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本編
大輝編27話~極道との邂逅~
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姫沢夫妻との和解が成立して、これで大きな懸念事項が解消された。
これは大きな進歩だと、俺は思う。
睦月だって、十年近く一緒に暮らしてきた両親とのわだかまりを解消できたのだ。
だが、この一件は結局俺を取り巻く問題の一つでしかなく、今まさにもう一つの問題が俺の身に迫っている。
「大輝くん、今日空いてるよね?空いてなかったら空けて」
いつになく強引な物言いの明日香。
特に用事も予定も……あるといえばあるが、別に必須ではない。
愛美さんのところに行こうかな、くらいしか考えていなかったし、特に断る必要もなかった。
「空いてるけど、どうしたんだ?珍しいな、お前がそんな言い方するなんて」
「お父さんが、今日何が何でも連れてこいって言ってるの」
何が何でもって……悪い予感しかしない。
「断ったら、どうなるのか聞いてもいいか?」
「そうね……多分そろそろ望月が到着するから、拉致する用意があるはずだわ」
「穏やかじゃねぇな、どうも……」
「そんなに悪いことにはならないと思うのだけど、できれば快諾してもらえるとこちらとしても助かるわ」
「まぁ断るなんて、この期に及んで言うつもりはないけどな」
どうせいつかはこうなるんだ、って思ってはいた。
姫沢夫妻とのことがあってから、きっと明日香にも思うところがあるのだろう。
「放課後でいいんだろ?何で今から和歌さんがくるのかわかんないけど、授業ほっぽり出せなんていわないよな?」
「言うわよ?ほら、早く支度して」
「え、ちょっと待って、突然すぎるっての!」
まだ二時間目の授業も始まっていない小休止の間で、俺は明日香に拉致された。
校門の外に、物々しい雰囲気の高級車が停まっている。
「な、なぁ……あれに乗るのか?」
「そうよ。お気に召さなかったかしら?」
「いや……大仰だなぁと」
「そういう家なんだもの、覚悟を決めなさい」
言われるがままに車に乗せられると、和歌さんが後部座席にいた。
運転手は別にいる様だ。
「大輝、久しいな」
侍かよ。
もう少し色気のある挨拶できないもんか、この人……。
「お久しぶりですね。和歌さん、今度またデートしましょうね」
「な、何だ出し抜けにでもお嬢の前だぞ」
真っ赤になって、明日香を見ながら俺に言う。
こうなるのがわかってて言ったんだけどね。
明日香はちょっと複雑そうな顔をしていた。
バックミラー越しに運転手さんと目が合う。
人の良さそうなおじさんだ。
特に知り合いというわけでもないが軽く会釈をすると、向こうも会釈を返す。
それでも運転手のおっさん、チッスチッス!!
なんてことはできない。
「トイレとか、大丈夫か?行きたいなら今のうちに済ませておいてくれ」
和歌さんが運転手に一旦止める様に言い、コンビニの駐車場に車を止める。
「あー……なら行っときますか。和歌さん、明日香、何か飲みたいものとかあるか?」
「私はいい」
「なら、紅茶が飲みたいわ」
「あいよ、じゃあちょいとお待ちを」
車を降りて、ダッシュ!!
なんてことをする度胸はもちろんない。
おとなしくコンビニでトイレを借りて用を足し、お嬢様ご所望の紅茶を調達。
ペットボトルのでいいよな。
ケースから紅茶のボトルを取り出し、自分の分のコーヒーも、と思ったところで先日のねばついた視線を感じた。
「……何処だ、何処から見てるんだ?」
店内をくまなく見て回る。
しかし、その視線の主を発見することはできなかった。
仕方がないので、紅茶とコーヒーの代金を払って車に戻る。
「長かったのね。具合悪い?」
どうやら腹を下しているのと勘違いされている様だ。
「緊張しているのか?下痢止めならあるぞ」
緊張はしているが、いらない心配だ。
「大丈夫ですよ。ほら、明日香……あとこれ、和歌さんも」
「わ、私は要らないと……」
「ここで俺たちだけ飲んでたら何か感じ悪いじゃないですか。一緒に飲みましょうよ」
言いながら明日香と同じ紅茶を和歌さんの手に握らせる。
「い、いくらだった?」
「いや、このくらいいいですから」
二十分ほど車を走らせると、例のお屋敷が見えてきた。
ああ、今日はこの中に親分がいらっしゃるのか。
血を見る様なことにならないといいんだけど。
屋敷に入ると、以前の様に若い衆が出迎えてくれる。
「大輝兄さん!いらっしゃい!お待ちしてました!!」
「お嬢!若頭!!お帰りなさい!!」
とても騒がしい。
そして兄さんという呼ばれ方に、どうしても慣れない。
「こ、こんにちは……おじゃまします」
「お父さんは応接間かしら?」
「はい、今か今かとお待ちですよ」
応接間の前に着いた。
ああ、出来れば入りたくない。
いい予感が一つもしない。
もちろんここで逃げたら和歌さん辺りに捕まって首根っこ掴まれて、連行されるのがオチなんだろうけど。
「大輝くん、まさかこんなところでヘタレたりしないわよね?」
「ま、まさか」
「大輝……お前はもう一目置かれる男なんだ。自信を持て」
