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本編
Girls side41話~愛美の幸福~
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大輝の心配性にも困ったもんだ。
愛されてるって感じられて嬉しいし、そんな風に心配してくれるの、すごい可愛いんだけどね。
あんなに色々気を回していると、将来ハゲたりしないかちょっとだけ心配になる。
あたしの心は、あの日から……とっくに大輝のものなんだけどな。
なんて、ちょっと臭すぎたかな。
まぁ、大輝のご要望でもあるし、ここはいっちょ、私の過去の話でもしておこうか。
聞いてどうなるの、って正直思う気持ちもあるけど、聞いて大輝が少しでも安心してくれるんだったら、いくらでも語ってやろうじゃないか。
最初に付き合った男は確か……高校の時の一年先輩の人気者だったかな。
あたしもミーハーだったなって今にして思う。
特別好き、とかそういう感情っていうのがまだ理解できてなかった頃だったけど、当時両親の仲がものすごく悪くて、あたしは家に居場所があんまりなかった。
今考えると、居場所をくれるなら誰でも良かったのかもしれないな。
必要とされてる、とか大事にされてる、とか。
そういうのがほしい年頃だったのかも。
ファンの多い先輩だったけど、抜け駆けして口説き落として……初めてだったけど簡単に体許したっけ。
後悔しても仕方ないから、今となってはへたくそだったな、くらいにしか思ってないけど、こういうのも大輝からしたら、信じられないとか言うのかな。
まぁ、信じられないって言われても事実なんだからどうしようもないんだけどさ。
大輝が女神の力でも使って、過去に飛んであたしを止める、とか言ったらそれはそれで面白い。
可愛いこと言ってんなぁ、で済まないところが怖いけど、大輝はそこまでするやつじゃないってあたしは信じてる。
まぁ、そんなこんなであこがれの的だった先輩と繋がって、空虚な満足感を得ていたわけだけど、当然長く続かなかった。
とにかく束縛したがる様なやつで、簡単に言っちゃえば窮屈になっちゃったんだよな。
だから、めんどくさくなってあたしは会うのをやめた。
学校ですれ違っても、完全にシカト。
目も合わせなかった。
周りの女子どもはそんなあたしを見て、調子に乗ってるとか言ってたっけ。
まぁ、調子に乗ってたんだろうな。
自分で言うのも何だけど、あたしは見た目だけは良かったし、胸も結構あったしスタイルだってよかった。
いや、今だって別に太ったりはしてないし、太らない様努力はしてるけど。
だけど、そういう目で見られるのもかったるい、なんて思ってた時期もあったし、法律違反なのも知ってたけどタバコに手を出したりしたこともあった。
その頃男関係は乱れてた自覚もある。
悪い見た目の男にホイホイついていく傾向もあった。
日替わりで男が違ってたこともあったし、地元じゃすっかり怖がられる存在だったと思う。
てか今のあたしが当時のあたしを見たら、迷わず逃げるかぶん殴るかしてるだろうな。
思考も今よりぶっ飛んでたし、自分の体なんか欠片も大事にしてなかったから。
そんな姿勢が、後々の婚約破棄に繋がるのかなって思わなくもない。
寝ないで男の家に入り浸って退廃的な日々を過ごしたりなんて日常茶飯事で、よく高校卒業できたなって思う。
それでもそんなあたしを見捨てないでいてくれたただ一人の人間が、母だった。
母はとりあえず高校を出ただけのあたしに、時間かかってもいいから大学行っとけって言って暇さえあれば説得してきた。
当時若かったから……いや、今だって若いよ?
