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本編
Girls side33話~神界での戦い 中編~
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<Side M>
「数が大分減ってきてるね」
「大輝が調子に乗って殲滅しだしてるのと、グルヴェイグも便乗して暴れてるんだろ、ほらあれ」
私が指さした方向で、無数の光が交錯しているのが見えた。
あの調子で数を減らしてくれているのはいいのだが、問題は自分の限界をちゃんと弁えているかどうか。
仮に神力が枯渇した場合にロヴンが供給してくれるとして、その間の戦闘要員はグルヴェイグだけになってしまう。
そうなると、ここまで頑張ったのが無駄になってしまう懸念がある。
冥王がどれほどのものか知らないが、また魔獣を召喚するくらいはわけもないだろうと推測される。
「なぁ、あれ何だ?」
「あれは……」
一人の女神が、大勢の魔獣に立ち向かっている様子が見える。
倒れている者も確認できた。
「あれ、エイルじゃないのか?」
「だねぇ……倒れてるのは……ブーリじゃないか!あれはまずいかもしれない」
「原始の神だったか。エイルがやられたら更にまずいな、行くぞ」
オーディンのことも気になるが、目の前の状況もかなりやばい。
この二人が倒れる様なことがあれば、神界は更に追い込まれてしまうだろう。
「ロキ、二人を抱えて飛べ」
「え?」
「いいから早く!!」
「あ、ああ了解!」
ロキが二人の目の前にワープして、二人を抱えて空に飛びあがる。
それを確認して、私は魔獣に向けて光弾を放った。
「す、スルーズ?やっときてくれたのね」
「ああ、遅くなったな。ちょっとだけ待ってろ」
エイルとブーリがロキによって安全な場所に移されて、私は特大の光弾を放ってこの一帯を殲滅した。
気配を感じなくなったので、三人の元へ急ぐ。
「ブーリほどの神がこんなにされるなんて、どういう状況だったんだ?」
「最初、魔獣は私を襲ってきてて……そこをブーリが助けてくれようとしたの。だけど、段々数が増えていって……」
「なるほど、把握したよ。すぐ手当して、各地に回ってくれないか?最良の医者とまで言われたあんたの力が、必要なはずだから」
ブーリの治療が終わるのを見届けて、私たちは二人に各地の援護を頼んだ。
ブーリ自体はかなりの実力者だが、足手まといになる相手がいるとやはり実力を出し切れなかったということか。
「スルーズ、知ってるかい?今の冥王は、実は冥「王」ではないんだって話」
「は?どういうことだ?」
「もともといた冥王は既に死んでいて……というか殺されたって話だったな、確か。そして殺したのは、冥界の神、ヘル」
「ヘルだって!?ラグナロク以降行方不明だって聞いてたけど……あいつ、冥界にいたってのか?」
「そうらしい。僕も気づかなかったんだけど……」
「お前が管理してたんじゃないのかよ、無能」
「返す言葉もないね……」
しかし、ヘルが首謀者なのだとしたら今回のこの一件、理由としてはわからないこともない。
オーディンはヘルをラグナロクの最後の最後で、見捨てた。
仕方ないことではあった。
だけど、理由はどうあれ、ヘルからしたら結果だけが重要なのかもしれない。
何万年も前の出来事とは言っても、その恨みだけを胸に冥界で生きてきたのだとしたら。
オーディンへの意趣返しが今回の理由なのだとしたら、今回のこの騒動も納得はできる。
許せるかどうかは別にしても、彼女を倒さなければ今回の騒動は収束しない。
更に言うのであれば、大輝とあいつはおそらく相性が悪い。
絶対的な闇と太陽。
対をなす二つの存在、どちらかが消えるまで戦わなければならない。
私が到着するまで、どうにか持ってくれたらいいんだけど……。
<Side T>
イケメンが、小さい男の子を守りながら怪しげな雰囲気を纏った女と戦っている。
ピカピカ光り輝く様な、俺にはないイケメン具合を発揮しつつ、小さな男の子……オーディン様なんだけど、盾になり、時に剣となって怪しげな女とバトルを繰り広げていた。
「あれは、ヘル……?」
グルヴェイグが声を漏らす。
ヘルって何だ?地獄?