「自信ねぇ……」
そんなやり取りをしながら、明日香が戸をノックすると、ガタっと音がしてドアが開いた。
「おお、明日香、望月、帰ったか。そちらが?」
俺たちを出迎えてくれたのは、白髪の混じる、いかにもな感じのいかつい男だった。
オールバックで右の頬に古傷がある。
この人が……明日香の父親か。
「あ、えーと宇堂大輝です。よろしくお願いします」
当たり障りのない挨拶をしておく。
こういう人種は、何が引き金になってキレるかわからない。
そんな偏見を持っている俺は、下手なことは言わない様にしようと考えていた。
「おお、やっと顔が拝めたな。明日香の父親の、宮本雷蔵だ。まぁそう堅くなりなさんな。こっちきて座ってくれ」
なかなか気さくな人らしく、俺を向かいに座らせる。
明日香は俺の隣に座り、和歌さんはドアの脇で立っている。
「ああ、望月。今日はお前も主役なんだ、一緒に座れ」
そう言って、俺の隣を指差す。
俺は和歌さんと明日香に挟まれる形になった。
これでもう、いよいよ逃げることは出来ない。
「さて、本題に入ろうか…と言いたいとこなんだが、腹減ってないか大輝くん」
時刻は十一時前。
微妙な腹具合だが、食べれば食べられるし食べなくても今のところ問題ない。
「うなぎ好きか?どうせだから一緒に食おうや」
俺の返事を待たず、親父さんは若い衆を呼んでうなぎを4つ注文させた。
「あの、おやっさん、私まで……」
「気にすんな。お前には苦労かけてるからな」
「あの、じゃあありがたくいただきます」
「子どもがそんなかしこまった物の言い方しなくていいんだぞ?普段通りにしてくれて構わねぇんだから」
「お父さん、それはさすがに無理ってものよ。大輝くん、かなり萎縮してるもの」
「お前、いつの間に触ったんだ?手がはええな」
「違うわよ!バカじゃないの!?」
「がっはっはっは!!冗談だ冗談。まぁ、こんな感じでやってもらって構わないから」
こんな感じって……初対面でバカだの何だの言えるほど、俺神経太くないぞ。
「あ、じゃあ…あの、俺何て呼んだらいいですか?お父さんですか?それとも親父さん?雷蔵さん?」
「お父さん……?」
親父さん(仮)の目がギラリと輝く。
しまった、地雷を踏んだか……?
わなわなと親父さん(仮)の体が震える。
俺を見る目が、異常な輝きを宿した気がする。
和歌さんと明日香はその二人を黙って見守っていた。
「あ、あの……」
「お父さんか!いいじゃねぇか!是非そう呼んでくんな!」
ガハガハ笑いながらお父さん(仮)が言う。
「いやぁ、息子もほしかったんだけどよ、俺の方がちょいとヘタレちまったもんだから、明日香がいい男捕まえてくるの待ってたんだわ!」
「そ、そうですか」
「そしたらおめぇ、望月のやつまで落とすすげぇ男とっ捕まえてきやがって!こりゃ最高だ!!」
何かめっちゃ笑ってるけどこのおっさん、大丈夫だろうか。
よくわからないけど、俺は褒められてるのか。
「いやまさか望月まで篭絡しちまうなんて、夢にも思わなくてなぁ。明日香に手出しただけだったらぶっ殺してやろうかと思ってたんだけどよ!」
和歌さんを、成り行きとは言え攻略しといて良かったと心から思う。
してなかったら、今頃ぶっ殺されていたのだから。
「で、どうだったんだ?明日香と望月、どんな具合だった?」
最高にゲスい顔をして、お父さんは言う。
「え、ええまぁ……結構なお手前で……」
「そうかそうか!大輝くんよ、堅くなりなさんなって!おもしれぇけどな!硬くすんのはそのぶら下げてるもんだけで十分だ!!はははは!!」
どっかで聞いた様なセリフだが、どうやら俺は大いに気に入られた様だった。
しばらくすると、うな重が運び込まれる。
「ここん家のうな重は絶品でなぁ。大輝くんは若いから沢山食べられるだろ。ほら、冷めないうちに食った食った」
少し落ち着いたのか、お父さんは俺にしきりにうな重を薦めてきた。
「何、毒なんか入ってやしねぇから。媚薬なら入れてるかもしれねぇけどな!がっはっは!!」
底無しに陽気な人だ。
「では、いただきます……」
手を合わせて、お父さんがうな重をかっこむのを見届けてから俺も箸を進める。
……うまい。
正直なことを言うと、俺はうなぎがあんまり得意ではなかった。
あの小骨がぷちぷちして口の中がパサパサになる様な、安いうなぎ特有のあれ。
あれが苦手で、進んでうなぎを食べる様なことはなかったのだが。
このうなぎはそこらのとは訳が違うのだろう。
焼き方、たれ、そして米にいたるまでが違う。
気づいたらお重を空にしていて、俺を含めて全員がぽかんとしていた。
「あ、えっと……」
「おお、そんなに旨かったか!いい食いっぷりだ、なぁ望月!!」
「ええ、見事なもんだと思います」
「あ、ご馳走様でした」
「足りたか?遠慮なんかしなくていいんだぞ?」
「いえ、こういうのは適量食べるほうが満足感あるかなって」
「ほー、わかってんな!!明日香、お前が捕まえた男は本当に大したもんだぞ!!」
「当然でしょ。彼みたいな人、他にはいないわ」
やめろ、こんなところで俺の人生のハードルを上げてくれるな……。
「いやぁ、しかし大輝くん。どうやって望月を落としたんだ?」
「へ?」
まさかあれを語れと?
