襲い掛かってきた。
しかし、その全員を一瞬で返り討ちにして見せて、再度釘を刺す。
「約束だからね?次、誰かに言ったら本当に殺すから」
かろうじて無事だった男子生徒は、その場で失禁していた。
それから暫くは、男子生徒たちも怯えて絡んでくることがなくなって、そのまま私は二年生になった。
彼と同じクラスになったことを知った私は嬉しさと後悔とで板ばさみにされ、苦悩の日々を送る。
彼に近づくために色々網は張った。
自分から話しかけにも行ったし、お昼を一緒に食べようと提案したこともあった。
ある日彼は、頭に包帯を巻いて現れた。
最初、中二病か何かかと思ったが、思っていたよりも深刻な状況だったことを後で知る。
フラフラとしていたし、目もこころなしかうつろに見える。
とても心配だったし何かあるなら話してほしいという思いもあって、手持ちのお菓子などを渡そうとしたらスクワットなど始めて、本当に意味がわからなかった。
結局彼は、二時間目辺りで保健室へ行ってしまった。
昼休みになって食堂で彼を見かけたので、声をかける。
カレーを食べるつもりだと伝えたところ、何やらブツブツと言ってそのまま倒れてしまった。
さすがにこれは看過できない、と思って救急車を呼ぶことにする。
彼が倒れたことがショックで、私はその日の昼食を食べることが出来ず、帰宅してからおやつをかじってお腹を満たした。
聞いた話によれば、彼はそのまま入院したらしい。
二日ほど彼は学校を休んでいて、私は寂しい日々を過ごした。
彼が退院して翌日、学校にきた時は思わず喜んだ。
しかし、その一方で私みたいな汚い女に彼を思う資格があるのか、という思いも芽生える。
だが彼はそんな私の心に気づくはずもない。
いつもどおりの彼に戻ったことに安心して、私は意を決して週末、デートに誘うことにした。
彼は躊躇いながらも承諾してくれた。
その時連絡先も交換して、メールで詳しいことなどを決めた。
週末のデートは、あまり体調の良くなさそうな彼を心配して、デカ盛りメニューが売りの店に連れて行くことにした。
以前父が連れてきてくれた店だが、私も一人でよく利用する。
彼はなんとも言えない顔で注文したものを食べていて、私はぺロリとそのメニューを平らげる。
どうやら彼は、女子に幻想を抱いている節がある様に見えたので、私はその幻想を壊さない様に、残りの一口を食べさせてあげることにした。
照れながらもちゃんと食べてくれたことに喜んだのもつかの間、店の外でいつぞやの男子生徒たちを見かけた。
これからどうしようか、と提案した矢先のことだったが、連中はさりげなくその場から逃げた。
連中の姿はすぐに見えなくなったが、私は気分が悪くなってしまって、帰宅することにした。
彼はきょとんとしていたが、このままデートを続ける気になどならなかったのだ。
家に帰ってから私は、昼に食べたものを全部吐いた。
あの男子トイレでの一件が思い出されて、正気でなどいられなかった。
父が心配して部屋を訪ねてきたが、適当なことを言って追い返す。
こんな私に、誰かに愛される資格なんかない、そう思った。
週が明けて、私は先週のお詫びにと思って、彼を週末の祭りに誘った。
さすがに少し強引な引き上げ方をしてしまったし、彼にも悪いことをしたと思ったのだ。
これについても、彼は承諾してくれた。
浴衣を着て、彼の家に迎えに行く道中は、ガラにもなくウキウキとしていたかもしれない。
しかしやはり心のどこかで負い目を感じてしまう。
彼はきっと、私のことを好きでいてくれている。
確かめたわけではないが、普段の態度などから何となくそれは伝わってくる。
私もそれとなく彼にはアプローチをかけているつもりだが、どうしても一歩踏み出せなかった。
彼がほしがっているであろうものを、私は愚かな判断で失ってしまっているからだ。
彼の家に着くと、彼のお姉さんが家にいた。
彼も出てきて、家に上げてもらう。
思いもかけず歓迎されてもてなされる。
彼の部屋でいやらしい本を見つけてしまい……というかあのお姉さんの仕業なんだろうけど、彼の趣味を知った。
やはり彼は私に幻想を持っている。
私は彼が思うほどに綺麗でも可愛くもない。
彼に堂々と思いを告げることすら、そんな資格はないのだと諦めている。
今夜の祭りでアプローチをかけて、それで何もなければ彼のことは諦めよう。
そう心に決めて、二人で彼の家を出た。
ダメ元で彼に手を繋いでほしいと提案する。
