手の届く存在

スカーレット

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本編

Girls side29話~言霊~

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大輝の様子が少し、おかしい。
朋美の父親との件があって、翌日辺りからまた熱を出している様だった。
私と戦った時の全力攻撃の後遺症みたいなものかも、と思ったので、とりあえず女神化はしばらく控える様に言ってある。
体がまだあの力に馴染んでいないのかもしれないし、どんな影響が出るのかわからない現状としては、それ以外に方法が思いつかなかった。

「大輝、熱どう?」
「ああ、もう大分いいよ。下がり始めてるしな。心配かけてごめん」
「ううん、それはいいんだけど、体に変わったこととかない?」
「それは……多分大丈夫かな。風邪とかでもないみたいだし、すぐよくなるよ」
「なら良かった。とりあえず今日はゆっくり休んでね」

正月の三が日の中日なかびに当たる今日、大輝の調子は大分よくなってきている。
これなら安心してもいいのかもしれない。

更に翌日。
この日、少しだけ異変がある。
いや、少しだけって言うのはちょっと違うか。

「ああ、今日は寒いな。もう少し暖かくなればいいのに」

大輝が起きて来て、そんなことを呟いた。
すると、いきなり暖房がフル稼働して部屋の温度が一気に上昇する。
常夏?というくらいに部屋の温度が上がり、雑煮を食べていた面々が汗ばんでくるのを感じる。

「な、何だ?暖房効きすぎじゃね?」
「ちょっと、暑いくらいね……」

何が起こったのだろうか。
大輝は女神になった様子もないし、私たちも力を使ってはいない。
とりあえずこのままじゃ汗だくになってしまうので、暖房を弱めて回る。
無人の部屋の暖房までがついていて、さすがに電気がもったいないので消すことにした。

「あれ、暖房弱めたのか。暑かったらみんな、脱いだらよくないか?」

大輝がまだ少し寒いのか、そんなことを言う。
すると、みんな服を一枚残らず脱ぎ捨てる。
私も何だか脱ぎたくなってきて、全裸で台所に立った。

「お、お前ら何してんだ!?何で全裸なんだよ、さすがに暑いからってやりすぎだろ!」
「いや、何か服着てたら暑くて……」
「うん、もう何か着てられなくて」
「いいから服着ろよ!さすがに刺激強すぎるわ!」

すると全員、また服を着る。
何なんだろう。

「全く……あ、俺にも雑煮くれる?モチ三個で」
「うん、今やってるから待っててね」

大輝の分の雑煮を出してやり、私も自分の分にとりかかる。
自分で作ったものだけど、まぁまぁ美味しい。
けど三が日も今日で終わるし、明日からはカレーかな。

それから大輝は、すっかりと復調した様だったので今日はみんなで駅前にでも出かけようかということになった。
買出しもしておきたいし、正月のセールなんかをやってる店もあるだろう。

「何処行く?駅ビルにでも行ってみる?」
「俺、家電見たいかも」

大輝がそう言ったので、みんな黙って家電売り場のあるビルに行く。
愛美さんと和歌さんが、突如大輝を抱えて家電売り場まで走り出した。

「ほら大輝、家電だ。見えるか?」
「え?あ、ああ……か、家電ですね」
「よく見ろ、ほら家電!」

これ、もしかして……。

「能力の暴走……?」

ノルンが訝しげに大輝を見る。
今は普通に人間モードの大輝から、少しだが力を感じる。

「大輝が口にした内容が、そのまま反映されるってことかな」
「どうも、そうっぽいね。じゃないとさっきの全員で全裸とか説明がつかないよね」

まだ確証は得られていないが、そうだと仮定して大輝の様子を見守ることにする。
私たち女神勢はひとまず薄い障壁を張って、大輝の能力が及ばない様にしておく。
こうしておかないと、不測の事態に対応できない懸念があるからだ。

