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大輝編41話~生徒会選挙~

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「生徒会?」
「うん。何か成績良いからって先生が」
「へぇ、お前がなぁ……」

二年生になって、少し暖かくなってきたある日、睦月の口からまた問題事の匂いのする発言が飛び出した。
睦月の言うことには、睦月を生徒会の会長に推薦したい先生がいるとかで、突如声がかかったという。

ほかにも誘いたい人間がいれば推薦はすると言っているらしい。
以前のアイドル騒動もあってか、話題性は十分、認知度も十分、そして成績に関しても文句なしということで是非にと言われているらしい。

「ほかに誰か推薦しようって人間いるのか?」
「ん、大輝でしょ……それに桜子に明日香かなぁ」
「俺たちが?桜子と明日香はともかく、俺も?」
「うん。だって一緒にやりたいじゃない?」
「うーん……」

正直憧れがないとは言わないが……けどバイトもあるしなぁ、俺……。

「それは大丈夫だよ。集まりだって週一回か二回くらいだって聞いてるし。都合悪かったらどうにでもなると思う」
「本当かよ……俺はどの役職なの?」
「私の補佐してほしいし、副会長かな」
「責任重大じゃねーか……」
「そうでもないよ。私が大体のことはやっちゃうから。それに、もう一人の副会長には明日香を推薦するから、大輝は補欠みたいなもんだし」
「ひどい言われ様だな。まぁ、投票やらその前に演説なんかも必要なんだろうから、落ちたらそれまでだけど」
「落ちる?そんなことありえると思う?」
「お前またチートするつもりなのか……?さすがにそれは……」
「大輝、世の中には必要悪っていうものがあるんだよ」
「本当に必要なのかよそれ……」

睦月の気持ちはわからないこともないが、何で俺たちまで……。
少しめんどくさいな、という気持ちが芽生え始める。
だが、睦月が自分でやりたいと言っているのだ……ってこの流れ前もなかったか?

「今度は私たちちゃんと一緒だから、そこまで面倒なことにはならないでしょ?」
「そ、そうか……まぁお前がそう言うならそれでいいけどさ……」

明日香と桜子にはもう既に話をしているらしく、あとは俺の了承が得られれば、という段階まではきていたらしい。
最初に話してくれていれば、それはもう盛大に反対していたに違いないのに。
……まぁ、それがわかっているから睦月は外堀を埋めてから俺のところに来たんだろうけど。

「大丈夫だよ大輝。私に任せてくれたら万事オッケーだから」
「いや、そのセリフで既に不安しかねーよ……」

またこいつめちゃくちゃなことしでかすんだろうなぁ、と思うと少し気が重い。
それに俺みたいな適当な人間に副会長なんていう役職が務まるのかと、自信はちょっとない。
そもそも俺は、目立つことがあまり好きではない。

静かに人並みに生活ができて、ちゃんと卒業さえできればそれでいい、なんて思っているのだ。
そんな人間に何という試練を与えようと言うのか。
まぁ、もう半分くらい人間じゃなくなっちゃったんだけどね、俺。
ロボトミー手術受けたとかそういうんじゃないから、まだマシかもしれないけど……。


「へぇ、生徒会ねぇ。面白そうじゃん」
「他人ごとだからそんなこと言ってられるんですよ、愛美さんは」

バイト先のコンビニで暇な時間に雑談に耽る。
平日ということもあってか本当に暇で、一時間に十人も客がくればいい方、というくらいに今日は暇だ。

「だって、生徒会って学校の支配者みたいなもんだろ?」
「アニメの見過ぎですよ愛美さん……」
「まぁ、それは言い過ぎか。とは言っても、色々決めたりするのは生徒会だったりするんだし、やりがいはあるんじゃね?」
「だとは思うんですけどね……俺にはやや荷が重いと言うか……」
「お前なら大丈夫だろ。あんな個性的な集まりまとめてんだから」
「あれだって俺だけじゃどうにもなってないですよ。睦月が何とかしてくれてるって方が大きいんじゃないですか?」
「それはもちろんあるけどな。みんなお前がお前だからついてきてるんだぞ」
「そんなもんですかね……」