今より若かったって意味だから。
別に今おばさんになったって意味じゃないから。
話を戻すと、若かったから無駄に反発してて……素直に従うことなんかなかった。
でも、高校出るのと同時に小遣いはストップされたから、自分で稼ぐしかなかった。
仕方なくファミレスでバイトなんかしてたけど、こんなことがしたくて高校卒業したのか?って疑問に思うことが多くなった。
今よりも客からのセクハラとか当たり前にあったし、上司からのセクハラもよくあったから。
まぁ、二、三発殴ってやったら店内のセクハラは止んだんだけどさ。
ある日、同僚の女の子たちが、大学での生活だの授業がどうのって話してるのを聞いた。
その話をしているときのその子らが、あたしにはやたら輝いて見えたんだ。
大学なんて行っても、どうせ四年遊ぶだけで終わるだろ、とか、ヤリサーみたいなの入っちゃって高校のエスカレート版になって終わるだろ、なんて思ってたけど、少しだけ興味が湧いてきた。
そんなある日、母にふと大学行ってもいいかも、なんて言ってみたら母は泣き笑いの表情で喜んだ。
こんなことでも、親って嬉しいものなのか、って思ったりした。
その日からあたしは、無限とも思えるくらい自由にある時間の大半を、勉強に費やした。
こんなに勉強なんかしたのいつぶりだっけ、って思ったりもしたが、これを乗り切れれば大学での楽しい生活が待ってる……かも?って思って割と頑張ってた。
その頃には高校の頃つるんでた悪い友達とも縁が切れて、タバコもいつの間にかやめてた。
シンナーとかドラッグにまで手を出していなかったのは救いだったかもしれない。
というか、出してたら今頃大輝とは知り合ってないだろうし、知り合ってもこんな関係になってないだろう。
翌年、努力の甲斐あって、というかほとんど奇跡みたいな感じであたしは大学に合格できた。
夜間ではなく、ちゃんと全日で通うことのできる大学。
友達もそこそこできて、あたしはその頃にはそこそこ真人間になってきていた気がする。
ちゃんとした彼氏なんかを作ったりもしたし、それなり恋愛を楽しんでいたりもした。
ところが、そういう幸せな時って長く続かないみたいで……。
母が折り合いの悪かった父と離婚したのはあたしが高校二年になったときくらいだった。
それ以来、母は慰謝料やらと自分の仕事であたしを食わせてくれてたんだけど、あたしが大学二年になったときに母は職場の男の人と再婚した。
突然連れてこられて、新しいお父さんだから、なんて言われたけど正直お父さんなんて呼びたくなかった。
別に嫌いだったわけじゃないけど、あたしを見る目がどうもいやらしい。
あたしがそんなわがままボディしてるから悪いのかもしれないけど、それでもその視線を受けるのが苦痛だった。
最初のうちは特に何もなかったんだけど、数か月もすると、母の不在の時にあたしに執拗に迫る様になったんだよね、あのゲス野郎。
母のこともあるし、ってことで最初はやんわり拒否ってたんだけど、度が過ぎると頭にくることもあるわけで……。
しつこい、って言って割と激しく拒否ったら、逆上されて、襲われたんだよね。
まぁ、結果として未遂で終わるんだけど……まぁ、その原因っていうのが、あたしも割と必死だったもんだから勢い余って半殺しにしちゃって。
当然母にもそのことが伝わって、泣いて謝られた。
とっくに汚れ切ってたあたしの体なんかを気遣って、母は即その男と離婚してた。
せっかく掴んだはずの、母の幸せをあたしは壊してしまった、と思った。
今考えたらそれは違うってわかるんだけど。
当時、あたしは母に尊敬の念と申し訳ないって気持ちでいっぱいだったから。
今じゃ笑って話せる話だけど、当時の母は見る影もなくなってしまっていた。
今まで以上に仕事に没頭してたし、まぁ元旦那のその元上司もあたしの件で地方に飛ばされたって聞いたのだけは、ざまぁ見ろって思ったかな。
