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Girls side24話~消えた大輝 前編~

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昨夜から、大輝の様子がおかしい。
どうおかしいのかと聞かれるとちょっと困ってしまうのだが、何かを隠してる様に見える。
だが、聞いてもちゃんとした答えは返ってこず、誤魔化している様に見えるのだが、何となく聞いてはいけない様な雰囲気を醸し出すことも。

原因は定かではないが、昨日の夜中にコンビニに行ってからだと思う。
一瞬人影の様なものが見えた気がしたのだが、大輝は誰もいなかったという。
本人がそう言うのなら、と追求は控えたのだが、和歌さんも大輝が変だというのは感じている様だった。

正直私は、あれが神界の誰かだと思っているし、ノルンに話してみても同様の意見を得た。
だが、ノルン曰く

「でも、神界から私以外の誰かが人間界にきたっていう報告がないんだよね」

とのこと。
ノルンの目を逃れて人間界に来るというのはかなり大変なことで、以前何人か試みた者がいたそうだが、すぐにバレてしまい、連れ戻されたという経緯がある。
ノルンがオートで展開している膜の様なものが神界には張り巡らされていて、神界から出る場合にはその膜に必ず触れることになる為、ノルンには気づかれてしまうというわけだ。

手続きらしいものは必要ないが、人間界に来るに当たってはノルンもしくはオーディンへの報告が必要だ。
観測者であってもただの興味本位であっても、例外はない。
そうなると神界の誰かの線は消えてしまう。

かと言って、人間がああも簡単に気配を一瞬で消したりできるとは考えにくい。
試しに近所の半径三キロほどの気配をサーチしてみるが、それらしきものは発見できない。
手詰まりだ。

まぁ、昨日私が見たものが大輝に関係していると決まったわけじゃないし、などと思うがやはりその考えは捨て切れなかった。
もし大輝に何か起きてからでは遅い。
疑えるときは存分に疑っておくのも良いかもしれない。

というわけで、私は大輝を注意深く観察することにする。
ノルンも、外の様子を見てくれると言っていたが、大輝を一人で外出させない様にしなければ。
何か嫌な予感がして仕方がない。

神界の者だとすれば、原因は明確だ。
私やノルンを囲ったことが直接の原因と考えるのが自然だし、それ以外の理由としては……大輝の魂?
仮にあの輝きに目をつけたのだとして、大輝の魂そのものは加工も何もされていない、ただの魂だ。

下手に取り出そうなどと考えればすぐさま霧散してしまう。
ますますわからなくなった。
とにかく大輝から、目を離さないことが肝心だ。

仮に大輝にぴったりくっついていたとしても、きっと大輝は私たちが怪しんでいることに気づいてしまって、気を遣わせることになる。
なのでできるだけ普段通り、しかし目だけは離さないというスタイルで行く。
その気になればトイレにだって監視カメラめいたものを設置できるが、それはさすがにプライバシーの観点から断念した。

「どうしたの?何か変な顔してる」

朋美がさすがに不審に思ったのか、私に言う。

「え、そう?いつも通りだと思うけど」
「いやいや、眉間にしわ寄ってるから」

え、それはまずい。
大輝に見られでもしたら……。

「昨夜から変だぞ、確かに」

見られてました。

「そう?おかしいなぁ、特に何もないんだけど……」
「ならいいけど。俺のことなら、本当何もないからさ。気にするよりも、もっと建設的なことした方がいいぞ」

大輝はそういうけど、私が大輝を気にしないはずがない。
というかここにいる人間みんな、大輝に命を賭けてる様な人間ばっかりなのだ。
大輝がトイレに立ったので、朋美を誘って私の部屋へ。

「何、どうしたの?」
「ちょっと話が」
「大輝に聞かれたらまずい感じ?」
「そうじゃないんだけど……」

私は昨夜の出来事を簡単に説明した。

「思い過ごしってことはないの?」

それを聞いた朋美は別段気にすることもない様だった。

「ない、と言いたいところなんだけど本人があの調子だからね。決め手になるものが何もないって言うのが現状なんだよね」
「ふーむ」

朋美は何やら考えている様だ。
何か妙案でもあれば賜りたい。

「みんなに協力要請するしかなくない?」

結局はそうなるのか。
けど、桜子辺りは危険なことだった場合に巻き込むのは気が引ける。
和歌さんは戦闘になっても立ち回れそうだし、愛美さんも多分元ヤンとかなんだろうから心配はないかもしれないが。

