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本編
Girls side51話~宮本明日香その3~
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「どうぞ、お気をつけて」
「お世話になりました」
翌朝、私は大輝くんと一緒に宿を出た。
時刻はまだ朝の八時過ぎだが、私が言い出したことだし寝てもいられない。
それに、いつ睦月を始めとする追手が迫ってくるかわからない。
もし近くまできているんだとしたら、捕まってしまう前に大輝くんが行こうと言ってくれたお寺には行っておきたい。
彼が何かを提案してくれることなんて希少だし、何より成り行きとはいえその相手を私に選んでくれたことが嬉しかった。
「明日香、行こうか」
「ええ。少し距離ありそうだけど大輝くん、道は大丈夫かしら?」
大輝くんは方向音痴だ。
一人で出かけると、地元でもたまに迷子になったりする。
もちろん最近は女神の力でその辺を克服しつつある様だが、この二日間でその力を使っているところを見ていない。
正直、この宿までもちゃんと来られたのが不思議で仕方ない。
いや、風任せの成り行き任せでフラフラと到着しただけなのかも……。
そう考えると少しだけ不安になる。
「何言ってんだよ明日香。俺たちには、文明の利器があるだろ」
そう言って取り出したのはスマホだった。
ああ、確かにナビ機能なんかもあるし……滅多なことでは迷ったりしないだろう。
時間にしておよそ二十分程度歩いたところに、その神社はあるらしい。
大輝くんが手を差し伸べてきて、私はそっとその手を握った。
「何だか、少し冷え込みがきつくなってきた様な……」
「そうか?俺は感じないけど……これ、使うか?」
大輝くんがホッカイロを取り出して、私に握らせる。
こんなにも準備がいい大輝くんは、初めて見た気がする。
これも、私の為にと用意してくれたのだと考えると嬉しい気持ちになった。
距離にして半分程度歩いたところで、やはり冷え込みが……というより、これは……冷気?
「大輝くん!?」
「うっおっ!?」
目の前に突如現れた氷柱が、大輝くんを包み込む様に氷漬けにしていく。
咄嗟のことに大輝くんも対応できなかった様で、見る見るうちに大輝くんは氷のオブジェになってしまった。
こんなことができるのは……。
「おはよう、明日香。それに大輝……」
「…………」
恐怖で言葉が上手く出てこない。
昨夜、謝ろうなんて考えていたくせに、このザマだ。
「明日香がこんなに大胆な子だったなんてね……私としては意外だったんだけど。成長なのかな、これも」
「大輝くんを、開放して……」
「ん?状況わかってる?危機的状況、とかじゃなくてもう絶体絶命ってやつなんだけど」
「わかってる……だけど、このままじゃ大輝くんが凍死しちゃう……私は、私はどうなっても構わないから、大輝くんを開放してよ!!」
「へぇ……大輝、愛されてるなぁ……嬉しいよ、大輝のこと、そこまで思ってくれるなんて。だけど、そのお願いは聞けない。明日香……裏切ったらどうなるか……思い知る時だよ」
目の前に現れた睦月は、普段の人間の姿ではなく既に女神の姿になっている。
それだけ、本気で怒っているということか……。
しかし、大輝くんがこのままじゃ……。
「大輝は元々私のものだった。だけど、ああいう風にハーレム形成しないと死んじゃうのが運命だったから……だから私は大輝を共有する道を選んだ。だけど、それは誰かに渡す為じゃない」
「…………」
「だから、私は決めてたの。裏切る者がいれば、そいつには……悲惨な死を、ってね」
ゆっくりと迫る睦月。
ただの人間である私が太刀打ちなど、到底できるはずもない。
ここで終わりなのか……。
「……めん……な……!」
「!?」
「太陽の神の力、なめんなぁぁ!!」