ただ、そのことがあってからあたしの意識は少し変わって、あたしは少しだけ自分の体を大事にできる様になった。
大学を出て今の会社に就職して、あたしはようやく母に恩返しができる、なんて思っていた。
母の背中を見ていた私は、がむしゃらで働いた。
大学の入学費用やらだって、安くはなかったはずだから。
それらを返して、母には少しでも楽をしてもらいたい、なんて考える様になった。
人間変われば変わるもんなんだな。
母と買い物に行ったりとか、旅行に連れて行ったりすることもあって、割とあたしの生活はその頃充実してたんじゃないかな。
親なんて、と思ってた高校の頃のあたしじゃ考えられない様なことだった。
仕事についてから二年くらいして、同僚に誘われた合コンで、彰とは出会った。
最初は何だかナヨナヨしてて、正直好みじゃなかったのを覚えてる。
それでも向こうは何故かあたしを気に入ったらしく、ありえないほどのアプローチをかけてきたっけ。
会社の前で待ち伏せされたりとか、とにかくあたしを見ていたい、みたいなオーラを出してた。
そんな彰に根負けして、あたしは彰と付き合うことにした。
付き合ってみたら、案外色々相性は良かったんだけど、調子に乗ってたら一年くらいして子どもができた。
当時あたしは結婚とか意識したこともなかったから、軽くパニックになって彰に相談した。
だけど彰は生んでほしいって言って、今まで以上に仕事を頑張るって言ってくれたんだよな、確か……。
それで、次の週くらいに指輪を買ってきて、結婚しようって言われて、これが愛情なのか、って思ったりしたもんだった。
お腹が大きくなる前に式挙げようって言ってくれて、ドレスとか式場選んで、あたしは諦めていた幸せを再び掴んだんだと思ってた。
けどその一方で、彰だけに負担をかけたくないって思いからあたしも、仕事を辞めるという選択はしなかった。
彰は必死で止めてた。
あたしのこと、よくわかってたんだと思う。
頑張りすぎて、あたしは自分で自分の子どもを結果的に殺してしまった。
こうなるのがわかってたから、彰はきっと止めたんだって、そうなってから理解した。
あたしの中で、歯車がどんどん狂っていくのがわかった。
流産したからって、会社を辞めたりはしなかったけど……やはりつらいものはつらかった。
体調を崩したりもしたし、そういうのから逃れたくて酒に逃げたりもした。
流産の報告を彰から聞いて母が駆けつけてくれたけど、あたしは誰とも話す意志を示さなかった。
いつからか彰にもそういうのをぶつける様になってしまって、彰は最後に悲しそうに笑って、あたしの元を去った。
彰がいなくなったあの部屋は、一人で住んでいるには広すぎて思い出も多かったけど、それが自分を戒める結果になれば、と思って今でも住んでる。
だけど、一人でいることに耐えられなくなってきたある日、立ち寄ったコンビニでバイト募集の張り紙を見てこれだって思った。
家に帰ってすぐにそのコンビニに電話して、ダブルワークでも良いか、とか確認して、面接してもらって、採用された。
元の仕事が終わって一人でいるのがつらいと感じていたあたしにとっては、酒以外で現実から逃げるための手段だった。
もちろん、ちゃんと働いてくれるって信じて採用してくれたオーナー夫妻に申し訳ないから、仕事は一生懸命やってるけどね。
で、あたしが働き始めて少しして、世間知らずそうな可愛らしいガキんちょが入ってきて……それが大輝だったんだけど。
でも聞いてみたら生意気にも彼女持ちだって言うし。
こんなガキにも彼女がいるのか、なんて暗い気持ちになって、やめてしまおうかなんて考えた矢先、大輝が陰鬱そうな顔で入ってきて、春海が危ないんだってことがわかって……。
とまぁ長くなるからこのくらいにするけど、実際大輝と付き合う様になってからはほかの男と接触自体がないと言える。
ああ、一回飲み会でほかの会社の男の人に色々アピられたけど、当然ながら右から左でオールスルー。
よくわかったかな、心配性の大輝くん。
