手の届く存在

スカーレット

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本編

大輝編62話~来るその日~

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朋美の騒動がやっと落ち着いた、と思ったら今度は絵里香ちゃんからの連絡。
どうやら俺に平穏は許されないらしい、などと中二臭いことを考えながら携帯の画面を見つめる。
最初に連絡がきたのは俺がバイトに入ってすぐくらい……午後五時過ぎか。

その後連続で鬼メール。
二十二件にも及ぶメッセージが並んでいるのを見て、相手は小学生だよな……?と戦慄したのを覚えている。
しかも内容は全部「連絡して」とだけ。

女ってやっぱりマジで怖い。
睦月が目の前にいるし、ちょっと助けて、って思っていたら睦月もそそくさと寝室へ入って寝てしまった。
いきなりピンチじゃないか、俺……。

どうしたものか、と考えて俺はクラスメートなんかからよく聞いた、ごめーん、寝てたの☆作戦を使うことにしようかと考えた。
だけどもう、既読付いちゃってるんだよな……。
もうかなり遅い時間だし、寝ちゃってると思うからさすがにこの時間に返信するのは憚られる。

どうしようか考え、疲れてることもあって面倒になった俺は、そのまま寝てしまうことにした。
結果として、ごめーん寝てたの☆作戦は発動することになるわけだ。

そして翌朝、メッセージが鳴りまくる音で目を覚ます。
隣で寝ていた睦月も俺の携帯の音で目を覚ました様だ。

「大輝……うるさいんだけど」
「はい……ごめんなさいよっと……」

これだけ連続で送ってくるのはきっと、絵里香ちゃんだろうと考えて携帯を見るのも少し恐怖を覚えていたが、ここまできてしまったらもう逃げられないだろう。
ベッドから起き出して学校へ行く支度をしながら携帯を見る。

『何で既読スルーするの?』

このメッセージだけが三十一件。
背筋が凍る様な思いを抑えつけて、ひとまず返信することにした。

『ごめん、返そうと思ったけどメッセージに気づいたの夜遅かったから、朝返そうと思ってて』

このメッセージに一瞬で既読がついて、返信が来る。

『そうなの?ごめんね、沢山送っちゃって……迷惑だった?』

あれ?怒ってるわけではないのか。
ならこちらとしてもやりやすい。
ふっ、所詮相手は小学生だしな。

『全然、大丈夫だよ。それより、どうしたの?何か用事だった?』

ひとまずこれだけ返しておく。
こちらからわざわざ墓穴を掘る必要はあるまい。

『うん、クリスマスなんだけど大輝くん空いてる?というか、空けて』

ええ……。
無理に決まってる。
睦月に何て言われるか……いや言われるだけならまだいい。

心を抉られる様なことになるのは間違いないが、肉体への損傷はほぼないのだから。
問題はまず、それだけで済むわけがないということ。
そして、朋美の心もささくれ立っているだろうし、まさしく嵐の予感しかしない。

ここは心を鬼にして絵里香ちゃんにはクリスマスを諦めてもらうしかなかった。

『ごめん、クリスマスは先約があって、どうしても空けられない。その前とかだったら何とか出来ると思うんだけど』

俺は、このメッセージを送ったことをひどく後悔することになる。
まだ何も返事はきていないが、確かな予感があった。

『じゃあ、それでいいよ。二十二日、空けておいてね。ママとパパがどうしても大輝くんに会いたいって言ってるから』

そうきたか……。
そして二十二日なのか?
学校が早く終わるからそれは問題ないけど……いや待てよ、バイトが確か……。

携帯のスケジュール帳を手早く確認すると、確かに二十二日はバイトが入っていた。
これはまずいことになったぞ……。
予感大的中じゃないか。

『えーと……まことに申し上げにくいのですが、その日は夕方からバイトが入っておりまして……』
『私、譲歩したよね?キャンセルして』

背筋が凍った。
たった一行、このメッセージに込められた魔力。
キャンセルって……出来るわけが……。

「どうしたの、大輝……朝から凄い顔色してるけど」

睦月が眠そうに目をこすりながら起きてくる。
おお、神よ!!
どうかこの愚かな豚めに救いの手を!!

