手の届く存在

スカーレット

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Girls side26話~覚醒~

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「どうしよう、これ……」
「どうって……どうしようか……」

救出した大輝が、光に包まれてそのまま私の手に戻ったとき、大輝の体は女のそれに変貌していた。
体は一回り近く細くなり、その代わりなのか、胸が膨らんでいる。
顔立ちはそこまで変化がないが、睫毛が気持ち長くなっている様に見えた。
そして決定的なのが、背中の翼だった。

「これ……ロキたちの目論見通りになっちゃった、ってことだよね」

ノルンが大輝を見つめる。
救出はできたが術は成功させてしまった、ということになるのだろうか。
大輝の体が女性化することが鍵となり、女神に変貌した。

こうなることを、ロキは、フレイヤは、予め知っていたのだろう。
だから大した抵抗もせずに私に滅ぼされた。
もっとも、元の姿に戻れるまでフレイヤはまた百年単位の時間がかかるだろうし、ロキに至っては私が力を解除するまで復活もできない。
本当にロキは、名誉がほしかったのだろうか。

そんなものに執着する様なタイプではなかったと思うのだが、何かしらの心境の変化があったのかもしれない。
もしかしたらそれすらも方便で、別の理由があったのかもしれない。
ロキに関しては、性格上掴めないことが多すぎるのだ。

「何とかして、元に戻せないかな」
「ただの女体化ならともかく、女神になっちゃったんだとちょっと難しいんじゃないかな……私たちと違って、体ごと女神になってるわけだし。変化へんげとか転身って表現がぴったりな感じだね。体質から変わっちゃってると考えた方がいいかも」

ノルンの言うちょっとは、きっとちょっとどころじゃないんだろう。
私なんかの力じゃどうにもならないと暗に言われている気がして、少し悔しい。
しかし、大輝が目を覚ます前に何とか元に戻してあげたい。

きっと大輝はこんなことになったことがわかったらパニックになってしまう。
せっかく取り戻せたと思ったのに、この仕打ちはない。

「その……こんな時にアレなんだけど……」
「何?言ってみて」
「もし、大輝くんが本当に女神になったんだとしたら、神の力も使えるってことよね? 」
「まだ目を覚ましてないから何とも言えないけど、その可能性は高いよね」
「だとしたら、その……男の子のアレも……生やしたりできるんじゃないかしら」

何とも楽天的な意見ではあるが、それは可能だろうと思う。
大輝がその提案を呑むかは別にして、力を行使すれば、できないことの方が少ないだろう。

「だけどお嬢。そうなると大輝はふたなり、とかいうやつになってしまいませんか?」

和歌さんは意外な言葉を口にする。
案外そういう方面に明るかったりするのだろうか。
私たちが知らない、和歌さんの趣味だったりして。
この可愛らしい女神から、グロテスクな……想像したら何だか興奮してきた。

「スルーズ、気持ちはわかるけど今は……」

ノルンに見咎められなかったら妄想が激化していたかもしれない。
危なく暴走するところだった。

「と、とにかく神界に戻ろうか。武器も返しておかないとだし」

ジト目で私を見る三人を尻目に、私はオーディンからもらった秘薬を探す。

「あれ、ない……」
「え?」
「いや、本当に」
「え、ちょっと……」

どこを探しても、見当たらない。
胸の谷間に入れたはずの秘薬が、ない。

「どこにしまったの?」
「某セクシーキャラみたいに、胸の谷間に」
「は?」
「睦月……その衣装、下はスカートだよな」
「あ、うん」
だとすると、神界のオーディンのところか? 
「ちょっと、どうするのよ!?」
「えーと、どうしよう……」
「ここでずっと過ごさないといけないわけ?そんなの嫌だよ!」

三人の表情が一気に暗くなる。
この冥界での生活……まずは住居を作らないと……それから……。
色々想像してみるが、大輝と一緒なら、なんて思う。
しかし、すぐに現実に引き戻される。
私やノルンは最悪食べなくても大丈夫として……明日香と和歌さんはそうは行かない。
このままだと体がどんどん衰弱してしまう。