今までお父さん以外の男の人と手を繋いだ経験などない。
にも関わらずあんなに爛れた経験だけはしている。
そんな私の心を知らない彼は、手汗を心配しながらも承諾してくれた。
彼の温かさが、私の心に突き刺さる。
こんなにも純粋に私を思ってくれる彼に顔向けが出来ない。
会場について私はわざとらしくはしゃいで見せて、出店の食べ物を粗方買ってくる。
手が離れたことに何処かでほっとしてしまっている私がいて、私はもう純粋ではいられないのだと思い知った。
二人で空いているスペースに腰かけて食事にする。
味だけは、雰囲気のためか美味しく感じる。
彼も量に驚いたのか、青い顔をしながら一緒に食べてくれた。
傍から見たら仲の良いカップルに……見えるんだろうなぁ……。
しかし、せっかく彼も楽しんでくれているのに私の都合で水を差したくない。
なので、彼に私の箸でたこ焼きを食べさせたりする。
またも戸惑ってはいたが、彼は嬉しそうだった。
彼が食べ残した焼きそばを、私が処理しようとして、受け取りそこねてバランスを崩した。
彼は私の肩を掴んで支えてくれたのだが、その瞬間に、連中に後ろからガンガン突かれているときの事がフラッシュバックした。
一気に気分が悪くなって、食べたものが戻りそうになるのを何とか堪えた。
「口のまわりにソースついてる」
彼が教えてくれた。
ティッシュか何かを取り出そうと手を放そうとしたので、私はここで思い切って彼に行動させることにした。
私から言えないのであれば、彼に言わせればいいのだ。
「手、放しちゃうの?」
意地悪な質問だと思った。
正直こんなことさえも言う資格はないんじゃないかと思った。
それでも彼はそれに必死で応えようとしてくれた。
まぁ、子どもの冷やかしに邪魔されて未遂に終わったんだけどね。
子どもじゃなかったらあとでシメてやろうか、と思ってしまっていたかもしれない。
仕方なくティッシュで顔を拭くことにして、彼から借りたのだが、それを見て一瞬固まってしまった。
人妻ダイヤル。
ティッシュのパッケージにはそう書いてあって、電話番号などが書いてある。
これまたお姉さんのいたずらなのだろう。
情緒不安定だったのかもしれないが、私は彼とのメールについて不満を漏らした。
理不尽なことも沢山言った。
それでも彼は怒ったりしないで、私なんかとのメールを楽しみにしてくれているのだと言ってくれた。
誘導尋問的に、私のことが好きかと聞いた。
卑怯で弱い、私の心。
でも、彼はつられて好きだと言ってくれる。
もう、止まらなかった。
こんな私でも、好きだと言ってくれる彼を、放したくなかった。
結局私たちは、付き合うことになってしまった。
今日で最後にして諦めるつもりでいたのに、一体何をしているのか。
これから先、絶対彼を傷つけることになる。
彼をがっかりさせることになる。
見えた結末が待っているのがわかっているのに。
夏休みになって、彼は私を色々なところに誘ってくれた。
しかし何処か気乗りせず、適当な言い訳を探してそれをかわし続けていた。
やはり付き合うべきではなかったと、私は思い始めてしまっていた。
自分で誘って、誘導して。
全て自分が悪いはずなのに、もどかしい。
彼が誘いをかけてくればくるほど、私は自責の念に押しつぶされそうになっていた。
ある日、私は思い立って彼を駅前に誘った。
彼が持っている、私の綺麗なイメージ。
そういったものを一切合切ぶち壊してしまおう。
そう思って、彼を誘う。
同時にいつぞやの男子生徒も一緒に誘っておいた。
来なければ殺す、と脅しをかけるとやつらは怯えながらも了承し、すごすごと駅前にやってきた。
そして彼も来る。
「ごめんね、空くん」
彼に一言謝罪をして、彼に当身をする。
彼を男の一人に背負わせて、全員でホテルの一室に入る。
彼を部屋で椅子にしばりつけて、身動き一つできない様にした。
「いつかみたいに、私のこと抱きなさい。出来ないなんて言ったらこの場で全員死ぬことになるから」
脅しをかけて、私は男どもに身を預けた。
「ま、真帆……?何、してるんだ?そいつらは……」
目を覚ました彼が見たのは、私が複数の男に抱かれてよがっているところ。
男の一人に跨り、残り四人ほどの男の男根を手で扱き、口に咥えているところ。
ベッドの上で、私は男どもに代わる代わる犯されていく。
わざと大げさに嬌声を上げ、はてしなくはしたない女を演出する。
避妊など当然せず、生で欲望を吐き出していく男たち。
