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本編

大輝編60話~いざ救出作戦~

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俺たちが冥界からの襲撃を受けている神界の救出に向かっていた頃……まぁつまり発端は夏休みまでさかのぼる。
井原は、というか井原の家族は窮地に立たされていた。
井原の家は両親と井原、そして井原の妹という家族構成だ。

井原の父親は小さいながらも会社経営をしていて、その頃までは業績もそこそこで家族の生活ももちろんそれなりの水準で、不自由することなど皆無だった。
家族もそれまでは普通の生活で満足していたし、しかし少しずつ危機は井原家に迫っていたと言える。

働きづめでも文句ひとつこぼさず頑張っていた井原の父が、病気で倒れたのだ。
あれだけ元気だった父がそう簡単に倒れたりするものか、と井原は思っていた様だったが、病院に駆け付けた時に自分たちの生活の危機であることを直感した。

母親が以前から社長である父親の補佐的な感じで会社を支えてはいたのだが、社長が倒れたと聞いて悪だくみをする人間はそれなりの数いた。
簡単に言えば、会社を乗っ取ってしまおうと考える輩が出始めた。

確かに今のままでは会社は傾いてしまうだろうし、放置するわけにはいかない。

かと言って井原父の回復を待って、というのも現実味がない。
何故なら意識不明の重体で、病状どころか意識が戻るかどうかさえも怪しいと言われているからだ。
医者の診断と検査の結果から、井原父は脳卒中であるとのことだった。

睦月がさっきの争いの記憶を連中から消して、それぞれを家に帰し、場所を変えて俺たちは井原から話を聞いている。


「だから今、会社は一時的にではあるけど、お父さんの腹心とでも言うのかな、そういう人の手に半分渡っちゃってる感じなの」
「なるほど。で、さっきのあいつらが絡んでくる理由は?」
「その腹心の息子がさっきのやつの一人なの。急激に権力を得たから、七光りというか、虎の威を借りる狐になってるっていうか」
「でもさ、お前のお母さんが副社長的なポストだったんじゃないの?だったら乗っ取られることもほとんどないと思うんだけど」
「それがね……」

井原父の入院という報せを受けて、役員連中がここぞとばかりに副社長の解任動議を打ち出して、役員会議でそれが可決されてしまった。
理由としては、家事を兼任する副社長では会社の存続は不可能だ、という声が多かったこと。
もちろん、ほかにも理由はあったらしいがそのどれもがこじつけのものばかりで、子どもの井原でもわかる様な嫌がらせに近いものだったらしい。

「でもね、お父さんの病状そのものは、快方に向かっていたの。だから会社を取り戻すことはできる、って思ってたんだけど……」

実際に、こじつけではあったものの正式な手続きを経て人手に渡った会社は、そう簡単に取り戻せるものではなかった。
しかし更迭された井原母は、涙を呑んで降格人事を受け入れた。
家族を守っていかなければならないからだ。

理不尽な扱いをされることも珍しくなくなってきたとき、井原母に娘のことで話があると元部下で現上司である男に呼び出される。
その男の息子がさっき井原を追っていた連中の一人だった。
いつだか会社の新年会みたいな催しをしたときに、その息子は井原を見かけたらしい。

その息子が井原に一目惚れに近い状態で父親に相談を持ち掛け、縁談に応じるのであれば会社の権利を前社長に戻すことも検討する、とその男は言った。
しかし井原母は毅然としてその誘いを突っぱねた。
まぁ、これは当然と言えるだろう。

母も井原と良平のことは知っていたし、娘の人生を会社の為に、なんてことはしたくなかった。
時代錯誤なそのやり方を進言したのはその男の息子らしいが、袖にされたと知るや直接井原に付きまとう様になったのだそうだ。
井原はその男も息子も一応は知っていたので、突っぱねる様なことはしなかったが、やんわりと退けてきていた。

しかし、日に日にその息子の誘いがエスカレートしていって、ある日仲間を連れてきた。

「俺の誘いを断り続けるんだったら、お前の家族が被害に遭うこともありえる」

明らかな脅迫行為だったが、この時井原は精神的に参り始めていて、母にもこのことを相談できなくなっていた。
警察に行くことも考えたが、実際に何かされたわけではないのと、証拠がない。
会社にはもしかしたら何かしらあるかもしれないが、それさえももみ消されたりするのではないか、という懸念もあった。