ノルンと私は言わずもがな。
朋美は……キレさせないとどうだろう……普段大人しいからなぁ。
明日香は確か合気道とかやってたんだったか。

どの程度の腕前なのか未知数な以上巻き込むのは避けたい。
というか和歌さんが巻き込みたがらないだろう。
そうなると、この件を話すに当たっては人間を選ぶ必要が出てくる。

朋美に関しては私のミスだ。
焦りでつい身近な人間に話してしまった。
だが、聞かせてしまった以上朋美を、無関係とするわけにもいかない。

「朋美、一応この件は……」
「わかってる。みんなには内緒、でしょ?」

話が早くて助かる。
だが何らかの協力を仰がなくては、朋美の性格上不信感を募らせてしまうだろうから、あとで役割を考えておかねば。

それから四日、特に何事もなく時間は過ぎていた。
やはり私の杞憂に過ぎなかったのかとさえ思えるが、こういうところで気を抜くのが一番良くない。

「何も起こらないねぇ」

ノルンが退屈そうに言う。
彼女にも外側を見てもらってはいるが、成果はなし。
敵側もなかなかどうして狡猾な様だ。

こちらの油断を誘っているんだろう。
敢えて乗ってやるのも良いか、などと思ったこともあった。
しかし、それで大輝に取り返しのつかないことが起こっては本末転倒だ。

ちなみに今日は和歌さんと明日香と大輝とで出かけている。
危険だからと言ってあれもこれもダメでは本人に怪しまれるだけでなく、不満をもたらすことになる。
ある程度護衛等の経験もある和歌さんがいれば、ということで不安は尽きないが外出してもらうことにしたのだ。

外出と言っても日用品や食料の買出し程度のものなのでそこまで遅くなることはないと思う。
和歌さんが車を出すと言っていたからそんなに大変にもならないだろうし。
もう少ししたら帰ってくるはずだが、今日も何事もなく終わってもらいたい。
事情を知る者は皆同じ思いのはずだ。

「とりあえずさ、おやつでも作って待たない?」

朋美が提案するが、以前作ってくれたブラウニーを思い出してトラウマめいたものが蘇るのを感じた。 

「いいね、やろうやろう」

ノルンと桜子はノリノリだ。
二人はあのブラウニーを食べてないから、そんな呑気でいられるんだ。
あれはこの世のものとは思えない凄いものだった。
ある意味で兵器に匹敵するのではないだろうか。

「あ、睦月もしかしてですが、前に食べたブラウニーのこと思い出してるんでしょ」
「えっ」

何でわかったんだろう。
顔に出てたのだろうか。

「大丈夫だよ。あれからお母さんにも、ちゃんとレシピ見なさいって怒られたから……」

桜井家で何があったのか。
もう一個二個、兵器をこさえて家族をテロに巻き込んだのだろうか。

「え、朋美ってメシマズ女だったの?」

愛美さんが青い顔をする。

「飯はまずくなかったですよ!主にお菓子が下手だっただけで……」

下手というか何というかですが、発想がおかしいものではあったかも。

「あたしはお菓子とかあんま作ったことないんだけど……」

愛美さんがちょっと心配そうに言う。

「大丈夫ですよ、手伝ってくれたらそれで」

その結果、できたおやつはチョコチップクッキーだった。

「ドーナツとかでも良かったんだけどさ。あんまり重たいのもね、もうすぐ夕方だし」

ということで、試食してみる。
岩みたいに硬かったり、水分根こそぎ持っていかれそうなくらいのパサパサなものを想像していたのだが、普通に美味しい。
甘さも丁度いい。

「私だって成長してるんだから」

と得意満面の朋美。
確かに二年前の悪夢はもう起こらないだろうと安心することができた。
大輝にこれを食べさせてあげられたら、大輝も喜ぶんじゃないか。
そう思うと、大輝の帰りが待ち遠しくなる。

「大輝のやつ、二人とホテルでもシケ込んでんじゃねーだろうな」

愛美さんの下品な心配。
こういうのももはや当たり前の景色の一つに思えた。

少しして、玄関が騒がしくなるのが聞こえた。
帰ってきたかな。
ドアを開けて出迎えてあげよう。

荷物多いかもしれないし。
そう思ってドアを開けると、大輝と和歌さん、明日香が立っていた。

「おかえり。重かったでしょ」
「ああ、大丈夫。ちょっとそこ空けてくれ」

大輝が荷物を置こうと玄関をくぐった、その時。

黒い、口の様なものが大輝と私の間に展開された。

「えっ?」

私と大輝が同時に口を開く。
その大きな口に、大輝が吸い込まれる。

「んな!?」

大輝を飲み込んだその口は、私が手を伸ばすも瞬時に閉じてしまった。
残された和歌さんと明日香が愕然とした表情で、口のなくなったその空間を見つめる。
私もしばらく身動きができなかった。

