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本編
Girls side&大輝編~睦月のいたずら 後編 大輝視点~
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い、意味がわからない。
長崎にいると思っていた朋美が突然出てきたと思ったら、突然の全力パンチからの連続踏み付け。
今日ってそもそもみんなでデートしようって話じゃなかったっけ?
それが何で俺、痛めつけられて挙句犯されそうになってるの?
朋美ってこんな凶暴な女だったか?
少なくとも俺の知る朋美はもう少しおしとやかというか、少なくとも暴力的な女じゃなかった様な……。
「あー大輝、ごめん」
「え?」
睦月がちょっと申し訳なさそうな顔をしている。
え、何?
もしかして睦月が朋美に何か吹き込んだの?
「ここ数ヶ月の記憶、朋美に流し込んだの。だから、朋美はもう全部知ってるんだ」
え、何それ。
めちゃくちゃ過ぎてちょっと脳が追いつかない。
それどころか俺置いてけぼりなのに状況だけがどんどん悪くなってる気がする。
ともかく、朋美は全部知ってる……全部、知ってる……。
あ、これ死亡フラグじゃね?
ひどいよ!とか言いながら包丁で…。
「あ、あの……」
「大輝、動かないで」
「え、いや待てって」
俺はひとまず包丁を探した。
刃物はやばい。
マジで俺滅多刺しにされかねない。
ネタでも冗談でもなく、このままだと本当に殺されちゃう気がする。
あれ……?あそこにあるのってもしかして……。
「大輝、何も言わなくていいよ。わかってるから」
「いや、わかってるって……」
「大丈夫だから。だって、やっと会えたんだもん。殺したりなんか、しないから」
め、目が!
光が消えてる!
これ絶対やばいやつじゃん!
「でも、無駄な抵抗するなら……私もどうしちゃうか、わからない」
朋美が睦月を見ると、睦月は頷いて何やら意識を集中させる。
ここまで俺を追い詰めて尚、何をするつもりなのか……。
そんなことを考えていたら、俺の手に手錠がはめられる。
そしてその手錠は、テーブルの足に瞬く間にくくりつけられていた。
「お、おい睦月……何だよこれ……」
「ごめんね、今日の本当の目的は、朋美の復讐がメインなの」
「は?復讐って……」
「朋美がどんな思いをしていたか、今日は大輝に知ってもらう必要があるから。もちろん、みんなが言ったことは嘘じゃないし、大輝には活かしてもらわないといけないけどね」
「だ、だからって……もう少し穏便に……」
「大輝」
部屋に冷たく、朋美の声が響く。
その声音の冷たさに、思わず黙ってしまう。
「考えてみて、大輝。朋美がここまで、暴力に訴えるほど怒りに燃えるって、相当なことだと思わない?」
確かに。
けど、ここまでするか普通……。
「大輝、一つ聞かせて。私をとるの?私を見捨てるの?それとも、この輪の中に私も入れるつもりなの?」
なんつー目をして俺を見るんだ、朋美……。
ていうかこの問い、何て答えても俺はここで死んでしまうんじゃ……。
「十秒、待ってあげるね。九……八……」
数える間に、睦月とノルンさんが、何やら朋美に力を注ぎ込んでいるのが見える。
一体、何してるんだ?
「五……四……」
「お、俺は……」
「時間切れ」
言いながら朋美は俺の手を掴み、右手の親指の爪を素手で引っぺがして飛ばした。
「っぐああぁぁぁぁ!!!」
親指が強烈に熱を持ち、激痛が走る。
手首に血が流れて落ちてくるのが伝わってくる。
無意識に、涙が零れた。
「あっぐ……な、何を……」
何だよこれ……こんな物理的な拷問……。
てかこの為に二人は朋美に力を……?
