手の届く存在

スカーレット

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本編

Girls side46話~野口桜子~

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「まだあの男と付き合ってるのか。しかもお前は、唯一の存在として見てもらえていないというのに。施設育ちの子など認めないと言ったはずだぞ」

またこの話か。
いい加減飽き飽きしてきている。
顔を合わせれば必ずと言って良いくらい、父はこの話をしてくる。

私にとって誰よりも大事な、大輝くんのことを。
もう、何度目なんだろう。
この人と話していると、どうにも気が滅入ってしまう。

この家にいて、私は自分の思い通りになったことなんかほとんどなかった。
陰でお母さんは私の味方をしてくれてはいた。
だが、あくまで陰で、というもので面と向かって父に口答えをする様なことは一度もない。

養われているのだから、というのもあるのだろうが、結婚にあたって色々あったとは聞いている。
別にお金持ちという家でもないし、由緒正しきなんて似合わないにもほどがある。
それでも世間体というやつが、あの人には私を始めとする家族よりも大事なのだろう。

それでも、中学校の頃に出会った私の趣味であるところのBLだけは無理を言って、家出騒動を起こしてまで認めさせた。
私が私である唯一の証だ。
証なんだけど……。

こんなことなら家出ももう少し後でしたら良かった、と割とすぐに後悔することになった。
大輝くんと付き合うことになったから。
父はすぐに彼の素性や取り巻く環境なんかを調べたみたいで、ロクなものじゃないと断じた。

さすがの私も、これにはBLを馬鹿にされた時の何倍も激昂したのを覚えている。
BLなんかもういいから、代わりに大輝くんとの仲を認めてくれと懇願したこともある。
当然聞く耳持ってくれなくて、私はその日部屋から一歩も出ないという籠城作戦に出たりもした。

まぁ、トイレに行きたくなって数時間で断念したけど、あの父の態度はあんまりだと思った。
私が唯一の存在になれないのなんか、とっくに覚悟していることだ。
後でお母さんから、実は、と打ち明けられたことがある。

父は、会社の部下と私を結婚させたがっている、と。
お気に入りの、可愛がっている部下がいて、私が高校を卒業したらその人と結婚させる腹積もりでいるらしい。
BL以外ほとんどのことが思い通りにならない上に、将来のことまで勝手に決められてたまるか、と私は思った。

家でも外でもそれなりにいい子でいたつもりだし、成績だって常に上位をキープしてきている。
これが容易なことではないということが、あの人にはわからないのかもしれない。
あんまりにも頭にきて、一つ言ってやったことがある。

「お父さんは、その部下の人が可愛すぎて仕方ないんだよね?もしかしてお母さんと結婚して私たちを生んだのも、偽装だったりして?」

根っからのBL脳だと言われればそれまでだが、これしか思いつかなかった。
だって、BLなんて普通に考えたら認めてくれる様な人じゃないもん。

しかし、普段感情をあまり表に出さない父が、この時ばかりは激昂した。
激昂して、勢いもあったのだろうが私は引っぱたかれた。
生まれて初めて、父からの体罰を受けた。

あ、図星なのかな、なんて殴られた瞬間に思った。
痛みよりも怒りよりも、先に出てきたのがやっぱりこの人ホモなんだ……だった。
家で妻と子どもを養う傍らで、外では男の愛人を……。

うわ、心の底から気持ち悪い。

いや、決まったわけではないが……だけど、それ以外に考えられなかった。
そして、更に妄想は激化していく。
きっと、私の趣味を認めたのも私が出かけてたりする間に私のコレクションをこっそり見たり……そうだよね、確かに堂々と買ったり立ち読みなんかしてて、会社の人に見つかったら大ごとだもんね。

趣味は人それぞれだし、私だって人のことはとても言えないけど……それでも、私を隠れ蓑にして自分の趣味を堪能してるんだとしたら、許しがたい。
その上で大輝くんまで馬鹿にする様なことを言って……この人とは一生分かり合えないのではないかと思った。
もしかしたらホモネタで盛り上がる様なことはあるかもしれないが……JKとその父親がホモ談義で盛り上がるっていくら何でもシュールすぎると思う。

そういえば、BLに染まる少し前……子犬を拾って帰ったことがあった。
ありがちだが、雨に打たれて可哀想に見えたから、衝動的に拾って帰った。
私には二つ下の妹と三つ下の弟がいる。
当時まだ小さかった弟妹も喜んで可愛がっていたのだが、これも父の一言で却下された。