私はバカだ。
敵が正攻法でくるなんて、誰が言った?
さすがに予期できない類のものではあったかもしれない。

だが、神として想定しうることは全部想定しておくべきだった。
これは、私のミスだ。

「スルーズ!今の気配……」
ノルンが飛び出してくる。

「い、今の……」

和歌さんと明日香も、目の前で起こったことが信じられない様で、放心状態だ。

「何、どうしたの?大輝くんは?」 

桜子と朋美と愛美さんも玄関に集まる。

「スルーズ、ロキと……フレイヤが神界を出たよ……」

ロキとフレイヤ……私の考えうる限りで最悪の組み合わせだ。

「それと、一瞬だけ廊下に二人、人影があった。でも、それはロキとフレイヤじゃないみたい」
「えと……どういうこと……?」

桜子が動揺している。
いや、動揺しているのはみんな同じだ。

「大輝は、何処行っちゃったの?」

朋美も訳がわからないと言った様子で尋ねてくる。
冷静に行かなければ。
そう思えば思うほど、はらわたが煮えくり返る様な感覚に襲われた。

「くっそ!!!」

私は矢も盾もたまらず、玄関から出ようとした。

「何処行くの、スルーズ。二人の居場所、わかってるの?」

冷静にノルンが私を制する。

「いや……けどこうしてる間にも、大輝はどんな目に遭ってるか…」

それを聞いたみんなが息を呑むのを感じた。

「落ち着いて。こういう時こそ、冷静にならないと。私たちが冷静じゃなかったら、大輝は助けられないかもしれない」

そういうノルンの右手から、握り締めた拳から、血が流れていた。
ノルンも衝動を、必死で抑えているということか。
あんなに痛みに弱いノルンがここまで耐えているのだ。
私が取り乱していては示しがつかない。

「とりあえず、何が起きてるのかみんなに理解してもらわないと」

明日香の一言で、とりあえずみんなでリビングへ。
落ち着かない私に代わって朋美が飲み物をみんなに運ぶ。

「見た人もいると思うけど、大輝が消えた。さらわれたんだと思う」

一息ついたところで、私が説明する。

「さらわれたって……さっき言ってたロキって人とフレイヤって人?」
「多分、それで間違いない。二人は神界における悪神と美の女神で……」
「悪神って、そんなやつも一緒に神界にいたってことか?セキュリティ甘くねぇ?」
「ここ何千年も、ロキは悪神としての活動はしていなかったっていうのもあるし、悪神っていうのもラグナロクが起きるくらいまでの通り名みたいなものだからね」

ノルンが引き継ぐ。

「神界は、それぞれに寿命がないことから何か起きたとしても立て直すことが容易だから。あいつ一人が暴れたところで、すぐ鎮圧もできるんだ」
「でも、今回悪巧みしてたってことだよな」
「そうだね……見抜けなかった私も相当間抜けだと思う」

テーブルを叩きたい衝動に駆られるが、叩いてしまってはテーブルが壊れるし、みんなを怯えさせるだけだと思い直す。

「大輝が最近おかしかったのって、もしかしてですが、」
「そう、多分あの二人が何らかの方法でこの間接触したんだ…あの時もっと追跡しとくんだった」
「深追いしていたら、それこそ睦月が危なかったかもしれないんだ。そんなに自分を責めるものではないよ」

和歌さんが私の肩を優しく掴む。
気休めだと思うが、少し私が落ちつくことが出来るきっかけになった。

「ところで、どうするんだ?相手が神じゃ、私たちにできることなんてあるのか?」

愛美さんが当然の疑問を口にする。

「私が一人で行く。ノルンを連れて行くわけには行かないし、愛美さんの言う通り、人間が神に対抗する手段はほぼないに等しいから」
「それって大輝を取り戻しに行くってこと?一人でなんて、危なくない?」

