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第7章 村の危機
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祭りの翌日、アーレンはルークと共に村の防衛体制について話し合っていた。
「警備隊は全部で何人いる?」アーレンが尋ねた。
「今は15人です」ルークは答えた。「ほとんどが獣人ですが、戦闘経験はバラバラです」
「村の入り口に見張りを増やそう」アーレンは提案した。「フロートの情報では、西の村から使者が来るそうだ」
「了解しました」ルークは真剣に頷いた。「彼らが何を求めてくるのか…」
「分からない」アーレンは眉をひそめた。「平和的な目的なら良いが…」
彼らが話している最中、突然警報の角笛が鳴り響いた。
「来たぞ!」
アーレンとルークは急いで村の入り口へと向かった。途中、守護獣たちも合流した。
村の入り口には、十名ほどの武装した人間が待っていた。彼らの装備は派手で、西の村の紋章を掲げている。先頭に立つのは、重厚な鎧を着た中年の男性だった。
「グレイヘイブン領の者か?」男性が傲慢な口調で尋ねた。
「私がアーレン・グレイヘイブンだ」アーレンは毅然と答えた。「何の用だ?」
「私はバロン・クラウス。西の村の領主だ」男は自己紹介した。「我が村から逃亡した獣人たちの引き渡しを要求する」
アーレンの目が冷たくなった。「逃亡ではない。彼らは迫害から逃れてきたのだ」
「獣人は我が村の資産だ」クラウスは言い放った。「彼らを返すか、相応の代償を払え」
アーレンの背後では獣人たちが震えていた。リーシャとミラも不安そうな表情で様子を見ていた。
「獣人は『資産』ではない」アーレンは静かな怒りを込めて言った。「彼らは自由な意思を持つ存在だ。この森に住むことを選んだのは彼ら自身だ」
「戯言を」クラウスは嘲った。「獣人など人間より劣った生き物。そのような下等生物にどんな権利があると?」
その言葉に、アーレンの怒りが爆発寸前となった。しかし、彼は冷静さを保とうとした。
「もうここは私の領地だ」アーレンは強く言った。「ここに住む全ての者は私の保護下にある。帰りなさい」
「ほう」クラウスは嘲るように笑った。「小僧一人で我々に命令するつもりか?」
その時、アーレンの周りの守護獣たちが一斉に姿を変えた。光に包まれ、彼らは人型の姿となったのだ。エリアの炎のような赤髪、セレナの凛とした佇まい、ミストの緑の瞳、フロートの鍛えられた体躯、ルミアの輝く翼。彼らは皆、魔力を宿した衣装に身を包み、威厳ある姿でアーレンを守るように立った。
「な、何だこいつらは!?」クラウスは後ずさりした。
「五大元素の守護獣だ」アーレンは静かに言った。「この森の真の主であり、私の仲間だ」
守護獣たちの放つ圧倒的な威圧感に、クラウスの部下たちは恐れおののいた。
「守護獣など…伝説の存在だ」クラウスは信じられないという表情を浮かべた。
「伝説ではありません」セレナが冷たく言った。「私たちは実在し、アーレン様と契約を結んでいます」
「そして」フロートが一歩前に出た。「この森を侵す者は許さない」
クラウスは動揺したが、すぐに取り繕った。「いいだろう。今日のところは引き下がる。だが、これで終わりではないぞ」
「もう二度と獣人を迫害するな」アーレンは強く警告した。「次は容赦しない」
クラウスは憎悪の眼差しを向けたが、それ以上何も言わず、部下たちと共に引き返していった。
彼らが視界から消えると、村人たちからは安堵のため息が漏れた。
「無事に去ってくれて良かった」リーシャが近づいてきた。「でも、きっとまた来るでしょう」
「うん」アーレンは頷いた。「今度はもっと大きな軍勢を引き連れてくるかもしれない」
「備えが必要だな」ルークが真剣な表情で言った。
「守護獣の力だけに頼るわけにはいかない」アーレンは考えを巡らせた。「人間の力も必要だ」
その夜、アーレンは村の長老たちと守護獣たちを集めて会議を開いた。
「クラウスは必ず戻ってくる」アーレンは言った。「私たちは防衛策を講じなければならない」
「村の周りに塀を作りましょう」リーシャが提案した。
「フロートとミストの力を借りれば、森自体を防壁にできるかもしれない」ルークも案を出した。
「外部からの援軍も必要かもしれません」商人のマーカスも会議に参加していた。「王国に訴えれば…」
「それは難しいだろう」アーレンは首を振った。「この地域では獣人差別が根強い。王国が獣人の味方をするとは思えない」