大輝くんの声がしたと思ったら、氷柱にヒビが入り、光り輝く。
あの睦月でさえ、まさか、という顔でその様子を見ていた。
「うおおおおおおおおお!!!」
轟音と共に氷柱が砕けて、大輝くんが私の前に立ちはだかった。
背中に羽が見えるということは、力を使ったのか……。
「明日香、場所は覚えてるか?」
「え、ええ……」
「先に行け。お前だけは絶対こんなところで死なせたりしない」
「い、嫌よ!バカなこと言わないで!!私だって一緒に……」
「明日香!!……聞き分けてくれ。こいつは俺が死んでも止めるから。こんな時くらい、カッコつけさせてくれよ」
まだ動けずにいる私の頭をなでて、大輝くんがはにかむ。
「二人で絶対、あの神社に行くんだ。だから、行け!!」
「へぇ……そこまでして明日香を庇うなんて、そんなに明日香が大事なの?」
「当たり前だ。ずっと一緒にいるって、約束したんだからな」
「なら、その望みはすぐに叶えられるよ……死んで、一緒にいられることになるんだからね!!」
「明日香、行け!五秒で片づけて俺も後追うからよ!!」
そう叫んで大輝くんは私を後ろに突き飛ばして、睦月に肉薄した。
睦月は大輝くんの相手で、私にまで手が回らない様だ。
……こんなところで、大輝くんの覚悟を無駄にするわけにはいかない。
私は震える足を懸命に突き動かして、走った。
息が切れても、足が痛くなってきても。
大輝くんはきっとくる。
だから、どんなに無様でも……私はきっと到着して、大輝くんと一緒にあの神社で……!
どれだけの時間、距離走ってきたのか……普段の運動不足を呪いながら、私はその神社にたどり着いた。
綺麗な神社だ。
サイトで紹介されるだけあって、風情がある様に見える。
まだ大輝くんは追い付いてこないが、私は恐る恐るその神社の名所であるナギの木とクスノキの木があるところを目指す。
足がまだがくがくと震えているが、それでもこんなところで立ち止まってしまうことはしない。
「これが……」
大輝くんが、私と行こうと言ってくれた、名所。
縁結びの……。
「そうだね、ここで死んで、二人は結ばれる。良かったね」
「!!」
背後から、背筋が凍る様な雰囲気と声音。
絶望という言葉が頭をよぎる。
「五秒か、私も甘く見られたものだ……」
そう言って睦月が何か、私の足元に放り投げた。
「ひっ!?」
それはもう、絶命していると一目でわかる大輝くんの……生首だった。
大輝くんが、死んだ……?
最後に大輝くんが私に向けてくれた笑顔がよみがえる。
「大輝も、バカだよね。明日香を説得できれば、まだ平和に過ごせたはずなのに」
「…………」
「あーあ、またやり直しか……ここまで結構苦労したんだけどなぁ……」
「…………」
「何か、言いたいことはないの?言い残したことがあるなら、聞くけど」
「…………」
睦月が何かを言っている様だが、一向に耳に入ってこない。
いや、入ってはきている。
だけど、それに取り合う気力はなかった。
しかし……何だろうか、この湧き上がる様な熱い思い……。
心の奥底から……体の中から、湧き上がってくる、この思い……。
「……して……やる……!」
「ん?何?聞こえないよ」
「殺してやる!!よくも、大輝くんを!!!」
気づけば私は、敵うはずもない相手に掴みかかっていた。
何処に向けたらいいかわからない無力感を、怒りを、睦月に全てぶつけるべく。
「へぇ、明日香にそんな力がね。でも、人間の力で女神に勝てるなんて、本気で思ってるの?」
「うるさい!!絶対に、殺してやる!!」
こんなにも怒りを覚えたことは、今まで生きてきて、なかった。
こんなにも絶望したことは、今までになかった。
こんなにも声を荒らげて、人に怒りを向けたことも……。
「ぐっ……!!」
睦月が放った一撃で、私は吹き飛ばされた。
まだだ、まだやれるはずだ。
私は、必ず大輝くんの仇を……!!