午後十時までの長い時間を、品出しやら商品の陳列直しをしながらのお喋りで潰す。
仕事が終わると、今日は愛美さんとマンツーマンだ。

「久しぶりだよな、二人でって」
「そうかもですね。何か買って行きます?」
「いや、今日はちゃんと作ってあるから。飲み物だけでいいかもしれないな」

二人で飲み物を買って愛美さんの家へ。
そういえば、愛美さんは将来のこととかどう考えてるんだろう。
この家は借り続けるのかな。


「じゃあ、大輝。演説の内容考えてね。推薦人はこっちで何とかするから」
「え?あ、ああ……任せちゃって大丈夫なのか?」
「大丈夫だって。心配性だなぁ」

翌日、睦月がそう言うので、放課後に俺はない頭を搾って生徒会立候補における意気込みなどを書きつづった。
……ちょっと短いかな。
書いては直し、直しては書いてを教室で続け、気づいたら完全下校時間になっていた。

「大輝、もう帰らないと。できそう?」
「ああ、とりあえず……」
「じゃ、帰ろう。玄関で明日香と桜子も待ってるから」

睦月の言葉通り、玄関で桜子と明日香が待っているのだが、もう一人待っている人間がいた。

「大輝、聞いたぞ。生徒会やるんだって?」

和歌さんだった。
車を出してくれるということで、俺たちはお言葉に甘えて車に乗り込んだ。

「まだ、決まったわけじゃ……」
「もう決まった様なものだから。ほぼ百パーセントだよ」
「ほぼってのが引っかかるんだけど……」
「私の心変わりかな。まぁ、ないと思う」
「それを可能性に含めるのか……まぁお前確かに気分屋だもんな」

マンションまで送ってもらい、和歌さんは事務所に引き返す様だ。

「今日はお忙しいんですか?」
「まぁな、ちょっとやっておかなければならないことがあるんだ。本当は寄っていきたいんだが……すまないな」
「いえ、無理しないでくださいね」

和歌さんを見送って、俺たちはマンションへ。
生徒会での役割や、演説の内容についての見直しをする様だった。
俺の書いた原稿に、明日香や桜子がダメ出しや添削を行っていく。

ダイナミックさがほしいと睦月が訳のわからないことを言いだして、原稿が一時カオスな状態になったが何とか持ち直すことができた。
アクション映画の脚本書いてるんじゃないんだから、ダイナミックさはさすがに必要ないだろ……。

「まぁ、こんなものかしらね」

明日香の満足いく内容になったとかで、ひとまず原稿の添削作業が終わる。

「ちょっとお堅い感じがするけど……まぁこんなものだよね」

桜子も満足らしい。
睦月はもうちょっとこう、とかぶつぶつ言っているが、これ以上いじられて意味不明なことになっても困るので、無視することにする。

「俺のことより、お前らもうできてんの?」
「当たり前でしょ。大輝くん待ちだったんだから」

そう言って三人ともが出来上がっているらしい原稿を取り出した。
声に出して読もうとしたら、頭をはたかれた。
そんなに恥ずかしいこと書いてないと思うんだけど。
睦月のだけは、何故か見るのが怖くて目をそらした。