「なるほどね、ってことはさっきのあれも、その延長線上の出来事ってわけか」
「そうなるかな……。良平にはとても言える話じゃなかった。だって、そうでしょ?良平が動いてくれたとしても、それで良平がどうなるかわからないんだから」
「バカだなお前……それでも言ってくれたらまた少し違ったかもしれないのに……つっても、この二か月近く気づかなかった俺が言える話じゃないけど」

概ね井原の言う通りだとは思う。
良平が動いたところで、一時的にその男のつきまとい行為が止んだとして、完全な解決には至らないだろう。
話そのものがかなり大きいし、本来なら俺たちが口や手を出すのは違うとわかってはいる。

だが、こんな理不尽な話で今、井原の……朋美や桜子の親友が窮地に立たされているということを、俺は知ってしまった。
知ってしまったら、もう何もしないなんて選択肢を取ることはできない。

「大輝、やるの?」
「ああ、まぁな。このままってのは俺の性に合わない。井原、それに良平。ここは俺に任せてくれないか?悪い様にはしないから」
「は?お前何言ってんだよ。子どもの俺らにどうにかできる話じゃ……」
「良平、お前は井原と別れることになっても、そんなこと言ってるつもりか?後悔しないのか?だったら俺はこのまま黙って帰ることにするよ」

正直、ここで手を貸してやることが正しいなんて思ってない。
だけど、良平の親友として、井原の友達として、俺はこいつらを助けたかった。
別れたりして辛い顔をさせたりするのも、見たくなかったのだ。

「大輝、俺に、じゃなくて俺たちに、でしょ」
「へ?」
「私と一緒ならやること分担できるんだから。でも、井原さん」
「え?」
「ただで、ってわけにはいかない。何事も代償は必要なの。わかる?」
「おい睦月……」
「わ、わかった。本当に助けてくれるなら、私はどうなってもいい!」
「バカ言え、お前だけに背負わせるなんて……」
「いいの、何でも言って。私にできることなら、何でもするから」

こうして、俺と睦月の悪だくみ、井原の会社及び家族救出作戦は始まった。
時間がある程度遅かったので、井原と良平には帰ってもらった。
というかいてもらっても今は役に立たない。

井原はともかく、良平に関しては今回、出番がないと言ってもいい。
俺たち女神にかかってしまえば、念入りな打ち合わせであるとか、そんなものすら必要ない。


「まず、井原さんのお父さん治しちゃおう。あの人が無事でないとこの作戦はうまくいかないから」

睦月はこう言ったが、最悪無事でなくても無理やり成功させることはできる。
まぁ、できたとしてその後のことに関してやはり井原父は必要だということで、俺たちはさながらキャッツアイの様に夜の病院に忍び込んだ。

「ここだね。井原さんのお父さんの病室」
「そうだな。てか俺たち普通に話してるけど、声とか大丈夫なのか?」
「今は位相をずらしてあるから。修学旅行のこと、覚えてるでしょ?」
「あれか……」

あの時のことを思い出して、俺は少し身震いした。
初めてこの睦月を怒らせてしまった時の、あのお仕置きの苛烈さは、今でも俺にとっての恐怖でしかない。

しかし、それなら見つかる心配もないし、騒ぎになることだってない。

井原父の病室に入り込んで、睦月が眠っている井原父の脳を調べる。
とは言っても開頭手術をしたりというものではなく、透視だ。

「ああ、ここか……んじゃ……」

そう言って睦月は一瞬で井原父の脳だけでなく、体中の悪いところを見る見る内に治していく。

「明日の検査が大変なことになりそうだけど、ここでの準備はこれでよし、と。次は井原さんのお父さんの会社だね」

確かに今まで重症で入院していた人間の体から、一切の病巣が消えてなくなったとなれば下手をすればニュースにでもなりそうな事態ではある。
しかし、誰がやったのかはわからないわけだし人間の目から見れば、自然治癒した様にしか見えないだろう。
そんなわけで俺たちは、当初の目的である会社にワープした。


「一人でここまで会社大きくしたんだったらすごいなぁ、井原のお父さん」
「そうだね。私のパパの会社はおじいちゃんから引き継いだらしいから、それを考えるとこの規模にできたのは井原さんのお父さんの力だね」

