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本編
Girls side48話~野口桜子その3~
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「大輝くんとお風呂で何してきたの?」
私もお風呂を上がって、父に尋ねる。
まさか大輝くんを開発したりなんて……。
「お前が思ってる様なことは何もない。心配するな」
くっ、腐女子だと思ってバカにしてる。
まぁ、今までの私の行いが招いている結果ではあるのだけど……大輝くんに失礼なこととか言ってないだろうな、この父……。
「大輝くんの全てを見せてくれ、とは言ったがな」
「はぁ!?」
ちょっと待って何それ!
決して聞き捨てならない腐女子大歓喜のセリフを、何男同士の風呂で口走ってくれちゃってるわけ、この親父!
そしてなぜその場に居合わせなかった、私ぃ!!
「あの、桜子、そういう意味じゃないから……」
「はい!?じゃあどういう……」
「いや、俺の力見せてくれって意味だったからな?だって、お前俺の素性お母さんに話したんだろ?」
「あ、確かに……」
先ほどそういえばそんな話になったりしたっけ……。
つい私の中のホットワードに超反応してしまった。
これは将来のことを考えると、至急矯正が必要な案件かもしれないな……。
「ってことは何か見せるの?それとももう見せた?」
「いや、まだこれから。具体的に何するとか決めてないし。桜子は何がいいと思う?」
「何って……何だろう。とても信じられない様なことじゃないと信憑性ないよね」
「あー、睦月がよくやってるので行くか?」
「よくやってるのって?」
お母さんがつけっぱなしにしたテレビでは、今バラエティー番組がやっている。
よくあるグルメ番組みたいだが、それを見た大輝くんが何か思いついた様だった。
「んじゃ、やってみますか」
「あら、何かするの?」
「あ、お母さん」
「大輝くんが力を見せてくれるそうだ」
「あら、じゃあ間に合って良かったわ」
父と大輝くんのやり取りが気になりすぎて、お母さんを置いて風呂から上がってしまったことをすっかりと忘れていた。
本当に人騒がせな父だ。
大輝くんがまず女神に変身する。
これだけでもちょっと両親は驚いた様だった。
何しろ、さっきまでなかった胸があるのだから。
そして何よりも背中の存在感たっぷりな羽にも目が行く。
正直これだけで十分だと思わなくもない。
「じゃ、やりますね」
「お、お手柔らかに頼む」
「大丈夫よ、大輝くんを信じましょう」
大輝くんが集中して、力が開放されたのを感じた。
「テレビ、見てもらえますか」
「ん?」
言われて私もテレビに目を向けると、何とバラエティー番組の出演者が全員、スタジオの観客まで含めて豚になっていた。
「な……」
「ご要望があれば、この人たちが喋るセリフも豚の鳴き声に変えられますよ」
「すごいシュールな絵面だな……豚が服着て二足歩行してるぞ……」
「豚が器用に箸を使ってるのもすごいわね……」
割と綺麗目で売ってる様なモデルや、可愛い感じのアイドル、イケメンな俳優さんまで、もれなく豚になっている。
こんなのが普通に放送されていたら日本は混乱するんだろうな……。
どのチャンネルをつけても出てくるのは豚、豚、豚。
子役の俳優もしっかり子ブタになっている。
両親ともに言葉を失ってテレビ画面を見つめている。
「ま、これはうちのメンバーがよくやる手口なんですけどね。視界ジャックと言いますか」
「すさまじいな……これはテレビに限らずできるってことか?」
「もちろん。お望みとあらば、たとえばそうですね……お母さんを今よりも若く見える様にもできますし、桜子を大人びた感じに見せることもできます」
「ということは……俺の頭に髪の毛を……」
「それはさすがにダメでしょ……往生際悪いよ……」
「ま、まぁできますけどね」
