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本編

Girs side37話~大輝の誕生日に向けて~

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先日のヘルの件から数週間。
新学期が始まって、でもまだ少し残暑が厳しい季節。
大輝は一見落ち着いた様に見えるものの、その辺の変化の機微に敏感なメンバーはまだ大輝の様子がおかしいと言っていた。
元々優しい子ではあったが、今までよりもずっとその辺が目立つ様になって、気遣いも以前までより細やかになったらしい。

まぁ、それが継続されるのであれば、成長として喜ばしいものではないか、と私は思うわけだが。
しかし危うく見えるというメンバーもいたりして、なかなか鋭いなと私は思った。

行為そのものが優しくなって戸惑った、なんてことを言うメンバーもいたが、これに関しては相手によって変えていそうなので私は無関係を貫く。
何にせよ、このままというわけにはいかないのかもしれない。


「もうすぐ大輝くん、誕生日だよね」
「ああ、そうだったね。何しようか、今年は」

放課後、私は桜子と一緒にファーストフード店で寄り道をしていた。
明日香も一緒に、なんて思っていたが、明日香は大輝と二人でお出かけしている様だった。

「去年は何したんだっけ」
「去年は普通にパーティだけだったかな」
「そうだっけ。んー……大輝くん、最近様子が変じゃない?」
「そうかな?私は特にそういうの感じないけど」

なんてしれっと嘘をついてしまって、桜子もこう見えて勘の鋭い子だな、なんて感心したりする。
もちろん嘘であると気取られたりはしてないはずだが、桜子はあまり納得している様子ではなかった。

「睦月ちゃん、私たちに何か隠してたりとか、しないよね?」
「何かって?」

内心ドキドキしながらも平静を装う。
正直バレてもおかしくないとは思っている。
だが、こちらからバラす様なことでもないだろう。

だから私たちは話したりしないし……まぁ聞かれれば答えるかもしれないけど。

「小泉さんが、前に言ってたんだよね。あいちゃんが、大輝くんに子どもほしい、って言ってたって」
「え?そうなの?」

ヘルのやつ、公の場でそんなこと言ってたのか……大輝の苦労が偲ばれるな……。

「まさかとは思うけど、子ども作った、とかそんなことないよね?」
「えっと……」

小泉さんのそんな証言があったら、さすがにとぼけきるのは無理がある、と私は判断した。
さすがにこの場を嘘まみれで切り抜けようなんてのは、さすがに桜子にも悪い気がするし。

「うーん……ダメだ、一応話しておこうか」
「え?」

私はまず桜子に、今回の事件の顛末を語った。
最初は驚いた様な顔をしていた様だったが、次第に納得した様な顔に変わっていく。

「ああ、なるほどね……だから家具の配置変わってたんだ」
「よく見てるね……」
「そりゃね……毎日の様にきてる場所でもあるんだし、気づくでしょ」

黙っていたことを詫びて、これからどうするかという話になる。
桜子は子どもを見てみたかった、と言っていたので、そのうち会わせることを約束した。

「それにしても、大輝くんはもうお父さんなのかぁ……なかなか会えないとは言っても」
「まぁね……でも、籍入れたりしてる訳じゃないから。私たちとの関係そのものに影響は出ない……と思いたいところだけどね」
「あいちゃんは特に、大輝に責任とか求めてないんだっけ?」
「元々あっちで神だったわけだしね。人間界の仕組みとかも中途半端にしか理解できてなかっただろうし。とは言っても多分あいは大輝のこと、ずっと好きなんだと思うけどね。大輝もたまには会いに行くって言ってたし」
「色々複雑なんだねぇ……私も子どもとか将来生むのかな」
「だって、二十歳になったら、みんなで生もうって話になってるじゃん。言い出しっぺは朋美だけど、よっぽどのことがなければ反故にはならないでしょ」
「まぁ、そうだとは思うけどね。問題は大輝くんが知らないってことだけなんだよね」

そう、大輝にはまだ話していない。
夏休みに交わされた、女性陣だけの約束。
もちろん大輝の種がなければ成立しないから、当然話す必要はあると思っていたのだが……何だかんだ重い話になってしまうかと思って明言は避けてきていた。
愛美さんや和歌さんの年齢のこともあるし、本当なら今すぐにでも作ってあげたいところではあるが、学生が何だかんだ多いしそれはさすがに、ということで私たちが二十歳になったら、ということで落ち着いたのだった。