「ヘルだな……行方不明だと聞いていたが、まさか今回の首謀者だったということか」
ロヴンさんも知っている様だ。
首謀者ということは、あのイケメンが戦っているのがヘル、ということになるのか。
ってことは俺、これから女と戦わないといけないの?
「大輝、油断するな。あれが首謀者だとしたら、とんでもない力を持っている」
「そんなにすごいんですか、あのヘルとか言うの」
「かつては邪神とも言われていたほどの実力者だ。ラグナロク直後から姿を消していたんだが……」
「あと大輝、相手は神よ。姿形が女でも、性別なんてどうにでもなるんだから」
確かに言う通りだ。
頭では理解している。
だが、俺にはどうしても抵抗があった。
ここに睦月がいたら問答無用で任せてしまいたいくらいに。
睦月は相手が女というか、ヘルって人だってことを知らなかったからこっちに来させたんだろうと思う。
だが、今回に限っては相手が悪い気がする。
いくら俺の力が上がっていようと、まともに戦える自信がない。
「来るわよ!」
ヘルがこっちを見た刹那、光弾を放つ。
グルヴェイグが叫び、俺を突き飛ばした。
咄嗟に障壁を張って致命傷は避けた様だが、左肩の辺りが抉れている様に見える。
「フレイヤ!!」
「今はグルヴェイグだって言ってるでしょ……つつ……やってくれるわね……」
そう言いながらもグルヴェイグは魔法の詠唱を始めた様だ。
「大輝、十秒稼いで頂戴……とびっきりのをお見舞いしてやるから」
「お、おう」
つい勢いで引き受けてしまったが、どうにもこのヘルという女神、隙が無い。
切り込むにしても、一瞬の隙でもなければグルヴェイグの二の舞を踏むことになってしまう。
「大輝、私と二人でやろう。注意をグルヴェイグから逸らすんだ」
「え、ええ……」
こうしている間にもグルヴェイグは狙われていて、逃げ回りながらの詠唱を続けている。
これでは、詠唱が完了しても狙いを定めることが出来ない。
「俺が行くので、援護をお願いします」
姿が女だから何だ、と心の中で叫んで俺は剣を手にする。
「ほう、お前が噂のソールの子どもか」
「何で知ってる?」
「その太陽の剣はソールの力でしか生み出せないからだ。親の威光などと言われない様、せいぜい気張って見せてくれ」
グルヴェイグから狙いを俺に変えて、ヘルが突進してくる。
肉弾戦でくるとは想定外だったが、俺もさすがにこれには対応できる……と思ったんだけど、咄嗟のこと過ぎてまともにくらって派手に飛ばされた。
岩肌に全身を打って、一瞬呼吸が止まった。
「かは……」
「何だ、この程度も避けられないのか。やはり七光りだな」
「ぐ……この……」
ロヴンさんが何やら詠唱を始め、グルヴェイグが詠唱を完了させた様だ。
両手に凄まじいまでの魔力が漲っているのを感じる。
「当たると思ってるの?戦闘専門の魔女の割に頭が回らない様だね」
「こっちにもいることを忘れてもらっては困るな」
倒れていたオーディン様が立ち上がって、手を天にかざす。
その雷は何と、ロヴンさんに降り注いだ。
「んな!!」
「ロヴンさん!!」
「な、何で……」
全くもって意味がわからない。
何で襲われている側のはずのオーディン様が俺たちを攻撃するんだ?