最初は乗り気でなかった連中も、途中からは興が乗ってきたのか、本気で見せ付けようとしている様に思えた。
それを彼は涙を流しながら見ていた。
「やめろ……何なんだよこれ……」
時折、こんな呟きが聞こえた。
目を逸らしたくても、ほとんど目の前で結合部分が丸見えになる様位置取ってある。
目を瞑ると、手の空いている男が目を開けさせた。
そうする様に言っておいた。
全員で何周かして、私が絶頂を迎えるのもしっかりと彼に見せた。
彼の股間の辺りが膨らんで、湿っているのがわかる。
「空くん、こんな私を見て欲情したの?じゃあ、ご褒美に童貞だけはもらってあげるから」
もう、私は狂ってしまっていた。
一切の抵抗をしなくなった彼に跨って、彼が果てるまで腰を振り続ける。
これで、もう彼も私などのことは忘れて諦めてくれる。
彼が盛大にその溜まったものを吐き出して、脱力した。
「言ったでしょ、女の子は別に綺麗なものなんかじゃない、って」
そう言い捨てて私は一人シャワーを浴びた。
残った男どもがなんとも言えない顔をしていたので、シャワーから上がって、解散させる。
彼を残してホテルを出て真っ直ぐ家に帰って、私は再度盛大に吐いた。
翌々日になって、彼が自殺したとお姉さんから連絡があった。
部屋で首を吊っているところを、お母さんが発見したとのことだった。
私は一人部屋で放心していた。
自分のせいで自分を追い込んでおいて、一体何をしているのか。
彼を死なせることが、私の目的だったっけ?
死んじゃったって、どういうこと?
何で?私が殺した?
色々なことが頭を駆け巡った。
「あーあ……せっかくの貴重なサンプルだったのに」
女の声がした。
聞き覚えの無い声。
無機質に、抑揚のない声。
「あなた、彼を死なせちゃったんだね」
勝手に部屋に入っているその女を見ても、正直どうでも良いという感情しか湧いてこない。
この女が何者なのかとか、そういうこともどうでも良かった。
「彼が死んだことで、少しはすっきりした?彼はあんなにもあなたを思っていたのに」
「…………」
「正直、この損失は大きいなぁ……」
その女が手をかざす。
私にはその女が何者なのかわからないが、何となくこの女が私のこの苦悩から私を解放してくれる。
そう予感できた。
「とりあえず、彼の無念、代わって晴らしてあげることはできないけど……報いは受けてもらう」
女の手が光って、私の意識はそこで途切れた。
生まれ変わる、なんてことがあるなら、今度は綺麗な体のままで彼と仲良くなりたい。
そんなあり得もしない願いを掲げながら。
私は身長が低い。
高校一年生になってもまだ一五〇センチしかない。
昼の学食というのはいわば戦場みたいなもので、私みたいな小さいのは人の波に飲まれてたちまち埋もれてしまう。
そしてまごまごしている間に食べたいものなんかすぐ売り切れてしまって、泣く泣く大して食べたくも無い、値段と味の釣り合わないものを食べなければならなくなる。
しかし、その日だけは違った。
「パン?何パン?甘いのとしょっぱいのでいい?」
こんな小さくて見失っててもおかしくない私に目を留めて、声をかけてくれた人がいた。
咄嗟のことに声が出ず、ただうんうんと頷くしかできなかったが、その人は人の波をかきわけて、メロンパンと焼きそばパンを買ってきてくれた。
袋を手渡されて、小さくありがとう、と言うが聞こえていただろうか。
お金を渡そうともたついている間に、彼は再び人の波の中へと消えて行ってしまった。
私はそんな彼に惹かれて、すぐに彼のことを調べて回った。
聞いたこともない、珍しい苗字だった。
名前も、あんまり馴染みが無い。
この世知辛い世の中で、あんなにも温かみを持った人に出会えるなんて思って居なかった私は、何とかして彼に近づきたかった。
私の家庭環境を知る人間は、この学校にも少なく無い。
現に私の所属するクラスの人間は既に全員知っている。
彼が違うクラスでよかったと思ったが、何かの拍子に知られてしまう懸念がある。
私はすぐに、クラスメイト一人一人に口止めをして回ることにした。
大半のクラスメイトは、怯えながらも快く承諾してくれた。
しかし、悪いことを考える人間というのはやはりいるのだった。
「黙っててやるから、俺に抱かれろ」
要約するとこんな趣旨のことを言い出す者がいた。
その男は必死で、私に訴えかける。
「あいつに、知られてもいいのか?」
せっかく見つけた出会いを、こんなところで終わらせたくない。