「それにしても一体なんでこんなことに?」
「うーん、全力で力を行使した後遺症なのか、はたまた大輝の能力が強まった影響なのか……」
「大輝が死ね、とか言い出したらやばいよね。物騒なこととか口走られたら……」
「大輝の性格からして基本的にはそういうの言うタイプじゃないから大丈夫だとは思うけど……」
「でも楽観はできないね。ちょっと注意深く見ておこう」

当の大輝は、和歌さんと愛美さんに抱えられて家電売り場を隅から隅まで見回っている。

「あ、もう大丈夫だから……てか何で俺抱えられてんの……すごい恥ずかしいよこれ……。パソコンが見たかっただけなんだけど……」

大輝がそう言った瞬間、二人は踵を返してパソコン売り場に直行する。
何ともシュールな光景だ。
そして二人が大輝の目を開かせて、パソコンの前に顔を押し付ける。

「ほら、よく見ろ。パソコンだぞ。見えるか?」
「え、ええ……痛いです、離してください……」

すると二人がぱっと手を放して、大輝は床に落下した。

「いてて……何なんだ一体……みんな、今日変じゃないか?」

あっ、これはまずい。

「すおぉんなくぉとぬわぁいわよぉ?」

歌舞伎役者みたいな変顔と、ポーズをしながら朋美が言う。

「いつも通りだよ?変なのは大輝くんじゃない?おかしなこと言うなぁ、なんでだろぉ~♪」

明日香と桜子が一昔前に流行ったお笑いコンビと同じ動きをしながら歌っている。

「特におかしいことはないと思うが?今日の大輝は厳しいなぁ……ひっじょーに……キビシー!!」

一昔前……いやもっと前のギャグをしながら和歌さんが。

「そんなに変か?まことにスイマメーン!」

これまた一昔前の……愛美さんまで。
こんなに人がいるところで五人がおかしな行動に出始める。
さすがにこれは収集がつかないと思い、私たち無事な女神勢は五人にかかった能力を解除して、五人と大輝を抱えてその場から退散した。


「ひ、ひどい目にあった……」

あれだけの観衆がいる中であんなことになるのは、さすがに拷問みたいなものだ。
五人の被害者は、いずれもぐったりしている。
まだ出かけて一時間もしないうちに甚大な被害が出ていた。

「お、あの人綺麗だなぁ……でも胸がちょっと残念だよな。Bくらいか?Dくらいまで行けばいい感じなのに」

この男、何と言うことを呟くのか。
大輝が見ていた女性が、いたたた、とか呟いたと思ったら、胸を押さえて驚きの表情を浮かべる。
ブラがきつい、などと言っているのが聞こえる。

「これ、まずくない……?」
「うん、ちょっと効果が大きすぎるというか……」

女性は下着売り場に走った様だ。
その顔が少しだけ嬉しそうに見えたが、能力解除されたらどうなってしまうんだろう。

「何か腹減ってきたよな。飯にしようぜ。パスタがいいかな」

またも大輝の能力が発動。
五人が黙って大輝を抱えて歩く。

「お、おいだから何で抱える必要がある?自分で歩けるからおろしてくれよ」

またもぱっと手が放されて、大輝がしりもちをついた。
まぁ、こんなにも無自覚で混乱させているのだ。
少しくらいのお仕置きはいいんじゃないかと思う。

結局みんなでパスタを食べて、食べている間に五人にも障壁を張っておく。
さすがにちょっとこのまま能力の餌食にされ続けるのは可哀想だと思った。

「本人には何も言わない方がいいよね。地球滅亡したらいいのに、とか呟かれたらどうにもならないし」
「おっかないこと言わないでよ……」
「とにかく経過を見守りましょ……」

それから大輝はみんなにも要望を聞いて、色々と見て回った。
食材売り場に行って、買出しをすることに。

「おお、旨そうだなぁこの肉」

そう言うと、肉が見る見る瑞々しく、新鮮なものに変貌していく。
命がないものにまで影響を出すのか……本当に厄介だ。

「けど少々お高いわね」
「だなぁ、もっと安かったらなぁ」

あ、またこいつ……。
大輝が言うや否や、半額シールを店員が次々に貼り付けていく。
賞味期限明後日なんだけど、いいのかな……。
と思いながらも私たちはその肉をかごに放り込んだ。

