手の届く存在

スカーレット

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本編

大輝編26話~神との和解~

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『はい、わかりました。何時頃伺ったらいいですか?』
『そうね……午後なら多分空いてると思うわ』

秀美さんに電話をかける。
会わせたい人間もいるので、ちょっと人数は多くなるが、と言うと特に問題もなく承諾された
俺に睦月、明日香、桜子と四人で向かうことになるのだが、事前に睦月は書類やらを整えていた様だった。

「午後なら空いてるってさ」

電話を切って睦月に伝える。
睦月は無言で首肯し、書類を鞄にしまった。

「桜子と明日香は?来るとは言ってたけど、何時とか打ち合わせ済んでる?」
「ああ、現地集合で問題ないと思う。何か手土産とか買ってくか?」
「特大の土産が、ここにあるけどね」

鞄を指さして、睦月はにやける。
趣味悪いな……。
それはそれとして、一応手土産は持っていこう。

正午すぎくらいになって、姫沢家のある駅に到着。
桜子と明日香が既に待っていた。

「ここに来るのも、久しぶりね」
「あのとき以来、だね」

あの時。
二人に俺が襲われた時のことを指すのだろう。

「ああ、その時のこと、途中まで見てたよ私」
「途中まで?」
「うん、実は最後まで見たかったんだけど、二人が大輝を襲った瞬間に睦月への転送が始まったからさ」
「そうなんだ……」

俺としては、あのときのことはあんまり思い出したくない。
歪んでたし、正直今みたいに割り切れてなかったから。
今は、それなりに楽しんでいるし、過ぎるほどに恵まれてると思う。

気になることも沢山あるけど、それはみんなで何とかしていけるんだと思える。
だからこそ、尚更あの時のバカな行動を悔いるのかもしれない。

「大輝にしては頭使った作戦だったよね」
「んな半端なフォローいらねぇよ……。それより、向かわなくていいのか?」
「ああ、そうだった」
「あ、待ってくれ。手土産買ってくから」

俺は三人を置いて、一人駅前の団子屋に入った。
そこで十人分くらいの団子を買う。
店の中は客がほとんどおらず、待つことなく団子を買うことができた。

だが、俺は終始店員以外の視線を感じていた。
ねばつく様な、ねっとりとした視線。
しかし、ストーカーとかそういうのとは少し違う様な。

女だったらまだいいが、男だったら嫌だな。
そんなことを考えていたが、人を待たせていたこともあって俺は店を出ることにした。

「遅かったね、何かあったの?」

桜子が不思議そうに俺を見る。

「ああ、いや。何か視線を感じた気がしてさ。気のせいかもしれんし、時間もないからもう行こう」

四人で姫沢家を目指す。

「ところで、秘密がわかったら、どうするつもりなの?」

明日香が話題作りの為か、声をかける。
俺もそれはちょっと気になっていた。

「どうもしないよ。ただ、私が知っておきたいだけだし。パパとママの言い分ももちろん聞きたいけど、むしろ要求があるとしたらあっちなんじゃないかな」
「てっきり一緒に暮らしたりとかってなるのかと思ったんだけどなぁ」

桜子が残念そうに言う。

「それはそれで悪くないけど、私、あの家もう相続してあの家の家主になったし。それに、私たちの関係にはああいう場所が必要じゃない?」
「まぁ、それは間違いないよね」
「うちで会うんだとさすがに人が多すぎるから、大したことはできないものね」
「愛美さんの家だとさすがに限界あるしな」

姫沢家で春海に代わって睦月が暮らすとなると、今の睦月の家は売るなり譲るなりしないといけなくなる。
春海と付き合っていた頃と違って、今は大所帯になってきた。
全員を姫沢家で、っていうのはさすがに無理があるし、現状がベストと言えばベストか。
そんな話をしているうちに、姫沢家の門が見えてくる。

「さぁ、着いたな」
「今日は普通に大輝くんの顔色がいいね」
「あの時と今とじゃ、状況が違いすぎるからな」
「私も見てたけど、あのときの大輝は本当辛そうだったな……ごめんね、私のせいで」
「今こうしてちゃんと居てくれてるんだし、別にいいよ。それに、この二人ともあれがなかったらこうなってはないしな」
「そうね、私もそういう点では睦月に感謝している部分があるわ」
「同感だね」

それぞれ思うところがある様だが、時間は待ってくれない。
チャイムを押し、返事を待つ。
少しして、秀美さんが門まで迎えに出てきてくれた。

「……あなたは……」
「こんにちは。私が誰か、わかるんですか?」
「……とにかく中へ、入ってくださいな」

睦月を見た瞬間の、動揺した表情。
あれは間違いなく、知っている。
全員で中に入って、居間で待つ。
持参した団子を秀美さんに渡すと、それを持ってお茶を淹れに行ってくれた様だった。