「はぁ……がっかりだよ、明日香。明日香はもっと、冷静で聡明な子だと思ってたんだけど」
「うる……さい……」
「何がそこまで明日香を突き動かすの?大輝?でももう死んじゃったんだよ?」
「だま……れ……」
「ああ、そっかぁ。なまじ姿が見えるからいけないんだね。じゃあ、こうすれば……」
「!!」
睦月が大輝くんの生首のところまで歩いて行って、その足を振り上げた。
「ダメ!!」
咄嗟に私は大輝くんを抱えて転がった。
受け身が取れなくて背中を強く打ってしまって、一瞬呼吸が止まったがそんな場合じゃない。
「もう、そこのそれは大輝じゃないんだよ?そんなにまでして守って、どうするの?」
「あなたにはわからない……大輝くんを……私は……」
「そんなに死にたいなら、もういいよ。大輝の後を、すぐに追わせてあげるから」
「私は、大輝くんを愛しているんだから!!!!」
私の絶叫と共に、腹部に強烈な痛みが走った。
腹を貫かれたのだと、瞬時に理解した。
「かは……」
「ジエンド、だね。気分はどう?痛い?辛い?苦しい?でも、そのどれも明日香のわがままが招いた結果なんだよ?理解しているかな?」
「…………」
さすがにこれはもう致命傷であるということは理解した。
大量に流れだしている血液とともに、私の体から力が抜けていくのがわかる。
睦月の言う通り、私の子どもじみた我儘が、この結果を生んでしまった。
大輝くんを、死なせてしまった……。
私なんかを守ろうとして、大輝くんは……。
「バイバイ明日香。次は幸せになれると、いいね」
目の前の女神の、無慈悲かつ冷徹なるな一撃によって、私の意識はそこで途絶えた。
何故私は、あんな我儘を通したのだろう……何で睦月に戦いを仕掛けるなんていう、無謀としか言えない愚挙に出たのだろう。
死んでしまっても、まだ意志が残るのか。
私は地縛霊にでもなってしまったのか?
「……か……」
何か声が聞こえる。
こんな真っ暗な空間に、誰かいるとは考えにくいんだけど。
「……すか……」
聞き覚えのある様な、温かみのある声。
男の子なのに高めで、私が愛してやまなかった声。
「明日香!起きろって!!」
「!?」
大輝くんの声が響いて、私の意識は覚醒した。
ここは……自宅?
「やっと目が覚めたみたいだな。気分はどうだ?」
「え……え?」
わけがわからない。
何で私は生きているの?
私は確かに、睦月に殺されたはず……というか大輝くんだって……。
大輝くん……?
「お、おいどうした、何で泣いてんだよ!?」
「い、いぎでる……だいぎぐんが……うっ……いぎでる……」
「お、おう、生きてるぞ……よっぽどだったんだな、本当……明日香が泣くなんて……」
そう言いながら大輝くんは、そっと私の頭を抱いた。
暖かい。
本当に、目の前で大輝くんが生きている。
そして私も、生きている。
そのことがたまらなく嬉しくて、そのまま私は声を上げて泣いた。
そんな私の声を聞きつけた父が、部屋に飛んできてちょっとした騒ぎになった。
「ってことは何?全部、夢だったってこと?」
「あー……まぁ、そうなるな。だって、まだ今土曜のおやつの時間だし。初めてやったからさすがに上手く行くか不安だったけど、どうやら何とかなったみたいだ」
説明を受けた上でそう言われて時計を見て、私は驚愕した。
あれからまだ二時間しか経ってない、ってこと?