「…………」
「ん?」
「ま、愛美さん……」
「な、なんだよ……」
「辛すぎるでしょ、そんな人生……俺、今から過去に行って愛美さんを助けてきます!!」
言うと思った……。
だから話したくなかったんだよ。
一生懸命になってくれるのは嬉しいけど、そんなことしたらあたしはあたしじゃなくなっちゃう。
どんな過去だって、あたしを形成しているパーツの一部なんだ。
「大輝、そういう過去があったから、あたしはお前といられて今幸せなんだけど……それでもあたしの過去変えたい?」
「そ、それは……」
「あたしは、大輝と出会えない未来だったらいらないな。大輝は、あたしと出会って後悔してるのか?」
「んなバカな!」
いつもの様にムキになるのが可愛らしい。
こんなやつだから、あたしは放っておけないんだろうと思う。
「俺は、愛美さんがどんな人だって、大事にしてますよ!」
「そ、そうか」
「たとえ元ヤンでも、それが今の愛美さんを作ってるんだから……」
「待て、あたしが元ヤンなわけじゃない。当時関わりのあった人間が元ヤンだったんだ。勘違いすんな」
「あ、すみません……」
シュンとして、大輝が俯く。
はぁ、もう本当に可愛いやつだ。
周り見てみろ、みんな笑ってるから。
「大輝、ちゃんと愛美さんは話してくれたんだから、大輝はそれをちゃんと受け止める義務があると思うよ」
朋美が珍しく、嫉妬なしで大輝を諭している。
珍しいものが見られた。
話してみるもんだな。
「愛美さん」
「うん?」
「俺、絶対愛美さんを離したりしませんから!幸せにしますから!」
あれ?そういえば何であたし、大輝の誕生日なのに慰められてんの?
「あれれ、愛美さんが泣いてる」
「は!?」
気づいたら、涙が頬を伝っていた。
あたしは長らく、こんな感情を忘れていたのかもしれない。
こんなにも、あたしを大事にしてくれる可愛い彼氏。
こんな可愛い奴の為なら、昔の男なんか紙屑の様に捨て去ってやろう。
今度大輝と一緒に、彰にどれだけあたしが今幸せで、ラブラブなのかっていうのを見せてやろう。
慌ててあたしを抱きしめる大輝の胸の中で、あたしは密かに誓いを立てた。
ハッピーバースデー、大輝。
愛されてるって感じられて嬉しいし、そんな風に心配してくれるの、すごい可愛いんだけどね。
あんなに色々気を回していると、将来ハゲたりしないかちょっとだけ心配になる。
あたしの心は、あの日から……とっくに大輝のものなんだけどな。
なんて、ちょっと臭すぎたかな。
まぁ、大輝のご要望でもあるし、ここはいっちょ、私の過去の話でもしておこうか。
聞いてどうなるの、って正直思う気持ちもあるけど、聞いて大輝が少しでも安心してくれるんだったら、いくらでも語ってやろうじゃないか。
最初に付き合った男は確か……高校の時の一年先輩の人気者だったかな。
あたしもミーハーだったなって今にして思う。
特別好き、とかそういう感情っていうのがまだ理解できてなかった頃だったけど、当時両親の仲がものすごく悪くて、あたしは家に居場所があんまりなかった。
今考えると、居場所をくれるなら誰でも良かったのかもしれないな。
必要とされてる、とか大事にされてる、とか。
そういうのがほしい年頃だったのかも。
ファンの多い先輩だったけど、抜け駆けして口説き落として……初めてだったけど簡単に体許したっけ。
後悔しても仕方ないから、今となってはへたくそだったな、くらいにしか思ってないけど、こういうのも大輝からしたら、信じられないとか言うのかな。
まぁ、信じられないって言われても事実なんだからどうしようもないんだけどさ。
大輝が女神の力でも使って、過去に飛んであたしを止める、とか言ったらそれはそれで面白い。
可愛いこと言ってんなぁ、で済まないところが怖いけど、大輝はそこまでするやつじゃないってあたしは信じてる。
まぁ、そんなこんなであこがれの的だった先輩と繋がって、空虚な満足感を得ていたわけだけど、当然長く続かなかった。