「拾ってきた犬など、何があるかわかったものじゃない。犬がほしいのなら買ってやる。どういう犬種だ?」

なんて言ってきたけど、黙ってその子犬を捨てられて憤慨していた私は、もうその時点で犬のことなどどうでもよくなっていた。
考えれば考えるほど、思い出せば思い出すほどに腹立たしい。
しかしこの人と言い争うのも最近ではバカらしいと考える様になってきている。

不毛な争いとはよく言ったもので、もちろん意味は違うが最近あの人の頭髪が段々と心もとないものになっていることを、私は知っている。
私がかけている迷惑や心配が起因しているのか、はたまた仕事が原因なのか、それとも何処かからホモバレしないかとかそういうところからなのか。
いずれにせよ必死で誤魔化しているみたいだし、一応デリケートな部分ではあるので、できる限り触れない様にしてあげている。

父の髪の毛のこともあるし、お互いに不干渉を貫く方がお互いの為、という結論に、私の中で至った。


「ねぇ桜子、私たちに言いたいけど言えないでいる様なこと、ない?」

ある日睦月ちゃんにこんなことを言われた。
この人本当、鋭いというか……まぁ中身が神なんだし、隠し事なんか無意味だってことはおおよそ理解しているつもりだけど。
大輝くんにもまだうちの家族のことについては話していないし、正直突っ走って睦月ちゃんに話していいものか、と迷っていた。

あの父の存在は、私にとっては恥だ。
世間体世間体と口を開けばそればかり。
そんなものより自分の頭髪の心配でもしたら?と言ってやりたい。

まぁ、割と手遅れな予感しかしないけどね、髪の毛については。
そんな父の遺伝子を受け継いでいるであろう私も、将来ハゲたりするんだろうか……それは嫌だな。
どうかお母さんの遺伝子が濃いことを祈るばかりだ。

胸は小さいままでもこの際我慢するし諦めるから。

「ある……けど、睦月ちゃんその気になったら内容まで全部わかるでしょ」
「まぁ、そうなんだけど……仲間内でそういうのってしたくないかなって」

意外な言葉を聞いた気がする。
てっきり私は、とっくにそんなもん暴かれて睦月ちゃんなりの対策なんかを講じてくれているものだとばかり思っていた。
何処か無機質、というのが私の中の睦月ちゃんの印象だっただけに、これには驚かされた。

ちゃんと仲間を大事にする気持ちが備わってたんだな、なんて失礼なことを考えて、きっとこんなこと考えてるのもバレてるんだろうな、と自戒する。

寧ろ人間味が薄いのは私の方だ、って最近では思ったりする。
誰かのせいにするのはあまり好まないが、あの父が大体の原因であろうことはわかっている。
かと言って闇に葬ってしまうか?なんて大それたことができるはずもないのだが。

「大輝には、まだ話さないの?」
「話すよ。話すけど……話したら大輝くん、また無理して頑張っちゃうんじゃないかなって」
「あはは、まぁそれが大輝だからね。それだけ大事にされてるってことだと思うけど」
「大事に、か……」

父に言われたことを思い出してしまう。

「唯一の存在として見てもらえていないというのに」

そんなに大事なことなんだろうか。
日本が一夫多妻を認めていないが故の考え方だ、なんていうのはおかしいことなんだろうか。
私にとって大輝くんは何より誰より大事。

だけど、それと同じくらいほかの仲間も大事。
だから、今の関係が私にとっては最良であると言える。
結婚なんかしなくても、子どもは作れるし生めるし育てられる。

それは大輝くんとあいちゃんが証明してくれたし、私たちもそうなっていくんだろうと予感した。
そしてそれに異を唱えている者もいない。
もしかしたら愛美さんとか和歌さんは本当は結婚したいんじゃないかな、とか思うこともあるし、実際聞いてみたこともある。

「は?当たり前だろ。したいかしたくないかで言われればそりゃしたいさ。周りだって割と遠慮なしにガンガン結婚してるしな……」

愛美さんはそう言って暗黒面に落ちて行った。

「結婚か……憧れはするし、周りでそういう報告があると羨ましいとかあやかりたいという気持ちは確かにあるな。だけど、私たちの在り方というのがこれだというのであれば、私は特に結婚に拘る必要もないかと考えているよ」

そう言った和歌さんは何となくかっこよくて、それを聞いて思わずキュンときてほっぺにチューしてしまった。
目を見開いて驚いていたけど、迷惑という顔でもなかった様で安心した。
私が男に生まれてたら、もしかして和歌さんみたいな人に惚れていたかもしれない。