「よ、よし、私何とかしてみるから!!」
「何とかって?」
「気合いで、ゲートをこじ開ける!」

やっぱり、という顔でノルンがため息をついた。
オーディンがやっていた様に、意識を集中する。

「確か……こんな感じで……」

残った神力をフルに発揮して、空間に穴を開けるべく力をこめる。

「こおおおおおぉぉぉ……」
「お、おお、何かそれっぽい」
「おおおおおおお……お、おお……」
「おお?」

残った神力が少ないのか、そもそもやり方が違うのか。
漲らせていたはずの神力が消失し、いよいよ打つ手がなくなった。

「え、もう終わり?何それ!神力が使えないスルーズなんて、ただの脳筋スケベ女じゃん!」
「は!?ノルンだって今神力ほとんど使えないでしょ!?」
「ちょ、ちょっと、こんな時にケンカとか……」

私とノルンがギャーギャーやっていた、その時だった。

「あ……何だ……あれ、睦月……ノルンさん、明日香……?和歌さんもいる……?」

元々高めの声ではあったが、いまや完全に女の子の声になった大輝が目を覚ました。

「ああ……目覚めてしまった……」

私はがっくりと肩を落とした。

「何だよ……目を覚ましたらいけなかったか?……って、この声……」

大輝が自らの異変に気づく。

「えっとその……大輝……」
「成功したのか、あの二人……」
「え?」

四人がフリーズした。

「今、何て……?」
「いや、あの二人は俺に、力をくれるって言ったんだよ。聞いてないのか?」

俺っ娘の大輝が言っていることの意味が飲み込めず、四人は円陣を組む様な形になった。

「どういうこと?」
「いや、わからない。ロキとフレイヤが、大輝に力を?」
「そう言ってたね。ってことは何?これって大輝が望んだ結末ってこと?」
「だとしたら、私たちがしたことって……」

大輝曰く、二人がゲートを使って冥界に大輝を運び込んですぐ、フレイヤが防護膜を大輝に張った。
そのあとしばらく大輝は意識があったらしく、二人から自分の出生について聞いたのだという。
その上で、ロキはこう言った。

「君が望むのであれば、僕らが君の真の姿を解放しよう。僕らの推論が正しければ、君は女神になってスルーズやノルンの様な力を得ることができる」

ロキの提案に、大輝は最初悩んだ。
しかし、大輝が力を得ることによって、今まで助けてもらうばかりだった自分がみんなの役に立てるなら、と大輝は考えた。
大輝はロキの提案を受け入れることにし、術を施すにあたって大輝の無意識状態が必要だと説明を受けて、深い眠りに落とされたのだそうだ。

意識が覚醒したままでは、体の変化に意識が邪魔をしてしまう。
よって、大輝は眠りに落ちることが必要だったのだ。

「……じゃああの二人は、大輝を覚醒させる為に大輝をさらったの?」
「最初は、訳がわからなかったけどな。いきなりこんなところに連れてこられて、戸惑ったのは確かだし」
「大輝も、あの話を聞いたんだよね?信じられたの?」
「俺の母親が神って話か?正直今も半信半疑ではある……けど、今女神になったことで、少しずつ信じるしかないかなって思い始めてるよ」

順応性が高いのか、それとも純粋にあの二人を信じていたのか。
いずれにしても、大輝はパニックになることなく現実を受け止めていた。

「ね、ねぇ……力はもう、使えそうなの?」
「あー……多分?」
「なら、一回試してみてほしいんだけど」
「え、大輝にやらせるの?スルーズ……」
「し、仕方ないでしょ!?このままじゃ帰れないんだよ!?」
「もしかして、ゲート開いてほしいのか?ロキからやり方なら聞いてるぞ」
「え!?」

四人が顔を見合わせる。

「いつの間に、そんなこと……」
「ロキの意識っていうのか、これ……俺が眠ってる間に、夢に紛れ込ませてたみたいでさ。だから開けって言うなら今からやるけど」

ロキはどこまで予見していたんだろうか。
大輝の話を聞いていると、ここまで全てがロキの手のひらの上だった気さえしてくる。

「大輝ができるって言うなら……やってもらうしかないんじゃない?」
「けど……ロキの入れ知恵って言うのがちょっと怪しいっていうか……」
「この際、どうにかして戻ることが先決なんじゃないのか?」
「何を悩んでるのかわからないけどさ、もう始めるぞ。初めてだから上手くできるかわからないけど」