「何で私のだけ見てくれないの?」
「え、いや何となく……」
「ひどいよ。ちゃんと見てよ、ほら!」

睦月に押し付けられた原稿を見ると、案外普通だった。
こいつでもちゃんと常識的なことが言えたり書けたりするのか、と思わず驚愕の表情を浮かべてしまう。

「む、失礼な反応……」
「そ、そんなことないって。なんかこう、睦月が普通のこと書いてるのが意外だったって言うか……」
「やっぱり失礼だ……別にいいけど」

その時ふっと睦月がほほ笑んだ様に見えて、俺にはやはり不安しか残らなかった。
こいつ一体何を企んでるんだろう。

生徒会の選挙まで二日に迫った日、残りの候補者が発表される。
会計に一年生の女の子。
桜子も会計だ。
書記に一年と二年から一人ずつ女の子。

「なぁ、また女ばっかなんだけど……」
「だって大輝ハーレム好きでしょ?」
「…………」

こんなやりとり、前にもあったよな。
しかし、会長に関してだけはもう一人候補がいた。
何が何でも会長がやりたい、という意気込みを感じる。

二年の、村上重行むらかみしげゆきというやつなのだが、俺は顔しか知らなかった。
村上っていうのか。
やる気あるなら睦月も譲ってやればいいのに、なんて思ったが、睦月は負ける気など皆無、という顔をしている。
あの顔をしてる睦月は、何が何でも勝ちに行くのだろう。
多分俺が何を言おうと無駄だと思った。

そして当日。
下から……っていうといい方が悪いか。
書記、会計、副会長と演説をしていく。

俺たちには対抗馬がいないので、案外適当でも当選してしまいそうだが問題は睦月だ。
先日見た内容で果たして演説は大丈夫なのだろうか。

あいつが当選しないのであれば俺たちで生徒会、などという行為そのものにあまり意味がなくなってしまう。
最悪の最悪はチートでもするのかもしれないが、できればそれはなしで行ってほしいところ。

そんなことを考えているうちに、村上が演説を終える。
何が何でもやりたい、という意思を見せるだけあって、内容もよかった様に思える。
会場である体育館に拍手が沸いた。
そしていよいよ睦月の出番がやってくる。

『こんにちは。私は椎名睦月という者です……なんていう固い挨拶はいいよね。私の考える生徒会は、ズバリ生徒と一丸になって楽しく運営していくことです。そして、生徒の声に耳を傾け、できる限りの努力を尽くす、その一点だと思っています』

あれ?
こないだ見た原稿こんなんだっけ。

『しかしながら、私にとって楽しいというものの基準は……愛する大輝のいる場所で運営を行うこと、それだけです。だからどうかみなさんの力を、私に貸してください。私が会長になった暁には、必ずその恩に報いることを誓います。敢えて具体的な公約を掲げなかったのは、そのためです。随時皆さんからの声を精査し、実現可能なものに尽力していく。そして難しいと感じたものに関しても、近い形で実現できる様努力するつもりです』

お、おい……今俺の名前出たよな。
今演説をしているのは睦月のはずなのに、何故か衆目の視線は全部俺に集中している気さえしてくる。
何してくれてんだあいつは……!

『私事で恐縮ですが、愛する彼と一緒にできないのであれば私が立候補をする意味は皆無です。皆さんのお力を、どうかお願いします!これにて、私椎名睦月の演説を終わります』

水を打った様に静かになる会場。
相変わらず視線が痛い俺。
嫌な汗が流れる。

睦月は素知らぬ顔をして壇上を降りる。
目が合って、俺にウィンクなんかしてやがる。
またも俺はさらし者になった。

「大輝ー!生徒会を私物化すんなよ!」
「宇堂ー!お前ばっかりずるいぞ!!」

観衆から声が上がる。
言ったの俺じゃないんだけど……何このとばっちり。
このあとしばらく、管理委員会が静かに、と言っても俺に対する羨望の声が止まなかった。
糾弾されている気にさえなってくる。

「どうだった?私の演説」
「どうだった?じゃねーだろ……何で俺を毎回さらし者にするんだお前……お前本当は俺のこと嫌いなの?」
「ごめんね、泣き落としくらいしといた方がいいかと思って」

隣で明日香と桜子が、笑いを堪えて震えている。
こいつら……俺の気も知らんで……。
村上は、卑怯な……という顔で睦月を見ていた。

そして各教室で投票が行われる。
結果は大差で睦月の勝利に終わって、俺たちはめでたく……いやめでたくないんだけど、当選を果たした。
元々有名人でもあった睦月とぽっと出の村上とじゃ、勝負にならなかったのかもしれないが、それでもあれは少しやりすぎじゃないのかと思う。

