【完結】追放された地上最弱テイマー、魔獣と始める辺境領主ライフ

第8章 もふもふ公国の誕生

グレイヘイブン家との和解から半年が過ぎた。もふもふ村…いや、もふもふ領は飛躍的な発展を遂げていた。

グレイヘイブン家の後ろ盾を得たことで、村の安全は大きく向上した。クラウスも、グレイヘイブン家の名前を聞いて、それ以上の挑発を控えるようになった。

商人マーカスの仲介で、王国との交易も活発になり、村の収入は増加の一途を辿っていた。特に竜脈石は高値で取引され、村の財政を支える柱となっていた。

住民の数も増え、今や百人を超える獣人と人間が共に暮らしていた。かつての小さな集落は、立派な街へと成長しつつあった。

アーレンとリーシャの結婚式が執り行われたのは、村の発展が軌道に乗った頃だった。彼女は正式にアーレンの最初の妻となり、村の女性たちを代表する立場となった。

その二ヶ月後、ミラとの結婚式も行われた。獣人の習慣に従い、リーシャの理解と承認のもと、アーレンは二人目の妻を迎えた。

アーレンの家は拡張され、立派な屋敷となった。守護獣たちも、人間と獣の両方の姿を使い分けながら、村の発展に貢献していた。

「アーレン様、王都からの使者が到着しました」

ある日、執事となったルークの息子が報告に来た。

「王都から？」アーレンは驚いた。彼は今、村の新たな発展計画を練っていたところだった。

「はい。正装した使者で、王の印璽を持っています」

「分かった、すぐに会おう」

アーレンは急いで正装し、リーシャとミラ、そして守護獣たちと共に応接間へと向かった。

そこには、王国の正装をした使者が待っていた。彼はアーレンを見ると丁寧に一礼し、封印された巻物を差し出した。

「グレイヘイブン様、陛下からのお言付けでございます」

アーレンは静かに巻物を受け取り、封印を解いて読み始めた。その内容に、彼の目が徐々に大きく開いていく。

「これは…」

「陛下の親筆でございます」使者は丁寧に付け加えた。

巻物には、驚くべき内容が記されていた。

「この度、グレイヘイブン辺境領の功績を称え、同地を『もふもふ公国』として認め、アーレン・グレイヘイブンに公爵の位を授ける…」

アーレンは言葉を失った。辺境領から一気に公国へ。分家当主から公爵へ。これは単なる昇格ではなく、実質的な独立宣言に等しい特権だった。

「陛下のご意向は？」アーレンは慎重に尋ねた。

「竜脈石の安定供給と引き換えに、この地の自治権を完全に認めるとのことです」使者は答えた。「また、公爵様の下で発展した獣人と人間の共存モデルを、王国の他地域にも広めたいとの願いもあります」

アーレンはリーシャとミラを見た。二人は驚きと喜びの表情を浮かべていた。守護獣たちも興奮した様子だった。

「陛下に感謝の意を伝えてください。提案を受け入れます」

使者は喜びの表情を見せ、再び一礼した。「では、即位の儀式は一ヶ月後に。王国からの使節団がお手伝いに参ります」

使者が去った後、アーレンの家族たちから歓声が上がった。

「公爵様ですか！」エリアが興奮して跳ね回った。「アーレン様、おめでとうございます！」

「公国…」セレナは物思いにふけるように呟いた。「かつてこの森が本来持っていた地位に戻るということですね」

「え？」アーレンは驚いて尋ねた。「この森は昔、独立した地域だったの？」

「そうです」フロートが重厚な声で答えた。「大昔、この森は五大元素の守護獣たちが治める独立した聖域でした。人間の王国ができる前の話です」

「歴史は繰り返すのですね」ミストが小さく微笑んだ。

「アーレン」リーシャが優しく呼びかけた。「あなたがこれを成し遂げるなんて…本当に誇りに思います」

ミラも嬉しそうに頷いた。「公爵夫人になるなんて、夢にも思いませんでした」

アーレンは二人の妻を抱きしめた。「これも皆のおかげだよ。一人では何もできなかった」

即位の準備は急ピッチで進められた。王国からの使節団が到着し、公爵即位の儀式や公国設立の手続きについて指導を始めた。

村中が祝賀ムードに包まれ、人々は「もふもふ公国」の誕生を心から祝った。

商人マーカスは特別な衣装や装飾品を王都から取り寄せ、祝宴の準備に貢献した。彼はもふもふ村の発展と共に、自身の商会も大きく成長させていた。

「アーレン様」マーカスは嬉しそうに言った。「公爵就任、心よりお祝い申し上げます。私がこの村と取引を始めたのは、人生最大の幸運でした」

「こちらこそ、マーカス」アーレンは感謝の意を表した。「あなたのおかげで、村と外界を繋ぐことができました」

即位の前日、アーレンは守護獣たちと共に森の奥深くにある石版を訪れた。彼らがすべての始まりとなった古代の遺跡だ。

「ここに来るのは久しぶりだね」アーレンは感慨深げに石版を見つめた。

「あれから一年以上が経ちました」セレナが静かに言った。

守護獣たちは人型の姿になり、石版を取り囲んだ。

「この石版に最初に触れた時、まさかこんな未来が待っているとは思わなかった」アーレンは微笑んだ。

「アーレン様の優しさと強さがこれを可能にしたのです」エリアが真剣な表情で言った。「私たちも、アーレン様と出会えて本当に幸せです」

「私も本当に幸せだよ」アーレンは心から言った。「前世では理不尽な思いをして終わったけど、この世界では違う。みんなと出会い、新しい家族ができて、自分の居場所を見つけられた」