そう言って大輝は意識を集中させた。
すごい力だ。

「これ、スルーズの全力に近くない?」
「ま、まさか……さすがにそこまでは……」
「私にも感じるが、かなりの力じゃないのか、これ……」

そのすごい力が寄り集まるのを感じた。
空間がその口を開ける。

「こ……れ……きついな……一分も持たないぞ……行くなら早く……」
大輝が開いたゲートを、和歌さんと明日香が先にくぐる。
疲弊が激しい者から行かせようというのがノルンの考えだった。

「大輝、掴まって」

私は大輝に手を伸ばす。
前より少し小さくなった大輝の手が私に伸び、繋がった。

こうして私たちは、神界に帰ることができた。
やらなくてはならないこともそれなりにはあるが、ひとまずあの薄暗い世界での生活のことは考えなくて済む。

「はー、やっと帰ってこれたね。またこの光が拝めるとは……スルーズが秘薬なくしたとか言ったときはどうしようかと……」
「それはもう忘れよう……私も確かにアホな真似したなって反省してるから……」
「ここが、睦月やノルンさんの故郷なのか……何か想像してたのと違うな」
「私は厳密には違うんだけどね、まぁ大体合ってるよ」

冥界にいるときと違って、少しずつ力が回復してくるのを感じる。
和歌さんや明日香も同様なのか、顔色が少し良くなっている様に見えた。
ヴァルハラから近い場所に飛ぶことができた様なので、そのまま向かうことにした。

「おお、スルーズにノルン。無事戻った様だな。そこの人間二人もよく冥界から戻れたな」

ヘイムダルが出迎えてくれた。

「物凄く頑張ってくれたんだよ。大輝もほら、この通り……女神になっちゃった……」
「スルーズ、本人は納得済みだから……」
「そうだね……」
「人間が女神に……?ともかく、オーディン様への報告が必要そうだな。任せて良いか?」
「ああ、もちろんそのつもりだよ。どんな顔するんだろ、オーディン……」

少し気が重かった。
薬をなくしたこともそうだし、ロキたちの目論見通りにさせてしまったことも。
色々を報告することで自分たちがやってきたことが無駄だったんじゃないかという気持ちにさえさせられる。


「話はわかった。とりあえず、神界においては大輝、お前を女神として認めることにする」

案外すんなりと大輝は受け入れられた。
もう少し、説教だのがあるのかと覚悟していただけに肩透かしをくらう。

「あの、オーディン様……ですよね?俺、そんな簡単に受け入れられていいんですか?」

当然の疑問を口にする大輝。
同じ様な感想を持っていた私だが、大輝は自分に自信がないのだろう。

「実際、お前からはソールの片鱗の様なものを感じる。ロキが言ったこともおそらくは真実なのであろう。であれば、じゃ。お前がハーフであろうと女神であることには違いない。認めないというのもおかしな話ではないか」

太陽の神ソール。
かなりぶっ飛んだやつが母親だと思う。
仲が良かったわけではないし、そこまで親交があったわけでもないのだが、何度か会ったことはある。

簡単に言ってしまえば、彼女は無限大に寛大だ。
拒否や拒絶といった類のものとほぼ無縁と言える。
大輝の何でも受け入れようとする姿勢はもしかしたらその辺が遺伝しているのではないかと、今になって納得できてしまう部分だ。

「ところで、お前は母親に会ってみたくはないのか?」

敢えて誰もが触れなかった部分に、オーディンはいきなり触れる。
空気がややざわつくのを感じ、みんなが大輝を見た。

「俺、生まれた時は男だったんですよね。今はこうして女神ですけど……母は、動揺したりしませんか?」
「何、あやつはお前と同じ様に、寛大なやつよ。今更お前がどの様な姿で現れようと、そこまで気にはすまい。ずっと、お前を案じてもおった様じゃし……元気な姿を見せてやれば喜ぶのではないかの?」
「そうですか……なら、会ってみようかな」

大輝はまだ見ぬ母を思い、少し緊張している様だ。
母……母か。
私も、お義母かあさんと呼んだ方がいいのだろうか。

でも今大輝女の子だしなぁ……。
日本じゃない何処かの国だと女同士でも結婚したりはしてるみたいだけど……こうなったら私がアレを生やして、大輝と頑張っちゃうとか。
この際性別逆転でもいいよね。