「昔望月が俺に惚れてたのは知ってんだけどよ」
和歌さんが顔を赤くする。
「ちょっとお父さん!」
「ああ、わりぃわりぃ。それがあいつにバレてから心閉ざしてやがってさ、辛気くせぇのなんのって」
「す、すみません……」
和歌さんが心底申し訳なさそうにする。
「いや、責めてるんじゃねぇんだけどな!俺頭悪くていい言い方が思いつかねぇんだわ、こっちこそすまねぇな!!」
「えーと、なんていうか、和歌……望月さんも女性であるということを自覚してもらったと言いますか」
「何だ、エロいことでも言ったのか?耐性ないだろうから見ものだっただろ」
ゲス顔再び。
何か愛美さん辺りと気が合いそうだなこの人。
「ま、まぁ……でも、それ抜きにしても十分魅力的な人だと思います」
「真面目だなぁ、大輝くんは……やることはかなりえげつねぇのに」
もしかして俺の現状のことを言ってるんだろうか。
「明日香と望月のほかにもあと四人?囲ってるんだって?」
「ご、ご存知でしたか……そりゃそうですよね……」
いよいよこの話題がきてしまった。
敢えて触れない様にしてたつもりだったのだが、避けて通れない話だった様だ。
「まぁ、俺はな。女作るのは男の甲斐性だと思ってんだ。女満足させてなんぼだってな」
「は、はぁ」
「けど大輝くん、全員を幸せにできると、本気で思ってるか?」
なかなか痛いところを突いて来る。
思ってないとは言わない。
だが、思ってるかといわれるとそれもまた微妙だ。
どうしても偏りみたいなものは出るだろうし、それに不満を持つメンバーが現れる懸念は十分にある。
そうなったとき、俺にそれを解決できる力があるのか。
正直自信はなかった。
「今は若いしな、やりたい様にやるのが一番ではあると思うよ。けど、それが通用しなくなるときが必ずくるってことを、俺ぁ言いたいんだわ。わかるか?」
「ええ、わかります」
「明日香はもちろん実の娘だし。望月だって大事な家族みてぇなもんだ。そんな人間が不幸になるのを、親として黙ってみてるわけにはいかねぇ」
お父さんは俺を真っ直ぐ見る。
先ほどまでの陽気な感じは微塵も感じられない。
嫌な汗が背中を伝う。
これが、本職の、本物の持つ威厳みたいなものなんだろうか。
知らず、手が震える。
口の中も少し乾いてくる。
どう答えたものか。
その時、明日香と和歌さんが俺の手を握ってきた。
二人の熱が、俺に伝わってくる。
お父さんは、その様子を何も言うことなく見ていた。
そうか。
俺なんかは確かにちっぽけで、大した力もないし、出来ることだって限られている。
しかし、最初に朋美を迎えたとき、俺たちは誓ったはずだ。
『三人なら何かあっても乗り越えられる』
それが今は六人だ。
俺も含めたら七人。
出来ないことなんかあろうはずがない。
何の根拠もなく、そんな自信が湧いてくる。
二人の熱は、俺にそんな勇気を与えてくれた。
「お父さん」
「大輝くん、答えは出たのか?場合によっちゃ……」
指をパチンと鳴らすと、銃を持った部下が三人、部屋に入ってくる。
もちろん、銃口は俺に向いていた。
それでも俺は動じなかった。
二人がそれでも手を離さなかったから。
春海の死後、明日香と桜子が俺をほっといてくれなかった様に、きっと他のメンバーも俺をほっといてはくれないだろう。
それが俺の成長に繋がることを知っているからだ。
「お父さん、俺は何があろうと、必ず全員が笑っていられる結末を迎えてみせます」
「ほう、大きく出たな。そんなことが、出来るって大輝くんは思っているってことでいいのか?」
「そうです」
「いい目だ。根拠があるんだろうな?」
「……正直、俺なんかは矮小な存在だし、一人じゃできることなんかほとんどありません。ですが、今はここにいる明日香や和歌さん、それに他の四人。全員がそれぞれの意思で俺の元に集まってくれているんです。そしてみんな、俺にはない凄いものを持っています。そんな人間が集まって、出来ないことなんかありはしない。俺はそう、信じています」
「…………」
「この二人の手の、この熱が、それを教えてくれました」
俺は少し力をこめて、その手を握り返す。
「今だって、正直俺はビビってます。それこそ逃げ出したいくらいに。けど、それをこの二人が許しはしないでしょう。逃げる力があるなら、幸せにする方向に、その力を使えと、二人が言ってる気がするんです」
「……明日香」
「何かしら」
「おめぇは本当にとんでもねぇ男を捕まえてきてくれたよ」
「だから当然だと言ってるでしょ」
「望月」
「はい」
「おめぇも、こんな男に落とされて本望なんじゃねぇか?」
「もちろんです。こんなことを言うのは気が引けますが……おやっさんに並ぶ男だと、私は思います」
恥じらいながらも、しっかりと和歌さんが言った。