「大輝くん、ひさしぶりだね。それに、野口さんと……宮本さんだったかな」
「お久しぶりです、春喜さん。先日は……本当にご面倒をおかけして……」
「大輝くん、そのことはもういいよ。妻からも聞いてるから。今日は、違う用件できた。そうだね?」
「ええ……用事があるのは俺じゃなくて、そこの……」
「……どう挨拶した方がいいかな。久しぶり?」

睦月が無表情で春喜さんに問う。
春喜さんは緊張した面持ちだ。
桜子と明日香も、やや緊張しながら見守る。

「……大きくなったな」

春喜さんが呟いた。

「ってことは、やっぱり……」
「大輝くん、どうやって、知り合ったんだい?君とは面識があったわけじゃないんだろう?」

まぁ、そうなるわな。

「そうですね。面識はもちろん、本当なら永遠に会うはずがなかったと思います」
「……やはりあの事故、睦月、だったんだな」
「春喜さんは、何処まで知ってるんですか?」

俺が尋ねると同時に、秀美さんがお茶を持って現れる。
春喜さんは、昔を懐かしむ様な表情で睦月を見ている。
睦月もまた、春喜さんを見ていた。

「椎名さんはね、俺の……いや、姫沢家にとっての恩人みたいなものなんだ」

今から十六年ほど前の話。
姫沢家は事業において痛烈なピンチに陥っていたのだという。
事業を開始してから二年ほど経った頃で、軌道に乗っていたと思われた仕事は、一気に急転直下の様相を見せていた。

「当時の部下の、些細なミスが原因だったんだけど取引先に支払う補償額が、当時のうちの資産を越えるものになっていたんだよ」

笑ってできる様な話ではないが、春喜さんはそれでも当時のことを懐かしそうに振り返った。

「その時、手を差し伸べてくれたのが椎名さんでね。椎名さんとは、大学の頃からの知り合いだったんだけど、あの人は資産家だったんだ」
「まぁ、あのマンションを一括で買ってたみたいだから、納得できる話ではあるわね」

明日香が言う。

「当時、うちの何倍もの資産を持っていたあの人は、俺に言ったんだ。援助してあげる代わりに、一つ頼まれてほしい、ってね」
「それって……」
「ああ、お察しの通りだよ。当時、椎名さん夫妻は子宝に恵まれていなくてね。一方で、うちは……双子が生まれて間もない頃だったんだ」
「やっぱり……」
「そうだ。春海と、睦月だね。当時の俺は、社員と家族を養うことを最優先したんだ。背に腹は変えられないって。秀美は、猛反対したよ。今から思えば当然だね」
「…………」
「だが、約束通り椎名さんは、ぽんとうちに援助してくれた。その代わり、睦月には関わらないということが絶対条件だった」
「それで、会社は持ち直して今に至る、というわけですね」
「その通りだよ。睦月を養子に出してから、俺はがむしゃらに頑張った。睦月の分まで、春海に尽くすことが贖罪になると思っていたからね」
「じゃあ、春海は睦月のことを知らずに育った、ってことですか?」
「そのはずだ。俺たちも春海の前で睦月の話は絶対にしなかったし、それが椎名さんとの約束でもあったから。けど、その二年後に、椎名さん夫妻に子どもができたんだ」
「弟さん、ですよね」
「確か孝一くんと言ったかな。それまで、愛情の全部を向けて育てられた睦月は、弟の孝一くんが生まれてからは随分寂しい思いをしたと聞いたよ」

それまで甘えることが自然なことだったのに、いきなり切り離される。
俺には到底想像できないことだが、子どもだった睦月には辛いことだったのではないかと思う。

「椎名さん夫妻の気を引くために色々やっていたとも聞いた。そんな中、睦月は自分が養子に出された子どもであることを知ってしまったんだ」

中二病だったと聞いてはいたが、それが両親の気を引くためにやっていたのかもしれない。
そう聞くと、バカにする様な気持ちは一切消えてなくなっていた。
睦月が養子であることを知るきっかけとなったのは、母親だったらしい。