しかし、何だかんだ誤魔化してきた私の生い立ちも、そろそろ大輝くんたちに話す頃合いなんだと思った。
結婚することがないにしても、子どもが生まれたりするのであれば話は別だ。
親だって嫌でも関わってくる。

というか、孫に関わりたくない、なんて言う様な親だったらこっちから縁切りしてやる。
けどああ見えて父はきっと、孫なんか生まれたら物凄く可愛がるんだろうというのが何となく想像できるし。
私もきっとそうあってほしいんだろうな。


「どうした、桜子。何か最近悩んでる風に見えるけど」

何の脈絡もなく、大輝くんがこんなことを言い出す。
大輝くんが私について……というかメンバー全員に当てはまることだが、変化に対して敏感であるはずがない。
よって、睦月ちゃん辺りが何か言ったんだろうとは思う。

「悩んでるっていうか……昔からの因縁がちょっとね」
「何だそりゃ。俺には言えない様なことか?」
「そういうわけでもないけど」
「そうか、まぁ無理には聞かない様にするけど……」

出た、こういう引き際心得てます風な物言い、私はあまり好きじゃない。
誘い受けっていう言葉を知らないんだろうか。
引き出してもらうのを待ってるんだよ、なんて言っても多分この朴念仁には通じないんだろう。

言いたいことははっきり言え、とか言われるのがオチだ。

ここで無理やり私を抱いたりして、

「ちゃんと言わないなら、イかせてやらないぜ?」

なんて言い出す様ならちょっと見直しちゃうけど……エロ漫画の見過ぎだよね。
けどそんなワイルドな大輝くんもちょっとだけ見てみたい気がする。

そんなことを考えていたら、いつの間にか私は大輝くんを押し倒してしまっていた。
あれ?こんなはずじゃ……。
とは思いながらも、何となく興が乗ってきてしまって、ついつい調子にも乗ってしまう。

「ほら、イかせてほしかったら私の話をちゃんと聞きな……」
「お、お前どうしたの……?」

どうしよう、大輝くんが物凄く困った顔してる。
だけどこのままじゃ収まりがつかないので、とりあえず最後まで頑張っておくことにする。


「なるほどな……思ってたよりは確かに複雑そうだ」

全て終わってちゃんと処理までして、大輝くんは呟いた。
今まで話さなかったことについては特に言及されず、私の明かされることがなかった家庭環境に思いを馳せている様だった。

「一体どんな家庭だと思ってたの?」
「うーん……あの時の口ぶりだと、拾われた子だとか灰かぶり姫みたいな扱いでもされてたりとか……」
「大輝くんてたまに、何考えてるかわからないよね」
「それよく言われるけど、そんなことないと思うぞ。睦月なんかにはすぐ考え読まれるし」
「あの子は神じゃん……人間と比べちゃダメだって……」
「それもそうか。まぁでも……好きなものを頭ごなしに否定されたら、確かに悲しくなるよな」
「ねぇ、それ大輝くんのことなんだけど、他人事っぽく聞こえるのは気のせい?」

大輝くんは言われて少し考える様な素振りを見せた。
ふむ、とか唸って、私の方に向き直る。

「まぁ、そうかもしれないな。だって、桜子のお父さんに会ったことないし。想像できてないのかもしれない」
「ああ……まぁ、ただのハゲたホモ疑惑のあるサラリーマンだよ」
「ぶっ!何だよそれ……ちょっと気になるじゃないか」
「やめてよ、大輝くんまでバイになっちゃったらどうするの……」
「いや、そういう意味じゃねぇから……」


そんな会話がなされた翌日、私は父に呼び出された。
応じなければどうせまた、しつこくグダグダ言うに決まってるので、仕方なく私は父の元へ行くことにした。

「桜子、お前の付き合ってる男なんだが」
「何?また悪口言うの?会ったこともないくせに」
「そう逸るな。一度、会ってみたいと思う。都合つけられるか?」
「どういう風の吹き回し?話に聞いただけで毛嫌いしてたくせに。あ、だから最近抜けてきてるのか」
「…………」

つい憎まれ口を……なんていうレベルを超越した一言を放ってしまって、一瞬口を噤む。
やばい、普段からこのハゲ、とか思ってるのがバレたかもしれない。

「……まぁ、そのことはいい。で、どうなんだ?」
「大輝くんなら、言えばきっと来てくれると思うけど?私の質問にも答えてよ」
「ふむ、まぁこのことは言うのを考えていたんだが……お前に紹介しようとしていた部下が、どうやら他に好きな女ができたらしくてな」
「……はぁ?」
「だからまぁ、何だ……あの話は忘れてもらって……」
「……ふざけんな!!」