「た、助けて睦月……絵里香ちゃんが……」

そう言って携帯を渡して、睦月に絵里香ちゃんとのやり取りを見てもらう。
はぁ、と一つため息をついて睦月が携帯を返してきた。

「んー……これはもう、行くしかないでしょ。骨は拾ってあげるから」
「えええ!?ちょっと、待ってくれよ」
「まぁ、それは冗談として……クリスマスは避けてくれたし、私もいっちょ協力しますかね」
「ほ、本当か!?」
「まぁ、大輝がヘタレなのは今に始まったことじゃないからね。しょうがないから助けてあげる」

何でわざわざ貶す必要があったんですかね……。
間違ってないから反論はできないけども。

そんなわけで、睦月が助けてくれることになって俺は安心して……いや実際安心なんかできない。
警察呼ばれたらどうしよう、という思いしかないし、正直いい予感が一つもしない。
そして睦月が助けてくれると言ってはいたものの、どういう方法でというのを具体的に言っていなかったことが更に不安を煽る。

しかしそんな俺の不安な思いと裏腹に時間はどんどん過ぎて行って、運命の十二月二十二日は訪れてしまった。
事前に、バイト先のオーナーには二十二日休みたい、と言ってあって、意外にも快諾された。
どういうことだろう、と思っていたらオーナーから驚愕の事実を聞かされることとなったのだ。

「ああ、一昨日だったかな……たいちゃんの奥さんって人がきて、二十二日は夫がどうしても入れない様でしたのでピンチヒッターとして私を働かせてくださいって」

何ということでしょう……。
普通に彼女って言やいいだろうがあの野郎……。
いや助けてもらってる身分で言えることじゃないんだが……。

「たいちゃんの奥さんって、どの彼女?」

こんな質問まで飛んできて、あれ?俺ハーレムのこと言ったっけ、なんて思ったが言った覚えはなかった。
だとすると愛美さんしかいないわけだが、愛美さんでないことはすぐにわかった。
睦月が二十二日のお願いをしに行ったときに全部話したらしい。

何で余計なことまで……俺めちゃめちゃあの店で働きにくくなんじゃん……ていうか新人の子が変な目で俺を見てる気がしたのは、そのせいだったのか……。
ちくしょう、あちらを立てれば……とか言うけど本当に上手く行かないもんだな。

とりあえず、学校から帰って支度をしなければならない。
ここですっぽかすなんてことがあれば、あとでどんな不幸が待っているかわからない。
それから……プレゼントくらいは持って行ってあげないと。

懐がやや痛むのは仕方ない。
それにそこまで畏まったものを渡す必要もないだろう。
最悪力を使って金を使わずに、なんてことを考えるがさすがにそれはまずいと考えてちょっとファンシーな感じの店に寄っていくことにした。


「あれ?先輩じゃないですか。こんなお店で何してるんですか?」

何とも間の悪いことに樋口さんと内田さんに遭遇。
二人だけで出歩いていること自体が少し珍しいと思ったが、今はそんなことを考えている場合ではない。

「やぁ、珍しいな二人で歩いてるなんて……まぁ、俺はちょっとあれがあれしてあれだから、またな」

適当な言い訳にもほどがあるな、なんて考えながら華麗にその場を後にしようとして、二人にぐいっと両腕を掴まれて連れ戻される。
まぁ、何となくわかってたよ。

「まぁまぁ先輩、そんなに慌てなくても……何してたんです?」
「そ、その……幼女にあげるプレゼントをば……」
「ほう、幼女……ああ、絵里香ちゃんでしたっけ?睦月先輩が言ってましたね、そういえば」

あいつ、まさか全員に言ってるんじゃないだろうな……。

「それにしても先輩、ストライクゾーン広すぎませんか?次は老婆とか言わないでくださいね?」
「…………」

頼むからそれ、愛美さんと和歌さんの前でだけは言わないでくれよな。
これ以上神経すり減らす様な真似はもう、ちょっと勘弁してほしい。
いや、愛美さんや和歌さんが老婆だと言ってるわけでは断じてない。