「ごめんな明日香。お前を連れて逃げるなんて、俺にはできない。だって、そうなればさっきの夢みたいに、お前に辛い思いさせることになるから。睦月はそれくらい平気でするだろうからな」
「…………」
「実際にそうしたらどうなるか、って言うのを見せてやるのがいい、って睦月が教えてくれてさ。お前の様子が最近おかしかったから、って」
「…………」
お見通しだったってわけか。
本当に、敵わない。
「その、明日香……気づいてやれなくてごめんな。昨日聞かされて、初めてわかったんだよ」
「そう……でもね、いいの。私には、大輝くんを独り占めして、なんていうのは過分な願いだったって、さすがに思い知った」
「んー……それなんだけどさ。週に一回程度、誰々の日って決めて二人で過ごす日を作ろうか、って睦月が言ってたんだよ」
「え……?」
「もっと早く気づいてあげられれば良かったんだけど、ってさ。でも、明日香はそういうの功名に隠すから。実際大したものだと思うぞ。あの睦月の目を長いこと欺いてきたんだから」
「…………」
褒められているのはわかるが、どうにも嬉しくない。
早い話が、隠し事はこれから控えてくれとかそういうことなんだろうし。
それに人の目を欺くっていう響きがそもそもいいものと思えない。
とはいえ、睦月がそこまで考えてくれるというのであれば、結果オーライというものだろう。
私が悩んでいたということそのものは無駄ではなかったということになる。
「でも、あの温泉の暖かさとかよく再現したわね。実際に行ったことあるの?」
「まぁ、すごい昔な。五歳とかそのくらいの頃だったかな」
「なるほど……睦月の冷気とか氷なんかは一回くらってるんだったかしら」
「まぁな……あいつ、漫画とかアニメで見た技再現しようとするの、本当ずるいよな。俺なんかあんなことそうそうできないっつーのに」
「それより大輝くん……私、あなたが首ちょんぱされて死んだっていうのがトラウマになりそうなんだけど。夜中怖くてトイレも行けなそう」
「あ、ああ……あれな……ちょっとやりすぎちまったか」
「ちゃんと責任、取ってくれるのよね?」
しっかりしなければ、なんて思って今まで肩肘張って生きてきたけど、これからは少しくらい甘えてもいいのかも、と今回のことで思えた。
まだ週末の数時間、正直さっきの夢は真に迫りすぎてて今でも少し怖いけど……それでも、大輝くんがこれからは私に甘えさせてくれるんだろうと思うと収穫はあった気がする。
これからはもう少しだけ、みんなに素の私を見せていけるかもしれない。
手始めに、今夜のお風呂は大輝くんと一緒に入ろう。
「お世話になりました」
翌朝、私は大輝くんと一緒に宿を出た。
時刻はまだ朝の八時過ぎだが、私が言い出したことだし寝てもいられない。
それに、いつ睦月を始めとする追手が迫ってくるかわからない。
もし近くまできているんだとしたら、捕まってしまう前に大輝くんが行こうと言ってくれたお寺には行っておきたい。
彼が何かを提案してくれることなんて希少だし、何より成り行きとはいえその相手を私に選んでくれたことが嬉しかった。
「明日香、行こうか」
「ええ。少し距離ありそうだけど大輝くん、道は大丈夫かしら?」
大輝くんは方向音痴だ。
一人で出かけると、地元でもたまに迷子になったりする。
もちろん最近は女神の力でその辺を克服しつつある様だが、この二日間でその力を使っているところを見ていない。
正直、この宿までもちゃんと来られたのが不思議で仕方ない。
いや、風任せの成り行き任せでフラフラと到着しただけなのかも……。
そう考えると少しだけ不安になる。
「何言ってんだよ明日香。俺たちには、文明の利器があるだろ」
そう言って取り出したのはスマホだった。
ああ、確かにナビ機能なんかもあるし……滅多なことでは迷ったりしないだろう。
時間にしておよそ二十分程度歩いたところに、その神社はあるらしい。
大輝くんが手を差し伸べてきて、私はそっとその手を握った。
「何だか、少し冷え込みがきつくなってきた様な……」
「そうか?俺は感じないけど……これ、使うか?」
大輝くんがホッカイロを取り出して、私に握らせる。
こんなにも準備がいい大輝くんは、初めて見た気がする。
これも、私の為にと用意してくれたのだと考えると嬉しい気持ちになった。
距離にして半分程度歩いたところで、やはり冷え込みが……というより、これは……冷気?