「では、どうすれば?」ミラが不安そうに尋ねた。
アーレンは考え込んだ。「まず、物理的な防衛を固めよう。そして…私の実家、グレイヘイブン家に連絡を取ってみる」
「実家?」エリアが驚いた声を上げた。「アーレン様を追放した家に?」
「そうだ」アーレンは頷いた。「私を追放したのは事実だが、彼らもグレイヘイブン家の名誉を大事にする。他の領主が勝手に我が家の領地を侵すのを見過ごすとは思えない」
「連絡の方法は?」セレナが尋ねた。
「マーカスに運んでもらおう」アーレンはマーカスを見た。「可能だろうか?」
「もちろん」マーカスは頷いた。「私の商人としての信頼にかけて、必ず届けます」
会議の後、アーレンは手紙を書いた。父と兄たちに宛てた手紙で、森の現状と西の村からの脅威について説明した。彼は誇りを捨て、助けを求めた。
「届くといいな」アーレンは手紙を封じながら呟いた。
マーカスは翌朝、王都への旅に出た。彼はアーレンの手紙を、途中でグレイヘイブン家の館に届けることを約束した。
それから二週間、村では防衛の準備が急ピッチで進められた。フロートの力で村の周囲に土塁が築かれ、ミストの力で茨の生垣が作られた。ルークの指導の下、村人たちも武器の扱いを学んだ。
リーシャとミラは、アーレンの生活をサポートしながら、女性や子供たちの避難計画を立てていた。
「最悪の場合、森の奥に隠れる場所を用意しました」リーシャがアーレンに報告した。
「ありがとう」アーレンは感謝した。「本当に助かるよ」
夜、アーレンは守護獣たちと今後の戦略を話し合っていた。彼らは人型の姿で、より議論がしやすくなっていた。
「私の幻術は大軍を惑わせることができます」エリアが言った。「でも、長時間は維持できません」
「私の水の結界も同じです」セレナが付け加えた。「一時的な防御にはなりますが…」
「結局、実力差があれば厳しいですね」ルミアが不安そうに言った。
「だからこそ、人間の力も必要なんだ」アーレンは真剣に言った。「守護獣の力と人間の知恵、両方で乗り切るしかない」
会議が終わった後、アーレンはリーシャとミラを抱きしめた。
「心配しないで」彼は優しく言った。「必ず村を守り抜くから」
二人は彼に寄り添い、静かに頷いた。
三週間が過ぎた頃、村の入り口で警報が鳴り響いた。
「敵襲だ!西から大軍が来る!」
アーレンは急いで村の入り口へと向かった。遠くに見えるのは、百名以上の兵士たちだった。クラウスが本格的な侵攻を決意したのだ。
「全員、位置について!」アーレンは命令した。
防衛隊は準備を整え、非戦闘員は安全な場所に避難した。守護獣たちは人型の姿となり、最前線に立った。
「奴らが来る…」フロートが低い声で言った。
クラウスの軍勢は村の前で止まった。クラウス自身が豪華な馬に乗って前に出てきた。
「グレイヘイブン!最後の警告だ!」彼は大声で叫んだ。「獣人どもを引き渡せ!さもなくば、この森もろとも焼き払うぞ!」
「断る!」アーレンは毅然と答えた。「この村の者たちを一人たりとも渡すものか!」
「愚か者め!」クラウスは剣を抜いた。「全軍、突撃!」
兵士たちが一斉に動き始めた瞬間、アーレンは守護獣たちに合図した。
「今だ!」
エリアが前に出て、詠唱を始めた。「幻術:現実顕現!」
彼女の周りに赤い光が渦巻き、兵士たちの目の前で風景が変わり始めた。地面が割れ、木々が動き、空に巨大な魔法陣が現れる幻影。
セレナも力を発揮した。「水の結界!」
村の周囲に青い光の壁が現れ、兵士たちの進軍を妨げる。
「地脈操作!」フロートが地面を踏みしめると、クラウスの軍勢の足元が揺れ動き、多くの兵士が転倒した。
ミストは植物を操り、茨や蔦で敵の動きを封じる。ルミアは空から激しい風を起こし、敵の弓や槍の狙いを狂わせた。
「守護獣の力だと!?」クラウスは驚愕した。「なんてことだ…」
しかし、彼はすぐに部下たちに命令した。「恐れるな!幻術だ!突き進め!」
一部の兵士たちが恐怖を乗り越え、村に向かって攻撃を再開した。
「彼らの数が多すぎる…」アーレンは歯を食いしばった。「守護獣たちの力にも限界がある」
守護獣たちは魔力を使い続け、疲労の色が見え始めていた。エリアの幻術が揺らぎ、セレナの結界にひびが入り始めた。
「撤退すべきか…」アーレンは苦渋の決断を迫られていた。
その時、森の向こうから角笛の音が鳴り響いた。全員が振り返ると、グレイヘイブン家の旗印を掲げた騎士団が現れたのだ。
「あれは…」アーレンは目を見開いた。「父上の軍勢だ!」
グレイヘイブン伯爵の騎士団は、華麗な機動力で敵の側面を突き、混乱を引き起こした。