そんなことを考えている間に、オーディン様は俺にも狙いを定めた様だった。
「ぐっがあああああああああああ!!!!」
視界が光に包まれたと思った刹那、目の前で黒い魔女が衝撃に悶えているのが見えた。
「な……お前……」
「ダメよ……大輝だけはここで倒れちゃ……」
グルヴェイグも意識を失い、地に伏せる。
俺が迷ったりしなかったら……。
状況が一気に悪化して、俺は自分の甘さを思い知ることとなった。
「オーディンの精神は今、私の支配下にあるわよ。どうするの?バルドルももう今は立てない様だし」
いつの間にか先ほどのイケメンも、地に倒れ伏している。
じり貧なんてもんじゃないぞ、この状況……。
<Side M>
「ちょっと、もう既に何人か倒れてるんだけど」
「あ、あれは……ロヴンにグルヴェイグ……バルドルもいるな。オーディン様は無事みたいだが……」
「ちょっと、様子がおかしくない?」
「ああ……どうもオーディン様が大輝に攻撃の意志を示している様な……」
到着した先で見たのは、倒れた数々の仲間と今まさにやられそうになっている大輝だった。
随分力は上がっているはずなのに、と思うものの、オーディンが敵に回ったんだとしたらかなり分が悪い。
「ロキ、オーディンを何とかして止めろ。だが雷は絶対に食らうなよ」
「無茶言ってるよ、それ……あんなの避けられるわけないだろ……」
だが、ロキは自信がないという顔でもない。
何か対策でも立ててあるのだろうか。
「避けられなければ、こうすればいい」
そう言ってロキがオーディンに向かって突進する。
一瞬驚きはしたが、私もそれを見た瞬間に飛び出してヘルに挑みかかっていた。
「あんたはスルーズか。懐かしい顔ぶれだね」
「あんたがまさかこんなことしてるなんて思わなかったよ、私は」
防御のオーラを纏いながら、ヘルに攻撃を加えていく。
ロキはオーディンの雷を警戒しながら雷を生み出させない様に連続で攻撃をしかけている様だった。
この間にロヴンでもグルヴェイグでもいいから、戦線復帰してくれたら……。
「スルーズ!避けてくれ!」
叫び声と共に一筋の光が走る。
そちらを見る間もなく飛来した無数の光の剣が、咄嗟に防御姿勢を取ったはずのヘルの体を貫いていった。
「バルドル、動ける様になったのか」
畳みかける様に追撃を加え、私も光の槍を取り出す。
「ああ、少し休ませてくれたおかげでな。しかし父の精神の奪還をしないと、状況は変わらないぞ」
「そこなんだよな……」
ヘルの体に槍を突き刺し、そのまま地面に固定する。
「少しの間、じっとしてろよ……」
槍を五本追加して四肢を貫く。
バルドルも数本の光の剣をヘルの体に突き刺していた。
ロキの戦況は芳しくない様で、徐々に追い込まれているのがわかる。
「……しゃーない……」
バルドルにヘルを任せて、私はロキの援護に向かう。
二方向からの攻撃にもオーディンは軽々対応する。
腐っても主神というわけか。
見ると、大輝はグルヴェイグとロヴンの手当てをしている様だ。
自分の傷を後回しにしている辺り、大輝らしいと言えるが。
「睦月!二人は大丈夫だ、じきに目を覚ます!」
「ナイス!こっちもちゃっちゃと……」
「ちゃっちゃと……何だ?」
突如オーディンの体が発光して、つい眩しさに目を閉じてしまった。
次の瞬間、衝撃が走って私は吹き飛ばされたのだと理解した。
「睦月!」
大輝のオーラが大きくなるのを感じて、まずいと思った。
せっかくこちらに向けた注意が、またも大輝に向いてしまう。
視力が段々と回復してきて、大輝が必死でオーディンと渡り合っているのが見えた。
バルドルも加勢して、二人でオーディンを追い込んでいる様だ。
「父よ、許せ!!」
バルドルがオーディンの体を包む様に、四方八方から光の剣を打ち込む。