「そうか……でも桜子がああ言ってるし、諦めよう……」
物凄く残念そうな表情を浮かべる父だったが、大輝くんのお節介が発動しないかと、そっちの方が心配だ。
幸いそのお節介は発動することがなかったが、代わりに母が若返りを試してみたいと言い出した。
「細胞なんかをいじるのはやったことないし、ちょっとおっかないので……とりあえず視界ジャックだけでいいですか?」
「もちろんそれで構わないわ」
大輝くんも見てみたいということで、自身の視界もジャックする様だが……人の母親に一体何を期待しているんだろうか、この男……。
そんな私の視線に気づいた大輝くんが、慌てた様子で弁解をする。
「いや、違うって。ほら、俺だけ正常な視界だと、何ていうの?疎外感みたいなものがさ……」
「へぇ、お母さんが若く見えるのは異常らしいよ。どう思う?」
「ちょ、ち、違いますからね!?」
「あらあら、わかってるわよ。さぁ、やって頂戴」
小さい頃に見たこともあるし、正直私はそこまでの驚きはなかった。
しかし、父と大輝くんは私の想像を超える反応を見せていた。
「出会った頃を思い出すな……」
「綺麗……というか可愛らしいですね……いや元々可愛らしいとは思ってましたけど、桜子もこうなるのかな……」
とんでもない期待をしてくれているところ申し訳ないけど、私は確かに大筋ではお母さんに似たかもしれない。
だけど割と細かいところが、お父さんにも似てるってことをお忘れなく……。
そう心の中で呟きながら、私は母に釘付けになって鼻の下が伸びている大輝くんの足を蹴飛ばした。
「まぁ桜子は毛が生えるのもこれからだろうからな」
父が更にとんでもないことを口走る。
実はこの人天然だったりするの?
もう本当、その口を閉じろと思う。
「いや、割とボーボーに生えそろってますけど!?見た目小さい女の子だからって生えてないなんてのは幻想だからね!?」
「さ、桜子……そういうのはさすがに……」
「さすがに私の三倍近く生きてると、二次性徴の時期も忘れちゃうわけ?」
「そ、そうだったのか……人は見た目によらないって言うのは本当だったんだな……」
変なところで感慨深い顔をされた。
娘の毛事情まで把握しないと気が済まないのか、この人……。
いや、見せろとまで言ってこないだけまだいいか……。
てかお母さんの散々見てるんじゃないのこの人は……。
お母さんがお風呂で処理してるの昔何回か見てるし、私だってたまに……まぁそれはいっか。
「え、えっと他に何か見てみたいものとか、ありますか?」
おかしくなってしまった空気を、何とか大輝くんが元に戻そうと懸命に喋っている。
何を客に気を遣わせてるの、この人本当やだ……。
「そうだな……いや、十分だ。お前はどうだ?」
「私も……それに、お客さんで来てもらってるのにあれこれさせるのは、少し気が引けるわ。ありがとうね、大輝くん」
「いえ、その気になれば体力だって何とかできるんで。また何かある様だったら言ってください。力にはなれると思うので」
そんなこと言ったらこの人たちまた調子に乗るかもしれないから、発言には気を付けてほしい。
親の前だからって、変にカッコつけなくていいんだよ。
十分大輝くんの好感度高いんだから。
父が思い出した様に、将来の話を掘り返す。
大輝くんは将来、全員を養えるだけの収入が得られる様な仕事に就きたいと言っていて、それに近いことができるプランが既にあってパトロンもいるという話をした。
そういえば睦月ちゃんのお父さんが、大輝くんを支援するとか言ってたんだっけ。
「あ、でも私とか睦月ちゃんは大輝くんを養うつもりだから」
「え?」
あの父がぽかんとしている。
大輝くんも同様で、お母さんはあらあら、と言った表情。
「いや、俺それ同意してないからな?ていうかできれば家庭に入ってほしい、みんなには。だから俺は全員を養うって決めたんだし」
そんなことを両親の前で言わないでくれ、と大輝くんの目が言っている。