「な、何だと!?」クラウスは動揺した。「グレイヘイブン家の騎士団だと?」
アーレンは驚きと共に喜びを感じた。彼の手紙は届いていたのだ。父と兄たちは、彼の助けを求める声に応えてくれたのだ。
騎士団の先頭には、アーレンの長兄レオンの姿があった。彼の肩には巨大な鷲獣「ストームキング」が止まっている。
「弟よ!」レオンは声を上げた。「無事だったか!」
「兄さん!」アーレンは嬉しさのあまり叫び返した。
レオンはクラウスの軍勢に向かって宣言した。「我々はグレイヘイブン家だ。この森はわが家の領地。勝手に侵入する者は許さん!」
クラウスは明らかに動揺していた。「グ、グレイヘイブン家…そんな…」
彼は兵士たちに退却を命じようとしたが、時すでに遅かった。グレイヘイブン家の騎士たちがクラウスの軍勢を包囲し始めていた。
「クラウス殿」レオンは厳しい声で言った。「クラウス殿」レオンは厳しい声で言った。「あなたの行為は領地侵犯であり、王国の法に反する。ただちに撤退されたい」
「こ、これには理由があるのだ!」クラウスは慌てて言い訳を始めた。「私の村から逃げ出した獣人たちが…」
「獣人が自分の意思で移住することは、法に反しない」レオンは冷たく言い放った。「彼らはあなたの所有物ではない」
クラウスの顔が青ざめた。グレイヘイブン家は王国でも有数の名家であり、その権威に逆らうことはできない。
「わ、分かった」クラウスは渋々降伏の意を示した。「撤退する」
彼は部下たちに命じ、軍勢は引き揚げ始めた。撤退する前、クラウスは憎悪の眼差しをアーレンに向けた。
「覚えておけ、小僧。これで終わりではないぞ」
彼の言葉は空しく響いた。アーレンは冷静に見つめ返すだけだった。
クラウスの軍勢が完全に去ると、村人たちからは歓喜の声が湧き上がった。守護獣たちも安堵の表情を見せ、人型から獣の姿に戻っていった。魔力の消費が激しかったようだ。
アーレンはレオンに近づき、深く頭を下げた。
「兄さん、助けてくれてありがとう」
「礼には及ばない」レオンは馬から降り、アーレンの肩を叩いた。「家族だからな」
騎士団の後方からは、アーレンの父、グレイヘイブン伯爵の姿も見えた。次兄のヴァルドも共にいる。彼らはゆっくりとアーレンに近づいてきた。
「父上…」アーレンは緊張しながら挨拶した。
伯爵は黙ってアーレンを見つめたあと、静かに口を開いた。
「立派になったな、アーレン」
その言葉に、アーレンの目に涙が浮かんだ。かつて「家門の恥」と呼ばれた彼を、父が認めてくれたのだ。
「私は間違っていた」伯爵は重々しく続けた。「お前を追放したことを」
「いいえ、父上」アーレンは首を振った。「むしろ感謝しています。そのおかげで、この森と守護獣たち、そして大切な仲間たちと出会えましたから」
彼の言葉に、伯爵は静かに頷いた。
「さて」レオンが話題を変えた。「この村を案内してくれないか?見るべきものがあるようだな」
アーレンは笑顔で頷き、父と兄たちを村の中へと案内した。村人たちは恐る恐る姿を現し始め、グレイヘイブン家の面々を見て驚いていた。
リーシャとミラもアーレンの元に駆け寄ってきた。
「アーレン!」リーシャは喜びの声を上げた。「無事で良かった」
「ええ、兄さんたちのおかげでね」アーレンは微笑んだ。「父上、兄上たち、こちらはリーシャとミラです。私の…」
彼は少し言葉に詰まった。
「彼の伴侶です」リーシャが堂々と名乗った。ミラも恥ずかしそうに頷いた。
「ほう」レオンは意外そうな表情を見せた。「弟ながら、なかなか」
伯爵はただ静かに頷いただけだった。ヴァルドは面白そうに二人の女性を観察していた。
「では、村を案内しましょう」アーレンは話題を変え、グレイヘイブン家の面々を村の中心部へと導いた。
広場では村人たちが集まり始め、救援に来てくれたグレイヘイブン家の騎士団に感謝の言葉を述べていた。子供たちは騎士たちの鎧や武器に興味津々だった。
アーレンは父と兄たちに村の設備や農場、小さな鉱山、工房などを案内し、この森で実現した成果を説明した。
「この村は『もふもふ村』と呼ばれています」アーレンが説明すると、レオンは思わず笑い出した。
「何とも…ユニークな名前だな」
「守護獣たちの提案なんです」アーレンは照れくさそうに言った。
伯爵は村を見渡し、静かに感心していた。「わずか半年でここまで作り上げるとは…」
守護獣たちも少しずつ魔力を回復し、伯爵たちの前に姿を現した。エリアは元気よく挨拶し、セレナは優雅に頭を下げ、ミストは恥ずかしそうに後ろに隠れ、フロートは静かに伯爵を観察し、ルミアは空から舞い降りてきた。