「大輝くん!?」
「うっおっ!?」
目の前に突如現れた氷柱が、大輝くんを包み込む様に氷漬けにしていく。
咄嗟のことに大輝くんも対応できなかった様で、見る見るうちに大輝くんは氷のオブジェになってしまった。
こんなことができるのは……。
「おはよう、明日香。それに大輝……」
「…………」
恐怖で言葉が上手く出てこない。
昨夜、謝ろうなんて考えていたくせに、このザマだ。
「明日香がこんなに大胆な子だったなんてね……私としては意外だったんだけど。成長なのかな、これも」
「大輝くんを、開放して……」
「ん?状況わかってる?危機的状況、とかじゃなくてもう絶体絶命ってやつなんだけど」
「わかってる……だけど、このままじゃ大輝くんが凍死しちゃう……私は、私はどうなっても構わないから、大輝くんを開放してよ!!」
「へぇ……大輝、愛されてるなぁ……嬉しいよ、大輝のこと、そこまで思ってくれるなんて。だけど、そのお願いは聞けない。明日香……裏切ったらどうなるか……思い知る時だよ」
目の前に現れた睦月は、普段の人間の姿ではなく既に女神の姿になっている。
それだけ、本気で怒っているということか……。
しかし、大輝くんがこのままじゃ……。
「大輝は元々私のものだった。だけど、ああいう風にハーレム形成しないと死んじゃうのが運命だったから……だから私は大輝を共有する道を選んだ。だけど、それは誰かに渡す為じゃない」
「…………」
「だから、私は決めてたの。裏切る者がいれば、そいつには……悲惨な死を、ってね」
ゆっくりと迫る睦月。
ただの人間である私が太刀打ちなど、到底できるはずもない。
ここで終わりなのか……。
「……めん……な……!」
「!?」
「太陽の神の力、なめんなぁぁ!!」
大輝くんの声がしたと思ったら、氷柱にヒビが入り、光り輝く。
あの睦月でさえ、まさか、という顔でその様子を見ていた。
「うおおおおおおおおお!!!」
轟音と共に氷柱が砕けて、大輝くんが私の前に立ちはだかった。
背中に羽が見えるということは、力を使ったのか……。
「明日香、場所は覚えてるか?」
「え、ええ……」
「先に行け。お前だけは絶対こんなところで死なせたりしない」
「い、嫌よ!バカなこと言わないで!!私だって一緒に……」
「明日香!!……聞き分けてくれ。こいつは俺が死んでも止めるから。こんな時くらい、カッコつけさせてくれよ」
まだ動けずにいる私の頭をなでて、大輝くんがはにかむ。
「二人で絶対、あの神社に行くんだ。だから、行け!!」
「へぇ……そこまでして明日香を庇うなんて、そんなに明日香が大事なの?」
「当たり前だ。ずっと一緒にいるって、約束したんだからな」
「なら、その望みはすぐに叶えられるよ……死んで、一緒にいられることになるんだからね!!」
「明日香、行け!五秒で片づけて俺も後追うからよ!!」
そう叫んで大輝くんは私を後ろに突き飛ばして、睦月に肉薄した。
睦月は大輝くんの相手で、私にまで手が回らない様だ。
……こんなところで、大輝くんの覚悟を無駄にするわけにはいかない。
私は震える足を懸命に突き動かして、走った。
息が切れても、足が痛くなってきても。
大輝くんはきっとくる。
だから、どんなに無様でも……私はきっと到着して、大輝くんと一緒にあの神社で……!
どれだけの時間、距離走ってきたのか……普段の運動不足を呪いながら、私はその神社にたどり着いた。
綺麗な神社だ。
サイトで紹介されるだけあって、風情がある様に見える。
まだ大輝くんは追い付いてこないが、私は恐る恐るその神社の名所であるナギの木とクスノキの木があるところを目指す。
足がまだがくがくと震えているが、それでもこんなところで立ち止まってしまうことはしない。
「これが……」
大輝くんが、私と行こうと言ってくれた、名所。
縁結びの……。
「そうだね、ここで死んで、二人は結ばれる。良かったね」
「!!」
背後から、背筋が凍る様な雰囲気と声音。
絶望という言葉が頭をよぎる。
「五秒か、私も甘く見られたものだ……」
そう言って睦月が何か、私の足元に放り投げた。
「ひっ!?」
それはもう、絶命していると一目でわかる大輝くんの……生首だった。
大輝くんが、死んだ……?