どうしろって言うんだ…どうしたらいいんだ俺……。
右手は、ミリ単位で動かしてもズキズキと痛む。
みんな、血は平気なんだろうか。
俺は自分の一大事なのに何故かそんなことを考えてしまう。
嫌な癖だな、本当……爪って丸ごとはがされてもちゃんと生えてくんのかな……。
「い、いてて……朋美……」
「何?次は左手行く?」
「い、いやもうそれは勘弁してもらいたい、切実に……」
バカ言うなよ……こんな痛みで覚醒してもっと、なんて言えるやつは頭のネジが数本消滅してんだろ……。
更にやられたりしたら、きっと俺は泣くだけじゃ済まないだろうしな。
「じゃあ何?申し開きがあるなら聞くよ」
目に光のないまま、朋美が言う。
これは取り繕ったこと言ったところで、また生爪はがされるのがオチだろう。
情けないことに、もう既に恐怖は刻まれている。
ここは正直に言うしかない。
「朋美、俺は……誰も失いたくない。誰かがいなくなったりして誰かが泣くのも嫌だし…この中の誰か一人欠けても俺は嫌だ……もう、そんなところまできてるんだ」
「へぇ……だったら、私のことは見捨てるってことでいいの?」
「違う……朋美、俺が言う誰も、っていうのはお前も含んでの話だ。都合のいい話かもしれない。だけど思い出してほしい」
「この期に及んで、何を?」
「俺たち、始まりは三人だっただろ……朋美がそれでもいいって言ってくれたからだ。今も、そう思ってくれるんだったら……俺はお前を放っておいたりしない。これだけは約束できる」
「…………」
朋美は何やら考えている様だ。
指の痛みで意識が飛びそうだが、ここで畳み掛けなくては。
「けど朋美。お前がどうしても俺を独占したいって言うなら、それは叶えてやれない。俺は誰か一人だけのものじゃ、もうないからな」
「なるほどね。言いたいことは、それで全部?」
「いや、もう少しだけ……俺だって、こんなことになるなんて想定外だったよ。正直、俺自身の不徳の致す所ってやつだと思ってる。政治家みたいな物言いで申し訳ないけどな。だけど、俺はこういう道を選んだ。そして、朋美。お前が選んだ男は、こういうやつなんだ。どうしても納得できないなら……俺を殺すなり何なり、気の済む様にしてくれて構わない」
「じゃあ、私もそこに入れたいってことでいいのね?」
「そうなる。それをどう受け止めるかは、朋美次第だ」
これ以上、俺から言えることはもうない。
こうしている間にも右手はズキズキ痛むし、血だって止まってはいない。
床を汚してしまっているし、あとで片付けないとな。
「ふふ……あはは……あっはっはっはっは!!!」
「な、何だよ、何がおかしいんだ?」
「ふふっ……わかった、じゃあ、これで終わりだね、大輝」
朋美は口元を歪める。
目がイってる。
マジでおっかない。
そんな感想しか出てこない。
はは、もうどうにでもなれだ。
そう思ったとき、視界が一気に暗くなった。
唇が、朋美によって塞がれたのだと瞬時に理解する。
公園で殴られたとき切れた口の中の傷に朋美の舌が触れ、再度痛みが走る。
それでも朋美は離れなかった。
これで朋美が満足するなら、俺を好きにさせてやろう。
俺は抵抗をやめる。
すると、手の痛みも口の中の痛みも、どんどんと消えていく感覚があった。
どういうことだ、これは……。
「もう、大輝を痛めつけるのは、終わり」
朋美が俺から離れる。
「え、ど、どういう……」
俺は混乱していた。
朋美の目にはちゃんと光が宿っているし、俺の知る笑顔を見せている。
終わりって、関係が終わりって意味じゃなかったのか?