「五大元素の守護獣…」伯爵は驚きの表情を隠せなかった。「伝説の存在と契約するとは」
「うちの獣とは全く違うタイプだな」レオンは自分の肩に止まる鷲獣を見た。
「もふもふテイマーだからね」アーレンは少し恥ずかしそうに言った。
「もふもふ…テイマー?」ヴァルドが初めて口を開いた。「そんな分類があるのか?」
「特殊な契約形態です」セレナが静かに説明した。「戦闘力ではなく、守護と共生を重視する契約」
「興味深い」伯爵は考え込むように言った。
夕方、村の広場では歓迎の宴が開かれた。グレイヘイブン家の騎士団と村人たちが一緒になって食事を楽しみ、音楽を奏で、踊った。
アーレンは父と兄たちと少し離れた場所で会話していた。
「父上、なぜ助けに来てくださったのですか?」アーレンはようやく聞く勇気を出した。
伯爵はゆっくりと答えた。「確かに私はお前を追放した。だが、それはお前が無能だと思ったからだ。今は違う」
「父上…」
「お前の手紙を読み、私は考えた」伯爵は続けた。「ここまで村を発展させ、獣人たちを保護し、さらに守護獣と契約するほどの者を、もはや『家門の恥』とは呼べない」
「何より」レオンが付け加えた。「お前はグレイヘイブン家の一員だ。家族をないがしろにすることはできない」
アーレンの目に再び涙が浮かんだ。彼は深く頭を下げた。
「本当にありがとうございます」
「それに」ヴァルドが少し皮肉げに言った。「この森には竜脈石があるそうじゃないか。家にとって重要な資源だ」
「ヴァルド」伯爵が叱るように言った。
「冗談だよ」ヴァルドは笑った。「まぁ、それも理由の一つではあるがね」
アーレンも笑った。ヴァルドは昔からそういう現実的な人間だった。
「では、今後どうする?」レオンが尋ねた。「この村を完全に独立させるつもりか?」
「いえ」アーレンは真剣に答えた。「私はやはりグレイヘイブン家の一員です。この森をグレイヘイブン家の正式な領地として認めていただけるなら、家の名を冠して統治したいと思います」
伯爵は頷いた。「それでよい。ただし、条件がある」
「なんでしょう?」
「資源の一部を本家に納めること」伯爵は一つ目の指を立てた。「そして、緊急時には軍事的協力を行うこと」
「承知しました」アーレンは同意した。「それは当然のことです」
「では決まりだ」伯爵は満足げに言った。「この森はグレイヘイブン家の正式な領地『もふもふ領』として認める」
レオンは笑いながら言った。「父上、その名前で本当にいいのですか?」
「名は体を表す」伯爵は珍しく冗談めかして言った。「この森の特性をよく表している」
皆が笑い、和やかな雰囲気が流れた。
宴の途中、エリアが人型の姿でアーレンに近づいてきた。
「アーレン様!家族と仲直りできて良かったですね!」
「ああ、本当にね」アーレンは微笑んだ。「まさか父上たちが助けに来てくれるとは思わなかった」
「でも」エリアは少し心配そうに言った。「クラウスはきっとあきらめませんよ」
「うん、分かってる」アーレンは真剣な表情になった。「だからこそ、村の防衛を強化しないといけない」
「私たちも頑張ります!」エリアは元気よく宣言した。
宴は深夜まで続き、やがて人々は疲れて眠りについた。グレイヘイブン家の騎士団は村の周辺に宿営し、村人たちも安心して眠ることができた。
翌朝、伯爵たちは帰途につく準備を始めた。
「アーレン」伯爵が呼んだ。「正式な任命状を送る。これからはグレイヘイブン家の分家当主として、この地を治めるのだ」
「はい、父上」アーレンは深く頭を下げた。「ご期待に応えられるよう努めます」
「それと」伯爵は少し言いにくそうに続けた。「あなたの…伴侶たちも、正式に認める」
アーレンは驚いた。「父上…」
「獣人との結婚は珍しいが、禁じられてはいない」伯爵は静かに言った。「幸せにするのだぞ」
「はい!」アーレンは嬉しさのあまり、思わず声が大きくなった。
レオンがアーレンに近づき、肩を叩いた。
「また来るぞ、弟よ。今度はもっとゆっくりと」
「いつでも歓迎するよ、兄さん」
ヴァルドも珍しく微笑んで言った。「獣人の女性たちも悪くないな。私も気に入った者がいるかもしれん」
「兄さん…」アーレンは呆れながらも笑った。
グレイヘイブン家の一行が村を出発すると、アーレンと村人たち、守護獣たちは見送った。彼らが見えなくなるまで、アーレンは手を振り続けた。
「さて」アーレンは村に戻りながら言った。「これからが本当の始まりだ」