「アーレン様」ルミアが少し恥ずかしそうに言った。「明日の儀式で、私たちも特別な演出を準備しています」

「そうなの？」アーレンは好奇心いっぱいに尋ねた。

「秘密です」ミストが珍しく茶目っ気を見せた。「お楽しみに」

彼らは石版に感謝を捧げ、森と共に発展していくことを誓った。

翌日、もふもふ公国の正式な設立式典が執り行われた。王国からの使節団、グレイヘイブン家の面々、そして村の住民全員が参加する盛大な式典だった。

アーレンは公爵としての正装に身を包み、式典の壇上に立った。その背後には五大元素の守護獣たちが控え、会場には獣人と人間が肩を並べて式典を見守っていた。

王国の代表者からの宣言が終わり、アーレンは公爵としての誓いを立てた。

「私はこの地を、すべての種族が平等に暮らせる場所とすることを誓います。かつて『呪われた森』と呼ばれたこの地を、希望と幸福の象徴として発展させていくことを」

彼の言葉に、会場からは大きな拍手が沸き起こった。

アーレンが王国の使節から公爵の冠を受け取ったとき、守護獣たちが予告した「特別な演出」が始まった。

五匹の守護獣たちが人型の姿となり、アーレンを取り囲むように立った。彼らは手をつなぎ、詠唱を始めた。

「五大元素の加護を、この新しき公国に」

彼らの体から光が放たれ、それぞれの色が混ざり合い、美しいオーロラのような光景が広がった。光は上昇し、空に巨大な紋章を描き出した―もふもふ公国の紋章だ。

五色の光が紋章から降り注ぎ、会場全体を包み込んだ。人々は驚きと感動の声を上げた。

「これが守護獣の祝福です」セレナが宣言した。「この地に平和と繁栄を」

光が消えると、もふもふ公国の誕生が正式に宣言された。人々は歓喜し、祝福の言葉を交わした。

式典の後には、祝宴と共に、初めての「もふもふ祭り」が開催された。これは守護獣たちを称える祭りで、毎年行われることになった新しい伝統だった。

祭りの最中、アーレンは家族や友人たちに囲まれ、心からの幸せを感じていた。グレイヘイブン伯爵（現在は公爵）と兄たちも、彼の成功を素直に喜んでくれていた。

「お前は家の誇りだ、アーレン」

伯爵は珍しく感情を露わにして、アーレンの肩を抱いた。

「ありがとう、父上」

王国の使節も、獣人と人間が調和して暮らす珍しい光景に感銘を受けていた。

「公爵様」使節の代表が言った。「陛下はあなたがこの地で築いたものに大いに関心を持っておられます。今後、他の地域でも獣人と人間の共存を進めていきたいと」

「喜んで協力させていただきます」アーレンは真摯に答えた。

祭りの終わり頃、アーレンはリーシャとミラ、そして守護獣たちと共に、少し離れた丘に上り、村全体を見渡した。

広場では人々が歌い踊り、家々の窓からは温かな光が漏れている。森全体が生き生きとし、かつての暗く恐ろしい雰囲気は微塵も残っていなかった。

「考え事ですか、アーレン様？」

背後からエリアの声がした。振り返ると、守護獣たちが集まっていた。今夜は特別な夜なのか、彼らは再び人型の姿になっていた。

「ああ、少しね」アーレンは微笑んだ。「ここまで来るとは、本当に想像もしてなかったよ」

「運命だったのでしょうね」セレナが優雅に言った。「アーレン様が【もふもふテイマー】として生まれ、この森に来られたことは」

「私たちにとっても幸せなことでした」ミストが小さく付け加えた。

リーシャがアーレンの腕を取り、ミラも反対側に寄り添った。

「これからどうするの？」リーシャが優しく尋ねた。

「そうだな…」アーレンは遠くを見つめた。「もふもふ公国をもっと発展させたい。獣人と人間が平等に暮らせる理想郷を作りたいんだ」

「素晴らしい目標です」フロートが頷いた。

「それに」アーレンは照れくさそうに続けた。「家族も増えていくし、幸せな日々を送りたいな」

リーシャはその言葉に微笑み、彼の腕にそっと頬を寄せた。彼女の腹部は少し膨らみ始めていた。数ヶ月後に生まれてくる彼らの第一子の証だ。

「きっと素晴らしい子になりますよ」セレナが優しく言った。

「私たちも家族の一員として見守ります」エリアが元気に宣言した。

アーレンは守護獣たちがこれからも家族の一員として共に歩んでいくことに、心から感謝した。

夜が更けていく中、アーレンはこの幸せな瞬間を胸に刻みつけた。このすべての始まりは、「家門の恥」と罵られ、「呪われた森」に追放された日だった。当時は絶望的だったが、今思えばそれが人生最大の幸運だったのかもしれない。

彼は前世の記憶も持ちながら、二度目の人生をより充実したものにすることができた。前世での不遇な経験も、今となっては大切な糧になっていた。

「アーレン様、見てください」ルミアが空を指さした。「流れ星です」

全員が空を見上げると、美しい流れ星が夜空を横切っていった。

「願い事をしましょう」リーシャが提案した。

アーレンは目を閉じ、願った。この幸せが永遠に続くように。そして、彼が愛する者たちが常に安全で幸せでありますように。

目を開けると、守護獣たちとリーシャ、ミラが彼を見つめていた。その目には、同じ願いが映っているようだった。

「さあ、戻りましょう」アーレンは微笑んだ。「明日からが本当の始まりだ」

手をつなぎ、彼らは祭りの灯りへと歩み始めた。新しい時代の幕開けを告げるように、森全体が優しく輝いていた。

こうして「追放された地上最弱テイマー」は、五大元素の守護獣たちと愛する伴侶たちと共に、新たな「もふもふ公国」の時代を築き始めたのだった。