その一心で、私はその脅迫めいた提案を呑んでしまった。
思えばここから、私の人生は狂い始めたのだろうと思う。
小遣いだけは沢山もらっていたので、事に及ぶ為の場所はすぐに確保できた。
駅前のホテルで事足りる。
経験があったわけではなく、正直こんな男に、という気持ちはあった。
私は彼を言い訳に、この男に抱かれることにしたのだ。
愛情もなく、技術も皆無のその男はおそらく童貞だったんだろうと思う。
正直思っていたよりも気持ちよくはなかった。
「絶対、誰にも言ったらダメだから」
事が済んで私はその男に釘を刺す。
秘密を守る為にもう一つ、秘密が増えてしまった。
ここから私はどんどんと堕ちていく。
身も心も、既に汚れ始めていた。
翌日、その男から再度呼び出しを受ける。
その男は他の男子にも声をかけていた様で、私は旧校舎の今は使われていない男子トイレで代わる代わるその男たちに抱かれた。
五人くらいいたかな、確か。
全員がその欲望を私の中に吐き出しきって、私は約束を守らなければどうなるのか、ということを他の男子生徒に教えてやることにした。
私は前日、誰にも言ったらダメだと言った。
にも関わらず今日のこの有様は何だというのか。
手始めに最初の男の目を潰し、倒れたところで下半身を踏みつけた。
足にぐちゅっという感触が伝わってきて、非常に不快だったが悶絶して気絶した男を見て、何人かはそのまま襲い掛かってきた。
しかし、その全員を一瞬で返り討ちにして見せて、再度釘を刺す。
「約束だからね?次、誰かに言ったら本当に殺すから」
かろうじて無事だった男子生徒は、その場で失禁していた。
それから暫くは、男子生徒たちも怯えて絡んでくることがなくなって、そのまま私は二年生になった。
彼と同じクラスになったことを知った私は嬉しさと後悔とで板ばさみにされ、苦悩の日々を送る。
彼に近づくために色々網は張った。
自分から話しかけにも行ったし、お昼を一緒に食べようと提案したこともあった。
ある日彼は、頭に包帯を巻いて現れた。
最初、中二病か何かかと思ったが、思っていたよりも深刻な状況だったことを後で知る。
フラフラとしていたし、目もこころなしかうつろに見える。
とても心配だったし何かあるなら話してほしいという思いもあって、手持ちのお菓子などを渡そうとしたらスクワットなど始めて、本当に意味がわからなかった。
結局彼は、二時間目辺りで保健室へ行ってしまった。
昼休みになって食堂で彼を見かけたので、声をかける。
カレーを食べるつもりだと伝えたところ、何やらブツブツと言ってそのまま倒れてしまった。
さすがにこれは看過できない、と思って救急車を呼ぶことにする。
彼が倒れたことがショックで、私はその日の昼食を食べることが出来ず、帰宅してからおやつをかじってお腹を満たした。
聞いた話によれば、彼はそのまま入院したらしい。
二日ほど彼は学校を休んでいて、私は寂しい日々を過ごした。
彼が退院して翌日、学校にきた時は思わず喜んだ。
しかし、その一方で私みたいな汚い女に彼を思う資格があるのか、という思いも芽生える。
だが彼はそんな私の心に気づくはずもない。
いつもどおりの彼に戻ったことに安心して、私は意を決して週末、デートに誘うことにした。
彼は躊躇いながらも承諾してくれた。
その時連絡先も交換して、メールで詳しいことなどを決めた。
週末のデートは、あまり体調の良くなさそうな彼を心配して、デカ盛りメニューが売りの店に連れて行くことにした。
以前父が連れてきてくれた店だが、私も一人でよく利用する。
彼はなんとも言えない顔で注文したものを食べていて、私はぺロリとそのメニューを平らげる。
どうやら彼は、女子に幻想を抱いている節がある様に見えたので、私はその幻想を壊さない様に、残りの一口を食べさせてあげることにした。
照れながらもちゃんと食べてくれたことに喜んだのもつかの間、店の外でいつぞやの男子生徒たちを見かけた。
これからどうしようか、と提案した矢先のことだったが、連中はさりげなくその場から逃げた。
連中の姿はすぐに見えなくなったが、私は気分が悪くなってしまって、帰宅することにした。
彼はきょとんとしていたが、このままデートを続ける気になどならなかったのだ。
家に帰ってから私は、昼に食べたものを全部吐いた。
あの男子トイレでの一件が思い出されて、正気でなどいられなかった。
父が心配して部屋を訪ねてきたが、適当なことを言って追い返す。