リーシャとミラが彼の両側に寄り添い、守護獣たちも周りに集まった。新しい日々の始まりを、皆で迎える準備ができていた。
「警備隊は全部で何人いる?」アーレンが尋ねた。
「今は15人です」ルークは答えた。「ほとんどが獣人ですが、戦闘経験はバラバラです」
「村の入り口に見張りを増やそう」アーレンは提案した。「フロートの情報では、西の村から使者が来るそうだ」
「了解しました」ルークは真剣に頷いた。「彼らが何を求めてくるのか…」
「分からない」アーレンは眉をひそめた。「平和的な目的なら良いが…」
彼らが話している最中、突然警報の角笛が鳴り響いた。
「来たぞ!」
アーレンとルークは急いで村の入り口へと向かった。途中、守護獣たちも合流した。
村の入り口には、十名ほどの武装した人間が待っていた。彼らの装備は派手で、西の村の紋章を掲げている。先頭に立つのは、重厚な鎧を着た中年の男性だった。
「グレイヘイブン領の者か?」男性が傲慢な口調で尋ねた。
「私がアーレン・グレイヘイブンだ」アーレンは毅然と答えた。「何の用だ?」
「私はバロン・クラウス。西の村の領主だ」男は自己紹介した。「我が村から逃亡した獣人たちの引き渡しを要求する」
アーレンの目が冷たくなった。「逃亡ではない。彼らは迫害から逃れてきたのだ」
「獣人は我が村の資産だ」クラウスは言い放った。「彼らを返すか、相応の代償を払え」
アーレンの背後では獣人たちが震えていた。リーシャとミラも不安そうな表情で様子を見ていた。
「獣人は『資産』ではない」アーレンは静かな怒りを込めて言った。「彼らは自由な意思を持つ存在だ。この森に住むことを選んだのは彼ら自身だ」
「戯言を」クラウスは嘲った。「獣人など人間より劣った生き物。そのような下等生物にどんな権利があると?」
その言葉に、アーレンの怒りが爆発寸前となった。しかし、彼は冷静さを保とうとした。
「もうここは私の領地だ」アーレンは強く言った。「ここに住む全ての者は私の保護下にある。帰りなさい」
「ほう」クラウスは嘲るように笑った。「小僧一人で我々に命令するつもりか?」
その時、アーレンの周りの守護獣たちが一斉に姿を変えた。光に包まれ、彼らは人型の姿となったのだ。エリアの炎のような赤髪、セレナの凛とした佇まい、ミストの緑の瞳、フロートの鍛えられた体躯、ルミアの輝く翼。彼らは皆、魔力を宿した衣装に身を包み、威厳ある姿でアーレンを守るように立った。
「な、何だこいつらは!?」クラウスは後ずさりした。
「五大元素の守護獣だ」アーレンは静かに言った。「この森の真の主であり、私の仲間だ」
守護獣たちの放つ圧倒的な威圧感に、クラウスの部下たちは恐れおののいた。
「守護獣など…伝説の存在だ」クラウスは信じられないという表情を浮かべた。
「伝説ではありません」セレナが冷たく言った。「私たちは実在し、アーレン様と契約を結んでいます」
「そして」フロートが一歩前に出た。「この森を侵す者は許さない」
クラウスは動揺したが、すぐに取り繕った。「いいだろう。今日のところは引き下がる。だが、これで終わりではないぞ」
「もう二度と獣人を迫害するな」アーレンは強く警告した。「次は容赦しない」
クラウスは憎悪の眼差しを向けたが、それ以上何も言わず、部下たちと共に引き返していった。
彼らが視界から消えると、村人たちからは安堵のため息が漏れた。
「無事に去ってくれて良かった」リーシャが近づいてきた。「でも、きっとまた来るでしょう」
「うん」アーレンは頷いた。「今度はもっと大きな軍勢を引き連れてくるかもしれない」
「備えが必要だな」ルークが真剣な表情で言った。
「守護獣の力だけに頼るわけにはいかない」アーレンは考えを巡らせた。「人間の力も必要だ」
その夜、アーレンは村の長老たちと守護獣たちを集めて会議を開いた。
「クラウスは必ず戻ってくる」アーレンは言った。「私たちは防衛策を講じなければならない」
「村の周りに塀を作りましょう」リーシャが提案した。
「フロートとミストの力を借りれば、森自体を防壁にできるかもしれない」ルークも案を出した。
「外部からの援軍も必要かもしれません」商人のマーカスも会議に参加していた。「王国に訴えれば…」
「それは難しいだろう」アーレンは首を振った。「この地域では獣人差別が根強い。王国が獣人の味方をするとは思えない」
「では、どうすれば?」ミラが不安そうに尋ねた。
アーレンは考え込んだ。「まず、物理的な防衛を固めよう。そして…私の実家、グレイヘイブン家に連絡を取ってみる」
「実家?」エリアが驚いた声を上げた。「アーレン様を追放した家に?」