自分でも驚くほどの大声が出た。
父も当然驚いている。

「私は、あんたの操り人形じゃない!!結婚だって出産だって、恋愛だって、自分でしたい相手とする!!散々縛り付けて振り回しやがって!!私の人生は私のもので、あんたのものじゃない!!」
「桜子、落ち着け……」
「うるさい、このハゲ!!死ね、このホモ親父!!!」

私の中で禁句中の禁句であるセリフを言い捨てて、私はカバンを持って外に飛び出した。
父が追いかけようとしていた様だったが、私が行くところなんか一つしかない。
多分そう思われていたから、追いかけてくるのをやめたみたいだった。

よく考えたらお母さんと結婚して子どもも作ってるんだから、ホモじゃなくてバイだよね。
いや、問題はそこじゃない。

つい頭が熱くなってしまって、言っちゃいけないことを言った気がする。
多分、傷ついただろうな、と思う。
ハゲとかホモとかは百歩譲っていいとして……死ね、とまで言ってしまったのはいささかやりすぎた感が否めない。

私はみんなの中で癒しキャラとか思われてるのかもしれないけど、実際には感情が高ぶるとかなり口が悪くなったりする。
そのせいで何度もハブられたりしてきたし、それでも朋美や圭織は私をちゃんと友達認定してくれて、その友達を失いたくないから自分を律することにしていた。
努めて怒ったりしない様に、冷静でいよう、と。

そうすることで見えてきたものも沢山あって、結果としては悪くないものだった……はずなんだけど。
あの人を前にすると、どうしても自制ができない。
娘にとっての父親っていうのは、総じてそういうものなんだろうか。

何にせよ、今は家に戻る気になれない。
年頃の娘が出歩く様な時間じゃない、とは思うもののもう、引き返そうなんていう頭はなかった。


「あれ、お嬢ちゃん。こんな時間に一人?危ないよ?俺たちと遊ばない?」

ああ、何でこういうタイミングでこういう輩に遭遇するのか。
こんな気分の時に、こういう嫌いな人種に会ったら……。

「話しかけないで。息が臭い。キモい。死んで」
「はぁ!?今なんつった!!」

ほら。
もう思ったことがどんどん溢れてきて……。
しかも当然のごとく相手は激昂してるっていうね……。

「お前、少しわからせてやるよ!こっちこい!!」

男の一人が私の腕をつかむ。
私に戦闘能力なんてものはない。
だけど、大輝くんの為だけに私の体はある。

そう思うから、必死でカバンを振り回して抵抗した。
しかし、私みたいなちんちくりんがこんな大の男四人を相手に立ちまわって勝利できるはずもなかった。

「おっと、捕まえた……手間かけさせやがって……」

カバンを奪い取られて、絶体絶命の状況だった。
これも、因果応報ってやつなのかな……。
さっき父にひどいこと言ったし……。

だけど、こんな連中に好き勝手されるのは、絶対嫌!!!
大輝くん、助けてよ!!

恐怖で言葉にならなかったが、そこにふっと現れた人物を見て私は固まった。

「大輝……くん……?」
「おう、呼んだか?」
「な、何だお前……今どうやって……」

いきなり目の前に現れた大輝くんを見て、男どもも戸惑っている。
何でこんな一般人の前でワープとかするのかな、この人……。

「そんなことはどうでもいいよ。お前ら、この子に何しようとしてたんだ?大の男が寄って集ってこんな小さな女の子に……」

男どもが少しビビっているのがわかる。
大輝くんは、割と本気で怒っている様に見えた。
少しずつ男どもに近寄っていく大輝くんに、それを避ける様に後ずさっていく男たち。

勝負はもう、決しているも同然だった。

「あ、もう一人いるから」

男どもの後ろから声がして、私のカバンが取り戻される。

「おう、お前もきたのか。俺一人でも十分だけどな」
「そう言わないでよ。バイト帰りの彼氏を迎えにきたのに」
「睦月ちゃん……」
「お、お前ら何者なんだよ……人間か本当に……」
「あー、人間じゃないかもしれないな。というかお前らこそ……こいつに手出してタダで帰れるとか、思ってないよな?」