ちなみに新入り……ってほど新入りでもなくなってきてるが、あの三人は二十歳になったらどうなってるかわからないから保留で、と言っていた。
二人は後輩だし、私たちが二十歳になったらまだ大学入学したて、とかそのくらいか。
子育てなんていきなり言われても困るだろうし、それでいいと思う。

「まぁ、そういうことなら……大輝くんが元気出る方向でやっていきたいね、今年は」
「そうなんだけど……何かいい案ない?」
「うーん、私にはちょっとまだ思い浮かばないかなぁ……けど、他の案ってなると他のメンバーにも事情話す必要出てくるね」
「そこなんだよねぇ……大輝に一度、話していいか相談してみるかな」
「え、直接聞くの?」
「だって、いずれは伝わっちゃう話だと思うから……それなら正々堂々行く方がいいでしょ」

というわけで、後日私は大輝にヘルとのことをみんなに話していいか、という相談を持ち掛けることにした。


「やっぱ、隠し事は良くない……よなぁ」
「まぁ、そうなんだけど今回はそういうことじゃないっていうか……」
「何だよ、歯切れ悪いな。何か企んでるのか?」
「いや、そうじゃないんだけどね」

さすがに本人の誕生日のことを本人に聞く、というのも意味が分からないので大事なところは伏せておく必要があるだろう。
翌日の放課後の、駅前のカフェで私と大輝は話し込んでいる。
あまり平日に二人で会うということはなかったので、大輝が不思議そうな顔をしていた。

「何ていうか、離婚して親権が向こうにある父親の心境ってこんな感じなのかな」
「お、重いよ大輝……」
「ああ、ごめん。睦月にだから言うんだけど、最近やる気というか気力というか、そういうのが湧いてこなくてな」
「…………」
「何だかごめんな、お前らの期待に応えてやれなくて」
「いや、それはいいんだけど……」

あなた、まだ前の奥さんに未練があったのね!!
なんてふざけたことを言える雰囲気ではないみたいだ。
けしかけたのは私たちだが、本当に大輝にもヘルにも、申し訳ない気持ちになった。

「まぁでも、睦月とかその他の女神には感謝してるんだよ。何度も言う様だけどさ」
「そう言ってくれるのはうれしいけど……」
「死んじゃったとかそういうわけじゃないから、そこまで俺は気にしてないんだ。だから、みんなにも話してやろう。俺も一緒に話すからさ」
「うん、そうしよう。私も一緒に、黙っててごめんって謝るから。特に愛美さんと和歌さんには……」
「ああ、そうだな……和歌さんはまだしも愛美さんに言うのだけはちょっとだけ怖い……」

私も同じことを考えていた。
ちなみにヘルがいなくなってからもうすぐ一か月が経過するわけだが、大輝と二人で暮らしていたあの部屋はそのままにしてある。
そのままって言っても、放置ではなくて掃除したりとメンテナンス的なことはしてるけど。
大輝がたまに、あそこで寝泊まりしているので、施設出ちゃったら?と言ったことがある。
しかし、大輝は卒業までもう二年もないし、あそこは卒業と同時に出る、と言っていた。

ならばと私は大輝の意向を汲んで、週に何度か赴いて掃除やらをしているというわけだ。
花嫁修業みたいで楽しい、という気持ちもあるし、私もたまにだけどあの部屋で寝たりすることはある。
マンションが広いから、少しだけ寂しくなったりもするのだ。

そして二日後に、私たちは全員を招集してヘルの事件についての説明をすることにした。
朋美も今日はバイトがなかったので待つことなく迎えに行くだけで済んだ。


「え、どういうこと?あいがいなくなったのって、神界で何か事情があるからって話じゃなかった?」
「まぁ、それ自体嘘ではないんだけど、大元になってるなってるのは、さっき言ってたことかな」

