手の届く存在

スカーレット

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本編

~Girls side~第3話

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あれから私は、とにかく宇堂くんにアプローチをかけまくっていた。
週に一回は道場にお邪魔して、ちょっかいかけたり話しかけたり。
最初、宇堂くんはかなり戸惑っていたと思う。

二度と会うことはない、くらいに思っていたみたいだし。
しかし、この私が一度ほしいと思ったものを、簡単に手放す訳がない。
もちろん宇堂くんがそんなこと知ってるはずもないんだけど。

宇堂くんは女の子に負けたのがよっぽど悔しかったのか、最初のうちは果敢に挑んできたものだった。

「私から一本取れたら、一つだけ何でも言うこと聞いてあげる」

こう言うと目の色を変えたりもした。
しかし、何度挑んでも一本取るなんてことは出来ない。

次第に無駄な努力だと悟ってしまったのか挑んでくる回数自体は減ってしまった。
素直過ぎるところもまた、可愛い。

二人が会う場所はその内、道場だけでなくなって少しだけ男女の付き合いっぽくなって行ったけど、もちろん正式にお付き合いしているわけでもないし、宇堂くんは恥ずかしいのか最初のキスについても一切聞いてきたりはしない。
そう、これだ。
この初々しさだ。

そして私たちは無事小学校を卒業した。
時系列がぶっ飛んでるって?
だって特段何かあったわけじゃないし。

あったとしたら、有本くんの騒動以降私が大人しく本の虫を演じていたことくらいか。
成美ちゃんなんかはそれでも変わらず話しかけてくれたりしたものだったし、寂しさを感じたりすることはなかった。
ああ、一個あったな。

うちに、宇堂くんを連れてきたことがある。
知り合って二ヶ月くらい経った頃のこと。

「女の家とか……いいのかな」

なんて可愛いことを言っていたけど、半ば無理やり連れてきた。
もちろんパパもママも家にいる日を選んで。

「君が、宇堂大輝くんか。ようこそ。春海がお世話になっているね」

とパパが挨拶すると、カチコチに緊張してよくわからない挨拶をして場を和ませていた。
ママは一目で気に入ってしまった様で、甲斐甲斐しく世話を焼いたりして私はヤキモチ妬いたりしたものだ。

パパもどんな男がくるのか、みたいに身構えていたみたいだったが、こんなに可愛い子がくるなんて思ってなかったらしく、物凄く宇堂くんを可愛がった。
こうして宇堂くんは我が家ですっかり気に入られてしまった。

小学校を卒業する頃には、宇堂くんも色々生意気になってきて、憎まれ口を叩いたりして私や館長にボコられたりすることが多くなる。

卒業して四日くらい経った時だった。
春休みに私は、いつもの様に宇堂くんに会いに行っていた。
呼び方もくん付けではなく呼び捨てに変わり、二人の距離は少しずつ縮まっていたと思う。