ニヤリと笑って大輝くんが男どもに迫って、あっという間に四人が伸びた。
何だか安心したのか何なのかわからないが、私はそのまま泣いてしまっていた。


「てかお前……何でこんな時間に外出てんの。今日はお父さんがどうとか言ってなかったっけ?」
「……そうなんだけど……」

私が父に言い放った言葉を聞かせると、大輝くんは顔を青くした。

「お前、それはさすがに言いすぎだぞ……娘からそんなこと言われたら、父親はきっと凹むどころじゃすまないんじゃないか?」
「そう、だよね……」
「桜子って言うことが面白いね。このハゲ、なんてブーム去ってから大分経つのに」
「おい、問題はそこじゃないからな」
「まぁ、とりあえず今帰っても冷静でいられないでしょ。一緒にうち帰ろう?」

睦月ちゃんがそう言って、大輝くんもやれやれと言った様子で、私たちは晩御飯を買って睦月ちゃんのマンションへ移動した。

鼻をグスグスやりながら晩御飯を食べて、シャワーを浴びると気分が少し落ち着いた気がした。

「でもさ、桜子のお父さん、ホモじゃないと思うよ」
「うん……お母さんと結婚して私たちを生んでるし……バイだよね」
「そういうことじゃないっての……。違うよな?」
「うん、桜子の話を聞く限りだと、子犬拾って帰ったことから全部繋がってる気がする」
「どういうこと?」

私が子犬を拾って帰った日、父は無言でその子犬を元の場所に返しに行って、帰ってくるなり犬がほしければ買ってやる、と言った。
そこで私の願いは叶えられなかった。
しかし、その後私はBLに深く感銘を受けて、これだけは許して!!と父に懇願した。

父は、以前子犬のことを許してやれなかったという悔恨の念から渋々BLを許したんじゃないか、と睦月ちゃんは言った。

「だって、子犬とか拾うってテレビでよくやってるけど、予防接種とかしないとだし、世話だって大変だって言うからね」
「まぁ、娘の安全考えたら二つ返事で、ってわけにはいかないかもしれないな」
「…………」

あの父が、私のことをそこまで考えてたってこと?

「娘が可愛くない父親って、あんまりイメージにないかな。朋美のとこだって、ああ見えて割と溺愛してるし」
「ああ、そうだな。初対面の時マジで殺されるかと思ったわ」
「で、これも多分って話ではあるけど……娘可愛さで、娘には真っ当に幸せになってもらいたい、って思いからよくできた部下と結婚してほしかった、って話なんじゃないかなって私は思う」
「なるほど……」
「まぁ、気持ちはわからないでもないな。俺が言うのも何だけど、正直俺が桜子のお父さんだったら同じ様なこと考えるかもしれない。だって、俺たちが神であることを知らないんだし」
「本人がいくら心配ない、って言ったって心配はするだろうし。それが親だと思うからね」
「娘の幸せだって家族の幸せだって守りたい、みたいな気持ちがあるのかもな。俺にはまだそういうのわからないけど」
「とりあえず、一晩経ったら冷静になれるかもしれないし、お母さんに電話しといたら?で、明日ちゃんとお父さんに謝ろう」

睦月ちゃんの提案もあって、私はお母さんに連絡を入れて、睦月ちゃんの家に泊まることを告げた。
父と私の言い争いの声は当然お母さんだけじゃなく弟妹にも聞こえていたらしく、弟妹などは怯えていたと聞いた。
あの子たちにも謝っておかないと。

「そういえばね、お父さんが大輝くんに会ってみたいって」
「えっ……」
「嫌だよね、やっぱり……」
「そうじゃない!そうじゃないけど……緊張するなって」
「大輝、明日一緒に行ってきなよ。バイトもないでしょ?」
「まぁ、ないんだけど……朋美とか明日香の時みたいに上手く行くかはさすがにわからんぞ」
「大輝、このハゲとか言っちゃダメだからね?」
「言うかよ!お前なら言いそうだけどな」
「そういう生意気なこと言う口は、どの口かな?」

見ていて微笑ましい。
私はこの二人を、ずっと見ていたいし、ずっと一緒にいたい。
だから、明日あの頑固者と決着を……その前に一言謝るけど。

翌日、学校が終わって私と大輝くんは私の家へ。
大輝くんは匂いなんかを気にして消臭スプレーを買って吹きかけていた。
育毛剤を買わなかった辺り、睦月ちゃんとは違うなって思う。

修羅場にならないと、いいんだけど……。
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