手の届く存在

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本編

大輝編59話~親友の救難信号~

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これは一体、どういう状況なのか。
俺の誕生日会を終えた翌日、放課後に俺は愛美さんから呼び出されて、待ち合わせ場所に出向いた。
明日香と桜子、睦月は学校から一緒に直行して、その待ち合わせ場所には愛美さんをはじめとする、ハーレムメンバーが全員集合している。

「あの、これは一体……」
「おお、きたか。さて、行くぞ」

愛美さんは俺の手をがっちり掴んで、他のメンバーが俺を前後左右から逃げられない様にホールドする。
駅に近い場所でもあることから、周りの視線がかなり痛い。

「えっと、何処に行くんでしょう……」
「あ?彰のとこ。ケリつけようぜ」
「つけようぜ、って……何でこんな大所帯で……」
「彰はお前の今の状況に納得いかないみたいだからな。現実見せつけてやんだよ。大輝はお前なんかが並ぶことすらできない男なんだってな」

昨夜愛美さんと睦月とで何やらコソコソしてるな、とは思っていたが、まさかこんなことになろうとは。
到着した先は、大きめのカラオケルームだった。
大分大風呂敷広げてる気がするが、俺なんかはみんなの力がなかったらただの男子高校生だ。

「やぁ、きたね……って、本当にこれ全員が大輝くんの……?」
「え、ええまぁ……」
「まぁ話は後だ、入ろうぜ」

愛美さんが予め予約していた様で、愛美さんの名を受付で告げるとでかい部屋に案内された。
彰さんにダメージを与えるのが目的の様だが、何となく俺もダメージを受けている気がする。

「何か入れる?」

桜子がデンモクを手に取って歌おうとしたので、さすがに明日香が今日はそういう目的ではないと窘める。
本当姉妹みたいになってきたなと思う。

「それだったら私がお姉ちゃんだよね?」
「うん、それでもいいんだけどお姉ちゃんはそういうことあんま言わないんじゃないかな」

他愛もない会話を聞いて、彰さんが微笑んでいる。
愛美さんや初対面の和歌さん、フレイヤ等と大人の女性が好みなのかやたら気遣いたっぷりで接しているのが気になる。
まさか、この中の誰かを口説こうなんて考えてるんじゃあるまいな……。

「大輝くんの現状はわかった。愛美が納得してるってこともね。嫌々だったりするのかなって最初は思ってたけど、どうもそうじゃないみたいだ」
「当たり前だろ。これが嫌々に見えるんだったら、あんたの目は節穴だ」

愛美さんが得意そうに彰さんの意見を真っ向から否定した。

「だけど、みんなはそれでいいと思ってるのか?本当に全員?」

彰さんが全員を見回して、最後に俺の顔を見た。
さすがにみんなのことを俺が全部わかってるわけじゃないから、俺を見られても困るんだけど。

「正直、みんな大輝くんが好きで集まってますけど……みんなが好きな大輝くんの部分って、全員違うんじゃないかと思います」
「というと?」
「大体の人は人柄とかで好きになってると思いますけど、優しいところが好きだったり、甘えさせてくれるところが好きだったり」
「生意気な弟みたいなところが好きだったり、ってそれぞれだってことさ。クオリアって聞いたことくらいあんだろ?」
「あー……俺の見ている赤と君の見ている赤が同じ赤か、みたいなことだっけ」
「そゆこと。あたしが見てる大輝が、ほかのみんなに全く同じに見えることなんかあり得ない。ほかのメンバーが好きな大輝をあたしがあまり好きじゃない、なんてことはよくあることだからな」
「結局、その質問自体が私たちにとって大した意味を持たないってことですね」

まぁ確かに、みんなが全く同じ価値観で俺の元に集まってたらさすがに気持ち悪いかもしれない。
しかし、こんなところでクオリアを持ち出してくるとか、愛美さんのイメージにないな。
けど、彰さんはもう、すでにそんなこと理解している様に見える。

理解して、その上で彰さんもまた、愛美さんとのことに純然たる決着を望んでいるのだと、俺は思った。
俺は聞いただけの話だが、あの流産があってからの時間、ずっと彰さんは時間が止まっていたのだろうと。
その止まっている時を動かす為に、愛美さんとの決着を望んだ。