最後に大輝くんが私に向けてくれた笑顔がよみがえる。
「大輝も、バカだよね。明日香を説得できれば、まだ平和に過ごせたはずなのに」
「…………」
「あーあ、またやり直しか……ここまで結構苦労したんだけどなぁ……」
「…………」
「何か、言いたいことはないの?言い残したことがあるなら、聞くけど」
「…………」
睦月が何かを言っている様だが、一向に耳に入ってこない。
いや、入ってはきている。
だけど、それに取り合う気力はなかった。
しかし……何だろうか、この湧き上がる様な熱い思い……。
心の奥底から……体の中から、湧き上がってくる、この思い……。
「……して……やる……!」
「ん?何?聞こえないよ」
「殺してやる!!よくも、大輝くんを!!!」
気づけば私は、敵うはずもない相手に掴みかかっていた。
何処に向けたらいいかわからない無力感を、怒りを、睦月に全てぶつけるべく。
「へぇ、明日香にそんな力がね。でも、人間の力で女神に勝てるなんて、本気で思ってるの?」
「うるさい!!絶対に、殺してやる!!」
こんなにも怒りを覚えたことは、今まで生きてきて、なかった。
こんなにも絶望したことは、今までになかった。
こんなにも声を荒らげて、人に怒りを向けたことも……。
「ぐっ……!!」
睦月が放った一撃で、私は吹き飛ばされた。
まだだ、まだやれるはずだ。
私は、必ず大輝くんの仇を……!!
「はぁ……がっかりだよ、明日香。明日香はもっと、冷静で聡明な子だと思ってたんだけど」
「うる……さい……」
「何がそこまで明日香を突き動かすの?大輝?でももう死んじゃったんだよ?」
「だま……れ……」
「ああ、そっかぁ。なまじ姿が見えるからいけないんだね。じゃあ、こうすれば……」
「!!」
睦月が大輝くんの生首のところまで歩いて行って、その足を振り上げた。
「ダメ!!」
咄嗟に私は大輝くんを抱えて転がった。
受け身が取れなくて背中を強く打ってしまって、一瞬呼吸が止まったがそんな場合じゃない。
「もう、そこのそれは大輝じゃないんだよ?そんなにまでして守って、どうするの?」
「あなたにはわからない……大輝くんを……私は……」
「そんなに死にたいなら、もういいよ。大輝の後を、すぐに追わせてあげるから」
「私は、大輝くんを愛しているんだから!!!!」
私の絶叫と共に、腹部に強烈な痛みが走った。
腹を貫かれたのだと、瞬時に理解した。
「かは……」
「ジエンド、だね。気分はどう?痛い?辛い?苦しい?でも、そのどれも明日香のわがままが招いた結果なんだよ?理解しているかな?」
「…………」
さすがにこれはもう致命傷であるということは理解した。
大量に流れだしている血液とともに、私の体から力が抜けていくのがわかる。
睦月の言う通り、私の子どもじみた我儘が、この結果を生んでしまった。
大輝くんを、死なせてしまった……。
私なんかを守ろうとして、大輝くんは……。
「バイバイ明日香。次は幸せになれると、いいね」
目の前の女神の、無慈悲かつ冷徹なるな一撃によって、私の意識はそこで途絶えた。
何故私は、あんな我儘を通したのだろう……何で睦月に戦いを仕掛けるなんていう、無謀としか言えない愚挙に出たのだろう。
死んでしまっても、まだ意志が残るのか。
私は地縛霊にでもなってしまったのか?