会話もそこそこに、まだ明かりの灯る会社に侵入して俺たちは必要な書類を探し始める。
社長室と人事室の明かりはすでに消えていて、とっくに退社したのだろうということが窺えた。

「ねぇ大輝、あれ……」
「ん?」

睦月が指差した方を見ると、一人の女性がオフィスでパソコンに向かっているのが見えた。
何処かで見た様な……。

「多分井原さんのお母さんだね。そっくりだもん」
「あ、そうかなるほどな。確かに似てる。綺麗な人だなぁ」
「……大輝?」
「あ、いやあのほら、年齢の割にって意味だから」
「……まぁいいけど……。あんまり鼻の下伸ばしてると、位相もとに戻しちゃうから。大輝だけね」
「おいやめろ!そこまで俺だって見境ないわけじゃないから!」

本当、さらっと恐ろしいことを言い出すからたまらない。
井原母の目の端に、光るものが見えた気がする。
涙を呑んで、と思ってはいたがまさか本当に涙を流す様な事態になっていたとは。

おそらくはほかの人の仕事まで押し付けられたりと理不尽な扱いを受けているのだろうと推測された。
こんなに綺麗な人にこんな顔させるなんて、許せないな本当!

「大輝、気持ちはわかるから。さっさとやっちゃおう」

俺の心情を察して、睦月が悪い顔をする。
デス○ートでこんな顔してるやついたよな、確か……。


「んじゃまずは……」

睦月が会社のネットに割り込んだか何かして、現社長のパソコンからスマホまでの通信記録をあさる。

「あったよ、不倫の証拠」
「ふ、不倫?」
「まぁ、ゲスいやつだと思ってたから一つや二つ出てくると思ったけど……まさか会社の通信でこんなファイルやり取りしてるなんてね」

試しに俺も覗いてみると、社長が若い女性社員と交わっている動画やら……何だこれ、男?

「社長はどうやら高尚なご趣味をお持ちだったみたいだね」

まさか、両刀遣いだったとは……。
可愛らしい顔立ちの、おそらく新入社員の男性と……とても言葉にしたくない様なことをしている社長。

「これを、社内の掲示板と全社員のメールに貼り付けて……」
「お前、えげつないことするな……」
「聞いてる限りゴミみたいな人だもん、破滅したらいいんじゃないかな。おっと、相手の顔だけは一応ぼかし入れとくか」

顔には出さないが、おそらく睦月は怒っている。
いくら朋美との共通の友達のことだとは言っても、ここまでするのは珍しい。

「あ、大輝」
「うん?」
「大輝が私のこと怒らせても、大丈夫だから。滅ぶときは一緒だよ?」
「……は?」
「大輝が私を怒らせたときは、私と大輝とのハメ撮りを学校の掲示板に晒すだけだから」
「それ、だけって規模の話じゃねーから……マジでやめてください、本当……」

改めてこいつを怒らせる様なことは絶対にしない様にしよう、と心に固く誓った。
そして俺たちは、目当ての書類関連をすべて発見した。

「この部分をお父さんの名前に書き替えて、と」
「名前、よく知ってたな」
「そこに貼ってあるもの、創設者が何たらって。バカだよね、乗っ取ったときにはがせばもう少しだけ時間は稼げただろうに」
「もう少しって、どうせ五分くらいのもんだろ……」
「五分もいらないよ。どうせ探せばすぐ見つかるんだから」

まぁ、それは考えなくてもわかる。
なのになぜ現社長を貶す必要があったんだろうか。
よっぽど現社長のことが頭にきたんだろうな。
最後に睦月が会社の入口に仕掛けを施して、俺たちは引き上げることにした。

というか俺、ほとんど何もしてない様な。

「ほとんど、じゃなくて全く、だよね」
「え、ええ……まぁ……」
「あんなに頑張った彼女に、ご褒美くれるでしょ?」

その後、俺はご褒美と称する熱い夜を過ごすことになった。
全くもって策士だ。
俺に何もさせないことによってこんなお仕置きを……。


「大輝、大丈夫か?何かやつれてるけど……そんなに大変なことしてたのか?」

翌日、結果報告と井原さんの様子を見るために良平と井原を呼び出した。
俺は昨夜寝ないで睦月のお仕置きを受けていたので、正直眠くて仕方なかったが、ドリンク剤やらを駆使して授業は何とか乗り切ったのだ。
俺の顔を見て、井原も化け物でも見てるかの様な顔をしていたが、それでも父がよくなったことが嬉しいらしい。