睦月が十二歳になった頃のこと。
睦月は弟を泣かせてしまったことがあったそうだ。
その時、母親が言った一言が、睦月の心をひどく抉った。

「せっかくもらってきた子が、何で私たちの血の繋がった子どもをいじめるのか」

こんな様なことを言ったんだそうだ。
すぐには調べたりしなかった様だが、当然物心ついた睦月は自分の戸籍を調べる。

そこで、養子の記載を発見したというわけだ。
父親は、それでも睦月の願いは叶えられるだけ叶えて、与えるものも与えてきた。

「そういう話を聞いてね、筋違いかもしれないけど俺もいてもたってもいられなくなったんだよ」

その頃には、俺は春海と出会っていたはずだけどそんな素振りはなかった。
もし当時の俺がその事実を知っていたら、気づくことができたのだろうか。

「俺は、当時受け取った金に少し上乗せする形で、睦月を返してほしい、って相談しに行ったんだ」

椎名さんからしたら、都合のいい話を、となるのはわかりきった話ではある。
当然その相談は受け入れられなかった。
それどころか、椎名さんはそれを聞いて怒り狂ったという。

「恩を仇で返すのが、人間という生き物だ。やはり、人間と関わって生きていくべきではない」

そんな風に結論づけて、椎名さんは世間とのかかわりをほぼ絶って生きることを決める。
弟の孝一に関しても、友達などロクなものにならない、と決め付けて友達を作ることさえ許さなかったらしい。
睦月に関しては半分放任だったらしいが、それでも友達を家に連れてきたい、などと言えば父親の怒りに触れるのがわかっていたので、睦月はほぼいつも一人だった。

「そして、椎名さんは親戚との縁切りに実家へ行って、その帰りに事故が起きた、というわけだ」

人とのかかわりを絶つために、親戚まで断絶しようとしてたのか、さすがに俺の想像の範疇を超えた話だ。

「事故のことをそこまで知っているのに、何故睦月に会いにこようとしなかったんです?」
「時期を伺っていた、というのは半分言い訳だな。会うのが怖かったというのが正直なところさ。俺のやったことは、正直人身売買にも等しい。しかも取引材料に実の娘を使ったんだ。完全にどうかしてたと思う。こんなことを言っても許されるとは思えないが、本当に申し訳ない」
「まぁ、気持ちはわかりますけど。ただ、睦月の協力者が睦月の親戚の叔父さんだけだった、っていうのも知っていますか?」
「いや……だが当然と言えば当然か」
「睦月……そろそろ言ってもいいんじゃないか?」
「んー……。何かいいづらい雰囲気だよね」
「そうだな。でも、言わないと話は終わらないんじゃないか?」
「ん?大輝くん、何のことだい?」
「睦月、言いにくいなら俺から話すけど、いいか?」

睦月は少し考えて、首肯した。

「大輝に任せるよ」

「春喜さん、今から言うことを信じられなくてもいいので、まずは聞いてもらいたいんです」
「どういうことだい?」
「おそらく、普通の神経じゃ信じられないであろうことになると思います」
「はは、怖いな……。話してくれるかい?」

俺は、春海が小さい頃に高熱を出した頃の話をした。
そこで魂が入れ替わったこと。
その入れ替わった魂が人間のものではなく、神のものであったこと。

熱が下がって別人の様になったのは、俺に出会ったからではなく、神の人格によるものであったこと。
俺が生存する運命を探すために何度も春海の人生をやり直していたこと。
春海が二度目の死を迎えることが、俺の生存の絶対条件だったこと。
春海が死んで後、睦月に憑依したのもその神であったこと。

「……何て言うか……突拍子もない話だな……」

春喜さんはとても信じられないといった様子で、睦月を見た。
そりゃそうだろう。
いきなり神だの何だの言われたところで、実感がわくはずもない。
秀美さんもまた同様だった様で、ただ睦月と春喜さんを交互に見るばかりだった。

「睦月、何か見せられるもの、ないか?」
「んー……見て一発でわかる類のものがいいよね」
「具現化……変化……手品じゃまず無理なもの……」
「じゃあまず、これかな」

先日睦月のマンションで見せてくれた様に、睦月は少し集中する。
書類関係が飛ばない様に、桜子と明日香がまとめる。

「春喜さん、秀美さん、何かに掴まっててください。すごい突風がきますよ」
「え、それは一体……」
「ほら、早く」

俺は手を出し、春喜さんがそれを掴む。
秀美さんは春喜さんにしがみつく。

「こ、これでいいかい?」
「いいぞ、睦月」
「じゃあ、行くよ」

睦月が気合と共に力を解放する。
見るのは二度目だが、何度見ても慣れる気がしない。

「な、何だ!?」
「睦月が、本当の姿を見せますよ」

風が轟いて、周囲をなぎ払う。
春喜さんは俺の手と座っていたソファと両方に掴まり、秀美さんは風に耐える様にきつく目を閉じている。
やがて風が止み、睦月の真の姿、戦女神スルーズが顕現する。
スルーズの足元に睦月の体が横たわっていた。

「……何だこれは……コスプレ……とかではないんだよね」
「羽……?あれ、本物なのかしら……」

二人はただただ戸惑うばかりだ。

「彼女が、先ほどお話した……自称戦女神スルーズです」
「大輝、自称はいらない」

言って、手元にやや大きめの剣を召喚する。
これは俺も初めて見た。

「あとは……季節的にまだ早いかもしれないけど」

言いながら左手にスイカを召喚。
……何でスイカ?