「お、フ○ーチェだ。懐かしいな、昔よく食べたわ。納豆味とかたこやき味とかあったら面白いのに、なんて言ってたっけ」

大輝……うま○棒じゃないんだから……と思っていると、大輝が見ていない隙に売り場が勝手に広がって、フルー○ェのたこ焼き味と納豆味が追加された。

「あれ?あるのか、納豆味とか。ちょっと買ってみようぜ」
「え、さすがにちょっと……」
「フルーツ関係ないじゃん、もはや……」

しかし大輝の要望は押し通されて、結局二つの珍種を買うこととなった。
さすがに味の好みに寛大な私でも、食べてみたいとは思わない。
野菜や調味料もこの際だからと買い足して、会計へ。
ここは私が、と思って財布を出す。

「昔あったよなぁ、ここは俺に任せろー、なんて言ってマジックテープの財布出すネタ。あれ誰かやってくれないかな。リアルで見てみたい」

おいおいおい……そんなこと言ったら……。
隣のレジで上品そうな奥様が、旦那の財布を押さえて自分の財布を出している。
ここは私が、とか言いながらマジックテープの財布をバリバリバリと開けていた。

「…………本当にやる人、いるんだなぁ」

この男の頭は、何処までおめでたいのか。
全部自分の発言が元だって言うことに、気づいていないんだろうけど。
みんな既に疲れが出始めている。
さすがにこれ以上外にいるのは危険だと判断して、帰宅を提案した。

「そうだな、何かみんな疲れてるみたいだし……大丈夫か?」

無自覚の大輝の発言に、みんなが恨めしげな視線を送る。
誰もが、お前のせいだよ、と目で言っていた。

歩いて駅からマンションに向かうが、和歌さんと愛美さんに車でも出してもらうんだった、と少し後悔する。
言い知れぬ疲労感が私にもある。
この能力、いつまで続くんだろう。

こんなことが続いたら、さすがに大輝も気づいてしまうんじゃないだろうか。
そうなったら大輝はきっと、滅多なことでは口を開かなくなる様な気がする。

「多分だけど、この能力今日限定だよ」
「何で?」
「今オーディン様から連絡あったんだけど、女神の能力に目覚めたあと、ごく稀にだけどこういうことあるんだって。人間界が混乱しない様に十分注意はしてくれって」
「なるほど……」
「お、ケバブだ。食べようぜ」