「そうだ」アーレンは頷いた。「私を追放したのは事実だが、彼らもグレイヘイブン家の名誉を大事にする。他の領主が勝手に我が家の領地を侵すのを見過ごすとは思えない」
「連絡の方法は?」セレナが尋ねた。
「マーカスに運んでもらおう」アーレンはマーカスを見た。「可能だろうか?」
「もちろん」マーカスは頷いた。「私の商人としての信頼にかけて、必ず届けます」
会議の後、アーレンは手紙を書いた。父と兄たちに宛てた手紙で、森の現状と西の村からの脅威について説明した。彼は誇りを捨て、助けを求めた。
「届くといいな」アーレンは手紙を封じながら呟いた。
マーカスは翌朝、王都への旅に出た。彼はアーレンの手紙を、途中でグレイヘイブン家の館に届けることを約束した。
それから二週間、村では防衛の準備が急ピッチで進められた。フロートの力で村の周囲に土塁が築かれ、ミストの力で茨の生垣が作られた。ルークの指導の下、村人たちも武器の扱いを学んだ。
リーシャとミラは、アーレンの生活をサポートしながら、女性や子供たちの避難計画を立てていた。
「最悪の場合、森の奥に隠れる場所を用意しました」リーシャがアーレンに報告した。
「ありがとう」アーレンは感謝した。「本当に助かるよ」
夜、アーレンは守護獣たちと今後の戦略を話し合っていた。彼らは人型の姿で、より議論がしやすくなっていた。
「私の幻術は大軍を惑わせることができます」エリアが言った。「でも、長時間は維持できません」
「私の水の結界も同じです」セレナが付け加えた。「一時的な防御にはなりますが…」
「結局、実力差があれば厳しいですね」ルミアが不安そうに言った。
「だからこそ、人間の力も必要なんだ」アーレンは真剣に言った。「守護獣の力と人間の知恵、両方で乗り切るしかない」
会議が終わった後、アーレンはリーシャとミラを抱きしめた。
「心配しないで」彼は優しく言った。「必ず村を守り抜くから」
二人は彼に寄り添い、静かに頷いた。
三週間が過ぎた頃、村の入り口で警報が鳴り響いた。
「敵襲だ!西から大軍が来る!」
アーレンは急いで村の入り口へと向かった。遠くに見えるのは、百名以上の兵士たちだった。クラウスが本格的な侵攻を決意したのだ。
「全員、位置について!」アーレンは命令した。
防衛隊は準備を整え、非戦闘員は安全な場所に避難した。守護獣たちは人型の姿となり、最前線に立った。
「奴らが来る…」フロートが低い声で言った。
クラウスの軍勢は村の前で止まった。クラウス自身が豪華な馬に乗って前に出てきた。
「グレイヘイブン!最後の警告だ!」彼は大声で叫んだ。「獣人どもを引き渡せ!さもなくば、この森もろとも焼き払うぞ!」
「断る!」アーレンは毅然と答えた。「この村の者たちを一人たりとも渡すものか!」
「愚か者め!」クラウスは剣を抜いた。「全軍、突撃!」
兵士たちが一斉に動き始めた瞬間、アーレンは守護獣たちに合図した。
「今だ!」
エリアが前に出て、詠唱を始めた。「幻術:現実顕現!」
彼女の周りに赤い光が渦巻き、兵士たちの目の前で風景が変わり始めた。地面が割れ、木々が動き、空に巨大な魔法陣が現れる幻影。
セレナも力を発揮した。「水の結界!」
村の周囲に青い光の壁が現れ、兵士たちの進軍を妨げる。
「地脈操作!」フロートが地面を踏みしめると、クラウスの軍勢の足元が揺れ動き、多くの兵士が転倒した。
ミストは植物を操り、茨や蔦で敵の動きを封じる。ルミアは空から激しい風を起こし、敵の弓や槍の狙いを狂わせた。
「守護獣の力だと!?」クラウスは驚愕した。「なんてことだ…」
しかし、彼はすぐに部下たちに命令した。「恐れるな!幻術だ!突き進め!」
一部の兵士たちが恐怖を乗り越え、村に向かって攻撃を再開した。
「彼らの数が多すぎる…」アーレンは歯を食いしばった。「守護獣たちの力にも限界がある」
守護獣たちは魔力を使い続け、疲労の色が見え始めていた。エリアの幻術が揺らぎ、セレナの結界にひびが入り始めた。
「撤退すべきか…」アーレンは苦渋の決断を迫られていた。
その時、森の向こうから角笛の音が鳴り響いた。全員が振り返ると、グレイヘイブン家の旗印を掲げた騎士団が現れたのだ。
「あれは…」アーレンは目を見開いた。「父上の軍勢だ!」
グレイヘイブン伯爵の騎士団は、華麗な機動力で敵の側面を突き、混乱を引き起こした。
「な、何だと!?」クラウスは動揺した。「グレイヘイブン家の騎士団だと?」
アーレンは驚きと共に喜びを感じた。彼の手紙は届いていたのだ。父と兄たちは、彼の助けを求める声に応えてくれたのだ。