ただ、二人は最近年齢の話に敏感すぎるから……。
そして俺は絵里香ちゃんをどうこうしようとは考えてないから……。

結局二人は一緒にプレゼントを選んでくれて、結果として俺は助けられたということになる。
会ったときは思わず、げ、とか言いそうになったけど我慢してよかった。
余分にプレゼントを二つ買うことになったけど、どの道後日この子らにも渡そうとは思ってたから早まっただけだと思うことにしとこう。

時間が迫っている、向かわなくては。
絵里香ちゃんから今何処にいるのか、とメッセージがきて、もうすぐ着くと伝えるとじゃあ家の前で待ってると返事がきた。
魔王城の前で魔王が待ってるなんて、斬新なRPGだなぁ……。

せめて誰かとパーティくらい組んでおくんだった、とか考えながら絵里香ちゃんの家までの道のりを歩く。
まぁ、ご両親いるし最悪の事態は避けられるだろう。
そのご両親から通報されたりしなきゃな。


「いらっしゃい、大輝くん。待ってたよ!!」

でかい声ではしゃぎながら絵里香ちゃんが俺を迎えてくれる。
邪気のない、しかし膨大な魔力……いや、魔力なんて朋美やグルヴェイグじゃあるまいし、実際にはないんだけど。
しかし俺がこれから足を踏み入れるのは、魔王城だ。

一切の油断は許されない。
料理も何が入っているかわからないし、人からもらったものは喉を通らないんだ……忍の習性でな……とか言って避けるべきか。
いや、そこで絵里香ちゃんに泣かれたら洒落にならない。

胃袋に防護幕でも張っておくか。

「初めまして、絵里香と仲良くしてもらっているそうで……私、絵里香の母です」

側近現る。
高校生が小学生と仲良く、なんていいイメージ持ってないんだろうなぁ……。
なんて思いながら母と名乗った人物を見ると、何と満面の笑みだった。

ええ……親としてそれでいいの?
俺、世間一般の常識で見たら、小学生を毒牙にかけるクソゴミ野郎みたいな認識で間違いないと思うんだけど。
いやもちろんそんなことする気は全くないんだけども。

「あ、えっと……お世話になっています、宇堂大輝と申します……これ、つまらないものですが……」

そう言いながらコンビニで買った菓子折りをお母さんに渡すと、お母さんは恐縮しながら受け取って、どうぞ中へ、なんて言いながら魔王城の中に戻って行った。

「大輝くん、入ろう?パパも待ってるから!」
「そ、そう……」

今日一番会いたくない人物、それは絵里香ちゃんよりも母親よりもそう、お父さん。
父親なんかそれはもう警戒心丸出しの敵意むき出しで来るに違いない。
だからと言って、間違っても喧嘩を買う様なことをしてはいけない。

魔王城の中にいる以上、俺はアドバンテージを向こうにすべて握られているも同然なのだから。
あくまで当たり障りなく、今日と言う日を乗り切って、明後日俺はハーレムのありがたみを実感しなくてはならない。
いざ、出陣の時だ。


「ああ、やっぱり……君が宇堂大輝くんですか」
「え……あ!!」

魔王城の応接間で俺を待ち受けていた第二の側近であるところの父親……彼は俺を知っていた。
そして俺も彼を知っている。
何故なら。

「懐かしいなぁ、久しぶりですね宇堂くん」
「富沢……先生……」

そう、中学校の頃の担任教師の富沢先生だった。
二年生と三年生でお世話になった、富沢先生。
まさかこんなところで再会することになろうとは、夢にも思っていなかった。

そしてこの人は俺をどう見て、どう思っているのだろうか。
絵里香ちゃんがきっと彼女何人もいる、とか言いふらしてるに違いないし、十六になったら俺のハーレムに加わりたい、なんてこともきっと言っているんだろう。

うん、俺今日で人生終わっちゃうかもしれない。
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