また食べるのか。
今日は食欲旺盛なことで。
無自覚で能力使ってる反動か何かかな。
性欲旺盛な方が、私としては嬉しいんだけど。

「こういうのってナイフで切り分けてるけどさ、チェーンソーとかでやったりしたら面白そうじゃね?」

ああ、もう口を開かないでほしい。
今日だけのものなら、今日だけ縛り付けておいた方が良かったかもしれない。
外国人の店主がごそごそとチェーンソーを取り出す。

ホラ見ろ。
そして勢いよくチェーンソーでがりがりと肉を削っていく。
刃の回転で肉が思いきり飛び散っていた。

「す、すっげ……サービスいいなぁ……」
「…………」

代金を払って、一人前だけ受け取る。
女性陣はまだ満腹で、一口食べればいいや、という顔をしていた。

「おお、うまい……マスタード合うなぁ。こういうのもいいけど、マンガ肉って言うんだっけ?骨つきのでっかい丸ごとのやつ。ああいうのもいいよなぁ」

ああもう!またこいつ余計なことを……。

「ヘイ!YOU食べちゃいなYO!!」

さっきの店主がケバブを切らないで丸ごと持ってきた。

「え?いいの?」
「いいYO!沢山食べてネ!!」

HAHAHA!!とか笑いながら肉を大輝に押し付けて戻っていく店主。
気前良すぎでしょ……。

「……さすがにここで食べるの大変だし、持って帰ろうか」
「そ、そうね……何か野性味を感じるわ、大輝……」

さすがに骨はついてなかったが、ラップに包まれたその巨大な肉を抱えて、マンションまでの道のりを歩いた。


「ねぇ、もう障壁解いていいよね?さすがにちょっと疲れちゃった……」

私が提案すると、他の面々も仕方ないよね、と賛成して私は障壁を解いた。

「あれ、何か力使ってたのか?」
「ん?いやちょっとね」
「何だよ、隠し事なんてしないでくれよな」

ああ、しまった……。

「実は……」


大輝は憮然として私たちから目を逸らしてむくれている。
まぁ、当然だろう。

「何で言ってくれなかったんだよ」
「えっと……うん、ごめん」
「俺が物騒なことでも言うと思ってたのか?」
「そ、そうじゃないけど……なんていうか……いつまで効果があるかわからないから……経過を見守ろう、ということに……」
「ふーん……」

拗ねて床で膝を抱えて座り込んでしまった。
今日はもう口を利くのをやめよう、とか思ってるんだろうなぁ。

「変だとは思ってたんだよなぁ……普段ならあり得ないことが次々と……」

何やらぶつぶつと呟いている。
本来誰も悪くないはずではあるのだが、こうなると何だか悪いことをしている気分になってくる。

「あの、大輝ごめんね。私たち悪気があったわけじゃ……」
「わかってるよ」
「だから、機嫌を直して?」
「…………」

こうなると大輝は非常にめんどくさい。
翌日まで引っ張ったりはしないが、納得するまで口を利いてはくれないかもしれない。

「あのね、大輝」

ノルンが大輝の前に座る。

「今回はオーディン様の意思でもあったの。女神の力に目覚めたばっかりの時、本当にごく稀にあったことなんだって。だから、下手に何かして抑制するよりも、大輝の思うままにさせとくのがいいんじゃないかって結論になったんだよ」
「……そうですか。でも今俺が何か口走ったら危ないんでしょ?」
「まぁ……内容によるかな。世界が滅べばいい、とかそういうのはまずいけど。でも、ちゃんと自分の意思として発言してくれるなら、私たちはちゃんと受け止めるよ?」
「でも今朝全裸にしちゃったり、割と迷惑かけてますし……」
「あれは……でも、別に外でそうなったわけじゃないからね。他の誰かが見てるわけじゃないんだし、別に大丈夫でしょ?エッチなことする時大体全裸なんだし」
「そうですけど……みんな、大変だったんじゃないかなって思うし……」

まぁ、確かに大変だったのは否定しない。
朋美とか和歌さんなんかは、古いギャグやらをやらされて若干へこんでたし。

「仲間はずれにしようとか、そういう意思があったわけじゃないんだ。そう感じちゃったんだったら、本当にごめん」
「そんなことするとは思ってないですよ……ただ、知らない間に迷惑かけてたのが何か嫌だったってだけなんで……」
「じゃあ、仲直り。できるよね?」

ノルンが額を大輝に合わせて微笑む。
お母さんみたいだな。

「じゃあ……今後隠し事はなしってことで。俺ももちろん、しないから」
「了解!!」

全員が敬礼のポーズを取って叫ぶ。
本当に恐ろしい能力だ。

「んじゃ……お前ら、全員で俺を楽しませろ!それでチャラだ!!」

大輝が叫び、私たちが服を脱ぎ捨てて大輝を寝室に連行する。
昼過ぎから酒池肉林の宴みたいなことが催されて、その宴は夜まで続いたのだった。

翌日になると大輝は元通り、昨日の厄介な能力もなくなっていた。
代わりに人間のままでも、自分の意思で少しだけだが能力を行使できる様になる等の変化はあった。
言葉には力がある、なんていうが、今回の騒動はその最たる例かもしれない。

これからもっと、大輝の能力は強まっていくのかもしれないが、その時はちゃんと教えてあげよう。
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