大輝が怯んだ隙を見逃さず炎の剣を振るい、オーディンの体を両断した。
「よし、二人とも避けて!!」
私が両断された体を掴んで、そのまま特大のエネルギーをぶつける。
粉々に飛散したオーディンの体から、邪気が抜けていくのを見た。
「やったっぽいね」
ロキが立ち上がって、息をつく。
「いや、まだだ。ヘルを何とか……」
そう言った瞬間に、再度私の体に衝撃が走る。
目の前の景色がとんでもないスピードで過ぎ去っていく。
「スルーズ!!」
バルドルの声が聞こえた。
どうやらまた私は吹き飛ばされた様だった。
ヘルがいつの間にか意識を取り戻していて、私に一撃加えた様だ。
あの体でよくやる……。
ロキとバルドルと大輝の三人がヘルと戦っている様だった。
衝撃で私の体は動かない。
情けない話だが、少し回復に徹しなければならない。
三人の連携は拙いものではあるが、三人ともが全員の動きを察知して動いているせいか、ある程度ヘルに対しては有効の様だ。
徐々に私の体も回復してきてそろそろいけるかと思ったとき、ヘルが闇のオーラを震わせて私に向かって撃ちだしてきた。
「睦月!!くっそ!!」
避けられない、と思った瞬間、私を突き飛ばして立ちはだかったのは大輝だった。
「大輝!?」
「ぐ……わり、しくじった……」
「喋らないで!!今、回復させるから……」
ヘルの攻撃をまともに食った大輝がボロボロの体で立ち上がろうとするが、思う様に行かない様だ。
「睦月、俺は大丈夫だから……あいつを、止めてくれ。お前なら、できるだろ……」
「…………」
正直、あれを相手にして勝利できるという確信はなかった。
しかし、大輝を傷つけたというその事実だけは許しがたい。
体の中を、怒りが支配していくのがわかった気がした。
「大輝、休んでて。仇は絶対取るから」
怒りに支配されそうな自分の体を必死で抑え込んで、気を失った大輝を見る。
大輝を傷つけたその罪、その体で精神で贖ってもらう……!
二人と戦うヘルを見やり、私は精神を統一させた。
次回に続きます。
「数が大分減ってきてるね」
「大輝が調子に乗って殲滅しだしてるのと、グルヴェイグも便乗して暴れてるんだろ、ほらあれ」
私が指さした方向で、無数の光が交錯しているのが見えた。
あの調子で数を減らしてくれているのはいいのだが、問題は自分の限界をちゃんと弁えているかどうか。
仮に神力が枯渇した場合にロヴンが供給してくれるとして、その間の戦闘要員はグルヴェイグだけになってしまう。
そうなると、ここまで頑張ったのが無駄になってしまう懸念がある。
冥王がどれほどのものか知らないが、また魔獣を召喚するくらいはわけもないだろうと推測される。
「なぁ、あれ何だ?」
「あれは……」
一人の女神が、大勢の魔獣に立ち向かっている様子が見える。
倒れている者も確認できた。
「あれ、エイルじゃないのか?」
「だねぇ……倒れてるのは……ブーリじゃないか!あれはまずいかもしれない」
「原始の神だったか。エイルがやられたら更にまずいな、行くぞ」
オーディンのことも気になるが、目の前の状況もかなりやばい。
この二人が倒れる様なことがあれば、神界は更に追い込まれてしまうだろう。
「ロキ、二人を抱えて飛べ」
「え?」
「いいから早く!!」
「あ、ああ了解!」
ロキが二人の目の前にワープして、二人を抱えて空に飛びあがる。
それを確認して、私は魔獣に向けて光弾を放った。
「す、スルーズ?やっときてくれたのね」
「ああ、遅くなったな。ちょっとだけ待ってろ」
エイルとブーリがロキによって安全な場所に移されて、私は特大の光弾を放ってこの一帯を殲滅した。
気配を感じなくなったので、三人の元へ急ぐ。
「ブーリほどの神がこんなにされるなんて、どういう状況だったんだ?」