「スルーズ、スルーズ?」
「あ、え?何?」
「聞いておらんかったのか……今からお前たちをソールがいる場所に転送する。準備はいいかの?」

いけないいけない。
つい性別逆転プレイの妄想が……。

「あ、ああ大丈夫。ちゃちゃっと行こうか」
「全く……妄想も程ほどにしておけよ。ソールの前で今みたいなだらしない顔をせぬ様にな」

そんなにだらしない顔してたのか、私。


「ところで」

オーディンに転送された直後、大輝は私を見て言う。

「ロキにしたこと、本当なのか? あとフレイヤさんも」

大輝が甚く感謝していた様だったので、触れない様にしていた二人の話題がとうとうきてしまった。
大輝を助ける為とは言え、いささかやりすぎたという思いは私にもある。

「大輝、スルーズはね……」
「ノルンさん、俺は今睦月と話をしてるんです、すみませんが少し待ってください」

普段の大輝らしからぬピシャリとした物言いに、ノルンも思わず言葉を飲み込む。
明日香と和歌さんも何か言おうとしていた様だったが、大輝の迫力に気圧けおされて見守っている様だ。

「……えっと、事実、です……」
「……はぁ、お前が俺を思って、助けにきてくれたんだって事は十分理解してるつもりだけどな。事情を知らなかった訳だし。けど、俺はあの二人に感謝してる。さっきも言ったよな。だから、ちゃんと二人を元に戻してやってくれ。じゃないと」
「じゃ、じゃないと……?」
「お前とは当分、口利かない」
「な、な、な……」

思わぬ大輝の発言に、二の句も告げなくなってしまう。

「大輝、さすがにそれは……」
「そうよ、この件は私たちだって無関係じゃないわ」
「わかってるよ。けど、俺のことで熱くなって、そこまでしてくれるってこと、嬉しいけど危ういことなんだってことも理解してほしい」
「…………」
「明日香や和歌さんは、今回かなり無理をしてくれたって言うし、ノルンさんだってずっと力を使い続けて、それこそ空っぽになるくらい。そこまで想われてる俺は幸せ者だって自覚してるよ。ただ今回の件、あの二人はわざと怒らせる様なこともしたかもしれないけど、全くの悪意ってわけじゃなかった。俺に対しては善意でやってくれたことでもあるからさ」
「やり方に問題があったのはお互い様ではあるな、確かに……」
「これから先、同じ様なことがあった時、睦月が今回みたいに圧倒的な力を振るうことになるのは、正直あまりよろしくないと思う。周りが見えなくなって、取り返しのつかないことだって出てくるかもしれないだろ?」

ぐうの音も出ないほど正論だ。
ただでさえ私は大輝のことになると我を忘れる傾向が強く、今回もそのせいで色々大変な目にも遭った。
私一人ならともかく、和歌さんや明日香まで危険な目に晒した。
反省するべき点はいくつもある。

「……わかった。大輝がそこまで言うなら私、ちゃんと戻すよ……」
そう言って封じ込めたロキの体にかかっている力を解除した。
「……あ。フレイヤは……私だけじゃちょっとどうにもならないかもしれない」
「……ふむ……それはちょっと心当たりあるから、とりあえず後で考えよう。わかってくれて、ありがとう」

大輝はそう言って私の頭を撫でた。
あ、ずるい、という顔で三人に見られたが、ロキたちを元に戻さなくてはならない私は心境としては複雑だ。

「さ、行こう。あんまり待たせても悪いから」

ソールは、川のほとりにいた。
何かを洗っている様に見える。

「きましたか。オーディン様から話は聞いています」

相変わらず透き通る様な声だ。

「久しぶり、ソール。元気そうだね」
「スルーズ、でしたね。何年ぶりでしょう。そちらはノルンですか。名だたる神がこんなところまで、ようこそいらっしゃいました。そちら二人は人間ですか、珍しい」 

大輝の父親だった男を思い出したのだろうか、少し曇った顔をした。

「そしてそちらが……大きくなりましたね。もっとよく顔を見せてください」

ソールは慈しむ様に大輝を見て、そして手を伸ばした。
大輝は一歩前に出て、その手を顔に受ける。

「その髪の色は、あの人のものですね。懐かしい。顔は残念ながら私に似ましたか」
「残念って……相当美人だと思うんだが……」
「父親に似てほしかったんじゃない?」
「息子として生まれたはずのあなたが、女神になったと聞いたときはさすがに驚きを隠せませんでしたが……これも運命の為せる業なのでしょうか」