「よっと」 

スイカを軽く放り上げ、目にも止まらぬ剣速でスイカを斬る。
何でそんな大層な剣出してスイカ斬ってんの、この女神……。

「いっちょあがり、かな」

六等分されたスイカが、それぞれの目の前に置かれる。 

「い、今のは……」
「ただスイカ斬っただけだけどね。ちなみにこの剣は、神界に保管されてるダインスレイブっていう剣」
「おい、そんなもん勝手に持ち出していいのかよ?」
「大丈夫、綺麗にして戻しとくから」

割と適当だな、神界。

「あ、スイカ美味しい」

桜子が何の疑いもなくスイカを堪能している。
それなら、と明日香もスイカをかじる。
……何だこの光景。

「あと、何か見せられるものあるかな」
「んー……十分って感じに、俺には見えるけど。明日香、何か思いつくか?」
「テレパシー、とかどうかしら」
「おお、さすが。できるか?」
「そんなことなら簡単簡単」

スルーズが睦月の姿に戻り、春喜さんを見つめる。
えっ?という顔になって、やがて春喜さんの顔が赤くなっていく。
何を言ったんだ、睦月……。

次に秀美さん。
秀美さんは最初、混乱した様子だったが、次第に春喜さんと同じ様に顔を赤くした。
二人が顔を見合わせる。

「睦月、何言ったんだ?」
「パパとママと、私しか知らないこと。あと……」
「ま、待った!その先は言わないでくれ、頼むから」

ひどく慌てた様子で春喜さんは言う。
一体何を言ったんだ……。

「これは信じるしかない様だね」
「そうね……」

かつて娘と信じていた相手が、実は娘じゃなかった、そのことに憤りなどはないのだろうか。
そんな俺の考えを読んだか、睦月が二人に問う。 

「パパ、ママ。私は結果として二人を騙していたことになる。それについては謝らないといけないよね。ごめんなさい」

春喜さんと秀美さんは顔を見合わせ、笑いあう。

「えーと今は睦月、と呼んだ方がいいのか」
「そうだね、本名だと知らない人の方が多いだろうから」
「なら、睦月。俺は……俺たちは、君に感謝しないといけない」
「感謝?」
「そうだ。死んでしまうはずだった娘を、二度も救ってもらっているからね」
「けどその娘は、二回死んでしまってる。この睦月だって、いずれは二回目の死を迎えるよ?」
「睦月が、今後死なないといけない事情はもうないんだろう?春海のことは……確かに今でも辛い部分は多い。だけど、それによって大輝くんが生きていてくれるのであれば、大輝くんとともにその人生を全うしてもらいたい。それが俺の本音だな。秀美、君はどうだ?」
「私も大体似た様なものかしら……私の認識としては、春海は今睦月として生きているって、そう思ってる。厳密には違うんだろうけど、私にとってはあの春海もあなたが憑依した春海も、同じよ」
「それで、いいの?」
「いいも悪いも、君が俺たちの娘であることには違いないよ。その体には、間違いなく俺たちの血が流れているのだから」
「ありがとう。パパとママと、一緒に暮らせたことは今でも私にとって大事な思い出だよ」
「それは俺たちにとっても、そうさ。もし、睦月が望むなら……また一緒に暮らすことだって……」
「あ、それなんだけどね」

睦月は感動的な雰囲気の中、俺と俺の周りを取り巻く環境を説明する。
今既にハーレム状態で、これから更に増える見込みがあること等。
その為の場所として、今の睦月の住処であるマンションは必要であること。

「だからね、一緒に暮らすっていうのは難しいけど……たまになら顔見せにくることはできると思う。里帰りって言っていいのかな、この場合」
「た、大輝くん……君ってやつは……」
「あー……返す言葉もないですね……」