「最初、魔獣は私を襲ってきてて……そこをブーリが助けてくれようとしたの。だけど、段々数が増えていって……」
「なるほど、把握したよ。すぐ手当して、各地に回ってくれないか?最良の医者とまで言われたあんたの力が、必要なはずだから」
ブーリの治療が終わるのを見届けて、私たちは二人に各地の援護を頼んだ。
ブーリ自体はかなりの実力者だが、足手まといになる相手がいるとやはり実力を出し切れなかったということか。
「スルーズ、知ってるかい?今の冥王は、実は冥「王」ではないんだって話」
「は?どういうことだ?」
「もともといた冥王は既に死んでいて……というか殺されたって話だったな、確か。そして殺したのは、冥界の神、ヘル」
「ヘルだって!?ラグナロク以降行方不明だって聞いてたけど……あいつ、冥界にいたってのか?」
「そうらしい。僕も気づかなかったんだけど……」
「お前が管理してたんじゃないのかよ、無能」
「返す言葉もないね……」
しかし、ヘルが首謀者なのだとしたら今回のこの一件、理由としてはわからないこともない。
オーディンはヘルをラグナロクの最後の最後で、見捨てた。
仕方ないことではあった。
だけど、理由はどうあれ、ヘルからしたら結果だけが重要なのかもしれない。
何万年も前の出来事とは言っても、その恨みだけを胸に冥界で生きてきたのだとしたら。
オーディンへの意趣返しが今回の理由なのだとしたら、今回のこの騒動も納得はできる。
許せるかどうかは別にしても、彼女を倒さなければ今回の騒動は収束しない。
更に言うのであれば、大輝とあいつはおそらく相性が悪い。
絶対的な闇と太陽。
対をなす二つの存在、どちらかが消えるまで戦わなければならない。
私が到着するまで、どうにか持ってくれたらいいんだけど……。
<Side T>
イケメンが、小さい男の子を守りながら怪しげな雰囲気を纏った女と戦っている。
ピカピカ光り輝く様な、俺にはないイケメン具合を発揮しつつ、小さな男の子……オーディン様なんだけど、盾になり、時に剣となって怪しげな女とバトルを繰り広げていた。
「あれは、ヘル……?」
グルヴェイグが声を漏らす。
ヘルって何だ?地獄?
「ヘルだな……行方不明だと聞いていたが、まさか今回の首謀者だったということか」
ロヴンさんも知っている様だ。
首謀者ということは、あのイケメンが戦っているのがヘル、ということになるのか。
ってことは俺、これから女と戦わないといけないの?
「大輝、油断するな。あれが首謀者だとしたら、とんでもない力を持っている」
「そんなにすごいんですか、あのヘルとか言うの」
「かつては邪神とも言われていたほどの実力者だ。ラグナロク直後から姿を消していたんだが……」
「あと大輝、相手は神よ。姿形が女でも、性別なんてどうにでもなるんだから」
確かに言う通りだ。
頭では理解している。
だが、俺にはどうしても抵抗があった。
ここに睦月がいたら問答無用で任せてしまいたいくらいに。
睦月は相手が女というか、ヘルって人だってことを知らなかったからこっちに来させたんだろうと思う。
だが、今回に限っては相手が悪い気がする。
いくら俺の力が上がっていようと、まともに戦える自信がない。
「来るわよ!」
ヘルがこっちを見た刹那、光弾を放つ。
グルヴェイグが叫び、俺を突き飛ばした。
咄嗟に障壁を張って致命傷は避けた様だが、左肩の辺りが抉れている様に見える。
「フレイヤ!!」
「今はグルヴェイグだって言ってるでしょ……つつ……やってくれるわね……」
そう言いながらもグルヴェイグは魔法の詠唱を始めた様だ。
「大輝、十秒稼いで頂戴……とびっきりのをお見舞いしてやるから」
「お、おう」
つい勢いで引き受けてしまったが、どうにもこのヘルという女神、隙が無い。