その後雑談を交えながら各自歯を磨いたりと、就寝準備に入った。
両親はもう少し話したい、というオーラを出していたが、父が半分船を漕ぎ始めていたので無理やり中断することにする。
普段頑張ってるのに変に興奮するから、もっと疲れちゃうでしょ。
「あ、そうそう。布団一組しかなかったの。二人は寝るの一緒でも構わないわよね?」
年頃の娘が連れてきた彼氏に、それで本当にいいのか、お母さん……。
もちろん一緒に寝るくらい、もう何度もやってることだからいいんだけど。
しかし、自宅でしかも両親がいるときに二人で一緒になんていうのは当然初めての経験だし、何となく落ち着かない。
それは大輝くんも同じだった様で、布団の中で手をつないではいるが二人して何度も握り返したりしていた。
「落ち着かないね」
「だなぁ……さすがにこうなるとは思わなかったから……」
「布団生成しちゃう?」
「いや、さすがに好意を無碍にする様な真似は……」
「そんなの気にしなくていいと思うけどね」
まぁ、落ち着かないからってこんな状況でおっぱじめるわけにもいかないし、せいぜい抱き合ってチューくらいしかできない。
それでもきっと大輝くんは、唐突に常識を振りかざしてそんなことはしたがらないんだろうけど。
つくづく変なとこ真面目な人だなぁ。
こんな風に周りに気を遣い続けて、疲れたりしないんだろうか。
普通の人に比べて、気遣いの範囲が常軌を逸していると思うんだよね。
生まれつきこういう人なんだろうと思うけど、そんなにも頑張ることはないんじゃないかって、常々思ってる。
まぁ睦月ちゃんとかはその辺のコントロールが上手だなぁって思うし、大輝くんとの付き合いも長いから当たり前なんだけど。
何ていうかあの子は、大輝くんの扱いに関してはもう別格なんだよね……あらゆるところで敵わないけど、本当尊敬できる。
妬んだりって気持ちが全然湧いてこないあたりもさすがだと思う。
何もかもが自然で、あの人には敵わないっていうのを、言葉がなくても思い知る。
それができる人間はそうそういないと思う。
まぁ、あの人神なんだけどね。
「ねぇ、大輝くん」
「……どうした?」
少しまどろみ始めていたのか、やや間があって返事が聞こえる。
ごめんね、まさかそんなに寝つきいいなんて思ってなかったから……。
「突然でごめんね?」
「何言ってんだよ、俺割と楽しかったよ」
「そうなの?父の予測不能な爆弾とか冷や冷やしたけどね、私としては……」
「娘のことが気にならない親とか、そういないんじゃないか?あのくらいは別に普通かなって俺は思ったよ」
「そう思ってくれてるならいいんだけど」
大輝くんはすぐ無茶するし、たまに自分の許容限界理解してないっぽいところあって危なっかしいんだよね。
そういう時は私なんかじゃどうにもならないから、睦月ちゃんにお願いしちゃうと思うんだけど……。
まぁ、今日くらいのものだったら大丈夫かな。
そんな頑張ってくれた彼を労わる様に、私はゆっくり口づけをしようと彼の肩を掴んだ。
「桜子……」
「うん、わかってる……」
「「覗かれてるってことはな……」」
そう、両親がこっそりドアを開けて部屋の中を覗いていた。
どんだけお茶目なのよ本当……。
苦笑いの大輝くんと一緒に起き出して、私は二人を軽く詰問する。
目を泳がせながら必死で言い訳する父を見て、ずっとただの堅物だと思っていた父のイメージが私の中でどんどん変わっていくのを感じた。
結局私たちが寝たのは、割と遅くなってからのことだったと思う。
年甲斐もなくはしゃぐ両親は、何となく可愛らしいものに見えたかもしれない。
翌日、何と父が私たちにプレゼントと称して遊園地の無料券を二枚くれた。
二人の時間を作る、って言ってたけどこういうことだったのか。
でも、きっと両親は私たちがいないのをいいことにプリ帳更新したりするんじゃないかな。
何だか抜け駆けみたいな気分になってしまって、思わず睦月ちゃんに連絡を入れる。