「……か……」
何か声が聞こえる。
こんな真っ暗な空間に、誰かいるとは考えにくいんだけど。
「……すか……」
聞き覚えのある様な、温かみのある声。
男の子なのに高めで、私が愛してやまなかった声。
「明日香!起きろって!!」
「!?」
大輝くんの声が響いて、私の意識は覚醒した。
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「やっと目が覚めたみたいだな。気分はどうだ?」
「え……え?」
わけがわからない。
何で私は生きているの?
私は確かに、睦月に殺されたはず……というか大輝くんだって……。
大輝くん……?
「お、おいどうした、何で泣いてんだよ!?」
「い、いぎでる……だいぎぐんが……うっ……いぎでる……」
「お、おう、生きてるぞ……よっぽどだったんだな、本当……明日香が泣くなんて……」
そう言いながら大輝くんは、そっと私の頭を抱いた。
暖かい。
本当に、目の前で大輝くんが生きている。
そして私も、生きている。
そのことがたまらなく嬉しくて、そのまま私は声を上げて泣いた。
そんな私の声を聞きつけた父が、部屋に飛んできてちょっとした騒ぎになった。
「ってことは何?全部、夢だったってこと?」
「あー……まぁ、そうなるな。だって、まだ今土曜のおやつの時間だし。初めてやったからさすがに上手く行くか不安だったけど、どうやら何とかなったみたいだ」
説明を受けた上でそう言われて時計を見て、私は驚愕した。
あれからまだ二時間しか経ってない、ってこと?
「ごめんな明日香。お前を連れて逃げるなんて、俺にはできない。だって、そうなればさっきの夢みたいに、お前に辛い思いさせることになるから。睦月はそれくらい平気でするだろうからな」
「…………」
「実際にそうしたらどうなるか、って言うのを見せてやるのがいい、って睦月が教えてくれてさ。お前の様子が最近おかしかったから、って」
「…………」
お見通しだったってわけか。
本当に、敵わない。
「その、明日香……気づいてやれなくてごめんな。昨日聞かされて、初めてわかったんだよ」
「そう……でもね、いいの。私には、大輝くんを独り占めして、なんていうのは過分な願いだったって、さすがに思い知った」
「んー……それなんだけどさ。週に一回程度、誰々の日って決めて二人で過ごす日を作ろうか、って睦月が言ってたんだよ」
「え……?」
「もっと早く気づいてあげられれば良かったんだけど、ってさ。でも、明日香はそういうの功名に隠すから。実際大したものだと思うぞ。あの睦月の目を長いこと欺いてきたんだから」
「…………」
褒められているのはわかるが、どうにも嬉しくない。
早い話が、隠し事はこれから控えてくれとかそういうことなんだろうし。
それに人の目を欺くっていう響きがそもそもいいものと思えない。
とはいえ、睦月がそこまで考えてくれるというのであれば、結果オーライというものだろう。
私が悩んでいたということそのものは無駄ではなかったということになる。
「でも、あの温泉の暖かさとかよく再現したわね。実際に行ったことあるの?」
「まぁ、すごい昔な。五歳とかそのくらいの頃だったかな」
「なるほど……睦月の冷気とか氷なんかは一回くらってるんだったかしら」
「まぁな……あいつ、漫画とかアニメで見た技再現しようとするの、本当ずるいよな。俺なんかあんなことそうそうできないっつーのに」
「それより大輝くん……私、あなたが首ちょんぱされて死んだっていうのがトラウマになりそうなんだけど。夜中怖くてトイレも行けなそう」
「あ、ああ……あれな……ちょっとやりすぎちまったか」
「ちゃんと責任、取ってくれるのよね?」
しっかりしなければ、なんて思って今まで肩肘張って生きてきたけど、これからは少しくらい甘えてもいいのかも、と今回のことで思えた。
まだ週末の数時間、正直さっきの夢は真に迫りすぎてて今でも少し怖いけど……それでも、大輝くんがこれからは私に甘えさせてくれるんだろうと思うと収穫はあった気がする。
これからはもう少しだけ、みんなに素の私を見せていけるかもしれない。
手始めに、今夜のお風呂は大輝くんと一緒に入ろう。
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「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
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俺様上司に今宵も激しく求められる。
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