「私が言った終わりって言うのは、大輝を痛めつけて苦しめることの終わりってことだよ?」
事も無げに言うが、さっきのは紛れもない現実だったはずだ。
痛みだって、流血だって……。
「私たちが流し込んだ力は、一時的な筋力の増加と、癒しの力だよ」
「粘膜同士の接触で効果を発揮するタイプの力なんだよ。だから、キスは必要な行為だったんだ」
睦月とノルンさんが説明する。
そんな力まで与えてたのか、用意周到というか……。
「大輝が、この選択をするっていうことは何となくわかっていたからね。朋美ともそのつもりで打ち合わせたの」
全部睦月と朋美の手のひらの上だったってことかよ……。
本気で死ぬかと思った……。
「でも、あれだけ痛めつけられたら、ちゃんと本音が出せたでしょ?」
荒療治ってわけか。
それにしてもやりすぎだろ…………正直朋美を見る目が変わってしまいそうだ。
だが俺は確かに、自分の無意識をちゃんと意識できたと思う。
やっぱりこのメンバーを、朋美を、誰か一人でも欠くなんてことは考えられない。
何処かにきっと、負い目みたいなものはあったんだと思う。
世間に対しても、メンバーに対しても。
だから俺は素直にこういうことが言えなくなっていたのかもしれない。
覚悟のないまま口にすることが中途半端に感じられたから。
「あれ?大輝泣いてるのか?」
愛美さんが俺を見て言った。
先ほどの痛みでのものとはまた別に、新たに涙が零れていた。
「あ、あれ、俺何で……」
「怖かったんだよね。安心しちゃったからかな」
桜子が冷やかす様に言う。
覚えてろよ、こいつ……。
「ごめんね、大輝。ここまで怖がるなんて思ってなくて」
「いや、怖いっつーの。お前あとで俺の記憶見せてもらってこいよ本当……」
血の後始末は、睦月が一瞬で済ませた。
言うまでもなく、例の力だ。
「そういえば、全員が一堂に会するというのは初めてのことじゃないか?」
和歌さんが気づいた様に言う。
そう言われればそうかもしれない。
というか、この全員を相手にして俺が無事でいられるはずもないんだが。
そう考えると、やっぱり何人かずつに分けてという今までの方が俺としてはありがたい。
「大輝、さっきの言葉信じていいんだよね?」
「え、ああ。もちろん」
ちょっと前の俺だったら、きっと動揺してまた生爪を……ああ、もう思い出したくない。
あんな朋美はもう見たくない。
ヤンデレというかもう狂人に近かったぞ、ぶっちゃけ……。
「そんな怯えなくても、もう力は切れてるから大丈夫だよ」
「大輝はやっぱり、大輝のままだなぁ」
そう思うなら俺視点の俺の記憶を、お前らも体感してくるがいい。
ちょっとしたホラー気分を味わえるぞ。
今夏だし、丁度いいんじゃないか?
あとで睦月に提案してみよう。
「あ、大輝。変なこと考えたら、さっきのシーン寝てる間に夢で見せるから」
「ちょっと横暴じゃないか!?」
とりあえず先ほどの手錠からも開放されて、やっと一息つける。
騙されたことは確かだが、騙されたということに対しての怒りはもうほぼない。
やはり俺は変わっているんだろうか。
それより、これからどうするつもりなんだろうか。
まさか全員いっぺんに相手しろなんて…言わないよな?
「今日、大輝は多忙になるから。だから今からご飯作るね。ちゃんと食べておかないときついかもね」
やはりそうなるのか。
ある程度の覚悟はしてたが、これはきつそうだ。
「あ、でも安心して。一人ずつ何回かで行くから。いざって時はチート使うし」
あれをやるのか……。
あの、自分の意識と関係なく反応させられる感じと、空っぽになった感覚から一気に満たされて欲情する感じが、どうも慣れない。
出来ればなしで行きたいが、ここに居る人間はそれを許してくれそうにない。
腹を決めよう。
全員を相手にしきってようやく解放されるわけだが、何だか喉が渇いた。
冷蔵庫を開けるも飲み物があまり入っていない。
あー……これ愛美さんが好きなやつか。
飲んだら後々うるさそうだ。
少し体はダルいけど、外に買いに行くかな。
俺は鍵をかけてマンションを出る。
時刻は夜中の二時近く。
全員が三つの部屋で分かれて寝ている。
確かこっちにコンビニが……そう思って路地を曲がったところで、不意に声をかけられた。
「こんばんは。いい夜だと思わない?あなたも大きなわだかまりを解消できたことだし」
「けど、ここから先はそう上手くいかないかもしれないね」
男女のカップル……だろうか。
薄暗くてよく見えないが、女の方は相当綺麗な人だと思う。
男の方も、モテそうというか、女が放っておかなそうなイケメン風。
「あの、俺のこと知ってるんですか?ていうか、わだかまりって…………」
そこまで言って気づく。
どうして、初対面の相手がそのことを知ってる?