朋美が私を案じたのか、焦った様な顔を見せた。
今の私はそんなにも危うく見えるのだろうか。

「他の神の協力は期待できないの?」
「頼めば、もしかしたら。けど、時間がない」

焦っているのは私だ。
大輝を失うことを、恐れている。
もちろん殺されると決まったわけではない。

それでも、大輝を私たち神のいざこざに巻き込んでしまったことが悔やまれてならない。
こんなことになるくらいなら、私は大輝に執着するべきではなかったのではないか。
そうすれば大輝は知らない誰かと……もしかしたらこの中の誰かと幸せに今も過ごしていたかもしれないのに。

「スルーズ。今、ちょっと後悔しはじめてない?」

ノルンが私の顔を見て言った。

「思い出して。大輝は死なないよ。その未来はもう回避されてる。ってことは、少なくともあの二人は殺すつもりでさらったわけじゃない。そうでしょ?」

そうだ。
あまりに急展開すぎて失念していた。
だとしても、五体満足でいるという保障はないので、楽観もできないのだが。

「大輝はきっと大丈夫。それより、さっきの口なんだけど…ラグナロクのちょっと前に、ロキが冥界から魔獣を召喚するのに使ってたのと似てるんだよね」
「冥界……もしかして」
「多分大輝がいるのは冥界で間違いないと思う」

冥界。
悪魔とか魔獣とか、伝説上で悪とされてきた者たちの住処。
彼らは人並みの知能を持っていて、言語も操る。

戦闘においては戦略を使う者もいたりした。
私は踏み込んだことがないが、実際に乗り込んだ者たちの話によれば、年中薄暗く昼や夜と言う概念のない世界。
神の統治が行き届いていない、ほぼ未知の世界だ。

「それでも一人で行く?無謀だと思うけどな」

ノルンは紅茶をすすって、私を見た。

「だからって……」
「私なら、戦闘になってもそれなりには動けるが、どうだろう」

和歌さんが名乗りを上げる。
確かに、戦闘も得意分野だろう。
ただ、それはあくまで人間を相手にした場合の話であって、悪魔の類と戦った経験がないのではどうなることか。

「私も行くよ。直接戦闘に参加するのは避けないといけないけど。力を付与することはできるから、悪魔相手にももしかしたらそこそこダメージを与えられるかもしれない」

ノルンが立ち上がる。

「和歌も行くってことでいいと思う。少しでも戦闘力がほしい」
「なら、私も行くわ」

明日香も立ち上がる。

「ダメです、お嬢……お嬢の身に何かあれば、おやっさんや大輝に申し訳が立ちません」
「ここで指を咥えていろって言うの?冗談じゃないわ。私だって、小さい頃から色々頑張ってきたの。こういう時に役に立たない力なんか必要ないわ」
「どうするの?スルーズに任せるよ」
「朋美と愛美さん、桜子はどうするの?」
「そりゃ行きたいけど……」
「さすがに邪魔になったりするのは、ってちょっと思う」

邪魔かですが、考えない様にはしていたが、非戦闘要員が現地に乗り込むことで懸念されることは確かにあった。
彼女らが戦闘方面に明るくないことがわかってしまったときに、真っ先に狙われることもあり得る。
そうなったとき、私たちで守りきれるかと言うと、状況がジリ貧になってしまう確率の方が高い。

そう考えると、突入するのは少数精鋭が好ましい。

「わかった、じゃあ申し訳ないんだけど、ここで待っていてくれる?」

私が言うと、三人は頷いた。
行きたくないわけではない。
行きたいけど自分たちでは足を引っ張ってしまうおそれがある。
そういう意思が、表情からは読み取れた。

場所は変わって、私と和歌さん、明日香にノルンは神界にきている。
二人の体ごと連れてくるのはやや骨が折れたが、何とか二人を神界に連れてくることができた。
純粋な人間が、この神界に足を踏み入れるのは何年ぶりだろうか。

冥界に行くためには、私やノルンの力だけではゲートを開くことが出来ない。
よって、今回オーディンに協力を仰がなければならなかった。

「久しいな、スルーズ。そして珍しい客人の様だ。何があった?ロキとフレイヤに関連することか?」
「さすがに鋭いね。大体は言った通りだよ。この二人は人間だ。訳あって、これから冥界に二人を連れて行くことになった」
「冥界だと?穏やかじゃないな。あの二人はまさかあそこに人間を連れて行ったのか?」
「おそらく、だけどね。しかしここにもいないんだとしたらそれしかないって思う」
「そうか、ならばオーディン様に用事なのだな。今はまだ起きておられると思うから、早く行った方がいい」
「情報提供感謝する」