「宇堂、一応言っておくが学校で不順異性交遊みたいな真似は慎んでくれよ」

先生にまで釘を刺された。
俺、本当何もしてないはずなのにこの扱いはどうなのか。

そして放課後、生徒会メンバーの初顔合わせ。

「では、皆さん自己紹介しましょうか。私はご存知、椎名睦月です。よろしくね」
「私は宮本明日香です。一年間、頑張っていきましょう」
「俺は宇堂大輝……です……」

睦月と明日香と桜子以外のメンバーの視線が痛い。

「野口桜子です。会計は得意なので、お任せあれー」
「一年の内田早苗うちださなえです。同じく会計です。よろしくお願いします」
「一年の樋口春菜ひぐちはるなです。書記です」
「二年の小泉香奈こいずみかなです。同じく書記です、頑張ります」

桜子の後に自己紹介をした面々が、何故か俺をジロジロ見ながら自己紹介をしていた。
睦月……覚えてろよ……。

「会長、質問があるのですが、よろしいでしょうか」

一年の書記の樋口さんが、手を挙げた。

「どうぞ」
「宇堂先輩は、椎名先輩と付き合ってるみたいですけど、なんでほかのメンバーは全員女の子なんですか?」
「ああ、それね。だって大輝、ハーレム好きだから」
「!?」

今度は睦月以外のメンバーが、驚愕ともドン引きとも取れる表情を浮かべた。
またしても……このやろ……。

「え、それってもしかして……宮本先輩とか野口先輩とか小泉先輩もその一員なんですか?」
「え、私はそんなの入った覚えないけど……」

小泉がやや引いた顔で俺を見る。
俺を見られたって、俺も知らない。
話すのだって今日初めてのはずだ。

「ってことは宮本先輩と野口先輩が……」

樋口さんも少し引いた顔をしている。

「まさかとは思うんですけど、私たちもそのメンバーにされちゃうんですか?」
「は!?」

ついおかしな声が出てしまった。
いや、ねーよ……さすがに体がもたない。
分身でもしろってのか?

「あはは、それも面白いね。希望があるなら一考の価値はあるかもね。ねぇ大輝?」
「俺に聞くなよ。てかさらっと爆弾落とすな!みんな引いてるだろうが」

だが否定はできない。
大半が事実だし、否定したら後でどんな目に遭わされるか……。

「宇堂先輩って、常識人かと思ってたけど案外面白そうですね。椎名先輩たちと一緒の時ってどんな感じなんですか?ベッドヤクザ?」

そんなわけ……ないこともない場合もあるけど、普段はそうでもない。
なんて答える訳にもいかず、睦月を恨めし気に見る。

「割と野獣だよ。普段はヘタレてるけどね」
「おいこら!」
「ていうか、一応今は顔合わせだから、この手の質問はまた今度ね」

明日香が締めて、一旦この話題が終わる。
また今度ってことはまた追及される可能性があるのか。
やっとこの話題から解放される、と思ったが、違う話題になっても三人の女子がこちらをチラチラ見ているのがわかる。
本当、どうしてくれるんだよこれ……。

とりあえず、生徒会同士で密に連絡は取り合おうということになって各自連絡先の交換をする。
これ、本当に必要なんだろうか。
別に明日香と睦月だけでいいんじゃね?

「先輩、暇なとき相談してもいいですか?」
「な、なんで俺なの?むつ……会長にでもした方が……あとあs……副会長の宮本とか」
「何照れてるんですか?普通に普段通り呼んだらいいのに」
「いや、一応公共の場だから……」

と言い訳をしていると、二人から蔑みの視線が向けられる。
後輩からの相談くらい軽くこなせよ先輩、という視線なのかはたまた何呼び直してるんだよ、という視線なのか。

どちらにしても痛い視線であることには違いない。
今からでも副会長辞退できたりしないかなぁ……。
何かと騒がしいことになりそうな面々を見て、俺はしみじみそう思った。
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