こんな私に、誰かに愛される資格なんかない、そう思った。
週が明けて、私は先週のお詫びにと思って、彼を週末の祭りに誘った。
さすがに少し強引な引き上げ方をしてしまったし、彼にも悪いことをしたと思ったのだ。
これについても、彼は承諾してくれた。
浴衣を着て、彼の家に迎えに行く道中は、ガラにもなくウキウキとしていたかもしれない。
しかしやはり心のどこかで負い目を感じてしまう。
彼はきっと、私のことを好きでいてくれている。
確かめたわけではないが、普段の態度などから何となくそれは伝わってくる。
私もそれとなく彼にはアプローチをかけているつもりだが、どうしても一歩踏み出せなかった。
彼がほしがっているであろうものを、私は愚かな判断で失ってしまっているからだ。
彼の家に着くと、彼のお姉さんが家にいた。
彼も出てきて、家に上げてもらう。
思いもかけず歓迎されてもてなされる。
彼の部屋でいやらしい本を見つけてしまい……というかあのお姉さんの仕業なんだろうけど、彼の趣味を知った。
やはり彼は私に幻想を持っている。
私は彼が思うほどに綺麗でも可愛くもない。
彼に堂々と思いを告げることすら、そんな資格はないのだと諦めている。
今夜の祭りでアプローチをかけて、それで何もなければ彼のことは諦めよう。
そう心に決めて、二人で彼の家を出た。
ダメ元で彼に手を繋いでほしいと提案する。
今までお父さん以外の男の人と手を繋いだ経験などない。
にも関わらずあんなに爛れた経験だけはしている。
そんな私の心を知らない彼は、手汗を心配しながらも承諾してくれた。
彼の温かさが、私の心に突き刺さる。
こんなにも純粋に私を思ってくれる彼に顔向けが出来ない。
会場について私はわざとらしくはしゃいで見せて、出店の食べ物を粗方買ってくる。
手が離れたことに何処かでほっとしてしまっている私がいて、私はもう純粋ではいられないのだと思い知った。
二人で空いているスペースに腰かけて食事にする。
味だけは、雰囲気のためか美味しく感じる。
彼も量に驚いたのか、青い顔をしながら一緒に食べてくれた。
傍から見たら仲の良いカップルに……見えるんだろうなぁ……。
しかし、せっかく彼も楽しんでくれているのに私の都合で水を差したくない。
なので、彼に私の箸でたこ焼きを食べさせたりする。
またも戸惑ってはいたが、彼は嬉しそうだった。
彼が食べ残した焼きそばを、私が処理しようとして、受け取りそこねてバランスを崩した。
彼は私の肩を掴んで支えてくれたのだが、その瞬間に、連中に後ろからガンガン突かれているときの事がフラッシュバックした。
一気に気分が悪くなって、食べたものが戻りそうになるのを何とか堪えた。
「口のまわりにソースついてる」
彼が教えてくれた。
ティッシュか何かを取り出そうと手を放そうとしたので、私はここで思い切って彼に行動させることにした。
私から言えないのであれば、彼に言わせればいいのだ。
「手、放しちゃうの?」
意地悪な質問だと思った。
正直こんなことさえも言う資格はないんじゃないかと思った。
それでも彼はそれに必死で応えようとしてくれた。
まぁ、子どもの冷やかしに邪魔されて未遂に終わったんだけどね。
子どもじゃなかったらあとでシメてやろうか、と思ってしまっていたかもしれない。
仕方なくティッシュで顔を拭くことにして、彼から借りたのだが、それを見て一瞬固まってしまった。
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ティッシュのパッケージにはそう書いてあって、電話番号などが書いてある。
これまたお姉さんのいたずらなのだろう。
情緒不安定だったのかもしれないが、私は彼とのメールについて不満を漏らした。
理不尽なことも沢山言った。
それでも彼は怒ったりしないで、私なんかとのメールを楽しみにしてくれているのだと言ってくれた。
誘導尋問的に、私のことが好きかと聞いた。
卑怯で弱い、私の心。
でも、彼はつられて好きだと言ってくれる。
もう、止まらなかった。
こんな私でも、好きだと言ってくれる彼を、放したくなかった。
結局私たちは、付き合うことになってしまった。
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見えた結末が待っているのがわかっているのに。
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しかし何処か気乗りせず、適当な言い訳を探してそれをかわし続けていた。