『桜子そういうのあんまりなかったでしょ?だから、ゆっくりしてきなよ。みんなにはちゃんと説明しとくから』
全部を説明しなくても、睦月ちゃんにはちゃんとわかってるみたいだ。
そして当の大輝くんも、大してその辺は気にしてない様だった。
寧ろ、お土産でも買って行こうぜ、とか言って着くなりノリノリで土産物をチェックしていたりした。
そういえば大輝くんって、高所恐怖症とか言ってた気がする。
ソースは樋口さん。
前に樋口さんを口説いたときに遊園地に行って、グロッキーになってたとかなんとか。
手加減しようか、それとも容赦なく絶叫系を連れまわしてやろうか。
たとえ後者だったとしても、きっと大輝くんは青い顔しながらついてきてくれるんだろうなって思う。
そう考えると……やっぱ後者にしよっかな。
「ねね、大輝くんあれ乗りたい」
「…………」
何かこの前テレビのCMでも見た気がする、新型ジェットコースター。
長さだか速さだかの世界記録狙ってるとかで、今度ギネスに申請するとか何かの番組でやっていた気がする。
既に乗っている客がいて、それを見た大輝くんの顔色が見る見る悪くなっていく。
まだ乗ってないのにこの顔色って、大丈夫なんだろうか……。
何だか悪いことをしている気分になってくる。
しかしそれと同じくらい嗜虐心が働いてしまう。
「大丈夫だよ、大輝くん。怖かったら私にしがみついていいから」
「ば、バカ言えよ。そんなみっともないこと、できるか……」
心なしか足がちょっと震えて見える。
トイレは済ませたかな?
変な意地張る癖あるし、ここいらでそういうのやめさせる様に仕向けるのもいいんだけど……やりすぎると人間変わっちゃいそうだからな……。
そうなるとさすがに睦月ちゃんがいい顔しなそうだ。
やっぱり今日はちょっとだけ手加減しよう。
昨日あれだけ両親を構ってくれたんだし、私だってたまには迷惑かけるばっかりじゃなくて恩返しをしなくては。
まぁ、そのジェットコースターには乗ったんだけどね。
必死で悲鳴をあげない様に俯いて、ひたすら歯を食いしばって目を閉じているのが可愛かった。
樋口さんからある程度聞いてはいたけど、実際に見ると庇護欲みたいなものが湧いてくる。
降りたあと、ちょっとだけ涙目になっていて、更に抱きしめたくなる様な衝動に駆られる。
だけどそれはちょっと我慢して、飲み物を買って行ってあげた。
「あ、いくらだった……?」
「いいよ、たまには私にも奢らせて?」
「だってお前、バイトとかしてないんだろ?小遣い制だと大変なんじゃ……」
「少しずつだけど貯金はしてるし。好きな人にこれくらいさせてよ」
「お、おうありがと……じゃあ昼は俺が出すわ」
女の子にお金出させるのが恥、みたいに考えてそうだけど女に集るのは確かに恥じるべきだと思う。
大輝くんはそういうんじゃないし、ヒモになる、なんていうのも半分はネタみたいなものだから、実はあの場の誰も養われるんだろうなとか思ってない。
だけど、私も少しくらいは大輝くんを支えてあげられたらって思うし、その為に今からいい大学行くために頑張ってる。
その為にお父さんにはちょっと無理させちゃうかもしれないけど、その夢が叶ったらきっと、お父さんにもお母さんにも恩返しできると思うから。
色々考えるきっかけになった今回の呼び出し。
今まで知ることのなかったお父さんの一面を沢山知って、今までよりは少しだけ歩み寄れるかなって思う。
だから、大好きなみんなと一緒にいる為に頑張る私の我儘、もう少しだけ聞いてください。
私もお風呂を上がって、父に尋ねる。
まさか大輝くんを開発したりなんて……。
「お前が思ってる様なことは何もない。心配するな」
くっ、腐女子だと思ってバカにしてる。
まぁ、今までの私の行いが招いている結果ではあるのだけど……大輝くんに失礼なこととか言ってないだろうな、この父……。
「大輝くんの全てを見せてくれ、とは言ったがな」
「はぁ!?」
ちょっと待って何それ!