大体予想はしてた反応だが、朋美や愛美さん、和歌さんの反応は少し怖い。
殺気立ってるというほどではないにせよ、尋常ではない様子であることが窺える。

「まぁ……過ぎたことをとやかく言っても始まらないとは思うが、私たちに内緒にしていた理由を聞いてもいいか?」

和歌さんは努めて大人の対応をしようとしている様だった。
正直に言ってもいいものか迷ったが、大輝が口を開いた。

「それについては、俺から話します。和歌さん、それから愛美さん。二人には、俺の年齢的な事情から我慢させてしまっています。本来であればする必要のない我慢を、二人にさせてしまっている。それがあるのに、あいのことで更に嫌な思いをさせてしまうんじゃないかって、俺は考えてしまってました。結果として、もっと嫌な思いをさせちゃったかもしれないんですが……」
「……うーん……」
「なぁ大輝……私や和歌さんは、お前から見てそんなに可哀想に見えるのか?」
「え?」
「気の遣い方が、ちょっと違う気がするんだよな」
「それは、私も思った。正直しなくてもいい我慢って言われればそうかもしれない。しかし、お前を選んだのは私たちの責任であって、嫌だと思っていたらとっくにいなくなっている。そうは思わないか?」
「それはそうかもしれませんし、もしそうなったとしても俺に止める術はありません。だけど、こうして一緒にいてくれてるのはお二人の意志であることももちろん理解してます。だから、って言うのも変な話ですが……変に気を遣ってしまったんだと思います……すみません」
「確かに辛い話ではあるし、多少ショックな気持ちはあるよ。だけど、やっぱりこの話で一番辛いのって大輝、お前自身なんじゃないのか?」
「辛いって気持ちは今もそれなりにはあります、確かに……だけど、ある意味で自業自得ではあるので……そんなことを主張する権利はないかなって……」
「大輝、それは違うよ。けしかけたのは私たちなんだから」
「そうだよ。事情があったって言っても、巻き込まれたも同然なんだよ、大輝は」

朋美や明日香、桜子はやや置いてけぼり気味だが、黙って話を聞いている様だった。
去年の朋美だったら、もしかして暴れていたかもしれないが、ここ最近の朋美は落ち着いてきている気がする。
余談だが、朋美に殺されるかもしれないから、なんて言って大輝は本気で遺書を書こうとしていた。
もちろん、そんなものは必要ないから、って私が止めたんだけど。

「ねぇ大輝、一ついい?」

今まで沈黙を保っていた朋美が、口を開く。
少し怯えた様子で大輝は頷いた。

「そんなに怯えた顔しなくてもいいじゃない……まぁ、それはいいんだけど……いや良くないんだけどさ。今回の件、正直誰が悪くて、誰を罰したら、ってものじゃないと思うの。だって、結局のところはあいが持っていた心の話な上に、それはもう封印されちゃったんでしょ?」
「まぁ、そうなる。事件そのものはもう既に解決してるよ」
「なら、この後どうしていくか、ってことだけでしょ。大輝は、たまにでいいからあいと子どもに会いに行きたいって言ってたけど」
「そうだな、会えるなら会いたい。まぁ、あいが会いたがらないかもしれないけどさ」
「だったら……」

朋美が愛美さんと和歌さんを見る。
明日香と桜子も一緒に、大輝を見ている様だった。

「なら、大輝の子ども私たちにも見せてよ。それでこの話、おしまいにしよ?」
「だ、だけど、そんなことでいいのか?俺、特に償いとかしてないんだけど……」
「だから、そんなの必要ないって和歌さんも愛美さんも言ってたでしょ?それは私たちだって同じ思いだもん」
「そうよ。それに、大輝くんが何かしたからって、過去が変わるわけじゃない。だったら、今ある現実を大事にしていこうってことなの。理解できた?」

必要以上に怯えていた大輝だったが、ここへきて漸く朋美がそういう暴挙に出ないということを理解した様だ。
何度か朋美なら大丈夫だって、私も説得はしたのだけど……よっぽどあの再会の件が尾を引いているんだなと思う。
最近の朋美は、暴力よりもどっちかっていうとエロいお仕置きをする傾向の方が強い。
大輝だって、何だかんだ言いながら楽しんでるはずなんだけど……トラウマっていうのはやっぱり強烈なのかもしれない。