切り込むにしても、一瞬の隙でもなければグルヴェイグの二の舞を踏むことになってしまう。
「大輝、私と二人でやろう。注意をグルヴェイグから逸らすんだ」
「え、ええ……」
こうしている間にもグルヴェイグは狙われていて、逃げ回りながらの詠唱を続けている。
これでは、詠唱が完了しても狙いを定めることが出来ない。
「俺が行くので、援護をお願いします」
姿が女だから何だ、と心の中で叫んで俺は剣を手にする。
「ほう、お前が噂のソールの子どもか」
「何で知ってる?」
「その太陽の剣はソールの力でしか生み出せないからだ。親の威光などと言われない様、せいぜい気張って見せてくれ」
グルヴェイグから狙いを俺に変えて、ヘルが突進してくる。
肉弾戦でくるとは想定外だったが、俺もさすがにこれには対応できる……と思ったんだけど、咄嗟のこと過ぎてまともにくらって派手に飛ばされた。
岩肌に全身を打って、一瞬呼吸が止まった。
「かは……」
「何だ、この程度も避けられないのか。やはり七光りだな」
「ぐ……この……」
ロヴンさんが何やら詠唱を始め、グルヴェイグが詠唱を完了させた様だ。
両手に凄まじいまでの魔力が漲っているのを感じる。
「当たると思ってるの?戦闘専門の魔女の割に頭が回らない様だね」
「こっちにもいることを忘れてもらっては困るな」
倒れていたオーディン様が立ち上がって、手を天にかざす。
その雷は何と、ロヴンさんに降り注いだ。
「んな!!」
「ロヴンさん!!」
「な、何で……」
全くもって意味がわからない。
何で襲われている側のはずのオーディン様が俺たちを攻撃するんだ?
そんなことを考えている間に、オーディン様は俺にも狙いを定めた様だった。
「ぐっがあああああああああああ!!!!」
視界が光に包まれたと思った刹那、目の前で黒い魔女が衝撃に悶えているのが見えた。
「な……お前……」
「ダメよ……大輝だけはここで倒れちゃ……」
グルヴェイグも意識を失い、地に伏せる。
俺が迷ったりしなかったら……。
状況が一気に悪化して、俺は自分の甘さを思い知ることとなった。
「オーディンの精神は今、私の支配下にあるわよ。どうするの?バルドルももう今は立てない様だし」
いつの間にか先ほどのイケメンも、地に倒れ伏している。
じり貧なんてもんじゃないぞ、この状況……。
<Side M>
「ちょっと、もう既に何人か倒れてるんだけど」
「あ、あれは……ロヴンにグルヴェイグ……バルドルもいるな。オーディン様は無事みたいだが……」
「ちょっと、様子がおかしくない?」
「ああ……どうもオーディン様が大輝に攻撃の意志を示している様な……」
到着した先で見たのは、倒れた数々の仲間と今まさにやられそうになっている大輝だった。
随分力は上がっているはずなのに、と思うものの、オーディンが敵に回ったんだとしたらかなり分が悪い。
「ロキ、オーディンを何とかして止めろ。だが雷は絶対に食らうなよ」
「無茶言ってるよ、それ……あんなの避けられるわけないだろ……」
だが、ロキは自信がないという顔でもない。
何か対策でも立ててあるのだろうか。
「避けられなければ、こうすればいい」
そう言ってロキがオーディンに向かって突進する。
一瞬驚きはしたが、私もそれを見た瞬間に飛び出してヘルに挑みかかっていた。
「あんたはスルーズか。懐かしい顔ぶれだね」
「あんたがまさかこんなことしてるなんて思わなかったよ、私は」
防御のオーラを纏いながら、ヘルに攻撃を加えていく。
ロキはオーディンの雷を警戒しながら雷を生み出させない様に連続で攻撃をしかけている様だった。
この間にロヴンでもグルヴェイグでもいいから、戦線復帰してくれたら……。
「スルーズ!避けてくれ!」
叫び声と共に一筋の光が走る。