「ま、まぁな。でもあれだ、親友の為だからな!」
「…………」

何もしてないくせに、また今夜お仕置きが必要かな、と睦月の目が言っている。
だが残念だったな睦月よ、俺は今日これからバイトなんだ。

井原から聞いたのは、現社長が強制性交の罪で警察に引っ張られて、しかも現社長は社長ですらなくなっていた、ということだった。
睦月が帰り際に会社の入口に施していた細工は、あそこをくぐった人間の、現社長以外の人間の記憶から、現社長が現社長でないものに書き換えるというもので、全社員の認識として、社長は井原父に戻った。
書類上でも睦月がその辺のものを全部書き換えていたので、その辺は滞りなくもとに戻った。

そして会社でパソコンを開いた社員から、ざわめきが起こって大騒ぎになった。
どういうことか、と現社長……社長じゃなくなってたんだけど、その男のところに詰め寄る社員たち。
何を社長面して偉そうにふんぞり返っているのか、とあっという間に糾弾され、警察を呼ぶ事態になった。

「それでね、お父さんが回復したの!医者が奇跡だって言ってて!」

井原がやや興奮気味に俺たちに話す。
それも睦月の仕業なんだけどな。

「何かね、風邪で会社休んでたってことになってて、明日から会社に復帰できるみたい!お母さんも元の役職に戻れるって喜んでた!あなたたち、一体どんな手を使ったの?」
「あー……それはなんだ、聞かない方がいいぞ。というか聞いても多分信じられないことばっかりだから」
「そう……でも、ありがとう。全部あなたたち二人のおかげなのよね?」
「あー……まぁ、そうだな、ははは……」

睦月の白い目に耐えながら、俺は引きつった笑いを浮かべていた。
見栄の一つくらい張ったっていいじゃない、人間だもの。
こりゃきっとバイト終わったら迎えに来てまで、俺にお仕置きしようって顔だ……。

「ところで……私、何したらいい?なんでもするって言ったけど……」
「あ、そ、そうだったな……てか俺が肩代わりするから、圭織は見逃してやってくれ、頼むから」

井原の決心に、良平が割り込む。
こんな時までカッコつけんのかよお前は……。
んふ、と笑って睦月が井原の前に進み出る。

井原も良平も、息をのんでそれを見守っていた。

「もうね、大丈夫だから」
「え?何が……?」
「だって、今報告ちゃんとしてくれたでしょ?それでオッケー」
「そ、そんなことでいいの?」
「うん、別に今ほしいものとかないし、二人がこれから幸せになれれば、それで」
「…………」

井原と良平が、顔を見合わせてきょとんとしていた。
まぁ、それはそうだろう。
これだけのことをしてもらったら、さぞかしでっかい対価を求められるに違いない、とか考えるのは別におかしいことではない。

「それとも、井原さんも大輝のハーレムの一員になっちゃう?でもそうなると大輝と良平くん、兄弟になっちゃうね」
「そ、それはちょっと……」
「さすがに……」
「うん、俺もやだ」
「宇堂、私のことやらしい目で見ないでよ……」
「ば、見てねぇよ!」

まぁ、睦月だって断ることがわかっててそう言ったに違いないし、二人も本気にしてはいないだろう。
というかされても困る。
兄弟の様に育ったとはいっても、やっぱり親友でいたい。

「これからまた何かあったら、言ってくれよ。やれる範囲でなら助けてやるから」
「ああ、頼りにしてる。本当に、ありがとう」

バイトの時間もあるので、俺も別れを告げてその場を離れる。
今日はまたお仕置きが待ってるかもしれないが、それでもいい気分で一日を終わることができそうだ。

そんなことを考えて迎えた翌日。

『大輝、さっそくで悪いんだけど助けてくれ!浮気の濡れ衣着せられてんだ!!』

はぁ、バカじゃないのかこいつ……せっかく平和に解決したんだからちゃんとその平和を維持する努力してくれよ……。
とまぁぼやいても仕方ないので、親友の救出に向かう。
最近疎遠になっていた分、少しは助けてやろうかね。
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