俺は少し距離をとって、身構える。
俺の思っている通りの相手だとすれば、無意味だと思うが。
「今日はただのご挨拶にきたまでだから。また会いましょ、宇堂大輝くん」
「どうやらお迎えもきた様だしね。またすぐ会うことになるよ、では」
二人は姿を消した。
やはりか、あいつら……神だ。
女の方が見せた、去り際の視線…あれは以前から何度か感じていたものだ。
「大輝!!」
後ろから声がした。
「一人でこんな時間に出かけるなんて、危ないよ」
「お前はもう、お前だけのものじゃないんだ。少しは自覚してくれ」
睦月と和歌さんだった。
「二人とも、どうしてここに?」
「ちょっと目が覚めたと思ったら大輝がいなかったから……外に出たのかと思って。……って、すごい汗。どうかしたの?」
「私は睦月が外に出るのを感じてな。何かあったのか?」
「いや……なんでもないよ。ちょっと疲れてるだけだと思う」
この二人なら話しても、と思ったが相手が誰だかわからない状況で心配をかけるのは気が引けた。
「本当に?何かあったらすぐ言ってね?」
「わかってるって。睦月は心配性だな」
笑ってみせるが、乾いた笑いしか出てこない。
「それより、喉渇いたから飲み物買いに行く途中だったんだ。一緒に行くか?」
「当たり前じゃない。起こしてくれてよかったのに」
きっと睦月を起こしていたら、さっきの連中は現れなかったんだろう。
何が目的なのかはわからないが、原因ははっきりしている。
睦月とノルンさん。
この二人と関係を持ったことが起因しているのは間違いない。
だが、ここで俺は睦月もノルンさんも手放すつもりはない。
俺たちが笑って生きていける未来の為に。
「大輝、本当に私たちを頼ってくれていいんだからな?遠慮なんて水臭い真似をしてくれるなよ?」
「大丈夫ですって。ちゃんと、そういう時には頼りますから」
今度はさっきよりマシな笑いが出る。
バレるのは時間の問題かもしれないが、あの二人は俺に用事の様だし、何とかして俺一人で片をつけたい。
片をつけるまでいけなくとも、手がかりくらいは掴んでおく必要はあるだろう。
だが、俺はまだ気づいていなかった。
これは、長い長い夏休みの始まりでしかないことに。
そして既に、俺だけの問題ではなくなっていたことに。
長崎にいると思っていた朋美が突然出てきたと思ったら、突然の全力パンチからの連続踏み付け。
今日ってそもそもみんなでデートしようって話じゃなかったっけ?
それが何で俺、痛めつけられて挙句犯されそうになってるの?
朋美ってこんな凶暴な女だったか?
少なくとも俺の知る朋美はもう少しおしとやかというか、少なくとも暴力的な女じゃなかった様な……。
「あー大輝、ごめん」
「え?」
睦月がちょっと申し訳なさそうな顔をしている。
え、何?
もしかして睦月が朋美に何か吹き込んだの?
「ここ数ヶ月の記憶、朋美に流し込んだの。だから、朋美はもう全部知ってるんだ」
え、何それ。
めちゃくちゃ過ぎてちょっと脳が追いつかない。
それどころか俺置いてけぼりなのに状況だけがどんどん悪くなってる気がする。
ともかく、朋美は全部知ってる……全部、知ってる……。
あ、これ死亡フラグじゃね?
ひどいよ!とか言いながら包丁で…。
「あ、あの……」
「大輝、動かないで」
「え、いや待てって」
俺はひとまず包丁を探した。
刃物はやばい。
マジで俺滅多刺しにされかねない。
ネタでも冗談でもなく、このままだと本当に殺されちゃう気がする。
あれ……?あそこにあるのってもしかして……。
「大輝、何も言わなくていいよ。わかってるから」
「いや、わかってるって……」
「大丈夫だから。だって、やっと会えたんだもん。殺したりなんか、しないから」
め、目が!
光が消えてる!
これ絶対やばいやつじゃん!