軽く挨拶を済ませて、私たちはヴァルハラへ向かう。

「な、なぁ…私たちがここにいて、いいのか?あの方は一体……」
「ああ、あれが門番、ヘイムダルさ。あれも神なんだよ」
「それに睦月……何だか口調が……」
「ああ……この姿で大輝がいないとどうしてもね。素が出ちゃってごめんだけど、今は時間がない。飲み込んでくれる?」

少し戸惑い気味の二人をよそに、私はヴァルハラの扉を開ける。

「こっちだよ」

階段を上がって、オーディンの部屋の前へ。
ノルンが扉をノックした。

「オーディン様、入ります」
「おお、ノルンか。スルーズも一緒の様だな。何、用件はわかっておる。冥界に行きたいのだな?」
「話が早くて助かる。協力してくれるかい?」
「そりゃ構わんが……かなり危険じゃぞ。そこにいる人間二人は、生きて帰れるかどうか……」
「そんなのは覚悟の上さ。ただ、もう一つ頼みたい」
「言ってみるがいい」
「その前に……明日香、弓は使える?」
「弓なら少し、経験があるわ。今でも引けると思う」
「和歌さん、剣は使える?」
「実在する武器ならある程度扱ってきたから、刀でも剣でも扱えるぞ」
「なら、オーディン。イチイバルとグラムを、明日香と和歌さんに貸してやってほしい。私はダインスレイブを使わせてもらう」
「神の武具を……って、殺し合いにでも行くのか?人間の救出だけではないのか?」
「冥界に入って、魔獣とか悪魔が一匹もいないって言うんだったら別に必要ないかなって思うんだけどね。用心はいくらでもしておいて損はないだろう?」

イチイバルとは、オーディンがかつてラグナロクの際に使った弓矢で、一本引けば十本飛ぶという神の力を宿した武器だ。
明日香には後方支援に回ってもらう。

グラムは怒りを意味する剣。
英雄シグムンドの息子シグルズがこの剣を用いて龍を倒したという伝説のある剣だ。
鉄や石なども簡単に切り裂けるほどの切れ味を持つ。

怒りという言葉は今の和歌さんには丁度いいだろう。
私が使おうとしているダインスレイブは、かつては一度抜いたら誰かの血を吸い尽くすまで鞘に収まらないといわれた魔剣だ。
今はその呪い自体は解けているが、伝説に残る切れ味は健在だ。

以前、力を見せるときに用いたのもこの剣で、そのときはスイカを斬るのに使ったのだが……。
神をも殺すと言われたその剣を、腰に携える。

「じゃあ、オーディン。お願い」

深く頷き、オーディンが何やらぶつぶつ呟くと、目の前に、忌々しいあのゲートと同じものが姿を現した。

「これをもっていけ。今のまま行ったら片道切符になってしまうからな」
「これは?」
「一時的に、わしの力を行使できる様になる秘薬じゃ。戻るときに必要じゃろ」
「なるほど。恩に着るよ」
「気にするな。無事に帰ってくることを祈るよ」


ゲートをくぐって、一歩踏み出す。
確かに薄暗い。
夜明けが近い夜中の様な、そんな空だ。
雨が降ったりすることもあるんだろうか。

「スルーズ、見て」
「ん?」

あれは……魔獣か?
一本大きな角が額に生えている。
何処かで見覚えがある様な……。

ユニコーン?
いや、でもあの姿……。

「来るぞ!」

その魔獣と思しき生物が、私たちに向かって駆けてくる。
ノルンが二人に力を与える。
和歌さんは剣を抜き、正眼に構える。

明日香が瞬間的に飛び退いて、矢を放った。
十本飛んだ矢の七本が避けられた。
なかなか素早い様だ。

私も剣を抜き放つ。
衝撃波が魔獣を襲うが、これはいとも簡単に避けられてしまう。

「おっらああああああああああ!!!!」

抜き放った反動で振り上げられた剣を、そのまま大ジャンプして振り下ろす。
避けた先で踏ん張った足が反応できないことがわかっていた私は、そのまま魔獣を両断した。
ダインスレイブの切れ味に私の神の力が乗って、魔獣の体は粉になって消えた。

「よ、容赦ないな……」
「手加減なんかしたらこっちが危ないから。迷いは即、死につながると思ってね」

私が前を見たまま言うと、和歌さんは背後で気合を入れなおした様だった。

待っていて、大輝。
お願いだから、無事で…!


後編に続きます。
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