大輝は緊張の面持ちでソールを見つめている。
そんな大輝を、ソールは微笑みながら見つめ返した。

「あの、初めまして……じゃないんですよね。俺は覚えてないですけど……」

ようやく言葉を紡いだ大輝だったが、何を言ったら良いのかわからないのだろう。

「運命によって、私たち親子は一時的に引き裂かれました。しかし、こうしてあなたは私に成長した姿を見せてくれたのです。それだけで私は、感無量の思いです」

目じりに涙を浮かべ、我が子を再び胸に抱くソール。
明日香はもらい泣きをしている様だ。

「あの、俺……あなたをどう呼んだらいいですか?母さんって、呼んでもいいんでしょうか」
「その様な他人行儀な話し方はしなくても良いのですよ。十五歳ということは……人間であれば反抗期ですか。母さんでもお袋でも、最悪ババァでも」
「ば、ババァって……」
「おいババァ、金寄越せよ、などと人間の子どもは言うのでしょう?」

さすがに想像もしなかった返しに、一同言葉が出てこない。

「じゃ、じゃあ母さん。それは偏った知識だよ……人間の全てがそんなひどい口の利き方をする訳じゃないから……」
「そうでしたか。あなたにそんなことを言われたら、私はどの様に返せば良いのか、この15年ずっと考えていました」

この十五年ずっと、そんなしょうもないことを考えてたのか。
どんだけ暇なんだこの女神。
本物の天然なのか。

「母として、私にできることはそんなにありませんが……大輝、あなたに私の力を授けましょう」
「えっ? 」
「私の力は太陽を操る力。太陽の力を用いて様々なことが出来るのです」
「い、いや俺そんな大それた力は……」

さすがに大輝も動揺している。
太陽の力とは、言ってしまえばほぼ無敵の力だ。
この様に大人しい女だが、ソールは戦闘ともなれば私などが及ぶ相手ではなかった。

ラグナロクにおけるその無双っぷりから、彼女は絶対に怒らせてはいけない、と言われるほど。
オーディンと並び称された女神でもある。

「大輝、私にできる数少ないことなのです。受けてはもらえませんか?」
「大輝、ここは受けといて。ソールは絶対怒らせちゃダメだよ」

私は即座に大輝に耳打ちした。
こんなところでソールに力を振るわれたら、何が起こるか予想できない。
若干血の気の引いた様子の大輝ではあったが、母からの贈り物ということでそれを受け入れることにした。

「母さんがそう言うなら……ありがたくもらうよ」
「そうですか、良かった。有無を言わさず、というのは私の理念に反しますので」

あっさりととんでもなく、恐ろしいことを口にする女だ。

「私と同じ魂の輝きを持つ大輝であれば、私の力を使いこなすことはそれほど難しいことではないでしょう。頭を、こちらへ」

言われるままに、大輝は頭を差し出す。
その頭に、ソールが両手を添える。
ぼんやりとした光が大輝を包み、吸い込まれていった。

「これで良いでしょう。もう、使えるはずです」
「あ、ありがとう母さん……大事に使う」

そんなにぽんぽん行使されたら地球などあっという間に滅びそうな力ではあるが、これで大輝は化け物染みた力を手にしたわけだ。

「ところで、大輝はそこのスルーズと愛し合っているのですね」
「ぶっ!」

何故わかったのか。

「スルーズだけではない様です。そちらの三人もですか。……人間の間では、この様な関係になった男を、ヤリチン、などと言うのでしたね」
「ちょ!母さん!?」

恥らう様子も一切なくヤリチンと口にするソール。
天然もここまでくるともはや凶器だ。

「私の息子は、女神でヤリチン……」
「やめて!ヤリチンとか口にしないで!連呼しないで!心にくるから!!」

泣きそうな表情で大輝が懇願する。

「ああ、ソール。ここにいる四人のほかに、人間界にもあと三人女いるから」
「ノルンさん!?」
「まぁ……大輝はジゴロ、というものなのですね」

何処でそんな言葉覚えてきたんだ……。

「やめてくれ、人聞き悪い……いや半分合ってるけど!全員納得して俺に付き合ってくれてるんだよ、一応……」
「そうですか……後ろから刺されない様に気をつけてください」
「大輝……お前の母親は物騒だな」
「凄まじいまでの天然でもあるわね……」
「あなたたちも、いずれ私を義母ははと呼ぶ様になるのでしょうか」
「あ、あー…どうだろうね?もしかしたら、そうなるかも?」
「次に会う時は、私は孫の顔を見ることができるのですね、とても楽しみです」