ってことはやっぱこの人、モテるんだろうな。

「大輝くん、君には申し訳ないと思う。だけど、これだけ言わせてほしい」
「…………」
「愛美、俺はあの時からずっと、愛美を思っていた。もし愛美に俺を思う気持ちが少しでもあるなら、俺のところに戻ってきてほしい」

腰を直角に曲げて、彰さんが愛美さんに頭を下げる。
結果はわかっているものの、やはり見ていて冷や冷やする部分がある。
みんなも大体は予想していたのだろうが、それでも彰さんの様子を見て息をのんだ。

「彰……頭上げてくれよ。あたしの時も、一度は止まったし……あんたの気持ちは嬉しくないわけじゃない。気持ちがわからないってことでもない。それでも、あたしの時を動かしてくれたのは、ここにいるみんななんだ」
「…………」
「あんたの止まった時を動かせるのは、あたしじゃない。あんたの時を動かせる相手は、もう別にいるんだろ?」
「さすがだな、愛美……その通りだよ。俺は、その女性の思いに応えたいと思ってた。だけど、今一歩踏み出せなかった。お前のことがずっと頭に引っかかって離れなかったからだ」
「彰、あんたはいい男だ。こんなあたしを見捨てることなく、気遣ってくれてたし。それに、間違いなく結婚してもいいかなって思えた最初の一人だよ、彰は」

さっきまでの俺だったらこの一言にまた少し嫉妬していたのかもしれないが、真剣な様子の二人を見て、そんな気持ちはどこへやら消えてしまう。
みんなも二人を見て、何となくときめきの様なものを覚えているのか、誰一人言葉を発することはなかった。

「だから彰、ありがとう。あと、今までごめん。あたしはもう幸せだから……あんたもこれから幸せになってほしい」

愛美さんがばっさりと彰さんを振って、彰さんとの騒動は幕を下ろした。
彰さんはここの払いもしてくれると言ってくれて、俺と愛美さん以外は喜んでお言葉に甘えることにした。

「あれで、良かったんですかね」
「何が?」

今は桜子が何やらアニメの主題歌を熱唱している。
そんな中、俺と愛美さんはさっきの彰さんについての反省会をしていた。

「いや……彰さん、ちゃんと前向けるんですかねってことですけど」
「あいつはもう、とっくに前向いてたんじゃないか?きっかけがほしかっただけなんだと思うけどな」
「そういうものなんですかね」
「大輝にはわからないかもしれないな。何しろ、まず絶対に失恋とかしないし」
「まぁ……確かにそうかも……」
「何なら一回二回、失恋経験しとくか?」
「嫌ですよ……てか春海が死んだときはそれに近いものがあったわけですし……あんなの何回もあったら俺、つぶれちゃいそうです」
「あの時のお前は見てられなかったからな……」

あの時のことは今でもたまに思い出すけど、ガワの違う本人がすぐ目の前にいたりするのですぐに打ち消される。
しかし、そのことそのものは経験として今も刻まれているので、あれをもう一回となったら正気でいられる自信はさすがになかった。

「まぁ、失恋は人を成長させるけど……それだけが成長させるってわけじゃないからな。でも、大輝が成長する為の手伝いはあたしでもできるから。何かあったらちゃんと言えよな」

そんなことを言ってくれる優しい年長者。
俺もたまには甘えさせてもらおうかな。

「ほら、睦月にばっかり歌わせてないで、大輝も一緒に歌って歌って!」

二人で話し込んでいるところに朋美が割り込んできて、俺は睦月のテンションで歌わされて後半は喉がガラガラになった。


「そういえば、彰さんなんだけど」
「うん?」

後日、生徒会室で生徒会業務に全く関係ない話題を睦月が振ってくる。

「どうやら結婚が決まったらしいよ」
「は?結婚?なんか色々飛ばしてないか?」
「うん、元々付き合ってた人がいたみたいで、その人から結婚しようって話は結構前からあったみたい。だけど、愛美さんのこと吹っ切れてなかったから保留にしてたらしいよ」

そんなことが……仮に愛美さんが、彰さんについてくよ、なんて言ってたらどうなってたんだろう。
修羅場の予感しかしない上に、相手によっては血の惨劇なんてことになったりしたんじゃないだろうか。