「大輝くん。おめぇは本当に大した男だよ。認めざるを得ねぇわ。だからな」
お父さんがそう言いながら手を挙げる。
先ほどの男たちが銃を構えなおし、俺に向けた。
「お、お父さん!?」
「おやっさん、何を……」
「明日香、望月……絶対にその手を離すんじゃねぇぞ」
一斉に、その引き金が引かれた。
「がはははは!いやぁわりぃわりぃ!!ちょっとの度胸試しのつもりがいいものを見せてもらったよ」
「もう、趣味悪いわよお父さん!」
引き金が引かれて直後、微動だにしなかった俺を、和歌さんと明日香がその場で押し倒した。
実は引き金の引かれた銃の銃口からは、おめでとうと書かれた旗とクラッカーの中身みたいなものが飛び出しただけで、銃弾が俺を襲うことはなかったのだ。
和歌さんは俺の頭を守り、明日香は俺と正面から抱き合う形で、床に伏せた。
連続で撃たれると思ったのか、しばらく和歌さんは俺の頭を抱いていたが、少しして異変に気づく。
「お、おやっさん……」
「え?」
ほら、これ、これ、とか言いながらお父さんが銃口から出た旗を広げて俺たちに見せる。
明日香が呆れてお父さんの頭をはたいた。
「相手の本気が見たかったら、こっちもある程度本気見せないとだろ?俺は無駄じゃなかったと思ってるけどなぁ。大輝くんは、どうだったよ」
「俺は正直、生きた心地がしませんでしたよ……」
「がっはっは!そうかそうか!悪かったな!!俺はもうおめぇが気に入っちまったわ!こうなったらもう、早いとこ孫の顔でも見せてもらいてぇくらいだわ」
また孫か……親ってのはどうしてこう、孫孫言いたがるのか。
だが俺と、その周りを認めてくれたということなのだろう。
気分は正直悪くはない。
「だけどまぁ、何だ。おめぇらも大輝くんに本気だってことがこれでわかったし、安心して任せられる」
本当に満足そうな顔をして、お父さんは言った。
「まぁどっちが先でもいいからよ、孫の顔見せてほしいから頑張れ、大輝くん」
「いや、まだ俺高校生なので……」
「望月は年齢的に問題ねぇだろ、作ってもらったらどうだ?」
「な、何を言ってるんですかおやっさん……」
帰りの車の中、今度は和歌さんが運転をしている。
俺と明日香は二人で後部座席に座っていた。
「大輝くん、今日は結構頑張ったわね。カッコよかったわ」
「バカ言うな、かなり本気でビビッてたっつーの……」
「いや、おやっさん相手にあれだけ啖呵を切れたのは大したもんだと思うぞ」
「和歌さんまで……思ったまま言っただけですよ。受け入れられなかったら仕方ないって覚悟してただけで」
明日香が軽く笑う。
「その覚悟が出来るのが、大輝くんのすごいところだと私は思うわ。人間って、結局は自分が可愛い側面を持ってるものだと思うから」
「それをかなぐり捨ててまで、お前は私たちと共にあることを選んでくれた」
「いや、俺は俺が可愛いと思ってるから。超大事だから」
「そんなこと言って、人のことばっかり考えてるくせに。素直じゃないのはポイント低いわよ」
俺は答えない。
自分が可愛いって言うのは本当だ。
けど、俺の周りがもっと大事なだけだ。
比率の問題だと、俺は思う。
帰り際、お父さんは俺に金を握らせた。
「え、こ、これって……」
「今日は二人とハッスルしてこい!ハッスルって古いか!がっはっは!楽しんでこいよ!!」
一晩どこかに泊まるにしたって、さすがに多すぎやしないだろうか。
それだけの額を、俺にぽんとくれた。
「和歌さん、このままどっかホテル行きませんか。明日香も一緒に」
「ど、どうしたの大輝くん……珍しいわね、自分から行きたがるなんて」
「今日はそういう気分なんだ。ダメか?あ、生理とかだったらまたに……」
「そういうんじゃないわよ、バカね!!望月、いくわよ」
「承知しました。掴まっててください、少し飛ばしますから」
そう言って和歌さんはナビで近くのホテルを検索し、三人でホテルに入ることになった。
二人や他のメンバーへの気持ちを再確認できた、そのことが今は俺には嬉しい。
何となくすっきりした気分で、体をすっきりさせに行く。
こういうのも、たまには良いのではないだろうか、なんて思えた。
これは大きな進歩だと、俺は思う。
睦月だって、十年近く一緒に暮らしてきた両親とのわだかまりを解消できたのだ。
だが、この一件は結局俺を取り巻く問題の一つでしかなく、今まさにもう一つの問題が俺の身に迫っている。
「大輝くん、今日空いてるよね?空いてなかったら空けて」
いつになく強引な物言いの明日香。
特に用事も予定も……あるといえばあるが、別に必須ではない。
愛美さんのところに行こうかな、くらいしか考えていなかったし、特に断る必要もなかった。