何本か頭のネジが外れてるんじゃないかと思えるほどの天然だ。
思考がぶっ飛びすぎてついていけない。

「ああ、でも俺女体化して女神になっちゃったから……子どもはちょっと……」
「それなら心配に及びません。私の言ったことの意味はすぐに理解する時がくるでしょう」
「まぁ、母さんが言うなら大丈夫……なのかな」
「大輝、もうそろそろ戻ったほうが良いでしょう。人間界であなたを待つ人たちの為に」
「え、もう?」
「母はあなたの顔を、成長を確認できて安心しました。今度はあなたを待つ人たちを安心させてやりなさい」


かくして大輝は母との邂逅を果たした。
とんでもない贈り物をもらい、母からの愛情を一身に受けて。

「なぁ睦月、戻る前にもう一回オーディン様のところに行っていいか?」
「オーディンの? 別に構わないけど」

大輝がそう言うので、私たちはヴァルハラに再び足を運ぶ。

「どうした、母には会えたようじゃが」

再び現れた私たちを、オーディンは驚いた様子で迎える。
今日は昼寝しないんだろうか。

「オーディン様、お願いがあります。よろしいでしょうか」
「ふむ、言ってみなさい」

オーディンは大輝を気に入っているのか、軽く笑顔だ。

「実は、フレイヤを元に戻したいのですが……お力添え頂くことはできませんか?」
「え?」

ノルンがびっくりした顔をする。
なるほど、大輝の言った心当たりとはオーディンだったのか。
だが、たとえオーディンでもさすがに粉々になった魂の復元は……。

「なるほどの、言いたいことはわかった。じゃがわし一人の力では粉々になった魂までは元に戻すことはできぬな」
「そんな!じゃあフレイヤは……」
「まぁ待て。お前は優しいのう。一つだけ心当たりがないでもない」
「本当ですか!」

一瞬沈んだ大輝の顔が再び明るくなる。
心当たりとは、一体何だろうか。

「縁結びの女神、ロヴンじゃ。縁とは魂を結ぶものでもあるでな。彼女ならフレイヤの魂を元に戻すこともできるじゃろ」

ロヴンか。
私はあまり彼女が得意ではない。
理路整然としたあの態度。

バルドルに並ぶ、お堅い神でもある。
何というか、私の中でロヴンは堅すぎて婚期を逃したオールドミスのお局OLみたいなイメージだ。
堅い者同士でバルドルと仲良くしてればいい、などと思ったが、ロヴン曰く

「バルドルは私とは違う質の堅さ。相容れるものではない」

とのこと。
それってただの同属嫌悪じゃないのか、と思ったのを覚えている。
正直あまり会いたいと思わない。

「ロヴンか、ご無沙汰だなぁ。元気にしてるんですかね?」
「今はヴァナヘイムにいる様じゃ。フレイヤの双子の兄であるフレイもじゃそこに戻っておるようじゃの」

ヴァナヘイムって……ロヴンみたいなのが一番行きたがらない場所だろう。
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私は出会い系などを使うやつがあまり好きではない。
恋愛は偶然たるものだと思っているし、相手は自分で見つけて掴み取るものだと思っているからだ。
出会いのメッカ……なら縁結びの神が活躍できる場ではあるか。
寧ろ自分の相手もそこで結んでしまえば、あのお堅い雰囲気が少しは軟化するんじゃないだろうか。

「行くなら送るぞい」
「お願いします。……睦月、いいよな?」
「止むを得ないね。でも、あんまり時間はないからね?」

気乗りはしないが、大輝にあんな顔をされては断るなんて私にはできない。

仕方なく、私とその一行はヴァナヘイムへ行くこととなる。
ロヴンが大輝をどう見るかは見ものだが、あまりいい予感はしなかった。


次回に続きます。
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