「彰さんって、この間の愛美さんの元カレさんでしたっけ。イケメンでしたね」
「そうだねぇ。割と引き際なんかも心得てる様に見えて、男女分け隔てなく気遣いのできる人に見えたかな」
「まぁ、そんな感じに見えたな。というかそのまんまなんだろうけど。嫌味なくああいうことできる人ってすごいと思うわ」
「大輝には難しいもんね。人それぞれだと思うし、真似されたら引いちゃうと思うけど」

そんなことは俺自身がよくわかってるから、改めて言われるとちょっと複雑な心境になるが……正直好きか嫌いかで言われると、彰さんは嫌いなイメージ。
どうも良平とイメージがかぶるんだよな。
イケメンでさりげない気遣いができて……俺にはないものをたくさん持ってる。
持たざる者の悩みってやつだな。

そんなことを考えていたら、俺の携帯が震えるのを感じた。
長く鳴り続くことから、メールなんかじゃなくて電話の着信であることがわかる。

「あ、悪い。ちょっと電話みたい」
「あれ、また女増やす算段かな」
「あほか、良平からだよ。ちょっと行ってくる」

睦月の軽口を軽く受け流して、生徒会室の外で電話に出る。

『た、大輝か?ちょっと困ったことになってる……助けてもらえないか?』
「は?どうしたんだよお前……珍しく息切らして。まさかそういうプレイだとか言わないよな」

何とも切迫した様子が良平から伝わってくる。
あの余裕たっぷりイケメンの良平とも思えない様な余裕のなさ。
一瞬はいい気味だ、なんて考えるが、すぐに尋常でないと考え直した。

「お前、今どこにいんの?」
『駅前から裏路地に入って……圭織、そっち行け!』
「井原も一緒なのか?ってかお前、追われてんの?」
『ちょっと訳アリでな……』
「てか普通に考えて、そっち行けるの結構時間かかっちゃうんだけど。あとどれくらい持ちこたえられそうなの?」
『わからん……けど俺も圭織も、そろそろ体力的にやばいかもしれない……』

あの良平の呼吸が荒いところから見ても、この言葉に嘘はないだろうと推測できる。
あんまり気乗りはしないが、ここは親友の為にひと肌脱ぐしかない。

「一分で行く。待ってろ」
『は?一分?お前、何言って……』

困惑した様子の良平の言葉を最後まで聞くことなく、俺は電話を切って生徒会室に戻った。

「睦月、悪い。ちょっと非常事態みたいだ。先に行くわ」
「ん、わかった。心配ないと思うけど、気を付けてね」

他のメンバーは、何のこっちゃという顔をしていたが、俺はその場で良平の気配を探ってワープした。
後から聞いた話では、俺や睦月の能力を知らない新人三人は、目を丸くしていたという。


「お、お前……大輝……」
「おう、難儀してそうだな良平」

突如目の前に現れた俺を見て、良平も井原も一瞬固まってる様だった。
だが、すぐに二人とも止めていた足を動かして、良平は俺の手を掴んだ。

「逃げるぞ!」
「あ?いいよ、二人ともちょっと離れてろ。間違ってもこっちくんなよ?」

良平の手をふりほどいて、二人を追っていた相手に目を向ける。
五人か……まぁ何とかなるだろ。

「何だお前、そいつを庇うつもりか?」
「まぁな、一応こんなやつでも親友だし。事情はよく知らんけど何かしようって言うなら俺が相手してやるよ」

ちょっと言ってみたかったんだよなぁ。
まぁ、そうそう使う様なセリフでもないが……普通の人間相手ならそうそう負けたりもしないだろう。

「そうかよ、ならカッコつけたことを後悔しながら、死ね!!」

問答無用とばかりに全員で一斉に襲いかかってくる、良平たちを追っていた名も知らない連中。
もちろん俺の敵じゃないが、ここにきて誤算が生じる。

「おい、そこまでだ。そいつらを離せ」
「……あれ、もう一人いたの?」

五人をテンポよくのして、声のした方を見ると良平が片腕を後ろ手に極められて呻いていた。
これはちょっとだけ、やばいかもしれない。

「助けてムツえもーん……」

ぼそっと小声でつぶやいたが、声だけは向こうに聞こえてしまった様だ。

「お前、何ぶつぶつ言ってんだよ。こいつがどうなってもいいのか?」
「いや、ちょっと念仏みたいなものをね……お前のな」

その男の後ろに現れた睦月が、一撃の元にその男を昏倒させて、良平を開放した。
どっかの奪還屋じゃないけど、睦月は何処にいても俺の声が聞こえる、なんて言ってたことがあったから試したけど……本当に聞こえるんだな。