決して聞き捨てならない腐女子大歓喜のセリフを、何男同士の風呂で口走ってくれちゃってるわけ、この親父!
そしてなぜその場に居合わせなかった、私ぃ!!
「あの、桜子、そういう意味じゃないから……」
「はい!?じゃあどういう……」
「いや、俺の力見せてくれって意味だったからな?だって、お前俺の素性お母さんに話したんだろ?」
「あ、確かに……」
先ほどそういえばそんな話になったりしたっけ……。
つい私の中のホットワードに超反応してしまった。
これは将来のことを考えると、至急矯正が必要な案件かもしれないな……。
「ってことは何か見せるの?それとももう見せた?」
「いや、まだこれから。具体的に何するとか決めてないし。桜子は何がいいと思う?」
「何って……何だろう。とても信じられない様なことじゃないと信憑性ないよね」
「あー、睦月がよくやってるので行くか?」
「よくやってるのって?」
お母さんがつけっぱなしにしたテレビでは、今バラエティー番組がやっている。
よくあるグルメ番組みたいだが、それを見た大輝くんが何か思いついた様だった。
「んじゃ、やってみますか」
「あら、何かするの?」
「あ、お母さん」
「大輝くんが力を見せてくれるそうだ」
「あら、じゃあ間に合って良かったわ」
父と大輝くんのやり取りが気になりすぎて、お母さんを置いて風呂から上がってしまったことをすっかりと忘れていた。
本当に人騒がせな父だ。
大輝くんがまず女神に変身する。
これだけでもちょっと両親は驚いた様だった。
何しろ、さっきまでなかった胸があるのだから。
そして何よりも背中の存在感たっぷりな羽にも目が行く。
正直これだけで十分だと思わなくもない。
「じゃ、やりますね」
「お、お手柔らかに頼む」
「大丈夫よ、大輝くんを信じましょう」
大輝くんが集中して、力が開放されたのを感じた。
「テレビ、見てもらえますか」
「ん?」
言われて私もテレビに目を向けると、何とバラエティー番組の出演者が全員、スタジオの観客まで含めて豚になっていた。
「な……」
「ご要望があれば、この人たちが喋るセリフも豚の鳴き声に変えられますよ」
「すごいシュールな絵面だな……豚が服着て二足歩行してるぞ……」
「豚が器用に箸を使ってるのもすごいわね……」
割と綺麗目で売ってる様なモデルや、可愛い感じのアイドル、イケメンな俳優さんまで、もれなく豚になっている。
こんなのが普通に放送されていたら日本は混乱するんだろうな……。
どのチャンネルをつけても出てくるのは豚、豚、豚。
子役の俳優もしっかり子ブタになっている。
両親ともに言葉を失ってテレビ画面を見つめている。
「ま、これはうちのメンバーがよくやる手口なんですけどね。視界ジャックと言いますか」
「すさまじいな……これはテレビに限らずできるってことか?」
「もちろん。お望みとあらば、たとえばそうですね……お母さんを今よりも若く見える様にもできますし、桜子を大人びた感じに見せることもできます」
「ということは……俺の頭に髪の毛を……」
「それはさすがにダメでしょ……往生際悪いよ……」
「ま、まぁできますけどね」
「そうか……でも桜子がああ言ってるし、諦めよう……」
物凄く残念そうな表情を浮かべる父だったが、大輝くんのお節介が発動しないかと、そっちの方が心配だ。
幸いそのお節介は発動することがなかったが、代わりに母が若返りを試してみたいと言い出した。
「細胞なんかをいじるのはやったことないし、ちょっとおっかないので……とりあえず視界ジャックだけでいいですか?」
「もちろんそれで構わないわ」
大輝くんも見てみたいということで、自身の視界もジャックする様だが……人の母親に一体何を期待しているんだろうか、この男……。