「でも、無駄な抵抗するなら……私もどうしちゃうか、わからない」
朋美が睦月を見ると、睦月は頷いて何やら意識を集中させる。
ここまで俺を追い詰めて尚、何をするつもりなのか……。
そんなことを考えていたら、俺の手に手錠がはめられる。
そしてその手錠は、テーブルの足に瞬く間にくくりつけられていた。
「お、おい睦月……何だよこれ……」
「ごめんね、今日の本当の目的は、朋美の復讐がメインなの」
「は?復讐って……」
「朋美がどんな思いをしていたか、今日は大輝に知ってもらう必要があるから。もちろん、みんなが言ったことは嘘じゃないし、大輝には活かしてもらわないといけないけどね」
「だ、だからって……もう少し穏便に……」
「大輝」
部屋に冷たく、朋美の声が響く。
その声音の冷たさに、思わず黙ってしまう。
「考えてみて、大輝。朋美がここまで、暴力に訴えるほど怒りに燃えるって、相当なことだと思わない?」
確かに。
けど、ここまでするか普通……。
「大輝、一つ聞かせて。私をとるの?私を見捨てるの?それとも、この輪の中に私も入れるつもりなの?」
なんつー目をして俺を見るんだ、朋美……。
ていうかこの問い、何て答えても俺はここで死んでしまうんじゃ……。
「十秒、待ってあげるね。九……八……」
数える間に、睦月とノルンさんが、何やら朋美に力を注ぎ込んでいるのが見える。
一体、何してるんだ?
「五……四……」
「お、俺は……」
「時間切れ」
言いながら朋美は俺の手を掴み、右手の親指の爪を素手で引っぺがして飛ばした。
「っぐああぁぁぁぁ!!!」
親指が強烈に熱を持ち、激痛が走る。
手首に血が流れて落ちてくるのが伝わってくる。
無意識に、涙が零れた。
「あっぐ……な、何を……」
何だよこれ……こんな物理的な拷問……。
てかこの為に二人は朋美に力を……?
どうしろって言うんだ…どうしたらいいんだ俺……。
右手は、ミリ単位で動かしてもズキズキと痛む。
みんな、血は平気なんだろうか。
俺は自分の一大事なのに何故かそんなことを考えてしまう。
嫌な癖だな、本当……爪って丸ごとはがされてもちゃんと生えてくんのかな……。
「い、いてて……朋美……」
「何?次は左手行く?」
「い、いやもうそれは勘弁してもらいたい、切実に……」
バカ言うなよ……こんな痛みで覚醒してもっと、なんて言えるやつは頭のネジが数本消滅してんだろ……。
更にやられたりしたら、きっと俺は泣くだけじゃ済まないだろうしな。
「じゃあ何?申し開きがあるなら聞くよ」
目に光のないまま、朋美が言う。
これは取り繕ったこと言ったところで、また生爪はがされるのがオチだろう。
情けないことに、もう既に恐怖は刻まれている。
ここは正直に言うしかない。
「朋美、俺は……誰も失いたくない。誰かがいなくなったりして誰かが泣くのも嫌だし…この中の誰か一人欠けても俺は嫌だ……もう、そんなところまできてるんだ」
「へぇ……だったら、私のことは見捨てるってことでいいの?」
「違う……朋美、俺が言う誰も、っていうのはお前も含んでの話だ。都合のいい話かもしれない。だけど思い出してほしい」
「この期に及んで、何を?」
「俺たち、始まりは三人だっただろ……朋美がそれでもいいって言ってくれたからだ。今も、そう思ってくれるんだったら……俺はお前を放っておいたりしない。これだけは約束できる」
「…………」
朋美は何やら考えている様だ。
指の痛みで意識が飛びそうだが、ここで畳み掛けなくては。
「けど朋美。お前がどうしても俺を独占したいって言うなら、それは叶えてやれない。俺は誰か一人だけのものじゃ、もうないからな」
「なるほどね。言いたいことは、それで全部?」
「いや、もう少しだけ……俺だって、こんなことになるなんて想定外だったよ。正直、俺自身の不徳の致す所ってやつだと思ってる。政治家みたいな物言いで申し訳ないけどな。だけど、俺はこういう道を選んだ。そして、朋美。お前が選んだ男は、こういうやつなんだ。どうしても納得できないなら……俺を殺すなり何なり、気の済む様にしてくれて構わない」
「じゃあ、私もそこに入れたいってことでいいのね?」
「そうなる。それをどう受け止めるかは、朋美次第だ」
これ以上、俺から言えることはもうない。
こうしている間にも右手はズキズキ痛むし、血だって止まってはいない。
床を汚してしまっているし、あとで片付けないとな。
「ふふ……あはは……あっはっはっはっは!!!」
「な、何だよ、何がおかしいんだ?」
「ふふっ……わかった、じゃあ、これで終わりだね、大輝」
朋美は口元を歪める。
目がイってる。
マジでおっかない。
そんな感想しか出てこない。
はは、もうどうにでもなれだ。
そう思ったとき、視界が一気に暗くなった。
唇が、朋美によって塞がれたのだと瞬時に理解する。
公園で殴られたとき切れた口の中の傷に朋美の舌が触れ、再度痛みが走る。
それでも朋美は離れなかった。
これで朋美が満足するなら、俺を好きにさせてやろう。
俺は抵抗をやめる。
すると、手の痛みも口の中の痛みも、どんどんと消えていく感覚があった。
どういうことだ、これは……。
「もう、大輝を痛めつけるのは、終わり」
朋美が俺から離れる。
「え、ど、どういう……」
俺は混乱していた。
朋美の目にはちゃんと光が宿っているし、俺の知る笑顔を見せている。
終わりって、関係が終わりって意味じゃなかったのか?