騎士団の先頭には、アーレンの長兄レオンの姿があった。彼の肩には巨大な鷲獣「ストームキング」が止まっている。
「弟よ!」レオンは声を上げた。「無事だったか!」
「兄さん!」アーレンは嬉しさのあまり叫び返した。
レオンはクラウスの軍勢に向かって宣言した。「我々はグレイヘイブン家だ。この森はわが家の領地。勝手に侵入する者は許さん!」
クラウスは明らかに動揺していた。「グ、グレイヘイブン家…そんな…」
彼は兵士たちに退却を命じようとしたが、時すでに遅かった。グレイヘイブン家の騎士たちがクラウスの軍勢を包囲し始めていた。
「クラウス殿」レオンは厳しい声で言った。「クラウス殿」レオンは厳しい声で言った。「あなたの行為は領地侵犯であり、王国の法に反する。ただちに撤退されたい」
「こ、これには理由があるのだ!」クラウスは慌てて言い訳を始めた。「私の村から逃げ出した獣人たちが…」
「獣人が自分の意思で移住することは、法に反しない」レオンは冷たく言い放った。「彼らはあなたの所有物ではない」
クラウスの顔が青ざめた。グレイヘイブン家は王国でも有数の名家であり、その権威に逆らうことはできない。
「わ、分かった」クラウスは渋々降伏の意を示した。「撤退する」
彼は部下たちに命じ、軍勢は引き揚げ始めた。撤退する前、クラウスは憎悪の眼差しをアーレンに向けた。
「覚えておけ、小僧。これで終わりではないぞ」
彼の言葉は空しく響いた。アーレンは冷静に見つめ返すだけだった。
クラウスの軍勢が完全に去ると、村人たちからは歓喜の声が湧き上がった。守護獣たちも安堵の表情を見せ、人型から獣の姿に戻っていった。魔力の消費が激しかったようだ。
アーレンはレオンに近づき、深く頭を下げた。
「兄さん、助けてくれてありがとう」
「礼には及ばない」レオンは馬から降り、アーレンの肩を叩いた。「家族だからな」
騎士団の後方からは、アーレンの父、グレイヘイブン伯爵の姿も見えた。次兄のヴァルドも共にいる。彼らはゆっくりとアーレンに近づいてきた。
「父上…」アーレンは緊張しながら挨拶した。
伯爵は黙ってアーレンを見つめたあと、静かに口を開いた。
「立派になったな、アーレン」
その言葉に、アーレンの目に涙が浮かんだ。かつて「家門の恥」と呼ばれた彼を、父が認めてくれたのだ。
「私は間違っていた」伯爵は重々しく続けた。「お前を追放したことを」
「いいえ、父上」アーレンは首を振った。「むしろ感謝しています。そのおかげで、この森と守護獣たち、そして大切な仲間たちと出会えましたから」
彼の言葉に、伯爵は静かに頷いた。
「さて」レオンが話題を変えた。「この村を案内してくれないか?見るべきものがあるようだな」
アーレンは笑顔で頷き、父と兄たちを村の中へと案内した。村人たちは恐る恐る姿を現し始め、グレイヘイブン家の面々を見て驚いていた。
リーシャとミラもアーレンの元に駆け寄ってきた。
「アーレン!」リーシャは喜びの声を上げた。「無事で良かった」
「ええ、兄さんたちのおかげでね」アーレンは微笑んだ。「父上、兄上たち、こちらはリーシャとミラです。私の…」
彼は少し言葉に詰まった。
「彼の伴侶です」リーシャが堂々と名乗った。ミラも恥ずかしそうに頷いた。
「ほう」レオンは意外そうな表情を見せた。「弟ながら、なかなか」
伯爵はただ静かに頷いただけだった。ヴァルドは面白そうに二人の女性を観察していた。
「では、村を案内しましょう」アーレンは話題を変え、グレイヘイブン家の面々を村の中心部へと導いた。
広場では村人たちが集まり始め、救援に来てくれたグレイヘイブン家の騎士団に感謝の言葉を述べていた。子供たちは騎士たちの鎧や武器に興味津々だった。
アーレンは父と兄たちに村の設備や農場、小さな鉱山、工房などを案内し、この森で実現した成果を説明した。
「この村は『もふもふ村』と呼ばれています」アーレンが説明すると、レオンは思わず笑い出した。
「何とも…ユニークな名前だな」
「守護獣たちの提案なんです」アーレンは照れくさそうに言った。
伯爵は村を見渡し、静かに感心していた。「わずか半年でここまで作り上げるとは…」
守護獣たちも少しずつ魔力を回復し、伯爵たちの前に姿を現した。エリアは元気よく挨拶し、セレナは優雅に頭を下げ、ミストは恥ずかしそうに後ろに隠れ、フロートは静かに伯爵を観察し、ルミアは空から舞い降りてきた。
「五大元素の守護獣…」伯爵は驚きの表情を隠せなかった。「伝説の存在と契約するとは」
「うちの獣とは全く違うタイプだな」レオンは自分の肩に止まる鷲獣を見た。