そんな私の視線に気づいた大輝くんが、慌てた様子で弁解をする。
「いや、違うって。ほら、俺だけ正常な視界だと、何ていうの?疎外感みたいなものがさ……」
「へぇ、お母さんが若く見えるのは異常らしいよ。どう思う?」
「ちょ、ち、違いますからね!?」
「あらあら、わかってるわよ。さぁ、やって頂戴」
小さい頃に見たこともあるし、正直私はそこまでの驚きはなかった。
しかし、父と大輝くんは私の想像を超える反応を見せていた。
「出会った頃を思い出すな……」
「綺麗……というか可愛らしいですね……いや元々可愛らしいとは思ってましたけど、桜子もこうなるのかな……」
とんでもない期待をしてくれているところ申し訳ないけど、私は確かに大筋ではお母さんに似たかもしれない。
だけど割と細かいところが、お父さんにも似てるってことをお忘れなく……。
そう心の中で呟きながら、私は母に釘付けになって鼻の下が伸びている大輝くんの足を蹴飛ばした。
「まぁ桜子は毛が生えるのもこれからだろうからな」
父が更にとんでもないことを口走る。
実はこの人天然だったりするの?
もう本当、その口を閉じろと思う。
「いや、割とボーボーに生えそろってますけど!?見た目小さい女の子だからって生えてないなんてのは幻想だからね!?」
「さ、桜子……そういうのはさすがに……」
「さすがに私の三倍近く生きてると、二次性徴の時期も忘れちゃうわけ?」
「そ、そうだったのか……人は見た目によらないって言うのは本当だったんだな……」
変なところで感慨深い顔をされた。
娘の毛事情まで把握しないと気が済まないのか、この人……。
いや、見せろとまで言ってこないだけまだいいか……。
てかお母さんの散々見てるんじゃないのこの人は……。
お母さんがお風呂で処理してるの昔何回か見てるし、私だってたまに……まぁそれはいっか。
「え、えっと他に何か見てみたいものとか、ありますか?」
おかしくなってしまった空気を、何とか大輝くんが元に戻そうと懸命に喋っている。
何を客に気を遣わせてるの、この人本当やだ……。
「そうだな……いや、十分だ。お前はどうだ?」
「私も……それに、お客さんで来てもらってるのにあれこれさせるのは、少し気が引けるわ。ありがとうね、大輝くん」
「いえ、その気になれば体力だって何とかできるんで。また何かある様だったら言ってください。力にはなれると思うので」
そんなこと言ったらこの人たちまた調子に乗るかもしれないから、発言には気を付けてほしい。
親の前だからって、変にカッコつけなくていいんだよ。
十分大輝くんの好感度高いんだから。
父が思い出した様に、将来の話を掘り返す。
大輝くんは将来、全員を養えるだけの収入が得られる様な仕事に就きたいと言っていて、それに近いことができるプランが既にあってパトロンもいるという話をした。
そういえば睦月ちゃんのお父さんが、大輝くんを支援するとか言ってたんだっけ。
「あ、でも私とか睦月ちゃんは大輝くんを養うつもりだから」
「え?」
あの父がぽかんとしている。
大輝くんも同様で、お母さんはあらあら、と言った表情。
「いや、俺それ同意してないからな?ていうかできれば家庭に入ってほしい、みんなには。だから俺は全員を養うって決めたんだし」
そんなことを両親の前で言わないでくれ、と大輝くんの目が言っている。
その後雑談を交えながら各自歯を磨いたりと、就寝準備に入った。
両親はもう少し話したい、というオーラを出していたが、父が半分船を漕ぎ始めていたので無理やり中断することにする。
普段頑張ってるのに変に興奮するから、もっと疲れちゃうでしょ。