とにかく束縛したがる様なやつで、簡単に言っちゃえば窮屈になっちゃったんだよな。
だから、めんどくさくなってあたしは会うのをやめた。
学校ですれ違っても、完全にシカト。
目も合わせなかった。
周りの女子どもはそんなあたしを見て、調子に乗ってるとか言ってたっけ。
まぁ、調子に乗ってたんだろうな。
自分で言うのも何だけど、あたしは見た目だけは良かったし、胸も結構あったしスタイルだってよかった。
いや、今だって別に太ったりはしてないし、太らない様努力はしてるけど。
だけど、そういう目で見られるのもかったるい、なんて思ってた時期もあったし、法律違反なのも知ってたけどタバコに手を出したりしたこともあった。
その頃男関係は乱れてた自覚もある。
悪い見た目の男にホイホイついていく傾向もあった。
日替わりで男が違ってたこともあったし、地元じゃすっかり怖がられる存在だったと思う。
てか今のあたしが当時のあたしを見たら、迷わず逃げるかぶん殴るかしてるだろうな。
思考も今よりぶっ飛んでたし、自分の体なんか欠片も大事にしてなかったから。
そんな姿勢が、後々の婚約破棄に繋がるのかなって思わなくもない。
寝ないで男の家に入り浸って退廃的な日々を過ごしたりなんて日常茶飯事で、よく高校卒業できたなって思う。
それでもそんなあたしを見捨てないでいてくれたただ一人の人間が、母だった。
母はとりあえず高校を出ただけのあたしに、時間かかってもいいから大学行っとけって言って暇さえあれば説得してきた。
当時若かったから……いや、今だって若いよ?
今より若かったって意味だから。
別に今おばさんになったって意味じゃないから。
話を戻すと、若かったから無駄に反発してて……素直に従うことなんかなかった。
でも、高校出るのと同時に小遣いはストップされたから、自分で稼ぐしかなかった。
仕方なくファミレスでバイトなんかしてたけど、こんなことがしたくて高校卒業したのか?って疑問に思うことが多くなった。
今よりも客からのセクハラとか当たり前にあったし、上司からのセクハラもよくあったから。
まぁ、二、三発殴ってやったら店内のセクハラは止んだんだけどさ。
ある日、同僚の女の子たちが、大学での生活だの授業がどうのって話してるのを聞いた。
その話をしているときのその子らが、あたしにはやたら輝いて見えたんだ。
大学なんて行っても、どうせ四年遊ぶだけで終わるだろ、とか、ヤリサーみたいなの入っちゃって高校のエスカレート版になって終わるだろ、なんて思ってたけど、少しだけ興味が湧いてきた。
そんなある日、母にふと大学行ってもいいかも、なんて言ってみたら母は泣き笑いの表情で喜んだ。
こんなことでも、親って嬉しいものなのか、って思ったりした。
その日からあたしは、無限とも思えるくらい自由にある時間の大半を、勉強に費やした。
こんなに勉強なんかしたのいつぶりだっけ、って思ったりもしたが、これを乗り切れれば大学での楽しい生活が待ってる……かも?って思って割と頑張ってた。
その頃には高校の頃つるんでた悪い友達とも縁が切れて、タバコもいつの間にかやめてた。
シンナーとかドラッグにまで手を出していなかったのは救いだったかもしれない。
というか、出してたら今頃大輝とは知り合ってないだろうし、知り合ってもこんな関係になってないだろう。
翌年、努力の甲斐あって、というかほとんど奇跡みたいな感じであたしは大学に合格できた。
夜間ではなく、ちゃんと全日で通うことのできる大学。
友達もそこそこできて、あたしはその頃にはそこそこ真人間になってきていた気がする。
ちゃんとした彼氏なんかを作ったりもしたし、それなり恋愛を楽しんでいたりもした。
ところが、そういう幸せな時って長く続かないみたいで……。
母が折り合いの悪かった父と離婚したのはあたしが高校二年になったときくらいだった。