宇堂くんは改まって、私の横に座ってちょっと緊張した面持ち。
どうしたんだろう、なんて思ってたが、彼が言い出すのを待つ。

「あのさ、何となく言っちゃいけないかなって思ってたんだけどさ」
「なに、突然」

何となく言いたいことがわかってしまう。
だって、顔に書いてあるんだもん。

「何で、キスしたの?」
「…………」

ほらきた。
やっとだよ。
四年も経ってからとか、どんだけよ。

手を出さずに必死で耐えた、この四年。
やっとだ、この日がきたのだ。
そう思うと、いてもたってもいられず、顔が熱を帯びてくるのを感じる。

万感の思いをぶつけるべく、溜めていた気持ちを心の中で反芻する。
ニヤニヤした顔を見られない様に、少し俯き加減になってしまう。

「あのとき初対面だったよな、俺たち」

黙ってしまった私に耐えかねたのか、宇堂が口を開いた。
ついつい入り込み過ぎてしまった。

「うん……そうだね」

ちょっとぼーっとしながら答える。

「理由があるんだろ?」
「理由……か」

そんなの、宇堂が可愛いかったからに決まってます!
もう、お手つきして食べちゃおうかとか考えたら、矢も盾もたまらず手が伸びてました!!
などと言えるはずもない。

言ったらドン引きされて、せっかく温めてきたこの四年間がなかったことになっちゃうかもしれない。
けど、全くの嘘を伝えるのも気が引ける。

「軽蔑したり怒ったりしないって約束できる?」

そう言うと、何とも言えない顔をしたが、決意した様に宇堂は言った。

「あー……うん、わかった、怒ったりしない。てか怒ったってお前にゃ勝てないけどな、俺」

恥ずかしいのか、余計なことまで言っちゃう初々しさがたまらない。

「茶化さないでよ……理由だよね、実はね」
「うん」
「…………」

けど、何て言ったらいいんだろう?
味見のつもりでした?
いやいやさすがにこれはない。
よし。

「……おい」
「うん、ごめん。宇堂、がさ。何か可愛らしく見えて」

嘘ではない。
というかほぼこれが全てだ。

「は、はああぁぁぁぁ!?」

私の返しにひっくり返った声を出す。
最近少し声が低くなってきたよね。
あんなにキャンキャンした声だったのに。

「可愛い……って……」
「子どもみたいで、っていうか今も、子どもだけどさ、私たち」

そう、まだ成長過程。
でも精通くらいはもうしてるのかな?
ちょっと気になる。
あれ?何か戸惑った顔してる。

「嫌だった……?」

上目遣いで聞いてみる。
こんなキャラではない私だが、そこそこ見た目が可愛い女のこれに、男が弱いということは知っている。

「……嫌じゃなかった。というか、そのあとからそのことばっか考えてた」

何それ!ならもっと早く言ってくれれば!!
何回でも何万回でもしてあげるのに!!
何か残念な気持ちになってつい、嫌な視線を向けてしまう。

「スケベ……」
「ばっか、男なんてのは大体そんなもんだぞ」

なーにを悟ったこと言ってんだか……毛も生え揃ったか怪しい段階のくせに。
けど、意識しててくれたのは素直に嬉しかった。
勇気を出して打ち明けてくれたこの可愛い子に、ご褒美をあげたい。

「ずっと考えてたってことは、さ…もう一回、したい?」

明らかに宇堂の顔が赤くなる。
うっほおおおおお!!
可愛い可愛い可愛い!!!

目の前のこのご馳走を!!
いつまで我慢できるか!!!
そう、これは私の中の聖戦だ!
そして私は勝利してみせる!!

「も、もう一回……もう一回って……」

宇堂がとうとう、焦りを隠さなくなってきているのがわかる。
しかし、はっきりしない。
これもまた可愛いところではある。
などと余裕のあるモノローグに見えるだろう、しかし。

もう、限界だ。

はっきりしない宇堂を見かねて、最初のときの様に宇堂の顎を掴む。
そして。

「お、お、おま……」

これだけ見ると下ネタ言いそうな感じに見えてしまう。
二回目のキスは、最初のときよりやや長めだった。
しかし私は、まだ満足していない。

そのままの勢いで、もう一度。
今度は軽く舌を入れてみた。
レモンの味とかはしないが、癖になりそうだ。

「もっと、したい?」
「ま!待って!もう余裕ないから!本当に!ちょっと待って!!」

慌てて後ずさる宇堂は、何だか小動物みたいで庇護欲をそそられる。
持って帰って飼育したくなる。
ちょっと涙目になってて可愛い。

「ごめんごめん」

おかしくなってしまって、軽く笑ってしまう。
私自身もちょっと余裕がない。
主に我慢の限界的な意味で。
タバコやお酒の禁断症状の様に、手が震えているのを感じた。

「ひ、姫沢……お前も緊張してたの?」

あれ、何か勘違いされてる。
手の震えを見てそう言ったのかな。
けど、その方が好都合だよね。

「!!」

ややわざとらしいかなと思いつつ、手を後ろに隠す。
それを狙ったかして、

「スキあり、っと……」

宇堂が私の腹部に拳を当てる。
あ、こんにゃろ小癪な手を……。

「……ず、ずるいよ!こんなの……」

白々しいかもと思いながらも恥じらう少女をちょっと演じてみたりする。
こうでもしないと、宇堂はきっときっかけ掴めないだろうしね、負けたことにしてあげよう。

「へ、へへーん!勝ちは勝ちですー!」

ずいぶんわざとらしく勝ち誇るなぁ。
気を遣ってくれてるのかな。
ちょっと嬉しくなる。

「姫沢春海。これから一つの願いを叶えてもらうからな」

宇堂が真面目な顔をして、私を見た。
何を言われるのかな。
処女寄越せ、とか?
いいともー!って言ってあげちゃう、きっと。

「姫沢、俺はこれからもお前とキスしたい」
「……は?」

あまりに控えめなお願いに、間の抜けた声が出てしまう。
そんなのでいいの?

「だから、お前とキスしたい」
「き、聞こえてるよ!そうじゃなくて……」

そんな程度のことで、いいのかよって言いたいんだよ、察しろ!!

「だから、俺の彼女になってください!!」

宇堂が精一杯の声を出して、私に頭を下げた。
おーっと……これは、予想外ですねぇ……。
いずれはそうなると思っていたけど、まさかこんなに早く言ってくるなんて。

それでもやはり、嬉しく思う。
頬が熱を帯びて、鼓動の速さが加速度的に増して行く気がした。

「ずるいなぁ……そんなこと言われたら……」

興奮しちゃうじゃないか……!
ズキュウウゥゥゥン!!
とか効果音が出て、股間の辺りが光りそうだ。

「顔、上げて?」

優しく、精一杯の慈愛顔で言ってみる。
きっと、まだ顔は上げてくれない。

「いや、返事をだな……」

とっても頑張った宇堂に、ご褒美あげなきゃ。

「上げてよ。じゃなきゃ、キスできない」
「!!」

まるで殿様か何かに面を上げよ!なんて言われた家臣みたいに、宇堂は恐る恐る顔を上げた。
ニコッと笑って、私は宇堂の肩を掴む。

宇堂は引きつった笑顔を見せる。
そして、気合い一閃。

「せやっ!!」

右膝を、宇堂に見舞う。
当然のことだが、宇堂は目を見開いて悶絶していた。
そこに、とどめの口づけを。

何故か宇堂はニヤニヤしてる。
このタイミングでニヤニヤできるとか、マゾなの……?
もちろん本当はわかってる。
蹴られたあとのキスにほくそ笑んだんだと。

「こっちこそ、宜しくお願いします。大輝」

改めて大輝と呼び方を変え、私たちの交際は始まりの時を迎えた。
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