「あ、そうそう。布団一組しかなかったの。二人は寝るの一緒でも構わないわよね?」
年頃の娘が連れてきた彼氏に、それで本当にいいのか、お母さん……。
もちろん一緒に寝るくらい、もう何度もやってることだからいいんだけど。
しかし、自宅でしかも両親がいるときに二人で一緒になんていうのは当然初めての経験だし、何となく落ち着かない。
それは大輝くんも同じだった様で、布団の中で手をつないではいるが二人して何度も握り返したりしていた。
「落ち着かないね」
「だなぁ……さすがにこうなるとは思わなかったから……」
「布団生成しちゃう?」
「いや、さすがに好意を無碍にする様な真似は……」
「そんなの気にしなくていいと思うけどね」
まぁ、落ち着かないからってこんな状況でおっぱじめるわけにもいかないし、せいぜい抱き合ってチューくらいしかできない。
それでもきっと大輝くんは、唐突に常識を振りかざしてそんなことはしたがらないんだろうけど。
つくづく変なとこ真面目な人だなぁ。
こんな風に周りに気を遣い続けて、疲れたりしないんだろうか。
普通の人に比べて、気遣いの範囲が常軌を逸していると思うんだよね。
生まれつきこういう人なんだろうと思うけど、そんなにも頑張ることはないんじゃないかって、常々思ってる。
まぁ睦月ちゃんとかはその辺のコントロールが上手だなぁって思うし、大輝くんとの付き合いも長いから当たり前なんだけど。
何ていうかあの子は、大輝くんの扱いに関してはもう別格なんだよね……あらゆるところで敵わないけど、本当尊敬できる。
妬んだりって気持ちが全然湧いてこないあたりもさすがだと思う。
何もかもが自然で、あの人には敵わないっていうのを、言葉がなくても思い知る。
それができる人間はそうそういないと思う。
まぁ、あの人神なんだけどね。
「ねぇ、大輝くん」
「……どうした?」
少しまどろみ始めていたのか、やや間があって返事が聞こえる。
ごめんね、まさかそんなに寝つきいいなんて思ってなかったから……。
「突然でごめんね?」
「何言ってんだよ、俺割と楽しかったよ」
「そうなの?父の予測不能な爆弾とか冷や冷やしたけどね、私としては……」
「娘のことが気にならない親とか、そういないんじゃないか?あのくらいは別に普通かなって俺は思ったよ」
「そう思ってくれてるならいいんだけど」
大輝くんはすぐ無茶するし、たまに自分の許容限界理解してないっぽいところあって危なっかしいんだよね。
そういう時は私なんかじゃどうにもならないから、睦月ちゃんにお願いしちゃうと思うんだけど……。
まぁ、今日くらいのものだったら大丈夫かな。
そんな頑張ってくれた彼を労わる様に、私はゆっくり口づけをしようと彼の肩を掴んだ。
「桜子……」
「うん、わかってる……」
「「覗かれてるってことはな……」」
そう、両親がこっそりドアを開けて部屋の中を覗いていた。
どんだけお茶目なのよ本当……。
苦笑いの大輝くんと一緒に起き出して、私は二人を軽く詰問する。
目を泳がせながら必死で言い訳する父を見て、ずっとただの堅物だと思っていた父のイメージが私の中でどんどん変わっていくのを感じた。
結局私たちが寝たのは、割と遅くなってからのことだったと思う。
年甲斐もなくはしゃぐ両親は、何となく可愛らしいものに見えたかもしれない。
翌日、何と父が私たちにプレゼントと称して遊園地の無料券を二枚くれた。
二人の時間を作る、って言ってたけどこういうことだったのか。
でも、きっと両親は私たちがいないのをいいことにプリ帳更新したりするんじゃないかな。
何だか抜け駆けみたいな気分になってしまって、思わず睦月ちゃんに連絡を入れる。