「空いてるけど、どうしたんだ?珍しいな、お前がそんな言い方するなんて」
「お父さんが、今日何が何でも連れてこいって言ってるの」
何が何でもって……悪い予感しかしない。
「断ったら、どうなるのか聞いてもいいか?」
「そうね……多分そろそろ望月が到着するから、拉致する用意があるはずだわ」
「穏やかじゃねぇな、どうも……」
「そんなに悪いことにはならないと思うのだけど、できれば快諾してもらえるとこちらとしても助かるわ」
「まぁ断るなんて、この期に及んで言うつもりはないけどな」
どうせいつかはこうなるんだ、って思ってはいた。
姫沢夫妻とのことがあってから、きっと明日香にも思うところがあるのだろう。
「放課後でいいんだろ?何で今から和歌さんがくるのかわかんないけど、授業ほっぽり出せなんていわないよな?」
「言うわよ?ほら、早く支度して」
「え、ちょっと待って、突然すぎるっての!」
まだ二時間目の授業も始まっていない小休止の間で、俺は明日香に拉致された。
校門の外に、物々しい雰囲気の高級車が停まっている。
「な、なぁ……あれに乗るのか?」
「そうよ。お気に召さなかったかしら?」
「いや……大仰だなぁと」
「そういう家なんだもの、覚悟を決めなさい」
言われるがままに車に乗せられると、和歌さんが後部座席にいた。
運転手は別にいる様だ。
「大輝、久しいな」
侍かよ。
もう少し色気のある挨拶できないもんか、この人……。
「お久しぶりですね。和歌さん、今度またデートしましょうね」
「な、何だ出し抜けにでもお嬢の前だぞ」
真っ赤になって、明日香を見ながら俺に言う。
こうなるのがわかってて言ったんだけどね。
明日香はちょっと複雑そうな顔をしていた。
バックミラー越しに運転手さんと目が合う。
人の良さそうなおじさんだ。
特に知り合いというわけでもないが軽く会釈をすると、向こうも会釈を返す。
それでも運転手のおっさん、チッスチッス!!
なんてことはできない。
「トイレとか、大丈夫か?行きたいなら今のうちに済ませておいてくれ」
和歌さんが運転手に一旦止める様に言い、コンビニの駐車場に車を止める。
「あー……なら行っときますか。和歌さん、明日香、何か飲みたいものとかあるか?」
「私はいい」
「なら、紅茶が飲みたいわ」
「あいよ、じゃあちょいとお待ちを」
車を降りて、ダッシュ!!
なんてことをする度胸はもちろんない。
おとなしくコンビニでトイレを借りて用を足し、お嬢様ご所望の紅茶を調達。
ペットボトルのでいいよな。
ケースから紅茶のボトルを取り出し、自分の分のコーヒーも、と思ったところで先日のねばついた視線を感じた。
「……何処だ、何処から見てるんだ?」
店内をくまなく見て回る。
しかし、その視線の主を発見することはできなかった。
仕方がないので、紅茶とコーヒーの代金を払って車に戻る。
「長かったのね。具合悪い?」
どうやら腹を下しているのと勘違いされている様だ。
「緊張しているのか?下痢止めならあるぞ」
緊張はしているが、いらない心配だ。
「大丈夫ですよ。ほら、明日香……あとこれ、和歌さんも」
「わ、私は要らないと……」
「ここで俺たちだけ飲んでたら何か感じ悪いじゃないですか。一緒に飲みましょうよ」
言いながら明日香と同じ紅茶を和歌さんの手に握らせる。
「い、いくらだった?」
「いや、このくらいいいですから」
二十分ほど車を走らせると、例のお屋敷が見えてきた。
ああ、今日はこの中に親分がいらっしゃるのか。
血を見る様なことにならないといいんだけど。
屋敷に入ると、以前の様に若い衆が出迎えてくれる。
「大輝兄さん!いらっしゃい!お待ちしてました!!」
「お嬢!若頭!!お帰りなさい!!」
とても騒がしい。
そして兄さんという呼ばれ方に、どうしても慣れない。
「こ、こんにちは……おじゃまします」
「お父さんは応接間かしら?」
「はい、今か今かとお待ちですよ」
応接間の前に着いた。
ああ、出来れば入りたくない。
いい予感が一つもしない。
もちろんここで逃げたら和歌さん辺りに捕まって首根っこ掴まれて、連行されるのがオチなんだろうけど。
「大輝くん、まさかこんなところでヘタレたりしないわよね?」
「ま、まさか」
「大輝……お前はもう一目置かれる男なんだ。自信を持て」
「自信ねぇ……」
そんなやり取りをしながら、明日香が戸をノックすると、ガタっと音がしてドアが開いた。
「おお、明日香、望月、帰ったか。そちらが?」
俺たちを出迎えてくれたのは、白髪の混じる、いかにもな感じのいかつい男だった。
オールバックで右の頬に古傷がある。
この人が……明日香の父親か。
「あ、えーと宇堂大輝です。よろしくお願いします」
当たり障りのない挨拶をしておく。