「まぁ、そういうわけだから……今日は大輝、帰って?」
「え?」
「女子だけでしないといけない話っていうのが、あるの。理解した?まさか女子の話題に割り込みたい、なんて野暮なこと言わないよね?」

そんなわけで大輝はさっさと追い出され、寂しそうな哀愁漂う背中を見せながら、去って行った。
ここからが、話し合いの本番だ。

「さて、邪魔者がいなくなったことだし本題に入ろうか」
「邪魔者ってひどいね……まぁ、この件に関しては本人が入ってこられたら楽しみ半減になっちゃうからね」

大輝の誕生日に、どんなもてなしをしようかという相談だ。
実際、大輝がどんな時に元気を出してくれるのか、なんて行為の最中くらいしか現状思い浮かばない。
しかし、それではいつもと変わらない。
どうせならはっきり元気が出るとわかるものがいい、ということでみんなで模索する。

結局大した案も出ないまま、大輝の誕生日まであと一週間となってしまった。
プレゼントは各自用意した様だが、これだって大輝が本当にほしいものかどうかはわからない。
私たちが渡すのであれば大輝は大事にしてくれるだろうということはわかっているが、それでも大輝の本当の望みは私たちにはわからない。
いっそ頭の中を覗いてしまうのはどうだろうか、なんて考えたこともあったが、それだけは絶対にダメだとみんなから止められて断念した。

みんなと大輝と敵に回してまでそんなことをする意味はないし、私としても彼が何を考えているのか完全にわかってしまっては面白くない。
だから、今回はなる様になるだろうと思ってある種の傍観を決め込むことにした。
物騒なことをしようというものでもないし、特に騒ぎになる様な要素もないだろう。
ヘルの時の様な騒ぎにさえならなければ、こちらとしても……ヘルか。

そうか、大輝の望むもの……。
望みは薄いかもしれないが、やれることはしてあげたい。
私は次の週末にヘルの元へ行くことに決めた。


「大輝、今週末私、ちょっと留守にするから」
「え、珍しいな……てか初めてじゃないか?」
「うん、ちょっと用事ができて」

大輝を騙すのは少し心苦しいが、こればかりは今言うわけにいかない。
素直な大輝のままであれば、きっと騙されてくれるはずだ。

「マンションは使ってくれててかまわないから。布団にも私の匂いつけとくし」
「ば、バカじゃないのかお前……まぁ、嗅ぐんだけど……」

大輝が匂いフェチであることは朋美から聞いて知っているので、大輝が寂しがって夜泣きとかしない様にという配慮だ。
少し顔を赤くしているが、大輝はきっと嬉しいに違いない。

「まったく、まだ日のある内から何て話をしてるのかしら」

明日香が私たちを見つけて喫茶店に入ってくる。
下校途中の寄り道ではあるが、先日と違って今日は表通りの喫茶店だからさすがに見つかるか。
明日は後輩の子とよろしくやるみたいだし、今日は私たちに構ってくれてもいいと思う。
ああ、そういえば大輝は朋美の匂いが一番好きとか言ってたって聞いたなぁ。

乳のでかさでも負けて匂いでも負けるなんて、ヒロインとしてどうなのか。
まぁ、朋美が勝ちたいと思ってる部分では勝ってる、なんて愛美さんは言ってたけど……。
でもそれって目に見えないからなぁ……どうせなら私が不在の間、私の匂いで洗脳してやるくらいは、いいよね。

みんなにも連絡して、週末は私が不在であることと、マンションは自由に使って構わないということを伝える。
女神勢はすぐに察した様で、頑張って、と激励された。

あの日以来私は神界に行くのを意識的に避けてきていたが、今回ばかりはそうも言っていられない。
気まずい思いは相変わらずだが、大輝の誕生日には今回に限って、ヘル親子の存在が不可欠と言える。
というか、あの親子を連れてこられなければ今年の大輝の誕生日はお通夜になると言っても過言ではないだろう。

思っていたよりも責任重大なこのミッション。
ぶん殴って倒せばおしまい、というわけにもいかない以上、慎重に挑む必要がある。
いつになく固い決意を胸に、私は神界へと飛んだ。
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