「私が言った終わりって言うのは、大輝を痛めつけて苦しめることの終わりってことだよ?」
事も無げに言うが、さっきのは紛れもない現実だったはずだ。
痛みだって、流血だって……。
「私たちが流し込んだ力は、一時的な筋力の増加と、癒しの力だよ」
「粘膜同士の接触で効果を発揮するタイプの力なんだよ。だから、キスは必要な行為だったんだ」
睦月とノルンさんが説明する。
そんな力まで与えてたのか、用意周到というか……。
「大輝が、この選択をするっていうことは何となくわかっていたからね。朋美ともそのつもりで打ち合わせたの」
全部睦月と朋美の手のひらの上だったってことかよ……。
本気で死ぬかと思った……。
「でも、あれだけ痛めつけられたら、ちゃんと本音が出せたでしょ?」
荒療治ってわけか。
それにしてもやりすぎだろ…………正直朋美を見る目が変わってしまいそうだ。
だが俺は確かに、自分の無意識をちゃんと意識できたと思う。
やっぱりこのメンバーを、朋美を、誰か一人でも欠くなんてことは考えられない。
何処かにきっと、負い目みたいなものはあったんだと思う。
世間に対しても、メンバーに対しても。
だから俺は素直にこういうことが言えなくなっていたのかもしれない。
覚悟のないまま口にすることが中途半端に感じられたから。
「あれ?大輝泣いてるのか?」
愛美さんが俺を見て言った。
先ほどの痛みでのものとはまた別に、新たに涙が零れていた。
「あ、あれ、俺何で……」
「怖かったんだよね。安心しちゃったからかな」
桜子が冷やかす様に言う。
覚えてろよ、こいつ……。
「ごめんね、大輝。ここまで怖がるなんて思ってなくて」
「いや、怖いっつーの。お前あとで俺の記憶見せてもらってこいよ本当……」
血の後始末は、睦月が一瞬で済ませた。
言うまでもなく、例の力だ。
「そういえば、全員が一堂に会するというのは初めてのことじゃないか?」
和歌さんが気づいた様に言う。
そう言われればそうかもしれない。
というか、この全員を相手にして俺が無事でいられるはずもないんだが。
そう考えると、やっぱり何人かずつに分けてという今までの方が俺としてはありがたい。
「大輝、さっきの言葉信じていいんだよね?」
「え、ああ。もちろん」
ちょっと前の俺だったら、きっと動揺してまた生爪を……ああ、もう思い出したくない。
あんな朋美はもう見たくない。
ヤンデレというかもう狂人に近かったぞ、ぶっちゃけ……。
「そんな怯えなくても、もう力は切れてるから大丈夫だよ」
「大輝はやっぱり、大輝のままだなぁ」
そう思うなら俺視点の俺の記憶を、お前らも体感してくるがいい。
ちょっとしたホラー気分を味わえるぞ。
今夏だし、丁度いいんじゃないか?
あとで睦月に提案してみよう。
「あ、大輝。変なこと考えたら、さっきのシーン寝てる間に夢で見せるから」
「ちょっと横暴じゃないか!?」
とりあえず先ほどの手錠からも開放されて、やっと一息つける。
騙されたことは確かだが、騙されたということに対しての怒りはもうほぼない。
やはり俺は変わっているんだろうか。
それより、これからどうするつもりなんだろうか。
まさか全員いっぺんに相手しろなんて…言わないよな?