こういう人種は、何が引き金になってキレるかわからない。
そんな偏見を持っている俺は、下手なことは言わない様にしようと考えていた。
「おお、やっと顔が拝めたな。明日香の父親の、宮本雷蔵だ。まぁそう堅くなりなさんな。こっちきて座ってくれ」
なかなか気さくな人らしく、俺を向かいに座らせる。
明日香は俺の隣に座り、和歌さんはドアの脇で立っている。
「ああ、望月。今日はお前も主役なんだ、一緒に座れ」
そう言って、俺の隣を指差す。
俺は和歌さんと明日香に挟まれる形になった。
これでもう、いよいよ逃げることは出来ない。
「さて、本題に入ろうか…と言いたいとこなんだが、腹減ってないか大輝くん」
時刻は十一時前。
微妙な腹具合だが、食べれば食べられるし食べなくても今のところ問題ない。
「うなぎ好きか?どうせだから一緒に食おうや」
俺の返事を待たず、親父さんは若い衆を呼んでうなぎを4つ注文させた。
「あの、おやっさん、私まで……」
「気にすんな。お前には苦労かけてるからな」
「あの、じゃあありがたくいただきます」
「子どもがそんなかしこまった物の言い方しなくていいんだぞ?普段通りにしてくれて構わねぇんだから」
「お父さん、それはさすがに無理ってものよ。大輝くん、かなり萎縮してるもの」
「お前、いつの間に触ったんだ?手がはええな」
「違うわよ!バカじゃないの!?」
「がっはっはっは!!冗談だ冗談。まぁ、こんな感じでやってもらって構わないから」
こんな感じって……初対面でバカだの何だの言えるほど、俺神経太くないぞ。
「あ、じゃあ…あの、俺何て呼んだらいいですか?お父さんですか?それとも親父さん?雷蔵さん?」
「お父さん……?」
親父さん(仮)の目がギラリと輝く。
しまった、地雷を踏んだか……?
わなわなと親父さん(仮)の体が震える。
俺を見る目が、異常な輝きを宿した気がする。
和歌さんと明日香はその二人を黙って見守っていた。
「あ、あの……」
「お父さんか!いいじゃねぇか!是非そう呼んでくんな!」
ガハガハ笑いながらお父さん(仮)が言う。
「いやぁ、息子もほしかったんだけどよ、俺の方がちょいとヘタレちまったもんだから、明日香がいい男捕まえてくるの待ってたんだわ!」
「そ、そうですか」
「そしたらおめぇ、望月のやつまで落とすすげぇ男とっ捕まえてきやがって!こりゃ最高だ!!」
何かめっちゃ笑ってるけどこのおっさん、大丈夫だろうか。
よくわからないけど、俺は褒められてるのか。
「いやまさか望月まで篭絡しちまうなんて、夢にも思わなくてなぁ。明日香に手出しただけだったらぶっ殺してやろうかと思ってたんだけどよ!」
和歌さんを、成り行きとは言え攻略しといて良かったと心から思う。
してなかったら、今頃ぶっ殺されていたのだから。
「で、どうだったんだ?明日香と望月、どんな具合だった?」
最高にゲスい顔をして、お父さんは言う。
「え、ええまぁ……結構なお手前で……」
「そうかそうか!大輝くんよ、堅くなりなさんなって!おもしれぇけどな!硬くすんのはそのぶら下げてるもんだけで十分だ!!はははは!!」
どっかで聞いた様なセリフだが、どうやら俺は大いに気に入られた様だった。
しばらくすると、うな重が運び込まれる。
「ここん家のうな重は絶品でなぁ。大輝くんは若いから沢山食べられるだろ。ほら、冷めないうちに食った食った」
少し落ち着いたのか、お父さんは俺にしきりにうな重を薦めてきた。
「何、毒なんか入ってやしねぇから。媚薬なら入れてるかもしれねぇけどな!がっはっは!!」
底無しに陽気な人だ。
「では、いただきます……」
手を合わせて、お父さんがうな重をかっこむのを見届けてから俺も箸を進める。
……うまい。
正直なことを言うと、俺はうなぎがあんまり得意ではなかった。
あの小骨がぷちぷちして口の中がパサパサになる様な、安いうなぎ特有のあれ。
あれが苦手で、進んでうなぎを食べる様なことはなかったのだが。
このうなぎはそこらのとは訳が違うのだろう。
焼き方、たれ、そして米にいたるまでが違う。
気づいたらお重を空にしていて、俺を含めて全員がぽかんとしていた。
「あ、えっと……」
「おお、そんなに旨かったか!いい食いっぷりだ、なぁ望月!!」
「ええ、見事なもんだと思います」
「あ、ご馳走様でした」
「足りたか?遠慮なんかしなくていいんだぞ?」
「いえ、こういうのは適量食べるほうが満足感あるかなって」
「ほー、わかってんな!!明日香、お前が捕まえた男は本当に大したもんだぞ!!」
「当然でしょ。彼みたいな人、他にはいないわ」
やめろ、こんなところで俺の人生のハードルを上げてくれるな……。
「いやぁ、しかし大輝くん。どうやって望月を落としたんだ?」
「へ?」
まさかあれを語れと?