それ以来、母は慰謝料やらと自分の仕事であたしを食わせてくれてたんだけど、あたしが大学二年になったときに母は職場の男の人と再婚した。
突然連れてこられて、新しいお父さんだから、なんて言われたけど正直お父さんなんて呼びたくなかった。
別に嫌いだったわけじゃないけど、あたしを見る目がどうもいやらしい。
あたしがそんなわがままボディしてるから悪いのかもしれないけど、それでもその視線を受けるのが苦痛だった。
最初のうちは特に何もなかったんだけど、数か月もすると、母の不在の時にあたしに執拗に迫る様になったんだよね、あのゲス野郎。
母のこともあるし、ってことで最初はやんわり拒否ってたんだけど、度が過ぎると頭にくることもあるわけで……。
しつこい、って言って割と激しく拒否ったら、逆上されて、襲われたんだよね。
まぁ、結果として未遂で終わるんだけど……まぁ、その原因っていうのが、あたしも割と必死だったもんだから勢い余って半殺しにしちゃって。
当然母にもそのことが伝わって、泣いて謝られた。
とっくに汚れ切ってたあたしの体なんかを気遣って、母は即その男と離婚してた。
せっかく掴んだはずの、母の幸せをあたしは壊してしまった、と思った。
今考えたらそれは違うってわかるんだけど。
当時、あたしは母に尊敬の念と申し訳ないって気持ちでいっぱいだったから。
今じゃ笑って話せる話だけど、当時の母は見る影もなくなってしまっていた。
今まで以上に仕事に没頭してたし、まぁ元旦那のその元上司もあたしの件で地方に飛ばされたって聞いたのだけは、ざまぁ見ろって思ったかな。
ただ、そのことがあってからあたしの意識は少し変わって、あたしは少しだけ自分の体を大事にできる様になった。
大学を出て今の会社に就職して、あたしはようやく母に恩返しができる、なんて思っていた。
母の背中を見ていた私は、がむしゃらで働いた。
大学の入学費用やらだって、安くはなかったはずだから。
それらを返して、母には少しでも楽をしてもらいたい、なんて考える様になった。
人間変われば変わるもんなんだな。
母と買い物に行ったりとか、旅行に連れて行ったりすることもあって、割とあたしの生活はその頃充実してたんじゃないかな。
親なんて、と思ってた高校の頃のあたしじゃ考えられない様なことだった。
仕事についてから二年くらいして、同僚に誘われた合コンで、彰とは出会った。
最初は何だかナヨナヨしてて、正直好みじゃなかったのを覚えてる。
それでも向こうは何故かあたしを気に入ったらしく、ありえないほどのアプローチをかけてきたっけ。
会社の前で待ち伏せされたりとか、とにかくあたしを見ていたい、みたいなオーラを出してた。
そんな彰に根負けして、あたしは彰と付き合うことにした。
付き合ってみたら、案外色々相性は良かったんだけど、調子に乗ってたら一年くらいして子どもができた。
当時あたしは結婚とか意識したこともなかったから、軽くパニックになって彰に相談した。
だけど彰は生んでほしいって言って、今まで以上に仕事を頑張るって言ってくれたんだよな、確か……。
それで、次の週くらいに指輪を買ってきて、結婚しようって言われて、これが愛情なのか、って思ったりしたもんだった。
お腹が大きくなる前に式挙げようって言ってくれて、ドレスとか式場選んで、あたしは諦めていた幸せを再び掴んだんだと思ってた。
けどその一方で、彰だけに負担をかけたくないって思いからあたしも、仕事を辞めるという選択はしなかった。
彰は必死で止めてた。
あたしのこと、よくわかってたんだと思う。
頑張りすぎて、あたしは自分で自分の子どもを結果的に殺してしまった。
こうなるのがわかってたから、彰はきっと止めたんだって、そうなってから理解した。
あたしの中で、歯車がどんどん狂っていくのがわかった。
流産したからって、会社を辞めたりはしなかったけど……やはりつらいものはつらかった。
体調を崩したりもしたし、そういうのから逃れたくて酒に逃げたりもした。