やはり付き合うべきではなかったと、私は思い始めてしまっていた。
自分で誘って、誘導して。
全て自分が悪いはずなのに、もどかしい。
彼が誘いをかけてくればくるほど、私は自責の念に押しつぶされそうになっていた。
ある日、私は思い立って彼を駅前に誘った。
彼が持っている、私の綺麗なイメージ。
そういったものを一切合切ぶち壊してしまおう。
そう思って、彼を誘う。
同時にいつぞやの男子生徒も一緒に誘っておいた。
来なければ殺す、と脅しをかけるとやつらは怯えながらも了承し、すごすごと駅前にやってきた。
そして彼も来る。
「ごめんね、空くん」
彼に一言謝罪をして、彼に当身をする。
彼を男の一人に背負わせて、全員でホテルの一室に入る。
彼を部屋で椅子にしばりつけて、身動き一つできない様にした。
「いつかみたいに、私のこと抱きなさい。出来ないなんて言ったらこの場で全員死ぬことになるから」
脅しをかけて、私は男どもに身を預けた。
「ま、真帆……?何、してるんだ?そいつらは……」
目を覚ました彼が見たのは、私が複数の男に抱かれてよがっているところ。
男の一人に跨り、残り四人ほどの男の男根を手で扱き、口に咥えているところ。
ベッドの上で、私は男どもに代わる代わる犯されていく。
わざと大げさに嬌声を上げ、はてしなくはしたない女を演出する。
避妊など当然せず、生で欲望を吐き出していく男たち。
最初は乗り気でなかった連中も、途中からは興が乗ってきたのか、本気で見せ付けようとしている様に思えた。
それを彼は涙を流しながら見ていた。
「やめろ……何なんだよこれ……」
時折、こんな呟きが聞こえた。
目を逸らしたくても、ほとんど目の前で結合部分が丸見えになる様位置取ってある。
目を瞑ると、手の空いている男が目を開けさせた。
そうする様に言っておいた。
全員で何周かして、私が絶頂を迎えるのもしっかりと彼に見せた。
彼の股間の辺りが膨らんで、湿っているのがわかる。
「空くん、こんな私を見て欲情したの?じゃあ、ご褒美に童貞だけはもらってあげるから」
もう、私は狂ってしまっていた。
一切の抵抗をしなくなった彼に跨って、彼が果てるまで腰を振り続ける。
これで、もう彼も私などのことは忘れて諦めてくれる。
彼が盛大にその溜まったものを吐き出して、脱力した。
「言ったでしょ、女の子は別に綺麗なものなんかじゃない、って」
そう言い捨てて私は一人シャワーを浴びた。
残った男どもがなんとも言えない顔をしていたので、シャワーから上がって、解散させる。
彼を残してホテルを出て真っ直ぐ家に帰って、私は再度盛大に吐いた。
翌々日になって、彼が自殺したとお姉さんから連絡があった。
部屋で首を吊っているところを、お母さんが発見したとのことだった。
私は一人部屋で放心していた。
自分のせいで自分を追い込んでおいて、一体何をしているのか。
彼を死なせることが、私の目的だったっけ?
死んじゃったって、どういうこと?
何で?私が殺した?
色々なことが頭を駆け巡った。
「あーあ……せっかくの貴重なサンプルだったのに」
女の声がした。
聞き覚えの無い声。
無機質に、抑揚のない声。
「あなた、彼を死なせちゃったんだね」
勝手に部屋に入っているその女を見ても、正直どうでも良いという感情しか湧いてこない。
この女が何者なのかとか、そういうこともどうでも良かった。
「彼が死んだことで、少しはすっきりした?彼はあんなにもあなたを思っていたのに」
「…………」
「正直、この損失は大きいなぁ……」
その女が手をかざす。
私にはその女が何者なのかわからないが、何となくこの女が私のこの苦悩から私を解放してくれる。
そう予感できた。
「とりあえず、彼の無念、代わって晴らしてあげることはできないけど……報いは受けてもらう」
女の手が光って、私の意識はそこで途切れた。
生まれ変わる、なんてことがあるなら、今度は綺麗な体のままで彼と仲良くなりたい。
そんなあり得もしない願いを掲げながら。
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※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
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