「昔望月が俺に惚れてたのは知ってんだけどよ」
和歌さんが顔を赤くする。
「ちょっとお父さん!」
「ああ、わりぃわりぃ。それがあいつにバレてから心閉ざしてやがってさ、辛気くせぇのなんのって」
「す、すみません……」
和歌さんが心底申し訳なさそうにする。
「いや、責めてるんじゃねぇんだけどな!俺頭悪くていい言い方が思いつかねぇんだわ、こっちこそすまねぇな!!」
「えーと、なんていうか、和歌……望月さんも女性であるということを自覚してもらったと言いますか」
「何だ、エロいことでも言ったのか?耐性ないだろうから見ものだっただろ」
ゲス顔再び。
何か愛美さん辺りと気が合いそうだなこの人。
「ま、まぁ……でも、それ抜きにしても十分魅力的な人だと思います」
「真面目だなぁ、大輝くんは……やることはかなりえげつねぇのに」
もしかして俺の現状のことを言ってるんだろうか。
「明日香と望月のほかにもあと四人?囲ってるんだって?」
「ご、ご存知でしたか……そりゃそうですよね……」
いよいよこの話題がきてしまった。
敢えて触れない様にしてたつもりだったのだが、避けて通れない話だった様だ。
「まぁ、俺はな。女作るのは男の甲斐性だと思ってんだ。女満足させてなんぼだってな」
「は、はぁ」
「けど大輝くん、全員を幸せにできると、本気で思ってるか?」
なかなか痛いところを突いて来る。
思ってないとは言わない。
だが、思ってるかといわれるとそれもまた微妙だ。
どうしても偏りみたいなものは出るだろうし、それに不満を持つメンバーが現れる懸念は十分にある。
そうなったとき、俺にそれを解決できる力があるのか。
正直自信はなかった。
「今は若いしな、やりたい様にやるのが一番ではあると思うよ。けど、それが通用しなくなるときが必ずくるってことを、俺ぁ言いたいんだわ。わかるか?」
「ええ、わかります」
「明日香はもちろん実の娘だし。望月だって大事な家族みてぇなもんだ。そんな人間が不幸になるのを、親として黙ってみてるわけにはいかねぇ」
お父さんは俺を真っ直ぐ見る。
先ほどまでの陽気な感じは微塵も感じられない。
嫌な汗が背中を伝う。
これが、本職の、本物の持つ威厳みたいなものなんだろうか。
知らず、手が震える。
口の中も少し乾いてくる。
どう答えたものか。
その時、明日香と和歌さんが俺の手を握ってきた。
二人の熱が、俺に伝わってくる。
お父さんは、その様子を何も言うことなく見ていた。
そうか。
俺なんかは確かにちっぽけで、大した力もないし、出来ることだって限られている。
しかし、最初に朋美を迎えたとき、俺たちは誓ったはずだ。
『三人なら何かあっても乗り越えられる』
それが今は六人だ。
俺も含めたら七人。
出来ないことなんかあろうはずがない。
何の根拠もなく、そんな自信が湧いてくる。
二人の熱は、俺にそんな勇気を与えてくれた。
「お父さん」
「大輝くん、答えは出たのか?場合によっちゃ……」
指をパチンと鳴らすと、銃を持った部下が三人、部屋に入ってくる。
もちろん、銃口は俺に向いていた。
それでも俺は動じなかった。
二人がそれでも手を離さなかったから。
春海の死後、明日香と桜子が俺をほっといてくれなかった様に、きっと他のメンバーも俺をほっといてはくれないだろう。
それが俺の成長に繋がることを知っているからだ。
「お父さん、俺は何があろうと、必ず全員が笑っていられる結末を迎えてみせます」
「ほう、大きく出たな。そんなことが、出来るって大輝くんは思っているってことでいいのか?」
「そうです」
「いい目だ。根拠があるんだろうな?」
「……正直、俺なんかは矮小な存在だし、一人じゃできることなんかほとんどありません。ですが、今はここにいる明日香や和歌さん、それに他の四人。全員がそれぞれの意思で俺の元に集まってくれているんです。そしてみんな、俺にはない凄いものを持っています。そんな人間が集まって、出来ないことなんかありはしない。俺はそう、信じています」
「…………」
「この二人の手の、この熱が、それを教えてくれました」
俺は少し力をこめて、その手を握り返す。
「今だって、正直俺はビビってます。それこそ逃げ出したいくらいに。けど、それをこの二人が許しはしないでしょう。逃げる力があるなら、幸せにする方向に、その力を使えと、二人が言ってる気がするんです」
「……明日香」
「何かしら」
「おめぇは本当にとんでもねぇ男を捕まえてきてくれたよ」
「だから当然だと言ってるでしょ」
「望月」
