手の届く存在

スカーレット

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本編

~Girls side~第5話

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「はい到着っと」

よく通った道だし、大輝もさすがに途中から想像はついてた様で、驚きはしない。
大輝の通う道場だ。
館長さんに了解を得て、鍵も借りてある。

ここなら落ち着いて話せるし、大輝も特に何か気遣いをしたりってことはないだろうと思って借りたのだ。

「私たちが出会った場所、覚えてるよね?」
「……そりゃなぁ」

大輝はきっと、女の子とか恋愛にまだ幻想を抱いてるんだろうと思う。
色気ねーな、とか思ってるんじゃないかな。
あとは、私との出会いを思い出してるんだろうと想像できる。

だって、苦虫を噛み潰した様な顔してるもん。
でも、出会って即ホテルとか援助交際みたいで嫌じゃない?
私は構わないし、寧ろ望むところなんだけど!

「中、入っていく?実は許可もらってるんだよね」

入らないって言っても無理やり連れ込むつもりだけど、一応確認しておく。

「へ?マジで?」
「うん、デートで使いたいって言ったら、汚すなよって言われたけど」

さすがに人の家で事に及ぶほど飢えて……いや飢えてるけど。
それでも常識的に考えて有り得ないとわかりそうなもんだけど。
私ってそんなに見境なく見えるのかな。

「汚すって……」

何か珍しく違う想像してる気がする。
私に血祭りにあげられて、その血で汚すことを想像してるのかな、もしかして。
そもそもデートで使いたいって言ってるのに、こやつめ。

「そういう汚すじゃないと思うんだけど……」

苦笑いで言うと、何故わかった、って顔をした。 

「まぁ、こんなとこで立ち話してても仕方ないしな。入ろうぜ」

何度か足を運んでいるので、何が何処にあるとか、そういうことはわかっている。

「座布団持ってくるね」
「あ、ああ」

床に直接座ろうとする大輝を制して、私は座布団を取りに行った。
客用のちょっといいやつがあるのを、私は知っている。
キョロキョロと辺りを見回してる大輝に、座布団を投げつけた。

「お待たせ」
「わぷっ!」

受け取り損ねた座布団が鋭く大輝の鼻面を打つ。

「おま…殺す気かよ……鼻ツーンときた……」

床に落ちた座布団を拾いながら大輝が言う。
ちょっと涙目なのが可愛い。

「あはは、ごめんごめん。まさか当たると思わなくて」

ちょっと不満顔のまま大輝が私の前に座布団を置く。
横でイチャイチャしながらって言うのも別に良いんだけどね、私としては。

「んで、どうするんだ?二人が出会った場所っても色気も何もないんだが」

ああ、口に出したなこの子。
色気あるところがいいなら、今から連れていってもいいんだよ?

「少しお話しようよ。こういうのも、たまにはいいでしょ?」
お喋りデートなんて、如何にも学生っぽくていいじゃない。
「たまにって、初デートじゃなかったか?」
可愛くないことを言うなぁ…。
「初だけど……二人で会うのは初めてじゃないじゃん」
「あーそうだな、わかったわかった」

はいはい、という感じで大輝が言う。
やっぱホテルにでも連れ込んだ方が良かったのだろうか。
まぁそうなったらきっともう一回戦終わってて話は全然違う方向に……それも良いなぁ。
しかしそれだと運命はまるっきり違う方向に突き進んでしまうので、断腸の思いで考えを捨てる。

「大輝はさ、高校どうするの?もう考えてる?」
「高校か……」

頭がホテル一色になってしまう前に、本題に入る。
ああ、大輝のこの顔……考えてないな。
無理もないよね、まだこないだ中学校入ったばっかりだし。

友達と騒いでバカやって、ってのが一般的だと思う。
けど、ここは心を鬼にして将来のことをちょっとだけ考えてもらわないといけない。

「私ね、大輝と同じ高校行きたいと思ってるの」

一瞬、意外そうな顔をしたが、すぐに普通の顔に戻って何やら考え込んでいる。

「ふむ……」
「何、嫌なの?」

嫌って顔じゃないのはわかっているが、何となく意地悪したくなってしまう。

「ち、違う、そうじゃなくてさ」

慌てた様子の大輝は何だか浮気がバレそうになっているダメ男みたいだ。

「そうじゃなくて、まだ高校とか言われても明確なイメージってやつがね」

まぁ、そうだろう。
この時期で既に考えてる人間の方が、寧ろマイノリティというやつだと思います。

「ああ……けど、割とあっという間だと思うよ?今、大輝は毎日楽しい?」

楽しいんだろうなと思う。
これも何となくわかってた。

「楽しいよ。不便なこともなくはないけど、それなりに楽しんでると思う」

大輝はそういう子だよね。
不便な部分も、そういうものなんだって自分を納得させちゃう。
そうすることで楽しくないことも楽しく出来る様にしてしまう。

「なら、尚更あっという間だと思う。パパはそう言ってたし、私もそう思う」
「そうかもなぁ」

思い当たることでもあるのか、少し感慨深そうな顔をした。

「だからさ、私たち同じ高校に行くのを目標にしようよ。勉強苦手なら一緒に頑張ればいいんだし」

私が教えるなら合格は約束されたも同然。
大輝のペンは、約束された勝利の剣になるのだ。

「春海は勉強得意なんだったか」
「今のところ、苦手科目はないかな」

英語だってもちろん、何なら現存する全ての言語を話せる。
無から有を生み出すことだって出来る。
私に不可能は……歌くらいかな。

「一応聞くけど、それって公立の高校だよな?私立だと金銭的な問題でお手上げなんだよ」

こういうところで正直になって、取り繕ったりしない大輝が、私は好きだ。
気持ち的には、私立でもパパにお願いしちゃうって手段をとることは出来るし、きっとパパは喜んで手を貸してくれる。
けど大輝はそんなの絶対望まない。

仮に、結果としてそうなったとしても彼は全力でお返しをしようと考える。
なら、余計な気遣いをさせない方法を取るのが最善だろうと思う。

「わかってるよ。公立の、共学の高校。パパは私立の女子校行かせたかったみたいだけどね。今はやりたい様にしなさいって言ってくれてる」

大輝と付き合ったから、大輝と一緒の高校行きたいって言ったら、女子校の話はなくなった。
パパも薄々は私がそんなこと言い出すって予感してたのかもしれない。
ふと大輝を見ると、少し緩んだ顔をしていた。

同じ高校の制服をきて、お互いに少し成長した姿でも想像したかな?
私は毎日想像してるけど。

「わかった、そう出来る様に頑張ろうか。で、高校の目星はつけてるのか?」

決意した様に大輝は言う。
もちろん、と私はカバンを漁り、一冊のパンフレットを取り出した。
大輝が一瞬、げっ、という顔をしたのがわかった。

ちょっとレベル高いかもしれないけど、私がついて今から教えるなら大丈夫。
大輝、泣かないでね。
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