「今日、大輝は多忙になるから。だから今からご飯作るね。ちゃんと食べておかないときついかもね」
やはりそうなるのか。
ある程度の覚悟はしてたが、これはきつそうだ。
「あ、でも安心して。一人ずつ何回かで行くから。いざって時はチート使うし」
あれをやるのか……。
あの、自分の意識と関係なく反応させられる感じと、空っぽになった感覚から一気に満たされて欲情する感じが、どうも慣れない。
出来ればなしで行きたいが、ここに居る人間はそれを許してくれそうにない。
腹を決めよう。
全員を相手にしきってようやく解放されるわけだが、何だか喉が渇いた。
冷蔵庫を開けるも飲み物があまり入っていない。
あー……これ愛美さんが好きなやつか。
飲んだら後々うるさそうだ。
少し体はダルいけど、外に買いに行くかな。
俺は鍵をかけてマンションを出る。
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確かこっちにコンビニが……そう思って路地を曲がったところで、不意に声をかけられた。
「こんばんは。いい夜だと思わない?あなたも大きなわだかまりを解消できたことだし」
「けど、ここから先はそう上手くいかないかもしれないね」
男女のカップル……だろうか。
薄暗くてよく見えないが、女の方は相当綺麗な人だと思う。
男の方も、モテそうというか、女が放っておかなそうなイケメン風。
「あの、俺のこと知ってるんですか?ていうか、わだかまりって…………」
そこまで言って気づく。
どうして、初対面の相手がそのことを知ってる?
俺は少し距離をとって、身構える。
俺の思っている通りの相手だとすれば、無意味だと思うが。
「今日はただのご挨拶にきたまでだから。また会いましょ、宇堂大輝くん」
「どうやらお迎えもきた様だしね。またすぐ会うことになるよ、では」
二人は姿を消した。
やはりか、あいつら……神だ。
女の方が見せた、去り際の視線…あれは以前から何度か感じていたものだ。
「大輝!!」
後ろから声がした。
「一人でこんな時間に出かけるなんて、危ないよ」
「お前はもう、お前だけのものじゃないんだ。少しは自覚してくれ」
睦月と和歌さんだった。
「二人とも、どうしてここに?」
「ちょっと目が覚めたと思ったら大輝がいなかったから……外に出たのかと思って。……って、すごい汗。どうかしたの?」
「私は睦月が外に出るのを感じてな。何かあったのか?」
「いや……なんでもないよ。ちょっと疲れてるだけだと思う」
この二人なら話しても、と思ったが相手が誰だかわからない状況で心配をかけるのは気が引けた。
「本当に?何かあったらすぐ言ってね?」
「わかってるって。睦月は心配性だな」
笑ってみせるが、乾いた笑いしか出てこない。
「それより、喉渇いたから飲み物買いに行く途中だったんだ。一緒に行くか?」
「当たり前じゃない。起こしてくれてよかったのに」
きっと睦月を起こしていたら、さっきの連中は現れなかったんだろう。
何が目的なのかはわからないが、原因ははっきりしている。
睦月とノルンさん。
この二人と関係を持ったことが起因しているのは間違いない。
だが、ここで俺は睦月もノルンさんも手放すつもりはない。
俺たちが笑って生きていける未来の為に。
「大輝、本当に私たちを頼ってくれていいんだからな?遠慮なんて水臭い真似をしてくれるなよ?」
「大丈夫ですって。ちゃんと、そういう時には頼りますから」
今度はさっきよりマシな笑いが出る。
バレるのは時間の問題かもしれないが、あの二人は俺に用事の様だし、何とかして俺一人で片をつけたい。
片をつけるまでいけなくとも、手がかりくらいは掴んでおく必要はあるだろう。
だが、俺はまだ気づいていなかった。
これは、長い長い夏休みの始まりでしかないことに。
そして既に、俺だけの問題ではなくなっていたことに。
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基本的にはカラッと明るいラブコメですが、生き馬の目を抜くIT企業のお仕事ものでもあるので、癖のあるサブキャラや意外な展開もお楽しみください!
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