「はい」
「おめぇも、こんな男に落とされて本望なんじゃねぇか?」
「もちろんです。こんなことを言うのは気が引けますが……おやっさんに並ぶ男だと、私は思います」
恥じらいながらも、しっかりと和歌さんが言った。
「大輝くん。おめぇは本当に大した男だよ。認めざるを得ねぇわ。だからな」
お父さんがそう言いながら手を挙げる。
先ほどの男たちが銃を構えなおし、俺に向けた。
「お、お父さん!?」
「おやっさん、何を……」
「明日香、望月……絶対にその手を離すんじゃねぇぞ」
一斉に、その引き金が引かれた。
「がはははは!いやぁわりぃわりぃ!!ちょっとの度胸試しのつもりがいいものを見せてもらったよ」
「もう、趣味悪いわよお父さん!」
引き金が引かれて直後、微動だにしなかった俺を、和歌さんと明日香がその場で押し倒した。
実は引き金の引かれた銃の銃口からは、おめでとうと書かれた旗とクラッカーの中身みたいなものが飛び出しただけで、銃弾が俺を襲うことはなかったのだ。
和歌さんは俺の頭を守り、明日香は俺と正面から抱き合う形で、床に伏せた。
連続で撃たれると思ったのか、しばらく和歌さんは俺の頭を抱いていたが、少しして異変に気づく。
「お、おやっさん……」
「え?」
ほら、これ、これ、とか言いながらお父さんが銃口から出た旗を広げて俺たちに見せる。
明日香が呆れてお父さんの頭をはたいた。
「相手の本気が見たかったら、こっちもある程度本気見せないとだろ?俺は無駄じゃなかったと思ってるけどなぁ。大輝くんは、どうだったよ」
「俺は正直、生きた心地がしませんでしたよ……」
「がっはっは!そうかそうか!悪かったな!!俺はもうおめぇが気に入っちまったわ!こうなったらもう、早いとこ孫の顔でも見せてもらいてぇくらいだわ」
また孫か……親ってのはどうしてこう、孫孫言いたがるのか。
だが俺と、その周りを認めてくれたということなのだろう。
気分は正直悪くはない。
「だけどまぁ、何だ。おめぇらも大輝くんに本気だってことがこれでわかったし、安心して任せられる」
本当に満足そうな顔をして、お父さんは言った。
「まぁどっちが先でもいいからよ、孫の顔見せてほしいから頑張れ、大輝くん」
「いや、まだ俺高校生なので……」
「望月は年齢的に問題ねぇだろ、作ってもらったらどうだ?」
「な、何を言ってるんですかおやっさん……」
帰りの車の中、今度は和歌さんが運転をしている。
俺と明日香は二人で後部座席に座っていた。
「大輝くん、今日は結構頑張ったわね。カッコよかったわ」
「バカ言うな、かなり本気でビビッてたっつーの……」
「いや、おやっさん相手にあれだけ啖呵を切れたのは大したもんだと思うぞ」
「和歌さんまで……思ったまま言っただけですよ。受け入れられなかったら仕方ないって覚悟してただけで」
明日香が軽く笑う。
「その覚悟が出来るのが、大輝くんのすごいところだと私は思うわ。人間って、結局は自分が可愛い側面を持ってるものだと思うから」
「それをかなぐり捨ててまで、お前は私たちと共にあることを選んでくれた」
「いや、俺は俺が可愛いと思ってるから。超大事だから」
「そんなこと言って、人のことばっかり考えてるくせに。素直じゃないのはポイント低いわよ」
俺は答えない。
自分が可愛いって言うのは本当だ。
けど、俺の周りがもっと大事なだけだ。
比率の問題だと、俺は思う。
帰り際、お父さんは俺に金を握らせた。
「え、こ、これって……」
「今日は二人とハッスルしてこい!ハッスルって古いか!がっはっは!楽しんでこいよ!!」
一晩どこかに泊まるにしたって、さすがに多すぎやしないだろうか。
それだけの額を、俺にぽんとくれた。
「和歌さん、このままどっかホテル行きませんか。明日香も一緒に」
「ど、どうしたの大輝くん……珍しいわね、自分から行きたがるなんて」
「今日はそういう気分なんだ。ダメか?あ、生理とかだったらまたに……」
「そういうんじゃないわよ、バカね!!望月、いくわよ」
「承知しました。掴まっててください、少し飛ばしますから」
そう言って和歌さんはナビで近くのホテルを検索し、三人でホテルに入ることになった。
二人や他のメンバーへの気持ちを再確認できた、そのことが今は俺には嬉しい。
何となくすっきりした気分で、体をすっきりさせに行く。
こういうのも、たまには良いのではないだろうか、なんて思えた。
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