「大輝、私いつからあんなぶっとい青タヌキになったの?」
「あ、いやそれは……」
「あとで話があるからね?」
「は、はい……」

連中を街灯に縛り付けて、手際よくさるぐつわを噛ませていく。
その様子を見ながら、睦月の姿を見て良平と井原は目を丸くしていた。

「お、お前ら何者なの……?」
「いや、普通に人間だよ。目が三つとかある様に見えるか?」
「良平くん、そんなことよりも事情を説明してくれる?」

そう、俺もそれが知りたかったんだよ。
今聞こうとしてたところだったんだけど……。

「実は……」

良平によれば、二人は学校の帰りに待ち合わせして、出かける予定だったそうだ。
井原が先に到着して、良平の到着を待っていたところで井原はさっきの連中に声をかけられた。
彼氏を待っているので、と適当にあしらおうとしていたらしいが、タイミング悪くそこに現れた良平が普段の様にカッコつけて井原を守ろうとした。

ナンパしようとしていたのかさえも微妙なところではあるのだが、彼氏である良平からしてみれば穏やかでなかったのかもしれない。
それが連中の怒りに火をつけたらしく、めでたく追われる結果となったらしい。

「なるほどな。で、こいつらどうする?警察にでも突き出すか?」
「それはあんまり意味ないかな。もしかしたらこっちが傷害なんかの罪に問われるかもしれないし」
「それもそうか。良平、もう少し何とかならなかったのか?」
「いや、お前だって彼女がそんな風に絡まれてたらさすがに同じ様なことするだろ?」

言われて睦月が絡まれてるところを想像してみる。
きっとこいつのことだから、適当にあしらって暴力に訴えてくる様なら悪ふざけしながらのしちゃったりするんだろう。

「大輝、今失礼なこと考えてたでしょ」
「バカ、失礼ってお前……絶対俺の想像通りだと思うぞ」
「まぁ、それはいいとして……井原さん大丈夫?けがとかしてない?」
「う、うん……」

何となく井原の様子がおかしい。
昔からこんなはっきりしないやつだったっけ?

「おい圭織、どうかしたのか?」
「ううん……何でもない……」

明らかに何でもない様には見えないのだが、追及してもだんまりになるだけの様な気がして俺たちは追及をやめた。

「それはそうとお前ら……一体どうやってここまできたんだ?」
「ああ、それな……説明した方がいいか?多分お前信じられないと思うんだけど」

一応の説明をして、信じるかどうかは任せると告げると、何とも言えない顔をしている。
まぁ、予想はしてたけど、良平のこんな顔はなかなか見られないだろうと考えて内心でほくそ笑んだ。

「ってことは何?お前人間じゃないってこと?話が飛躍しすぎじゃね?」
「まぁ、気持ちはわかるよ」
「でもまぁ、そういう力でもなけりゃ説明できないことばっかりだよな……」

何とか納得してもらったみたいで、ひとまずは俺たちの正体を黙っていてもらう方向で話はついた。
井原の様子が少し気にはなるが、今はこの井原を追っていた連中のことだ。

「で、もう一度聞くけどこいつら、どうするの?」
「んー……放置でいいと思うんだけどね。もしかして井原さん、こいつらのこと知ってたりする?」
「え?」

明らかに動揺した様子で、井原が目を泳がせた。
どうやら知っているんだろうが、無理やり聞き出すのが果たして本人の為になるかどうか……。

「知っているなら、話してくれた方が今後の為になるんじゃないかと思うんだけど」
「…………」
「おい圭織……助けてもらってるんだから話さないってのは違うんじゃないか?」
「良平、無理やりにってのはさすがに……」
「……ううん、話す。それで良平が私のこと見る目変わっちゃっても、それは私の責任だし……」
「俺の?どういうことだ?」

井原がぽつりぽつりと語り出した。
最初は笑って聞いていた良平だったが、その表情が徐々に険しいものに変わっていく。
井原が語った内容も当然だが、そこに至った経緯等、俺たちの想像していたものよりも事態が重かったということを、俺たちは理解することになった。


次回に続きます。
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