「もふもふテイマーだからね」アーレンは少し恥ずかしそうに言った。
「もふもふ…テイマー?」ヴァルドが初めて口を開いた。「そんな分類があるのか?」
「特殊な契約形態です」セレナが静かに説明した。「戦闘力ではなく、守護と共生を重視する契約」
「興味深い」伯爵は考え込むように言った。
夕方、村の広場では歓迎の宴が開かれた。グレイヘイブン家の騎士団と村人たちが一緒になって食事を楽しみ、音楽を奏で、踊った。
アーレンは父と兄たちと少し離れた場所で会話していた。
「父上、なぜ助けに来てくださったのですか?」アーレンはようやく聞く勇気を出した。
伯爵はゆっくりと答えた。「確かに私はお前を追放した。だが、それはお前が無能だと思ったからだ。今は違う」
「父上…」
「お前の手紙を読み、私は考えた」伯爵は続けた。「ここまで村を発展させ、獣人たちを保護し、さらに守護獣と契約するほどの者を、もはや『家門の恥』とは呼べない」
「何より」レオンが付け加えた。「お前はグレイヘイブン家の一員だ。家族をないがしろにすることはできない」
アーレンの目に再び涙が浮かんだ。彼は深く頭を下げた。
「本当にありがとうございます」
「それに」ヴァルドが少し皮肉げに言った。「この森には竜脈石があるそうじゃないか。家にとって重要な資源だ」
「ヴァルド」伯爵が叱るように言った。
「冗談だよ」ヴァルドは笑った。「まぁ、それも理由の一つではあるがね」
アーレンも笑った。ヴァルドは昔からそういう現実的な人間だった。
「では、今後どうする?」レオンが尋ねた。「この村を完全に独立させるつもりか?」
「いえ」アーレンは真剣に答えた。「私はやはりグレイヘイブン家の一員です。この森をグレイヘイブン家の正式な領地として認めていただけるなら、家の名を冠して統治したいと思います」
伯爵は頷いた。「それでよい。ただし、条件がある」
「なんでしょう?」
「資源の一部を本家に納めること」伯爵は一つ目の指を立てた。「そして、緊急時には軍事的協力を行うこと」
「承知しました」アーレンは同意した。「それは当然のことです」
「では決まりだ」伯爵は満足げに言った。「この森はグレイヘイブン家の正式な領地『もふもふ領』として認める」
レオンは笑いながら言った。「父上、その名前で本当にいいのですか?」
「名は体を表す」伯爵は珍しく冗談めかして言った。「この森の特性をよく表している」
皆が笑い、和やかな雰囲気が流れた。
宴の途中、エリアが人型の姿でアーレンに近づいてきた。
「アーレン様!家族と仲直りできて良かったですね!」
「ああ、本当にね」アーレンは微笑んだ。「まさか父上たちが助けに来てくれるとは思わなかった」
「でも」エリアは少し心配そうに言った。「クラウスはきっとあきらめませんよ」
「うん、分かってる」アーレンは真剣な表情になった。「だからこそ、村の防衛を強化しないといけない」
「私たちも頑張ります!」エリアは元気よく宣言した。
宴は深夜まで続き、やがて人々は疲れて眠りについた。グレイヘイブン家の騎士団は村の周辺に宿営し、村人たちも安心して眠ることができた。
翌朝、伯爵たちは帰途につく準備を始めた。
「アーレン」伯爵が呼んだ。「正式な任命状を送る。これからはグレイヘイブン家の分家当主として、この地を治めるのだ」
「はい、父上」アーレンは深く頭を下げた。「ご期待に応えられるよう努めます」
「それと」伯爵は少し言いにくそうに続けた。「あなたの…伴侶たちも、正式に認める」
アーレンは驚いた。「父上…」
「獣人との結婚は珍しいが、禁じられてはいない」伯爵は静かに言った。「幸せにするのだぞ」
「はい!」アーレンは嬉しさのあまり、思わず声が大きくなった。
レオンがアーレンに近づき、肩を叩いた。
「また来るぞ、弟よ。今度はもっとゆっくりと」
「いつでも歓迎するよ、兄さん」
ヴァルドも珍しく微笑んで言った。「獣人の女性たちも悪くないな。私も気に入った者がいるかもしれん」
「兄さん…」アーレンは呆れながらも笑った。
グレイヘイブン家の一行が村を出発すると、アーレンと村人たち、守護獣たちは見送った。彼らが見えなくなるまで、アーレンは手を振り続けた。
「さて」アーレンは村に戻りながら言った。「これからが本当の始まりだ」
リーシャとミラが彼の両側に寄り添い、守護獣たちも周りに集まった。新しい日々の始まりを、皆で迎える準備ができていた。
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