『桜子そういうのあんまりなかったでしょ?だから、ゆっくりしてきなよ。みんなにはちゃんと説明しとくから』
全部を説明しなくても、睦月ちゃんにはちゃんとわかってるみたいだ。
そして当の大輝くんも、大してその辺は気にしてない様だった。
寧ろ、お土産でも買って行こうぜ、とか言って着くなりノリノリで土産物をチェックしていたりした。
そういえば大輝くんって、高所恐怖症とか言ってた気がする。
ソースは樋口さん。
前に樋口さんを口説いたときに遊園地に行って、グロッキーになってたとかなんとか。
手加減しようか、それとも容赦なく絶叫系を連れまわしてやろうか。
たとえ後者だったとしても、きっと大輝くんは青い顔しながらついてきてくれるんだろうなって思う。
そう考えると……やっぱ後者にしよっかな。
「ねね、大輝くんあれ乗りたい」
「…………」
何かこの前テレビのCMでも見た気がする、新型ジェットコースター。
長さだか速さだかの世界記録狙ってるとかで、今度ギネスに申請するとか何かの番組でやっていた気がする。
既に乗っている客がいて、それを見た大輝くんの顔色が見る見る悪くなっていく。
まだ乗ってないのにこの顔色って、大丈夫なんだろうか……。
何だか悪いことをしている気分になってくる。
しかしそれと同じくらい嗜虐心が働いてしまう。
「大丈夫だよ、大輝くん。怖かったら私にしがみついていいから」
「ば、バカ言えよ。そんなみっともないこと、できるか……」
心なしか足がちょっと震えて見える。
トイレは済ませたかな?
変な意地張る癖あるし、ここいらでそういうのやめさせる様に仕向けるのもいいんだけど……やりすぎると人間変わっちゃいそうだからな……。
そうなるとさすがに睦月ちゃんがいい顔しなそうだ。
やっぱり今日はちょっとだけ手加減しよう。
昨日あれだけ両親を構ってくれたんだし、私だってたまには迷惑かけるばっかりじゃなくて恩返しをしなくては。
まぁ、そのジェットコースターには乗ったんだけどね。
必死で悲鳴をあげない様に俯いて、ひたすら歯を食いしばって目を閉じているのが可愛かった。
樋口さんからある程度聞いてはいたけど、実際に見ると庇護欲みたいなものが湧いてくる。
降りたあと、ちょっとだけ涙目になっていて、更に抱きしめたくなる様な衝動に駆られる。
だけどそれはちょっと我慢して、飲み物を買って行ってあげた。
「あ、いくらだった……?」
「いいよ、たまには私にも奢らせて?」
「だってお前、バイトとかしてないんだろ?小遣い制だと大変なんじゃ……」
「少しずつだけど貯金はしてるし。好きな人にこれくらいさせてよ」
「お、おうありがと……じゃあ昼は俺が出すわ」
女の子にお金出させるのが恥、みたいに考えてそうだけど女に集るのは確かに恥じるべきだと思う。
大輝くんはそういうんじゃないし、ヒモになる、なんていうのも半分はネタみたいなものだから、実はあの場の誰も養われるんだろうなとか思ってない。
だけど、私も少しくらいは大輝くんを支えてあげられたらって思うし、その為に今からいい大学行くために頑張ってる。
その為にお父さんにはちょっと無理させちゃうかもしれないけど、その夢が叶ったらきっと、お父さんにもお母さんにも恩返しできると思うから。
色々考えるきっかけになった今回の呼び出し。
今まで知ることのなかったお父さんの一面を沢山知って、今までよりは少しだけ歩み寄れるかなって思う。
だから、大好きなみんなと一緒にいる為に頑張る私の我儘、もう少しだけ聞いてください。
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