そちらを見る間もなく飛来した無数の光の剣が、咄嗟に防御姿勢を取ったはずのヘルの体を貫いていった。
「バルドル、動ける様になったのか」
畳みかける様に追撃を加え、私も光の槍を取り出す。
「ああ、少し休ませてくれたおかげでな。しかし父の精神の奪還をしないと、状況は変わらないぞ」
「そこなんだよな……」
ヘルの体に槍を突き刺し、そのまま地面に固定する。
「少しの間、じっとしてろよ……」
槍を五本追加して四肢を貫く。
バルドルも数本の光の剣をヘルの体に突き刺していた。
ロキの戦況は芳しくない様で、徐々に追い込まれているのがわかる。
「……しゃーない……」
バルドルにヘルを任せて、私はロキの援護に向かう。
二方向からの攻撃にもオーディンは軽々対応する。
腐っても主神というわけか。
見ると、大輝はグルヴェイグとロヴンの手当てをしている様だ。
自分の傷を後回しにしている辺り、大輝らしいと言えるが。
「睦月!二人は大丈夫だ、じきに目を覚ます!」
「ナイス!こっちもちゃっちゃと……」
「ちゃっちゃと……何だ?」
突如オーディンの体が発光して、つい眩しさに目を閉じてしまった。
次の瞬間、衝撃が走って私は吹き飛ばされたのだと理解した。
「睦月!」
大輝のオーラが大きくなるのを感じて、まずいと思った。
せっかくこちらに向けた注意が、またも大輝に向いてしまう。
視力が段々と回復してきて、大輝が必死でオーディンと渡り合っているのが見えた。
バルドルも加勢して、二人でオーディンを追い込んでいる様だ。
「父よ、許せ!!」
バルドルがオーディンの体を包む様に、四方八方から光の剣を打ち込む。
大輝が怯んだ隙を見逃さず炎の剣を振るい、オーディンの体を両断した。
「よし、二人とも避けて!!」
私が両断された体を掴んで、そのまま特大のエネルギーをぶつける。
粉々に飛散したオーディンの体から、邪気が抜けていくのを見た。
「やったっぽいね」
ロキが立ち上がって、息をつく。
「いや、まだだ。ヘルを何とか……」
そう言った瞬間に、再度私の体に衝撃が走る。
目の前の景色がとんでもないスピードで過ぎ去っていく。
「スルーズ!!」
バルドルの声が聞こえた。
どうやらまた私は吹き飛ばされた様だった。
ヘルがいつの間にか意識を取り戻していて、私に一撃加えた様だ。
あの体でよくやる……。
ロキとバルドルと大輝の三人がヘルと戦っている様だった。
衝撃で私の体は動かない。
情けない話だが、少し回復に徹しなければならない。
三人の連携は拙いものではあるが、三人ともが全員の動きを察知して動いているせいか、ある程度ヘルに対しては有効の様だ。
徐々に私の体も回復してきてそろそろいけるかと思ったとき、ヘルが闇のオーラを震わせて私に向かって撃ちだしてきた。
「睦月!!くっそ!!」
避けられない、と思った瞬間、私を突き飛ばして立ちはだかったのは大輝だった。
「大輝!?」
「ぐ……わり、しくじった……」
「喋らないで!!今、回復させるから……」
ヘルの攻撃をまともに食った大輝がボロボロの体で立ち上がろうとするが、思う様に行かない様だ。
「睦月、俺は大丈夫だから……あいつを、止めてくれ。お前なら、できるだろ……」
「…………」
正直、あれを相手にして勝利できるという確信はなかった。
しかし、大輝を傷つけたというその事実だけは許しがたい。
体の中を、怒りが支配していくのがわかった気がした。
「大輝、休んでて。仇は絶対取るから」
怒りに支配されそうな自分の体を必死で抑え込んで、気を失った大輝を見る。
大輝を傷つけたその罪、その体で精神で贖ってもらう……!
二人と戦うヘルを見やり、私は精神を統一させた。
次回に続きます。
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