春喜さんも秀美さんも、開いた口が塞がらないと言った体だ。
だが、何かを決意した様な表情で俺に言う。

「わかった、もうなってしまっていることだし、それは仕方ない。だけどね、大輝くん」

一旦言葉を切って俺と睦月と交互に見る。

「孫第一号は、睦月とちゃんと作って俺たちに見せてくれ。いいね?」

だ、第一号?
てか孫って……まだまだ先の話じゃないのかそれ。

「孫……って、親公認で子作りできちゃうの!?」

桜子が騒ぐ。
お前は少し静まれ。
こないだからどうも、こいつのせいで俺はひどい目にあってる気がする。

「俺ももう、大輝くんが何人女を作ろうと構わないと思ってる。だが、子ども一号は睦月と作るんだ。約束できないのなら、睦月はどんな手を使ってもうちに戻す」

どんな手でもって……金の力ですよねそれ……。

「わ、わかりました……」
「その代わりと言っては何だけど、俺たちに協力できることがあるならしよう。援助でも何でも」

太っ腹だな。
だが、懸念していたこの二人の問題が、こういう形とは言え解決できたのは喜ばしいことだと思う。
わだかまりの様なものも特にある様に見えないし。

「それで、孫はいつ見れそうかな」

気が早いのだけは何とかしてほしいと思うが。

「私はおばあちゃんって呼ばれるの、もう少し後がいいかな」

まだまだ十分若々しい秀美さん。
確かにおばあちゃんなんてイメージは全然ない。

「あの俺、というかメンバーの大半がまだ高校生なので、子ども作るのはまだちょっと……」
「大輝くん」
「は、はい」
「俺の会社に入ることだって、できるから。もちろんコネで。」

黒い、この人黒いよ。

「大輝くん、私のお父さんと会う約束も忘れてないわよね?」

約束なんていつしたんだろう……会いたいって言ってたってのは聞いたけど。

「宮本さんだったか。君の両親も、知っているのかい?」
「知っていますね。そのおかげで危うく大輝くんは殺されるところでしたけど」
「まぁ……」

秀美さんが驚いた顔をする。

「まぁ、そのことがあったおかげで女が一人増えたんだけどね」

桜子お前……余計なこと言わないと死ぬ病気か何かか?

「これは…大輝くんの子種争奪バトルロワイヤルが起きる予感?」

またも余計なことを言う。

「睦月。何としても大輝くんの子どもを身ごもるんだ。いいかい?」
「言われるまでもないよ。大丈夫、私の力があれば余裕だから」
「それはちょっとずるくないかしら……」


そのあと少しだけ雑談をして、姫沢家を後にした。
晩御飯を、と秀美さんは言ってくれたのだが、実は少し心配ごとがあったのだ。
昨夜のノルンさん、そして愛美さん騒動。

休みの日は愛美さんはよく寝る方だ。
だから、それ自体は問題ない。
昨夜のことがあってから、ずっと意識が戻っていなかったのだ。

しかし、時間がないということもあって放置してそのままきてしまった。
ノルンさんはまた神界に帰っているし、どうなっているかわからない、ということで四人で愛美さんのところへ行こうということになった。

愛美さんの部屋の鍵を開け、四人で中に入る。
物音がしない。
不在なのだろうか。

「いや、いると思うよ。ほら」

睦月が玄関にある靴を指差して言う。
その瞬間、がちゃ、と音がして寝室のドアが開いた。 

「あ、愛美さん……」

俺が声をかけたその時、床を這いずって愛美さんが現れた。

「……お前……覚悟はできてんだろうな……」
「ひっ」

俺の脚にしがみついて、恨めしそうに俺を見る愛美さん。
さながらホラーのワンシーンの様なその様子に、思わず怯えてしまう。

「い、いやほら、あれは事故!そう!事故だったんですって!」
「んなわけあるか…お前楽しんでやがっただろ……」

脚から腰、首へと絡み付いてくる愛美さん。
この人本当に人間?
妖怪とかの類じゃないよね?

「睦月、昨日のアレ大輝にやってやろうぜ」
「え?」

アレって、まさか……。

「いいよ、やろっか」
「え、ちょっと愛美さん?本気ですか?」
「当たり前だろ…お前らも、大輝が乱れ狂うところ、見たいよなぁ?」

あまりの愛美さんの迫力に、二人とも逆らうことが出来ない様だ。

「だ、だってあれ、愛美さんが元々望んだんじゃ……」
「だぁまぁれぇ……おい桜子、それに明日香。手伝え」
「あ、はい」

かくして俺は愛美さんの報復を受け、実に四時間ほど、気の狂いそうな快楽を与え続けられることとなった。
快楽は人を色んな意味でダメにする。

こんな調子で子作りだなんだって出来るのだろうか。
正直不安しかない。
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