流産の報告を彰から聞いて母が駆けつけてくれたけど、あたしは誰とも話す意志を示さなかった。
いつからか彰にもそういうのをぶつける様になってしまって、彰は最後に悲しそうに笑って、あたしの元を去った。
彰がいなくなったあの部屋は、一人で住んでいるには広すぎて思い出も多かったけど、それが自分を戒める結果になれば、と思って今でも住んでる。
だけど、一人でいることに耐えられなくなってきたある日、立ち寄ったコンビニでバイト募集の張り紙を見てこれだって思った。
家に帰ってすぐにそのコンビニに電話して、ダブルワークでも良いか、とか確認して、面接してもらって、採用された。
元の仕事が終わって一人でいるのがつらいと感じていたあたしにとっては、酒以外で現実から逃げるための手段だった。
もちろん、ちゃんと働いてくれるって信じて採用してくれたオーナー夫妻に申し訳ないから、仕事は一生懸命やってるけどね。
で、あたしが働き始めて少しして、世間知らずそうな可愛らしいガキんちょが入ってきて……それが大輝だったんだけど。
でも聞いてみたら生意気にも彼女持ちだって言うし。
こんなガキにも彼女がいるのか、なんて暗い気持ちになって、やめてしまおうかなんて考えた矢先、大輝が陰鬱そうな顔で入ってきて、春海が危ないんだってことがわかって……。
とまぁ長くなるからこのくらいにするけど、実際大輝と付き合う様になってからはほかの男と接触自体がないと言える。
ああ、一回飲み会でほかの会社の男の人に色々アピられたけど、当然ながら右から左でオールスルー。
よくわかったかな、心配性の大輝くん。
「…………」
「ん?」
「ま、愛美さん……」
「な、なんだよ……」
「辛すぎるでしょ、そんな人生……俺、今から過去に行って愛美さんを助けてきます!!」
言うと思った……。
だから話したくなかったんだよ。
一生懸命になってくれるのは嬉しいけど、そんなことしたらあたしはあたしじゃなくなっちゃう。
どんな過去だって、あたしを形成しているパーツの一部なんだ。
「大輝、そういう過去があったから、あたしはお前といられて今幸せなんだけど……それでもあたしの過去変えたい?」
「そ、それは……」
「あたしは、大輝と出会えない未来だったらいらないな。大輝は、あたしと出会って後悔してるのか?」
「んなバカな!」
いつもの様にムキになるのが可愛らしい。
こんなやつだから、あたしは放っておけないんだろうと思う。
「俺は、愛美さんがどんな人だって、大事にしてますよ!」
「そ、そうか」
「たとえ元ヤンでも、それが今の愛美さんを作ってるんだから……」
「待て、あたしが元ヤンなわけじゃない。当時関わりのあった人間が元ヤンだったんだ。勘違いすんな」
「あ、すみません……」
シュンとして、大輝が俯く。
はぁ、もう本当に可愛いやつだ。
周り見てみろ、みんな笑ってるから。
「大輝、ちゃんと愛美さんは話してくれたんだから、大輝はそれをちゃんと受け止める義務があると思うよ」
朋美が珍しく、嫉妬なしで大輝を諭している。
珍しいものが見られた。
話してみるもんだな。
「愛美さん」
「うん?」
「俺、絶対愛美さんを離したりしませんから!幸せにしますから!」
あれ?そういえば何であたし、大輝の誕生日なのに慰められてんの?
「あれれ、愛美さんが泣いてる」
「は!?」
気づいたら、涙が頬を伝っていた。
あたしは長らく、こんな感情を忘れていたのかもしれない。
こんなにも、あたしを大事にしてくれる可愛い彼氏。
こんな可愛い奴の為なら、昔の男なんか紙屑の様に捨て去ってやろう。
今度大輝と一緒に、彰にどれだけあたしが今幸せで、ラブラブなのかっていうのを見せてやろう。
慌ててあたしを抱きしめる大輝の胸の中で、あたしは密かに誓いを立てた。
ハッピーバースデー、大輝。
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